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彼女は世界を抱いている2
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「分かる」ということは生前彼女も俺と同じような感覚を感じたことがあるということか。なんだか妙に親近感が湧いた。他人なんて、百パーセント分かり合えることはないが、若葉となら八十パーセントくらいなら分かり合える気がする。
「そういえば、若葉ば生前なにしてたの?」
よくみると指に絵具がついていたから、多分絵を描いていたのだろう、と予想はついた。
『忍者』
「はい?」
『嘘。テロリスト』
「……つまり、言いたくないと?」
俺の言葉に、若葉はスマホをいじる手を止めて、ピアノを弾くように指先をぱらぱらと動かした。自分がどんな人間だったか思い出しているようだった。
『私は絵を描くのが好きな、ただの高校生だった』
ああ、やっぱり。
『本当は画家になりたかったの。でもそれで食っていけるわけないって親に言われて、反対されてた。趣味だったときは調子よく「応援する」とか言ってたくせにね』
ありがちな、本当にありがちな話だった。
『まあグチグチ嫌味を道具を捨てられたのは辛かったな。まあ、こうして殺されたわけだから、夢もクソもなくなったけどね』
やっぱり、この子と俺は違う。この子は、俺と違ってやりたいことをちゃんと持っていた。なのに殺された。
そんなシリアスな気分になっても生理的要求には逆らえず、俺はトイレに行こうと立ち上がった。
若葉が指先で『?』を描いてみせる。
「ただのトイレだよ。さすがに水は止まってるから、近くの公園の公衆トイレに行くしかないな」
俺は建物に入る扉に向かおうとする。その裾を右腕が引っ張った。
若葉は外壁に付けられた非常階段を指差した。どうやらビル内を通るよりここを行った方が近いと言いたいらしい。
「いや、それはそうだけど……」
非常階段には鎖が渡され、その鎖は暗証番号式の南京錠で留められている。ビルの管理者も、一応不法侵入者に警戒はしているようだ。もっとも、玄関の鍵が開いているところをみると無能なようだけど。
俺が目を向けると、何を思ったか若葉はピースをしてみせた。その次は手を大きく開いてみせる。
「ひょっとして、二と五?」
若葉の教えてくれたいくつかの番号を合わせると、南京錠が開いた。ゆるんだ鎖が音をたてて下に落ちる。
「すごいな。ひょっとして生前このビルに出入りしてた?」
その言葉に応えずに、若葉はそしらぬ顔で貸したスマホでネットを見始めた。
「そういえば、若葉ば生前なにしてたの?」
よくみると指に絵具がついていたから、多分絵を描いていたのだろう、と予想はついた。
『忍者』
「はい?」
『嘘。テロリスト』
「……つまり、言いたくないと?」
俺の言葉に、若葉はスマホをいじる手を止めて、ピアノを弾くように指先をぱらぱらと動かした。自分がどんな人間だったか思い出しているようだった。
『私は絵を描くのが好きな、ただの高校生だった』
ああ、やっぱり。
『本当は画家になりたかったの。でもそれで食っていけるわけないって親に言われて、反対されてた。趣味だったときは調子よく「応援する」とか言ってたくせにね』
ありがちな、本当にありがちな話だった。
『まあグチグチ嫌味を道具を捨てられたのは辛かったな。まあ、こうして殺されたわけだから、夢もクソもなくなったけどね』
やっぱり、この子と俺は違う。この子は、俺と違ってやりたいことをちゃんと持っていた。なのに殺された。
そんなシリアスな気分になっても生理的要求には逆らえず、俺はトイレに行こうと立ち上がった。
若葉が指先で『?』を描いてみせる。
「ただのトイレだよ。さすがに水は止まってるから、近くの公園の公衆トイレに行くしかないな」
俺は建物に入る扉に向かおうとする。その裾を右腕が引っ張った。
若葉は外壁に付けられた非常階段を指差した。どうやらビル内を通るよりここを行った方が近いと言いたいらしい。
「いや、それはそうだけど……」
非常階段には鎖が渡され、その鎖は暗証番号式の南京錠で留められている。ビルの管理者も、一応不法侵入者に警戒はしているようだ。もっとも、玄関の鍵が開いているところをみると無能なようだけど。
俺が目を向けると、何を思ったか若葉はピースをしてみせた。その次は手を大きく開いてみせる。
「ひょっとして、二と五?」
若葉の教えてくれたいくつかの番号を合わせると、南京錠が開いた。ゆるんだ鎖が音をたてて下に落ちる。
「すごいな。ひょっとして生前このビルに出入りしてた?」
その言葉に応えずに、若葉はそしらぬ顔で貸したスマホでネットを見始めた。
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