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第5話 夢の神と運命の騎士?
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「ラファエル、ガブリエル、ウリエルよ! 今より6日以内に下界の情勢を調べ上げよ」
「やってやろうッ!」
「ええー、正直言ってめんどいっす」
「ボク、今日パンツ穿いてないよ?」
大神殿での話し合いを終えた俺はそのままとんぼ返り。
7日後からはじまるトリートーンとの領地を賭けた神々の戦いに向け、大至急下界の調査を三名のメイドに行わせた。
書斎で報告書を受け取った俺は、残り一日でそれを頭に叩き込む。
「ウゥル様、アールグレイです」
「うむ」
ミカエルが淹れてくれた紅茶を味わいながら、大事な情報に目を通していく。
《約束の大森林》――どうやらこの大森林の一角に隠れるように築かれた村が俺の拠点地になるらしい……ってちっさッ!?
「なんだこの極小サイズはっ!? 豆粒以下ではないかっ!」
いや、たしかに天界においての俺の領地は狭い。けれど、ここまで狭くはないだろ。
「ラファエル! これ間違っているんじゃないのか?」
「あたしの調査結果に文句をつけるつもりかっ!」
「いや……別にそういうわけではないけど」
そこまで自信満々に言われると何も言い返せない。
が、はるか昔に下界を訪れた際は、俺の信者たちが暮らす場所はこんな森の奥深くなどではなかったはず。
「んんっ……? 村人の数が百人以下?」
しかも信者の数が二人だと!?
「一体何の冗談だ、これはっ!?」
ひどすぎる報告書の内容に驚きを隠せず、つい立ち上がってしまう。
反響した自分の声音が耳に突き刺さり、軽くめまいを覚えた。
「らっ、ラファエルよ。何度も確認するようで申し訳ないのだが、本当にこれ……合ってるんだよな?」
「……ウゥルカーヌス様はいつもそう」
「は?」
「頑張って調べたのにっ。そうやって立場の弱いメイドに難癖つけてストレス発散するんでしょ! ええ、いいですよ! もうそっちがその気なら望み通り腹切りだろうがなんだろうがやってやりますよ! これでいいんでしょ!」
「よせよせよせっ―――! なにやってんだよバカッ! 俺が悪かったからナイフをしまえ!? つーかなんでナイフを常に持参してんだよ!」
「うぅっ……だってだって。本当はあたしだってこんなことじだぁぐぅなぁいんでずぅぅうう! でもウゥルカーヌスさまがあたしにばっかり冷たくするからぁぁあああああああああああああああッ――!」
「………………………」
「ねぇ、お腹切ったら赦してくれる? 腹パンくらいなら毎日だって耐えてみせるからぁあああっ―――いやだ捨てられたくないもんっ」
やっべぇ……こいつ完全にメンヘラじゃん。
誰だよこんなヤバいやつ使用人として採用したの!?
――って俺じゃんっ!?
完全にかわいい顔に騙された!
とりあえず……後のことはガブリエルとウリエルに任せるとしよう。
報告書によると、この村の連中はすっかり神の存在を忘れてしまっているらしい。
唯一覚えているのが二名。
「アーサー・ペンドラゴンとジャンヌ・ダルクか」
あってないような拠点地な上に、そこで暮らすものたちから忘れらされているって……ちょっとハードモード過ぎるだろ。
しかも哀れなことにこの村、世間から完全に忘れ去られているらしく。下界の地図などにも記されていないときた。
もはや孤立部族である。
かつて俺を信仰した小国アヴァロンは、綺麗サッパリ歴史から抹消されてしまったらしい。
それに比べ、トリートーンの国はそこそこの国らしい。
う~ん……これはじめから詰んでねぇ?
つかこれで勝負になんのかな?
