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階層
22 同居人
しおりを挟む吐き気はあるものの、少しずつ正気を取り戻していく。
腕や首が痛くて耐えられない。
手首を確認すると、流血した血が固まって真っ赤に腫れている。
そういえば、興奮している時、ウジ虫が血管の中にいる気がして痒くて仕方なかった。
それで、無意識のうちに掻きむしっていたのだろう。
目を覚ますと、手洗い場で必死に何かを洗いながら笑っている女性の姿があった。
「あ、あの」
「・・・」
「すいません!」
「あ、やっと目覚めたのですね」
どうやらショートカットの女性は、自分が掻きむしって出た血を服の切れ端で拭き取ってくれていたらしく、手が真っ赤に染まっていた。
「すいません。」
「自分、どれくらい寝てましたか?」
「私は二時間ほど前に目覚めました。」
「目を開けると見知らぬ天井だったので困惑したのですが、あなたが血を流しながら暴れていたので手当てしないとと思って」
やはりこの女性もここで目覚めたのか。
「そうでしたか。」
「本当に助かりました。ありがとうございます。」
「いえいえ、私は人として当然のことをしただけです。」
そう言いながら、ショートカットの女性は自分の座るベットに腰を下ろした。
自分たちは肩を並べ、前方で寝ている三人の男女を眺めながら話をする。
「あの、自分、佐海功治っていいます。」
「あ、私は柊花です。」
「よろしくお願いします。」
「いきなりですけど、一つ聞いてもいいですか?」
「はい、」
「柊さんはここで目覚める前どこにいましたか?」
「えっと、私階層ゲームっていうイベントみたいなものに参加してて」
「あ、やはりそうなのですね」
「え、佐海くんも参加していたのですか?」
「はい、自分も参加してました。」
「そしたら、本会場に向かう途中で眠らされて」
「私もです。バスの中で凄く眠くなってきて目を開けると、この部屋でした。」
「柊さんはどこで集合したのですか?」
「私は…」
その後、柊さんが自分と違う集合場所からここに来ているという事がわかり、各地から階層ゲーム参加者が集められていたという事を確信した。
柊花、身長は160センチほど、タレ目で童顔。髪は顎下ほどで、細身である。
「私、ここに来る前、親と喧嘩してたんです。」
「その時今までにないくらい凄く怒られて」
「それで、私、滅入ってしまったんです。」
「だから、少し親離れしようと階層ゲームに登録したら、こんなことになって」
柊さんの瞼に段々涙が溜まっていき、蛍光灯の光が反射して宝石のように輝いている。
「そうだったんですか」
「柊さんは厳しい家庭だったんですか?」
「まぁ、そうですね」
「厳しい方だと思います。」
「私のお父さん研究者だから、いつもは家にいないんですけど、たまたまその日は早帰りだったみたいで。」
「私が悪さしてるとこ見られたんです。」
「悪さ?」
「あ、いや、そんな大したことじゃないんですけどね。」
「私のお父さん細かいことにうるさくて」
「あ、そうなんですね」
「あの、佐海くんの家庭はどんな感じなんですか?」
「自分の家は、両親共に外科医だったんですけど、六年前に事故で死にました。」
「え、二人とも死んじゃったんですか?」
「はい」
「・・・」
「すいません、なんか嫌な話しして」
「いやいや、もう昔のことなんで大丈夫ですよ」
「それより、佐海くん」
「はい」
「ここがどこか見当がつきますか?」
「いや、全くです。」
「貴様らガベラを知らんのか」
突然背後から、かすれた声が聞こえた。
「わしは長谷川茂。」
後ろを振り向くとさっきまでベットで寝ていた老人が起き上がっていた。
「現在、日本最大の宗教組織であり、経済や政治に大きく関わっている。」
「また、開眼戦士と呼ばれる過激派をも備えている。」
「過激派って?」
「反社会的勢力のこと?」
柊さんが軽く頭を傾け質問する。
「いやいや、もっと恐ろしい組織だ」
「それに、ただの人間が構成している組織なら弾圧することも可能だが、構成員のトップはDNA改造された逸材ばかりだ。」
「貴様、佐海と言ったな?」
「ええ、」
「さっき奴らに何か打たれていなかったか」
「え、起きてたんですか?」
「ああ、」
「でも、あなた自分が揺らした時起きてなかったじゃないですか。」
「あー、あの時は寝ていた。」
「嘘つかないでくださいよ。」
「そんなことより、わしが言いたいのはただ一つ」
「この組織の奴らには決して逆らうな。」
「逆らえば命の保障はできない。」
「分かりましたよ、」
「じゃひとつ聞きますけど、この組織は何が目的なんですか?」
「それはな」
「エボルヴの消滅だ。」
その瞬間、柊さんが大袈裟に肩を揺らした。
「あの、」
「じゃ、ここは階層ゲームとは関係ないのですか?」
「ああ、」
「階層ゲームはエボルヴが主催している。」
「わしは、エボルヴの実態を明らかにするため今回の階層ゲームに参加した。」
「それが、目を覚ませばアスファルトの中だ。」
「それも、日本一凶悪な宗教組織のな」
「え、階層ゲームはエボルヴが主催していたのですか!」
大きく目を見開き、驚いた様子の柊さんが前のめりになっている。
「そうだ、」
「階層ゲームについて様々な噂を耳にするが、わし自身もその実態については、まだ解明できていない。」
ピンポンパンポン
部屋に設置されたスピーカーからアナウンスが聞こえる。
「今から教祖様による全信者における集会を行う。」
「中央のエレベーターが開くため、直ちに乗り込め。」
「以上。」
ピンポンパンポン
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