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第50話 ようこそ、アーサー村へ
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……ここは、本当に目的地なのだろうか。
わたしは困惑に眉を潜めた――否、わたしだけではない。子供たちも不思議そうに鉄格子の向こう側に広がる光景を眺めていた。
というのも、たしかにこの村にはゴブリンたちが沢山いるのだが、ここはわたしが知るゴブリンの集落とは違っていた。
「……なに、これ?」
村は大森林の中に築かれているとは思えないほどに栄えており、目を疑うほど立派な建築物が立ち並び、遠くの方には果てしなく広がる畑が見えた。
これをゴブリンたちが築いたのなら、わたしたちの常識を根底から覆すことになるのではないだろうか。
そう思ってしまうほど、立派な村だった。
「うわぁ! ついに人間が運ばれて来たんだじょ!」
「おっ、メスも沢山いるだがや! この腕のねぇメスはわて好みの顔をしてるだがや!」
他のゴブリンよりも一回り小さなゴブリンが駆け寄って来ると、つられて小太りなゴブリンもやって来る。小太りなゴブリンはわたしの身体をいやらしい眼で見つめていた。
やはり、ゴブリンの子を孕ませる気なのだろうか。
「ゴブスケ、ゴブヘイ! 見るのは自由だけど、ちゃんと仕事終わらせてからにするだべさ!」
「いつまでも偉そうにするでねぇがや。ゴブゾウが強ぇのはアーサーのインチキパワーアップのお陰だがや!」
「そうだじょ!」
「二人がかりでオラに勝てなかった雑魚がよく言うべ」
「そ、それはゴブゾウがインチキペンダントをつけてるからだべ!」
「そうだがや! みんなでペンダントは誰が持つのが一番相応しいか、今度ゴブリン総選挙を開催するだがや!」
「勝手に言ってろだべ」
まさかとは思うが、ここに居るゴブリンは全員、腹巻きゴブリン並に強いのだろうか。
だとすれば、この地域が冒険者協会によって超危険地帯に認定されているのは、この異常なゴブリンたちがいるからなのかもしれない。
「パワーアップ……どういう意味だ?」
腹巻きゴブリンに敗北して以降、ずっと塞ぎ込んでいたガウェインが、彼らの会話に敏感に反応する。
「アネモネ、ゴブリンたちは何か変わった装備でも身につけているのか?」
「え……う~ん、どうだろう? 見た感じ普通だけど、あっ、でも――」
「でもなんだ!」
「ガウェインが戦ったあのゴブリンだけ、蒼鉱石で作られたペンダントをしているの。群れのリーダーの証なのかも」
「……蒼鉱石のペンダント、か。ひょっとすると特殊なマジックアイテムなのかもしれん」
「そういうのがあるの?」
「ああ、戦場にいた頃聞いたことがある。身につけるだけで絶大な力を得られる指輪や、装備すると英雄のように強くなる武器が存在すると」
ガウェインはゴブリンの強さの秘密、パワーアップという言葉に興味津々だった。
けれど、ガウェインと違って目の見えるわたしたちは、それどころではない。
荷馬車が村の中央広場らしき場所に到着すると、《ようこそ、アーサー村へ》謎の看板がわたしたちの視界に飛び込んできた。
「……」
広場にはたくさんのゴブリンと人間が一緒にいて、わたしたちに向かって笑顔でパチパチ手を叩いていた。
「なんだ……この音は!?」
困惑するガウェインに答えてあげたいけどれど、わたしもそれどころではなかった。
「――おぉ、いらっしゃい嬢ちゃんたち! アーサー村にようこそだッ!」
「アンタたちだろ! うちの村に住みたいって言ってくれた子供たちは。そんな身体になっちまって、今まで大変だっただろ」
「だけんど、もう大丈夫だかんな! うちの村の神様は慈悲深き神様だぺっ!」
「うちの神様に選ばれたんならもう安心だ! なんてったって慈悲深き神様だかんな!」
何やらよくわからないことを言いつつ、ゴブリンや人間が笑顔で鉄格子に群がってくる。
「と、取り囲まれたか!?」
「ガウェインちょっと黙って!」
目の見えないガウェインには、彼らが襲いかかって来ているように思えているのかもしれない――が、わたちの目からは歓迎されているようにしか見えない。
「おっ、ついに来たか!」
人混みをかき分け現れたのは、太陽のように輝く髪と、わたしの嫌いな空色の瞳をした少年。絵本の中から飛び出してきたような美しい少年が、わたしたちに喜色満面を向けてくる。
少年の側には取り巻きらしき人物が4名ほどいる。優しそうな少年と、背の高い凛々しい少女。それに天使のような微笑みを浮かべた少女に、悪魔のようなダークエルフ。
ゴブリンに人間、それに魔族!?