重点的に村の周辺調査を行っていたラファエルによると、村は現在大森林で暮らす魔物たちとのいざこざに巻き込まれているというし、前途多難だ。
「まずは失った村人たちの信仰心を取り戻すところからはじめにゃならんのか」
道のりは果てしない。
愚痴っていても仕方ないので、とりあえずミカエルを伴い下界に降臨する。
「とりあえず、行くか!」
「はい!」
で、今現在――俺の前にはこの村で唯一の信者、アーサーとジャンヌがいる。
二人共人間にしては中々の美形だな。
アーサーの方は一応王族なのだが……。
泥のついた白シャツに、焦げ茶色の七分丈のパンツをサスペンダーで留めた恰好だ。
どこからどう見ても農民の子であり、王族の威厳など皆無。
一方のジャンヌもインナーにコルセット、ロングスカートという至ってシンプルな組み合わせ。
二人共素材がいいだけにもったいない。
試しに二人を鑑定してみる。
名前 アーサー・ペンドラゴン
年齢 15
種族 人間
性別 男
レベル 6
HP 15/15
MP 8/8
筋力 18
防御 18
魔防 8
敏捷 13
器用 14
知力 9
幸運 7
神の恩恵 完璧な鍛冶師
名前 ジャンヌ・ダルク
年齢 15
種族 人間
性別 女
レベル 9
HP 24/24
MP 17/17
筋力 33
防御 33
魔防 16
敏捷 25
器用 11
知力 15
幸運 15
アーサーは至って普通、どこにでも居る村人Aと何ら変わらんステータス。
ジャンヌはアーサーよりかは鍛えているようだが、まあこんなものだろうなというのが率直な感想。
にしても……先程からジャンヌのやつは鼻息荒くなにを興奮しているのだろう。
今の彼女はまるで、飼い主と再会を果たした犬のようである。気のせいか尻尾が見える。
「せっかくの紅茶が冷めてしまう。二人共座ったらどうだ。ミカエルたそもお茶にしよう」
「はい! ウゥル様」
「ここ僕の家なんですけど。というかあなたたち誰なんですか! 人の家で勝手にお茶なんかして、これって立派な犯罪ですよね?」
「バカなことを吐かすな。俺も自分の家でティータイムを楽しんでいるだけだ」
「いやいやいや、ここは亡くなった両親から受け継いだ僕の家ですから!」
「だが、俺の家でもある」
「デタラメ言わないでください! 村の人たちを呼びますよ!」
「ではそれはなんだ!」
俺は極小サイズの祭壇を指差した。
「祭壇……ですけど? それがなんだって言うんです?」
「やはり俺の家ではないか」
「え?」
俺と祭壇を何度も交互に見やるアーサーは、ちょっとマヌケっぽく見えた。
「――――」
「やはりお前は夢の神なのだな!」
なっ、なんだ!?
ずっと黙っていたジャンヌが、口を開きかけたアーサーを押しのけ前に出る。かなり興奮している様子で、テーブルに両手をついた。
ふぅーんと勢いよく吐き出された鼻息が、テーブルに置かれた紅茶に波紋をつくる。
夢の神……?
なんだそれは? ひょっとして眠りの神と俺を間違っているんじゃないだろうな。
失礼なやつだ。神違いにもほどがある。
「私の眼は誤魔化せないっ! 我が主君であるアーサーを立派な王にするため、神は降臨したのだ!」
「まぁ~……当たらずとも遠からずだが………」
なんでこいつはこんなに嬉しそうなんだ。
「僕を立派な王様にするためって、どういうことです?」
警戒心が和らいだのか、アーサーが着席する。すかさずミカエルたそが紅茶の入ったカップを前に差し出す。
「クッキーもありますよ」
「あっ、どうもです」
俺は興奮冷めやらぬジャンヌにも座るよう促し、下界で唯一の信者である二人に信仰者を増やすために降臨したことを告げた。
「ってことは君は本物の神様ってこと!? 嘘くさいです。でも仮にそうだったとしても、どうして今更信者を増やしたいんですか? ずっと無関心だったのに……」
「それは……その」
こいつも痛いところを突いてくるな。
しかし、果たして素直に領地を賭けた神々の戦いをしているためだと言うべきなのか?
