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三章
次の行く先が決まりましたね
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次の日の朝、ルイドバードがなんとなく気まずそうにしているのに気づき、ラティラスは少しおかしくなった。
昨日のゴタゴタを、まだ気にしているのだろう。
別にルイドバードが自分を嫌っていないことは知っている。そして状況が許してくれるなら、自分とリティシアの仲を応援してくれるだろうことも。こちらとしてもルイドバードに恨みはない。
それに何より、自分たちはわけのわからない組織と敵対している真っ最中だ。
恋の難題はいっそ後回しにしてしまえばいい。いずれ嫌でも結果はでるはずだ。望む形でないとしても。
ラティラスはポンと両手を叩いた。
「さてさて。とりあえずレディ達を起こして朝食にしましょうか。昨日の夜はロクに物を口にできませんでしたからね。パーティーに出席していたのに不思議ですが」
とりあえず、ラティラスが根に持っていないことを知り、ルイドバードは少し気持ちを和らげたようだった。
人が集まる食堂で顔をさらして食事をするのを避け、部屋に買ってきたパンと井戸水での食事となった。
狭い部屋は、リティシアとルイドバードのイスを並べるとスペースがなく、ファネットとラティラスはベッドに腰掛けていた。
「この質素なメニューをみたら父上は目を回すだろうな」
イスに座ってパンを食べながらリティシアがおもしろそうに言った。
「ははは、多少のご不便は我慢していただかないと!」
心配そうにファネットがリティシアに言う。
「王様、お父様に連絡しないでいいんですか?」
「いいんだ、親衛隊の者達が私の生存は伝えてくれるだろう。ラティラスと共にケラス・オルニスの野望を砕きたいなどと言ったら今度は父に監禁されてしまう」
「あるいは『そう決めたならそうするまで帰って来るな』とおっしゃるかも知れませんね」
「ありえる」
ラティラスの冗談にリティシアが軽く笑った。
昔のように自分の冗談に彼女が笑っている。それだけで幸せで、ぼうっとしてしまいそうだった。
「どうかしたか、ファネット」
ルイドバードの声にファネットを見ると、彼女は何か考えこんでいた。
「いえ、塔で見たときからずっと思っていたんですけど…… 私、あのフィダールとかいう方、どこかで見たような……」
「なに! どこでだ!」
身を乗り出したルイドバードの勢いにびっくりしたらしく、ファネットは少し身を引いた。
「い、イディル島で……」
「イディル島って、ファネットさんが生まれた、いや育った場所ですよね」
確か、ファネットは捨子で、自分がどこで産まれたのか正確な場所は分からないはずだ。
「ええ。島には小さい森があるんです。そこにいつからか男の人が住み着いたんです。その人は人づきあいが嫌いみたいで、村にもおりてこないでずっと小屋に引きこもっていました」
もともと外の人間を歓迎する土地柄ではなく、島の人間もその男をかまうことはなかった、とファネットは告げた。
「その時私は海岸に出て、寄せもの――海藻とか貝とか――を拾っていたんです。そうしたら、珍しく前からあの男の人が歩いてきて。その時にちょっと挨拶をしたんです」
「そんな小さなこと、よく覚えていたな」
リティシアが言った。
「何せ、よその人があまりこない島ですから。それに、森の中で何をやっているのかわからないと他の人達が警戒していたのを覚えていたし」
「……ありえない話じゃありませんね」
ラティラスはルイドバードの方に視線を向けた。
「あなたが弟君に斬り付けられた時、刃に塗られていた毒はイディル島に伝わる物でした。フィダールは何かしら島と縁があったとすれば、毒の技術をロルオンに渡したというなら不自然ではありません」
「そういえば、文書館で見た伝説にも、島の名があったな。それにしても、フィダールはそのイディル島とやらで何をしていたんだ?」
「さあ。さっきも言いましたが、あの人は私達の前に姿を現しませんでしたから。他の人達も気味悪がって近づきませんでしたし」
「その男の家って、まだ残ってるんで?」
ラティラスの言葉にファネットはうなずいた。
「私が島を追い出されたときにはまだありましたから、たぶん」
「では、行き先が決まりましたね」
ラティラスはポンと両手で膝を叩いた。