この村は一体どうなっているのだろう。
「あの、その……これは、何なんです、か?」
わたしはなけなしの勇気を振りしぼり、鉄格子の向こう側にいる少年に話しかけた。
「いきなり大勢から話しかけられたら、そりゃびっくりするよな。ほら、一旦下がれ!」
美しい少年は村人やゴブリンに落ち着くよう声をかける。
凛としたその声が響いた瞬間、騒いでいた取り巻き以外が一斉に姿勢を正した。
「「「はい、神様!」」」
声を揃え、恭しく傅く人やゴブリン。その様はまさに神に仕える信者のようだ。
「神、さま……? こ、こいつがゴブリンロードかっ!」
盲目のガウェインはとんでもない勘違いをしている。
「うん、元気そうで何よりだな!」
ところが、犬歯を剥き出しに威嚇するガウェインを前にしても、神様と呼ばれた少年は笑顔を絶やさない。
「えーと……」
「こちらですよ、ウゥルさま」
天使のような少女が金髪碧眼の少年に紙の束を差し出した。少年はペラペラとそれを眺めている。
「ウリエルの報告書によると、お前は元少年兵のガウェインだな。8歳の頃に戦争に巻き込まれ両親が死亡。以降悪い大人に騙されて少年兵に仕立て上げられる、か。壮絶な人生だな。ちなみに元は誰の信者だ? げっ――四女のところかよ!?」
「なっ、なぜ、オレのことを知っている!?」
「そりゃ神だからな! で、そっちのちっこいのはトト。不運によって奴隷となり、主の寝込みを襲って自由になろうとしたが失敗。罰として両脚を切断される」
「お、おいらのことも!?」
「もちろん、神だからな! お前はアネモネだろ? 貧困を理由に両親に売り飛ばされ、悪趣味な男の性奴隷となるも、正義感から飼い主に噛みつき、両腕を切断。……よく耐えたな」
自らのことを神だと言い張る少年は、ここに居るのわたしたち12人、すべての名前と過去を正確に言い当てた。わたしですら知らなかった彼らの過去を、だ。
「もう一度改めてお前たちに言おう。ようこそ、アーサー村へ。俺はお前たちを歓迎するぞ!」
言葉の意味がわからず、わたしたちは固まってしまう。
「かん、げい? ど、どういうことだ商人!? オレたちはゴブリンロードの餌として運ばれて来たのではないのか!?」
「ゴブリンロード……? なんですか、それ?」
「は? いや、だって……オレたちは魔物の家畜として売り飛ばされるのだろ!」
「いいえ。わたしはただこちらのウゥルさんに頼まれただけです。西の地に趣き、そこで12人の《傷病奴隷》を乗せた奴隷商人からあなた方を買い取り、この村に連れてきてほしいと。なんでも、ウゥルさんのお知り合いが、あなた方を新たなアーサー村の住人に推薦したらしいんです」
「じゅう、にん……?」
混乱するガウェイン。
わたしも理解が追いつかない。
「あの、わたしは、わたしたちは奴隷ですよ?」
「もう奴隷ではない。俺の信者で、この村の住人だ! お前には服を、お前には畑を、お前にはこの村を守る戦士に。そうやってみんなでこの村をでかくしていってもらいたい」
眼前の少年はわたしたちを奴隷から、隷属紋から解放するという。そんなバカなことが信じられるだろうか。仮にそれが本当だったとしても、彼の望みを叶えることがわたしたちにはできない。
わたしには裁縫をする腕が、指がないのだ。
「無理、です」
「なぜだ? 服を作るのは嫌か?」
「ウゥルさん、と仰られましたね。ご覧の通り、わたしには裁縫をするための手がありません。きっと、あなた方のお役には立てません」
悲しいけど、これが現実だ。
されど、眼前の少年は納得いかないって顔で、眉間にしわを寄せた。
「お前は俺の話を聞いていたか?」
「……は?」
平坦ながらも優しい声色で、少年はこう告げてきた。
「俺は神だぞ?」
「それが、何か?」
「腕くらいささっと治してやるよ」
「えっ?」
「アーサー、例の杖を試してみろ」
「あっ、はいです!」
少年の呼びかけに応じ、可愛らしい少年が前に出てきた。手には黄金のステッキを携えている。龍をモチーフに作られた杖だ。