天界で戦争するのはちょっとあれなんで、被害を抑えるために下界ですることになりました。
なんて本当のことを言えるわけないしな。
「そんなの決まっているっ! アヴァロンを象徴するウゥルカーヌスを皆が信仰するということは、イコールこの国が権力を得るということだ。それはつまり、神であるウゥルカーヌスはアーサーを世界一の王へと導くために降臨したという紛れもない事実ッ! だろ? そうなのだろ!」
「え……ああ、うん。まぁ……その、そんな感じ……だな」
なんだかよくわからんが、このジャンヌ・ダルクとかいう娘はやけに協力的だな。
「でもなんで今更? 大昔に御先祖様が国を追われた時には何もしてくれなかったじゃないですか」
「島を追われた?」
「はい。はるか昔のことですが。神にたくさん祈りを捧げたって父が言っていました。ですが、神が手を差し伸べてくれることはなかったと」
……ああ。そういうことか。
ゼウスによって俺が大半の領地を奪われたことで、下界で俺を信仰するアヴァロンの民も国土の大半を失ってしまったのだ。
神と信者は運命共同体だからな。
その結果アヴァロンの民は島を追われ、身を隠すようにこの大森林に住みついたということか。
「助けてやりたい気持ちはあったのだがな、実のところ俺もずっとピンチだったのだ」
嘘じゃない。
現に今もピンチであることは変わらない。
「じゃあ今回はどうして?」
「今回は……その」
困ったな。
なんと説明すればよいのだ。
アテナ保険に加入したので、万が一信者が零になっても俺は死なないから思いきって降臨しました。
なんて言えるわけないしな……。
すると――
「ウゥルカーヌスはアーサーが即位するこの機会を待っていたのだ!」
は……?
この娘は何を言っておるのだ。
「どういうこと?」
アーサーがジャンヌに尋ねる。
俺も同じ気持ちだ。
「だ・か・ら・ウゥルカーヌスは長い間選ばれし運命の王の誕生を待っていたのだ。そして今回、アーサーが即位したことを知ったウゥルカーヌスは「時が満ちた」と私たちの前に降臨した。そしてそのことを、ウゥルカーヌスは以前から私にだけこっそり知らせていたのだ」
マジで何言ってんだ……こいつ。
「それって夢の?」
「ああ、まず間違いないだろうな」
いや、間違いだらけだからっ!
「私が幼少期からずっと繰り返し見ていたあの夢は、ウゥルカーヌスが見せていたのだ。早い話が御神託だったというわけだ」
見せてねぇしっ!
つーか眠りの神じゃあるまいしそんなことできねぇよ!
「でもどうして僕じゃなくてジャンヌに?」
たしかに!
未来を予言し、なおかつ人の夢に勝手に登場することができるのなら、わざわざジャンヌにお告げなんぞせず、俺なら直接アーサー本人に伝えるけどな。
「それは私が王の盾であり、剣である――運命の騎士だったからでまず間違いない! だろ!」
「えっ!? ……ああ、うむ。その通り、だ」
あかん。意味がわからん。
つい勢いに押されて肯定してしまったが、運命の騎士ってなにっ!?
一体こいつはさっきからなんの話をしているのだ。
「王を守る騎士がいざという時に戦えなくては話にならん。だからこそウゥルカーヌスは私に鍛えるよう天啓を与えたのだ。幼い頃から剣の道に進むようにと、夢を介して私にずっと呼びかけていた! すべてはこの時のためにっ!」
すっげぇな……こいつの妄想。病的ってこういうことをいうんだろうな。
つーかめっちゃ興奮してるし。
血管切れないかちょっと心配なんですけど。
「どうだ? 当たっているだろ、ウゥルカーヌスよ。私はお前の神託をちゃんと理解していたぞ!」
「……う、うむ。さすがは運命の騎士であるな」
「やはりそうかッ!」
つい嘘をついてしまった。
だって勢いすごいんだもん。
――が、こうなったらジャンヌが創った頭のおかしな妄想を利用するしかない。
「そのためにもまずは、この村の住人たちに神の存在を思いだしてもらう必要がある」
「やがて訪れる聖戦に備え、信者を増やしておくのだな!」
「……そ、その通りだ」
王であるペンドラゴン家の人間が俺の信者である以上、下界においてこの村が俺の領土であることは間違いない。
しかし、戦力拡大を行うためには、俺を含めたアーサーとジャンヌの三人ではちとキツい。
天界の住人であるミカエルたそが直接ゴッドゲームに参加することは認められていない以上、まずは村人たちを仲間にすることが最優先事項となる。
そのためにはまず――
「この村に工房はあるか?」
「父が使っていた鍛冶工房なら、家の裏手の小屋がそうですけど……」
「あのような鉄臭い場所でなにをするのだ?」
アーサーとジャンヌが顔を見合わせ疑問符を浮かべると、ミカエルたそがクスクス笑う。
「お二人が信仰する神が、どのような神かお忘れですか?」
「「炎と鍛冶の神っ!」」
「正解です」
ラファエルたちの調査によると、直にこの村に魔物が襲って来る。
《約束された勝利の剣》――とまではいかないが、久しぶりに腕を奮ってみるか。
「やってやろうッ!」
「ええー、正直言ってめんどいっす」
「ボク、今日パンツ穿いてないよ?」
大神殿での話し合いを終えた俺はそのままとんぼ返り。
7日後からはじまるトリートーンとの領地を賭けた神々の戦いに向け、大至急下界の調査を三名のメイドに行わせた。
書斎で報告書を受け取った俺は、残り一日でそれを頭に叩き込む。
「ウゥル様、アールグレイです」
「うむ」
ミカエルが淹れてくれた紅茶を味わいながら、大事な情報に目を通していく。
《約束の大森林》――どうやらこの大森林の一角に隠れるように築かれた村が俺の拠点地になるらしい……ってちっさッ!?
