階層

海豹

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階層ゲーム前

2 過去の夢と人間の本質

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 11歳の時初めてホラー映画を見た。
刃物を持った殺人鬼が何度も人を刺す。
何度も何度も
自分が見てきた現実とかけ離れた世界に恐怖を覚えた。しかし、その恐怖は時が経つにつれその世界をもっと知りたいという好奇心に繋がっていった。それからというもの暇があればホラー映画を見ている。その恐怖の刺激から抜け出すことはできない。

 申請から二日目の夜を迎えた。とうとう明日から始まる。楽観的な性格の割に今回ばかりは妙に緊張していた。
「今日は早めに寝よう」
6月17日午後11時
こんなに早く寝るのは何年ぶりだろうか。
その夜は久しぶりに夢を見た。
 
 高校時代から自分は比較的大人しい性格だった。ある程度の友人も恋人もいた。友人とは毎日たわいもない話しで笑い合い、恋人とは毎日連絡を取り合い周りからは妬まれることもあった。しかし、自分の中で何かが足りなかった。
恋人の名は桜木舞香。あだ名は「m」舞香の頭文字だ。自らそう呼べと言ってきた。
それから自分たちは「m」と「k」と呼ぶようになった。
周りからは頭文字で呼び合うなんておかしいと言われた。
mは少し、いや、凄く変わり者だった。
mは自分の目的の為にはどんな犠牲でも払うような人間だった。いいように言えば行動力のある人だった。

そんなある日、自分はmの家に空き巣に入った。
前から計画を立てていたわけでもなんでもない。
不意にmの私生活が見たい衝動に駆られ、mが部活をしている時間にまるで自分の家かのように入った。mの両親は共働きで遅くなることが多かったため、合鍵を植木鉢の下に置いていることを自分は知っていた。二階に上がりmの部屋のクローゼットを開けた時に我に帰った。
自分は何をしているのか意味がわからなかった。
病気だと思った。

その日はそのまま何もせずに家に帰った。
家に帰り自分の部屋のベッドの上で思い出すmの女の子らしくないシンプルな部屋をクローゼットに掛けられていた白と黒だけの無地の大量の服を。この部屋で女子が生活しているように思えなかった。
もっと知りたかった。mの性格、行動の全てを認識しておかないと気が済まなかった。

真っ暗な部屋に一つのデスクライトが光る。白い紙に「m」攻略冊子と題名を書き、余ったノートを破り束ねる、そして左端の上下にホッチキスを止めた。

ガン!驚き飛び上がりそうになる。
今日は父親が出張、母親は母の友達の家に泊まっているはず。家に居るのは自分だけだ。なのに何故か冷蔵庫を閉める音が聞こえた。
冷や汗をかく。
頭の中でどうするか何度も考える。
そして、二階から一階に繋がる階段を覗いてみた。誰もいない。すぐさま引き出しからサバイバルナイフを取り出した。
恐る恐る階段を降りる。
ミシ、ミシミシ
一階から床がきしむ音がする。間違いない誰かいる。
背筋が凍る。
怖くなり背後を確認する。
ズリ、ガン、ガガガゴン、カン、キン、コン、階段から足を踏み外し一階へと転げ落ちる。左足を強く強打した。恐怖で痛みを感じないが、思うように動かせなくなっている。
落としたサバイバルナイフをすぐさま拾い、左足を引きずりながら一階のドアを開く。ナイフを持った手は小刻みに震えていた。辺りを見渡すが暗くて良く見えない。リビングの電気をつける。
誰もいない。
キッチンも風呂場も和室もロッカーも確認する。
誰もいない。
自分の勘違いだと気づく。その瞬間、猛烈な痛みが走る。ナイフをキッチンの引き出しにしまい、左足を見ると膝が青くなり大きく腫れている。
すぐに冷蔵庫へ保冷剤を取りに行き、玄関と和室の窓に鍵がかかっているのを確認しに行く。しっかり鍵はかかっており、二階へと戻った。
自分の部屋のドアを開けベッドに座り込み胸を撫で下ろしながら膝を冷やす。
もう寝ようと思いデスクライトを消しに机に向かう。
机は部屋の一番端の窓側に配置してある。机を見るとさっき作った攻略冊子の上に、サバイバルナイフが置かれていた。
サバイバルナイフを手に取り引き出しに戻そうとした時気づいた。
「あれ?何故机にナイフがあるんだ?」