「じゃ、やりますね!」
黄褐色の髪の少年が杖を振るうとその瞬間――わたしたちの身体に奇跡は起きた。
まばゆい光が溢れかえるや、欠落した手足が、機能しない目や耳が、死病に侵された皮膚が、全て回復を果たしたのだ。
光が淡く散っていく中、わたしたちは長らく呆然とし――やがて、驚愕の絶叫を張り上げた。
「えっ、えええええええええええええええっ!? 手が、わたしの手がッ!?」
「お、おいらの脚がっ! 足が生えてるよ!」
「うそ、身体が痛くない! 羽が生えたみたいに軽いわ!」
「バカな……そんなこと、あぁ、見える、目が、オレの腕がぁっ!!!」
驚きの声をあげるわたしたちは、決して広くはない檻の中で、回復した身体を思い思いに動かし――やがて、歓喜にむせび泣いた。
「そんな、こんなことって!?」
わたしたちの胸の中は信じられない気持ちでいっぱいだった。
「アネモネ!」
「ガウェイン!」
むせび泣くガウェインが「見える、お前が見えるぞアネモネ」わたしの頬にそっと触れた。
わたしはそんな彼を力いっぱい抱きしめた。
「神は、オレたちを見捨ててなどいなかったのだ!」
「うん、うん……」
もう二度と、誰かを抱きしめることなんてないと思っていた。
抱き合うって、こんなに温かくて素敵なことだったんだ。
「やっぱり神様が作る武具はすご過ぎですよ!」
奴隷という地獄から解放してくれるだけでなく、彼らはわたしたちのために特別な魔法を使ってくれた。
失くした手足が生えてくるほどの回復魔法など、わたしたちは聞いたことがなかった。
とある国の王宮魔導師ですら、千切れた手足をつなげるのがやっとだと聞いたことがある。それに比べれば、まさに奇跡の神業としか云いようがない。
大粒の涙を流し抱き合うわたしたちに、優しくも偉大な少年――いえ、まさに神様と呼ぶに相応しき御方は頷く。
「この村では人間とゴブリンが共に生活をしている。お前たちもゆっくりでいいから仕事を覚えていってくれればいい。あっ、それと、お前たちの傷を癒やしたこいつが、この村の王だ」
「はじめまして、皆さん。この村で王様をやらせてもらっています、アーサー・ペンドラゴンです!」
偉大なる神様の言葉に応え、アーサーと名乗った優しげな王様が笑顔を向けてくれる。
「ガウェイン! オラのいう通り、運命は変わったべな」
「……!?」
ガウェインはただ黙って、腹巻きゴブリンに頭を下げた。
すべて、わたしたちの勘違いだったのだと、ようやくわかった。
思い返せば、わたしたちが死の商人と蔑んでいたこの男も、魔族の街で出会ったダークエルフも、みんな良かったねと祝福してくれていたのだ。
檻から出たわたしたちを、村の方々は大きな声で迎え入れてくれる。
「「「ようこそ、アーサー村へ!!」」」
見上げれば青空。大嫌いだった晴れ渡る空が、わたしたちを祝福していた。
いつか、ダークエルフの彼女に会うことがあったら謝ろうと思う。
これまでの悲惨な過去を消し去ることはできないけれど、わたしたちはこの村からやり直そう。ここから幸せになろうと誓った。
――――なお、彼らは知らない。
「ガウェイン、めちゃくちゃ強いの手に入れたぞ! しかもアネモネは魔法使いの素質ヤバいし! トトとかいうあのチンチクリンも……ぐふふ! 大幅な戦力アップだ!」
あの日、ウリエルから彼らのことを聞かされた時から、ウゥルカーヌスは彼らがやって来るのを心待ちにしていたのだ。
そして、閃いた。
各地にいる才能ある奴隷たちを、こっそりアーサー村に運び込んで最強の軍隊を作り上げてやろうと。
「今に見てろよ、トリートーン!」
これは後の、奴隷開放王と呼ばれたアーサー王の伝説、その序章でしかない。
わたしは困惑に眉を潜めた――否、わたしだけではない。子供たちも不思議そうに鉄格子の向こう側に広がる光景を眺めていた。
というのも、たしかにこの村にはゴブリンたちが沢山いるのだが、ここはわたしが知るゴブリンの集落とは違っていた。
「……なに、これ?」