「なんだこの極小サイズはっ!? 豆粒以下ではないかっ!」
いや、たしかに天界においての俺の領地は狭い。けれど、ここまで狭くはないだろ。
「ラファエル! これ間違っているんじゃないのか?」
「あたしの調査結果に文句をつけるつもりかっ!」
「いや……別にそういうわけではないけど」
そこまで自信満々に言われると何も言い返せない。
が、はるか昔に下界を訪れた際は、俺の信者たちが暮らす場所はこんな森の奥深くなどではなかったはず。
「んんっ……? 村人の数が百人以下?」
しかも信者の数が二人だと!?
「一体何の冗談だ、これはっ!?」
ひどすぎる報告書の内容に驚きを隠せず、つい立ち上がってしまう。
反響した自分の声音が耳に突き刺さり、軽くめまいを覚えた。
「らっ、ラファエルよ。何度も確認するようで申し訳ないのだが、本当にこれ……合ってるんだよな?」
「……ウゥルカーヌス様はいつもそう」
「は?」
「頑張って調べたのにっ。そうやって立場の弱いメイドに難癖つけてストレス発散するんでしょ! ええ、いいですよ! もうそっちがその気なら望み通り腹切りだろうがなんだろうがやってやりますよ! これでいいんでしょ!」
「よせよせよせっ―――! なにやってんだよバカッ! 俺が悪かったからナイフをしまえ!? つーかなんでナイフを常に持参してんだよ!」
「うぅっ……だってだって。本当はあたしだってこんなことじだぁぐぅなぁいんでずぅぅうう! でもウゥルカーヌスさまがあたしにばっかり冷たくするからぁぁあああああああああああああああッ――!」
「………………………」
「ねぇ、お腹切ったら赦してくれる? 腹パンくらいなら毎日だって耐えてみせるからぁあああっ―――いやだ捨てられたくないもんっ」
やっべぇ……こいつ完全にメンヘラじゃん。
誰だよこんなヤバいやつ使用人として採用したの!?
――って俺じゃんっ!?
完全にかわいい顔に騙された!
とりあえず……後のことはガブリエルとウリエルに任せるとしよう。
報告書によると、この村の連中はすっかり神の存在を忘れてしまっているらしい。
唯一覚えているのが二名。
「アーサー・ペンドラゴンとジャンヌ・ダルクか」
あってないような拠点地な上に、そこで暮らすものたちから忘れらされているって……ちょっとハードモード過ぎるだろ。
しかも哀れなことにこの村、世間から完全に忘れ去られているらしく。下界の地図などにも記されていないときた。
もはや孤立部族である。
かつて俺を信仰した小国アヴァロンは、綺麗サッパリ歴史から抹消されてしまったらしい。
それに比べ、トリートーンの国はそこそこの国らしい。
う~ん……これはじめから詰んでねぇ?
つかこれで勝負になんのかな?