「イディル島で、フィダールのことを調べましょう。ああ、美女二人を連れて島だなんて、夏だったらいい思い出になったでしょうに!」
昨日のゴタゴタを、まだ気にしているのだろう。
別にルイドバードが自分を嫌っていないことは知っている。そして状況が許してくれるなら、自分とリティシアの仲を応援してくれるだろうことも。こちらとしてもルイドバードに恨みはない。
それに何より、自分たちはわけのわからない組織と敵対している真っ最中だ。
恋の難題はいっそ後回しにしてしまえばいい。いずれ嫌でも結果はでるはずだ。望む形でないとしても。
ラティラスはポンと両手を叩いた。
「さてさて。とりあえずレディ達を起こして朝食にしましょうか。昨日の夜はロクに物を口にできませんでしたからね。パーティーに出席していたのに不思議ですが」
とりあえず、ラティラスが根に持っていないことを知り、ルイドバードは少し気持ちを和らげたようだった。
人が集まる食堂で顔をさらして食事をするのを避け、部屋に買ってきたパンと井戸水での食事となった。
狭い部屋は、リティシアとルイドバードのイスを並べるとスペースがなく、ファネットとラティラスはベッドに腰掛けていた。
「この質素なメニューをみたら父上は目を回すだろうな」
イスに座ってパンを食べながらリティシアがおもしろそうに言った。
「ははは、多少のご不便は我慢していただかないと!」
心配そうにファネットがリティシアに言う。
「王様、お父様に連絡しないでいいんですか?」
「いいんだ、親衛隊の者達が私の生存は伝えてくれるだろう。ラティラスと共にケラス・オルニスの野望を砕きたいなどと言ったら今度は父に監禁されてしまう」
「あるいは『そう決めたならそうするまで帰って来るな』とおっしゃるかも知れませんね」
「ありえる」
ラティラスの冗談にリティシアが軽く笑った。
昔のように自分の冗談に彼女が笑っている。それだけで幸せで、ぼうっとしてしまいそうだった。
「どうかしたか、ファネット」
ルイドバードの声にファネットを見ると、彼女は何か考えこんでいた。
「いえ、塔で見たときからずっと思っていたんですけど…… 私、あのフィダールとかいう方、どこかで見たような……」
「なに! どこでだ!」
身を乗り出したルイドバードの勢いにびっくりしたらしく、ファネットは少し身を引いた。
「い、イディル島で……」
「イディル島って、ファネットさんが生まれた、いや育った場所ですよね」
確か、ファネットは捨子で、自分がどこで産まれたのか正確な場所は分からないはずだ。
「ええ。島には小さい森があるんです。そこにいつからか男の人が住み着いたんです。その人は人づきあいが嫌いみたいで、村にもおりてこないでずっと小屋に引きこもっていました」
もともと外の人間を歓迎する土地柄ではなく、島の人間もその男をかまうことはなかった、とファネットは告げた。
「その時私は海岸に出て、寄せもの――海藻とか貝とか――を拾っていたんです。そうしたら、珍しく前からあの男の人が歩いてきて。その時にちょっと挨拶をしたんです」
「そんな小さなこと、よく覚えていたな」
リティシアが言った。
「何せ、よその人があまりこない島ですから。それに、森の中で何をやっているのかわからないと他の人達が警戒していたのを覚えていたし」
「……ありえない話じゃありませんね」
ラティラスはルイドバードの方に視線を向けた。
「あなたが弟君に斬り付けられた時、刃に塗られていた毒はイディル島に伝わる物でした。フィダールは何かしら島と縁があったとすれば、毒の技術をロルオンに渡したというなら不自然ではありません」
「そういえば、文書館で見た伝説にも、島の名があったな。それにしても、フィダールはそのイディル島とやらで何をしていたんだ?」
「さあ。さっきも言いましたが、あの人は私達の前に姿を現しませんでしたから。他の人達も気味悪がって近づきませんでしたし」
「その男の家って、まだ残ってるんで?」
ラティラスの言葉にファネットはうなずいた。
「私が島を追い出されたときにはまだありましたから、たぶん」
「では、行き先が決まりましたね」
ラティラスはポンと両手で膝を叩いた。
「イディル島で、フィダールのことを調べましょう。ああ、美女二人を連れて島だなんて、夏だったらいい思い出になったでしょうに!」
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