村は大森林の中に築かれているとは思えないほどに栄えており、目を疑うほど立派な建築物が立ち並び、遠くの方には果てしなく広がる畑が見えた。
これをゴブリンたちが築いたのなら、わたしたちの常識を根底から覆すことになるのではないだろうか。
そう思ってしまうほど、立派な村だった。
「うわぁ! ついに人間が運ばれて来たんだじょ!」
「おっ、メスも沢山いるだがや! この腕のねぇメスはわて好みの顔をしてるだがや!」
他のゴブリンよりも一回り小さなゴブリンが駆け寄って来ると、つられて小太りなゴブリンもやって来る。小太りなゴブリンはわたしの身体をいやらしい眼で見つめていた。
やはり、ゴブリンの子を孕ませる気なのだろうか。
「ゴブスケ、ゴブヘイ! 見るのは自由だけど、ちゃんと仕事終わらせてからにするだべさ!」
「いつまでも偉そうにするでねぇがや。ゴブゾウが強ぇのはアーサーのインチキパワーアップのお陰だがや!」
「そうだじょ!」
「二人がかりでオラに勝てなかった雑魚がよく言うべ」
「そ、それはゴブゾウがインチキペンダントをつけてるからだべ!」
「そうだがや! みんなでペンダントは誰が持つのが一番相応しいか、今度ゴブリン総選挙を開催するだがや!」
「勝手に言ってろだべ」
まさかとは思うが、ここに居るゴブリンは全員、腹巻きゴブリン並に強いのだろうか。
だとすれば、この地域が冒険者協会によって超危険地帯に認定されているのは、この異常なゴブリンたちがいるからなのかもしれない。
「パワーアップ……どういう意味だ?」
腹巻きゴブリンに敗北して以降、ずっと塞ぎ込んでいたガウェインが、彼らの会話に敏感に反応する。
「アネモネ、ゴブリンたちは何か変わった装備でも身につけているのか?」
「え……う~ん、どうだろう? 見た感じ普通だけど、あっ、でも――」
「でもなんだ!」
「ガウェインが戦ったあのゴブリンだけ、蒼鉱石で作られたペンダントをしているの。群れのリーダーの証なのかも」
「……蒼鉱石のペンダント、か。ひょっとすると特殊なマジックアイテムなのかもしれん」
「そういうのがあるの?」
「ああ、戦場にいた頃聞いたことがある。身につけるだけで絶大な力を得られる指輪や、装備すると英雄のように強くなる武器が存在すると」
ガウェインはゴブリンの強さの秘密、パワーアップという言葉に興味津々だった。
けれど、ガウェインと違って目の見えるわたしたちは、それどころではない。
荷馬車が村の中央広場らしき場所に到着すると、《ようこそ、アーサー村へ》謎の看板がわたしたちの視界に飛び込んできた。
「……」
広場にはたくさんのゴブリンと人間が一緒にいて、わたしたちに向かって笑顔でパチパチ手を叩いていた。
「なんだ……この音は!?」
困惑するガウェインに答えてあげたいけどれど、わたしもそれどころではなかった。
「――おぉ、いらっしゃい嬢ちゃんたち! アーサー村にようこそだッ!」
「アンタたちだろ! うちの村に住みたいって言ってくれた子供たちは。そんな身体になっちまって、今まで大変だっただろ」
「だけんど、もう大丈夫だかんな! うちの村の神様は慈悲深き神様だぺっ!」
「うちの神様に選ばれたんならもう安心だ! なんてったって慈悲深き神様だかんな!」
何やらよくわからないことを言いつつ、ゴブリンや人間が笑顔で鉄格子に群がってくる。
「と、取り囲まれたか!?」
「ガウェインちょっと黙って!」
目の見えないガウェインには、彼らが襲いかかって来ているように思えているのかもしれない――が、わたちの目からは歓迎されているようにしか見えない。
「おっ、ついに来たか!」
人混みをかき分け現れたのは、太陽のように輝く髪と、わたしの嫌いな空色の瞳をした少年。絵本の中から飛び出してきたような美しい少年が、わたしたちに喜色満面を向けてくる。
少年の側には取り巻きらしき人物が4名ほどいる。優しそうな少年と、背の高い凛々しい少女。それに天使のような微笑みを浮かべた少女に、悪魔のようなダークエルフ。
ゴブリンに人間、それに魔族!?