重点的に村の周辺調査を行っていたラファエルによると、村は現在大森林で暮らす魔物たちとのいざこざに巻き込まれているというし、前途多難だ。
「まずは失った村人たちの信仰心を取り戻すところからはじめにゃならんのか」
道のりは果てしない。
愚痴っていても仕方ないので、とりあえずミカエルを伴い下界に降臨する。
「とりあえず、行くか!」
「はい!」
で、今現在――俺の前にはこの村で唯一の信者、アーサーとジャンヌがいる。
二人共人間にしては中々の美形だな。
アーサーの方は一応王族なのだが……。
泥のついた白シャツに、焦げ茶色の七分丈のパンツをサスペンダーで留めた恰好だ。
どこからどう見ても農民の子であり、王族の威厳など皆無。
一方のジャンヌもインナーにコルセット、ロングスカートという至ってシンプルな組み合わせ。
二人共素材がいいだけにもったいない。
試しに二人を鑑定してみる。
名前 アーサー・ペンドラゴン
年齢 15
種族 人間
性別 男
レベル 6
HP 15/15
MP 8/8
筋力 18
防御 18
魔防 8
敏捷 13
器用 14
知力 9
幸運 7
神の恩恵 完璧な鍛冶師
名前 ジャンヌ・ダルク
年齢 15
種族 人間
性別 女
レベル 9
HP 24/24
MP 17/17
筋力 33
防御 33
魔防 16
敏捷 25
器用 11
知力 15
幸運 15
アーサーは至って普通、どこにでも居る村人Aと何ら変わらんステータス。
ジャンヌはアーサーよりかは鍛えているようだが、まあこんなものだろうなというのが率直な感想。
にしても……先程からジャンヌのやつは鼻息荒くなにを興奮しているのだろう。
今の彼女はまるで、飼い主と再会を果たした犬のようである。気のせいか尻尾が見える。
「せっかくの紅茶が冷めてしまう。二人共座ったらどうだ。ミカエルたそもお茶にしよう」
「はい! ウゥル様」
「ここ僕の家なんですけど。というかあなたたち誰なんですか! 人の家で勝手にお茶なんかして、これって立派な犯罪ですよね?」
「バカなことを吐かすな。俺も自分の家でティータイムを楽しんでいるだけだ」
「いやいやいや、ここは亡くなった両親から受け継いだ僕の家ですから!」
「だが、俺の家でもある」
「デタラメ言わないでください! 村の人たちを呼びますよ!」
「ではそれはなんだ!」
俺は極小サイズの祭壇を指差した。
「祭壇……ですけど? それがなんだって言うんです?」
「やはり俺の家ではないか」
「え?」
俺と祭壇を何度も交互に見やるアーサーは、ちょっとマヌケっぽく見えた。
「――――」
「やはりお前は夢の神なのだな!」
なっ、なんだ!?
ずっと黙っていたジャンヌが、口を開きかけたアーサーを押しのけ前に出る。かなり興奮している様子で、テーブルに両手をついた。
ふぅーんと勢いよく吐き出された鼻息が、テーブルに置かれた紅茶に波紋をつくる。
夢の神……?
なんだそれは? ひょっとして眠りの神と俺を間違っているんじゃないだろうな。
失礼なやつだ。神違いにもほどがある。
「私の眼は誤魔化せないっ! 我が主君であるアーサーを立派な王にするため、神は降臨したのだ!」
「まぁ~……当たらずとも遠からずだが………」
なんでこいつはこんなに嬉しそうなんだ。
「僕を立派な王様にするためって、どういうことです?」
警戒心が和らいだのか、アーサーが着席する。すかさずミカエルたそが紅茶の入ったカップを前に差し出す。
「クッキーもありますよ」
「あっ、どうもです」
俺は興奮冷めやらぬジャンヌにも座るよう促し、下界で唯一の信者である二人に信仰者を増やすために降臨したことを告げた。
「ってことは君は本物の神様ってこと!? 嘘くさいです。でも仮にそうだったとしても、どうして今更信者を増やしたいんですか? ずっと無関心だったのに……」
「それは……その」
こいつも痛いところを突いてくるな。
しかし、果たして素直に領地を賭けた神々の戦いをしているためだと言うべきなのか?
