ピエタ古美術・古道具店

三塚 章

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読めない文字が刺繍してある布

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 小さな布に、細かな刺繍が見事でしょう? 着物の袖に縫い付けるお守りだそうです。この記号のような物は宗教的な文字で『富貴長寿』といったような意味だそうですよ。
 これは、テコナという、ある盲目の少女の物でした。目のせいで捨て子だった彼女は、ある村の人々に育てられた者の、その目ゆえに村の仕事ができず、肩身の狭い思いをしながら縮こまるようにして暮らしていました。
 そんな中、娘が年頃になったとき、どこからか二人の青年が現れました。青年は二人して娘を口説き始めました。テコナの手伝いを奪い合うようにして、それぞれ娘の美しさや優しさを褒め称えたのです。
 娘の心は二人の青年に引き裂かれました。娘にとって、二人は同じように尊敬でき、慕わしく、どちらが上とも決められなかったのです。どちらを選んでももう一人を傷つけることになる。悩んだ末に、テコナは崖から身を投げ、自ら命を絶ったのです。自分が誰かを選ばないで済むように。誰も傷つけないで済むように。
 崖下で倒れていた娘を見つけたのは、二人の青年とも同時でした。
 え? 取り合っていた女が死んだのだから争う理由はなくなった?
 いいえ、彼らはお互い持っていた短刀を抜き、殺し合いを始めました。
 実は、彼らが狙っていたのは彼女ではなく、彼女が捨てられた時に袖に縫い付けられていたお守り。今、あなたが手に持っているそれです。
 彼女は自分の産着に縫い付けられていたそのお守りを、村の女性に頼んで成長に合わせて着物の袖に付け替えてもらっていました。村人も、そのお守りが彼女にとって大切な物だと分かっていたので、断ったりしなかったようです。
 田舎に暮らしていたテコナ達は知りませんでしたが、テコナを捨てた両親は都で始めた商売が当たり、大金持ちになっていました。そうなると、気になるのは貧しくて育てられず、名前を付けることもなく捨てた娘の事。
 両親はもしも娘が見つかったらその子に、見つからなかったら、せめてそのお守りを持ってきてくれた人に財産を分け与えると言ったのです。
 男たちは、テコナこそその子だと気付いたのでした。そして、うまくそのお守りを騙し取ろうとしていたのです。つまり、テコナの犠牲はまったくの無駄だったのです。もしも少女の目が見えていたら、自分の姿がひどく醜く、男達が自分を取り合うことなど無いと気付いたかも知れません。
 結局、男達は相討ちとなり、崖の下には三つの死体が転がりました。
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