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海豹

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階層ゲーム

14 ビギニング2nd

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 前方に座る中年の男と中年の女は話が凄く盛り上がっている。その一方で後方に座る女子高生とフードを被った男は一言も話していない。フードの男はずっと同じ態勢で動かず、女子高生は目をつぶりだした。       
 どうやらまた雨が強く降り出したらしく、バスを強く叩く音が響いている。

なんだか、巫さんと話していると肩の傷が痛む。
「巫さん」
「はい」
「今は一人暮らしされてるんですか?」
「そうですよ」
「お父さんは今も実家に住んでるんですよね?」
「あ、」
「いや、」
「あいつは一年くらい前に死にました。」
「死んじゃったんで、狭い実家を売って私物は全部燃やしてやったんですよ。」
「だから、今、私を束縛する者は誰もいないんです。」
ニコニコと笑う巫さん。それだけ父親を恨んでいたのだろうか。
「あ、そうなんですね。すいませんなんか色々話しにくいことまで話させて。」
「いやいや、何にも話しにくくないですよ。」
「むしろ誰かに自慢したかったんです。」
「え、」
「功治さんはどんな秘密があるんですか?」
「自分は、、、」
「高校時代、彼女がいたんですけどその人の家に空き巣に入ったことがあるんです。」
「理由は特になくて、ただ無意識に体が動いていたというか、」
「いや、今はもうそんなこと絶対ないですけど。」
「誰にも話したことない大きな秘密です。」
「その時どんな気持ちでしたか?」
「え、?」
「空き巣に入り、彼女の家にいる時どんな気持ちになりましたか?」
「どんな気持ちっていわれても、罪悪感みたいな感じですかね。」
「それは、嘘ですよ。」
「私は知ってます。」
「あなたは、快感を感じていたんですよ。」
「何を言って、」
「あなたはそんな人じゃない。」
「そろそろ、お道化は辞めませんか?」
「いや、ふざけてなんかないですよ。」
「さっきから思っていましたが、あなたは死んだ動物に慈悲の心を向けるような人ではない。」
「ええ、あなたの思っている通り、私はミーちゃんを標本作りの為にわざと殺しました。」
「だからどうしたんですか?それが私の趣味です。」
冷や汗が出た。まさか、さっき言っていた哺乳類を観察することがこのことだったなんて。思考が止まり、唖然とすることしかできない。

「この世は弱肉強食の世界。弱い者は殺され、強いものが生き残る。ただそれだけの話です。」
「功治くん、私は冗談のつもりで言ったんですよ。」
「ミーちゃんが死んだ時辛くて泣いてしまったなんて」
「なのに、あそこまで間に受けられるとは思いませんでした。」
「忘れてしまったんですか。功治くん」
「だから、さっきから何言ってるんですか?」
「人の過去を知ってるみたいな口調で、」
「ええ、そら知ってますよ。」
「だって、あなたとは親友でしたから。」
「え、?」
「久しぶりですね功治くん」
「巫さん、どうしたんですか?様子がおかしいですよ。」
「いいや、私は何もおかしなことは言ってません。」
「久しぶりに親友と出会えたので喜んでるだけです。」
「もういいですよ、」
「本当に忘れてしまったのですね。」
そう言いながら前髪を上げる巫さん。
「これに見覚えはないですか?」
そこには大きな火傷の跡がついていた。
「ん?いや、ないです、」
「なら、松坂里帆のことも忘れたんですか?」
どこかで聞いたことがある名前だ。だか、全く思い出せない。
「誰のことですか?すいません、人違いだと思います。」
「なら功治くん」
「沼座江中学校の火事を覚えていますか?」
「沼座江中学校、まさか、あの廃墟の」
「ええ、そうです今では廃墟化してしまいました。」
「でも、それが自分とどう関係あるんですか、?」
「まぁ、急がなくともいずれ思い出します。」
「もう一度よく記憶を遡ってみて下さい。」
ニッコリと微笑む巫さん。眼の奥が黒く煌めいている。
「おっと、私の番でしたね。」
「私の今までで一番大きな出来事は、やはり、10年前のあの火事です。」
「里帆がいなければ、私は今ここでこうして話すことすら出来てないでしょう。」
「なんらかの後遺症、植物状態もしくは死んでいたかもしれません。」
「里帆はあの火事で命をかけて私や功治くんを含めた仲間を守りました。」
「功治くん、今までのことを全て思い出せとは言いません。ただし、自分がなぜ今を生きられているのか、よく考えるべきだと私は思います。」
「あの火事でどれだけの犠牲者が出たのか、あなたは重々承知のはずです。」
「私はエボルヴが憎くて毎日悪夢に悩まされています。そして、あの記憶は私を蝕み続け、いずれ私を骨の髄まで喰らい尽くし、狂人へと変えるでしょう。それでも私は構いません。なぜなら、この十年間私はこの時を待ち望んでいたからです。もう今更覚悟などいりません。」
「功治くん、あなたにはもう時間が無い。」
「あなたが階層ゲームの会場に到着するまでの間、私はあなたの脳に埋もれた記憶を取り戻すよう試行錯誤します。」
「覚悟してください。」













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