 汗が吹き出す。
頭痛が酷い。
何か変な夢を見ていた気がするが思い出せない。
すぐさま起き上がり時計を見る。午前8時
唖然とする自分の顔を叩く。
階層ゲームに持っていくものはもう決まっていた。8年前mから誕生日プレゼントで貰ったサバイバルナイフだ。ずっと棚の奥にしまいっぱなしだった。
これを渡された時mはこう言っていた。「刃物は縁を切るものじゃない、魔を切るもの」「運命や未来を切り開くの」
当時はmがなぜこんな物をプレゼントするのか、何を言っているのか到底理解できなかったが、今なら分かる気がする。
 貴重品を一応小さなダイヤル式金庫に入れておいた。空き巣に入られては困る。
集合は午後9時だからここを午後7時半に出れば良い。それまでホラー映画を見る事にした。人喰いピエロの物語だ。
 
 そのピエロの本当の正体は人じゃない、でも人のふりをする、なぜなら自らの正体が剥き出しのまま目当ての人に近づけないから。人々に愛され楽します存在のふりをする。
そして、ピエロは人々がいる前では優しい口調で目当ての人に話しかける。目当ての人は、ピエロの奇妙な姿に少し違和感を覚える。
しかし、ピエロは優しく自分に話しかけてくる。ピエロも威勢のいい大人には話しかけない。友人の少なそうな大人しい子供に目をつける。
優しく話しかけてくるピエロに子供は段々心を許していく。ピエロは明日もここに来るように言う。子供は疑うことなく明日もここに来る。
その次の日も、その次の日も
そしてある日ピエロはその子供に友人の自殺を装った死体を見せ少しの絶望を与える。
子供は恐怖に怯える。
恐怖によって何かにすがりたくなる。
弱くなった心の隙間にピエロはつけ込む。自分だけは味方だと言う。
子供はピエロに依存していく。
子供はピエロと毎日遊びいろんな思い出を作る。
ついに、ピエロは自分は人の魂を食べないと生きていけないということを打ち明ける。このままだと餓死してしまうとピエロは子供に訴えかける。子供は初め動揺するが、その気持ちもすぐに消え今まで自分を良くしてくれた親友のピエロへの心配が勝る。
そして、ピエロは子供に友人を連れてきて欲しいと頼む。子供も悩むがピエロを助けたい一心で友人に嘘をつき呼び出す。ピエロは子供の友人をその子供の前で食べる。子供は、自分のせいで友人は死んだのだと後悔する。
しかし、ピエロは君のおかげで生きられたと何度も感謝し、子供の望む物を買い与える。子供はピエロを救った事への安心と好きな物を買ってもらえる嬉しさで友人のことなど忘れる。子供から何一つ罪悪感は残らなくなる。それから子供は学校の生徒を呼び出しては、ピエロに食わせ自分の欲しいものを手に入れるといったことが習慣化されていく。子供の頭は欲望だけになり、なんの躊躇もなく嘘をつきピエロにクラスメイトを差し出す。ピエロは生徒たちをたらふく食う。
しかし、ある日ピエロは警察に犯行現場を目撃されてしまい、その場で射殺される。子供は親友のピエロがいなくなった事への悲しみと、欲しいものが手に入らない事への欲求不満とピエロを殺した怒りで人を脅し襲い奪うようになる。
それでも言うことを聞かない奴には、ピエロがいた時のように嘘をつき欺き殺すようになる。
子供は自ら人を殺すことに慣れていく。
そして、そこに刺激を感じ快感へと変わっていく。
子供は、あのピエロのように人を欺き嘘をつくことが上手くなっていく。
それから年月が経ち、体だけ成長し大人になった子供は、顔にピエロのメイクをしカラフルな服を着て大人しい子供に優しい言葉をかけ近寄って行くのであった。
 
 ピエロがひたすらに人を食うのではなく、人の心を利用し最も簡単な方法で食糧を手に入れる姿が、残酷で頭脳的であった。
人は弱みにつけ込まれると、それに依存してしまい冷静な判断さえもできなくなる。また、純粋な心は環境次第で時に狂気をも生み出してしまうということを描いた作品であった。
主人公の子供の性格が幼い頃の自分に似ており考えさせられたのだ。
速やかに時間が過ぎ正午を迎えようとしていた。これ以上映画を見る気にはならず少し出かける事にした。
























































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