天界で戦争するのはちょっとあれなんで、被害を抑えるために下界ですることになりました。
なんて本当のことを言えるわけないしな。
「そんなの決まっているっ! アヴァロンを象徴するウゥルカーヌスを皆が信仰するということは、イコールこの国が権力を得るということだ。それはつまり、神であるウゥルカーヌスはアーサーを世界一の王へと導くために降臨したという紛れもない事実ッ! だろ? そうなのだろ!」
「え……ああ、うん。まぁ……その、そんな感じ……だな」
なんだかよくわからんが、このジャンヌ・ダルクとかいう娘はやけに協力的だな。
「でもなんで今更? 大昔に御先祖様が国を追われた時には何もしてくれなかったじゃないですか」
「島を追われた?」
「はい。はるか昔のことですが。神にたくさん祈りを捧げたって父が言っていました。ですが、神が手を差し伸べてくれることはなかったと」
……ああ。そういうことか。
ゼウスによって俺が大半の領地を奪われたことで、下界で俺を信仰するアヴァロンの民も国土の大半を失ってしまったのだ。
神と信者は運命共同体だからな。
その結果アヴァロンの民は島を追われ、身を隠すようにこの大森林に住みついたということか。
「助けてやりたい気持ちはあったのだがな、実のところ俺もずっとピンチだったのだ」
嘘じゃない。
現に今もピンチであることは変わらない。
「じゃあ今回はどうして?」
「今回は……その」
困ったな。
なんと説明すればよいのだ。
アテナ保険に加入したので、万が一信者が零になっても俺は死なないから思いきって降臨しました。
なんて言えるわけないしな……。
すると――
「ウゥルカーヌスはアーサーが即位するこの機会を待っていたのだ!」
は……?
この娘は何を言っておるのだ。
「どういうこと?」
アーサーがジャンヌに尋ねる。
俺も同じ気持ちだ。
「だ・か・ら・ウゥルカーヌスは長い間選ばれし運命の王の誕生を待っていたのだ。そして今回、アーサーが即位したことを知ったウゥルカーヌスは「時が満ちた」と私たちの前に降臨した。そしてそのことを、ウゥルカーヌスは以前から私にだけこっそり知らせていたのだ」
マジで何言ってんだ……こいつ。
「それって夢の?」
「ああ、まず間違いないだろうな」
いや、間違いだらけだからっ!
「私が幼少期からずっと繰り返し見ていたあの夢は、ウゥルカーヌスが見せていたのだ。早い話が御神託だったというわけだ」
見せてねぇしっ!
つーか眠りの神じゃあるまいしそんなことできねぇよ!
「でもどうして僕じゃなくてジャンヌに?」
たしかに!
未来を予言し、なおかつ人の夢に勝手に登場することができるのなら、わざわざジャンヌにお告げなんぞせず、俺なら直接アーサー本人に伝えるけどな。
「それは私が王の盾であり、剣である――運命の騎士だったからでまず間違いない! だろ!」
「えっ!? ……ああ、うむ。その通り、だ」
あかん。意味がわからん。
つい勢いに押されて肯定してしまったが、運命の騎士ってなにっ!?
一体こいつはさっきからなんの話をしているのだ。
「王を守る騎士がいざという時に戦えなくては話にならん。だからこそウゥルカーヌスは私に鍛えるよう天啓を与えたのだ。幼い頃から剣の道に進むようにと、夢を介して私にずっと呼びかけていた! すべてはこの時のためにっ!」
すっげぇな……こいつの妄想。病的ってこういうことをいうんだろうな。
つーかめっちゃ興奮してるし。
血管切れないかちょっと心配なんですけど。
「どうだ? 当たっているだろ、ウゥルカーヌスよ。私はお前の神託をちゃんと理解していたぞ!」
「……う、うむ。さすがは運命の騎士であるな」
「やはりそうかッ!」
つい嘘をついてしまった。
だって勢いすごいんだもん。
――が、こうなったらジャンヌが創った頭のおかしな妄想を利用するしかない。
「そのためにもまずは、この村の住人たちに神の存在を思いだしてもらう必要がある」
「やがて訪れる聖戦に備え、信者を増やしておくのだな!」
「……そ、その通りだ」
王であるペンドラゴン家の人間が俺の信者である以上、下界においてこの村が俺の領土であることは間違いない。
しかし、戦力拡大を行うためには、俺を含めたアーサーとジャンヌの三人ではちとキツい。
天界の住人であるミカエルたそが直接ゴッドゲームに参加することは認められていない以上、まずは村人たちを仲間にすることが最優先事項となる。
そのためにはまず――
「この村に工房はあるか?」
「父が使っていた鍛冶工房なら、家の裏手の小屋がそうですけど……」
「あのような鉄臭い場所でなにをするのだ?」
アーサーとジャンヌが顔を見合わせ疑問符を浮かべると、ミカエルたそがクスクス笑う。
「お二人が信仰する神が、どのような神かお忘れですか?」
「「炎と鍛冶の神っ!」」
「正解です」
ラファエルたちの調査によると、直にこの村に魔物が襲って来る。
《約束された勝利の剣》――とまではいかないが、久しぶりに腕を奮ってみるか。
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最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
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この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
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ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。
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