この村は一体どうなっているのだろう。
「あの、その……これは、何なんです、か?」
わたしはなけなしの勇気を振りしぼり、鉄格子の向こう側にいる少年に話しかけた。
「いきなり大勢から話しかけられたら、そりゃびっくりするよな。ほら、一旦下がれ!」
美しい少年は村人やゴブリンに落ち着くよう声をかける。
凛としたその声が響いた瞬間、騒いでいた取り巻き以外が一斉に姿勢を正した。
「「「はい、神様!」」」
声を揃え、恭しく傅く人やゴブリン。その様はまさに神に仕える信者のようだ。
「神、さま……? こ、こいつがゴブリンロードかっ!」
盲目のガウェインはとんでもない勘違いをしている。
「うん、元気そうで何よりだな!」
ところが、犬歯を剥き出しに威嚇するガウェインを前にしても、神様と呼ばれた少年は笑顔を絶やさない。
「えーと……」
「こちらですよ、ウゥルさま」
天使のような少女が金髪碧眼の少年に紙の束を差し出した。少年はペラペラとそれを眺めている。
「ウリエルの報告書によると、お前は元少年兵のガウェインだな。8歳の頃に戦争に巻き込まれ両親が死亡。以降悪い大人に騙されて少年兵に仕立て上げられる、か。壮絶な人生だな。ちなみに元は誰の信者だ? げっ――四女のところかよ!?」
「なっ、なぜ、オレのことを知っている!?」
「そりゃ神だからな! で、そっちのちっこいのはトト。不運によって奴隷となり、主の寝込みを襲って自由になろうとしたが失敗。罰として両脚を切断される」
「お、おいらのことも!?」
「もちろん、神だからな! お前はアネモネだろ? 貧困を理由に両親に売り飛ばされ、悪趣味な男の性奴隷となるも、正義感から飼い主に噛みつき、両腕を切断。……よく耐えたな」
自らのことを神だと言い張る少年は、ここに居るのわたしたち12人、すべての名前と過去を正確に言い当てた。わたしですら知らなかった彼らの過去を、だ。
「もう一度改めてお前たちに言おう。ようこそ、アーサー村へ。俺はお前たちを歓迎するぞ!」
言葉の意味がわからず、わたしたちは固まってしまう。
「かん、げい? ど、どういうことだ商人!? オレたちはゴブリンロードの餌として運ばれて来たのではないのか!?」
「ゴブリンロード……? なんですか、それ?」
「は? いや、だって……オレたちは魔物の家畜として売り飛ばされるのだろ!」
「いいえ。わたしはただこちらのウゥルさんに頼まれただけです。西の地に趣き、そこで12人の《傷病奴隷》を乗せた奴隷商人からあなた方を買い取り、この村に連れてきてほしいと。なんでも、ウゥルさんのお知り合いが、あなた方を新たなアーサー村の住人に推薦したらしいんです」
「じゅう、にん……?」
混乱するガウェイン。
わたしも理解が追いつかない。
「あの、わたしは、わたしたちは奴隷ですよ?」
「もう奴隷ではない。俺の信者で、この村の住人だ! お前には服を、お前には畑を、お前にはこの村を守る戦士に。そうやってみんなでこの村をでかくしていってもらいたい」
眼前の少年はわたしたちを奴隷から、隷属紋から解放するという。そんなバカなことが信じられるだろうか。仮にそれが本当だったとしても、彼の望みを叶えることがわたしたちにはできない。
わたしには裁縫をする腕が、指がないのだ。
「無理、です」
「なぜだ? 服を作るのは嫌か?」
「ウゥルさん、と仰られましたね。ご覧の通り、わたしには裁縫をするための手がありません。きっと、あなた方のお役には立てません」
悲しいけど、これが現実だ。
されど、眼前の少年は納得いかないって顔で、眉間にしわを寄せた。
「お前は俺の話を聞いていたか?」
「……は?」
平坦ながらも優しい声色で、少年はこう告げてきた。
「俺は神だぞ?」
「それが、何か?」
「腕くらいささっと治してやるよ」
「えっ?」
「アーサー、例の杖を試してみろ」
「あっ、はいです!」
少年の呼びかけに応じ、可愛らしい少年が前に出てきた。手には黄金のステッキを携えている。龍をモチーフに作られた杖だ。
「じゃ、やりますね!」
黄褐色の髪の少年が杖を振るうとその瞬間――わたしたちの身体に奇跡は起きた。
まばゆい光が溢れかえるや、欠落した手足が、機能しない目や耳が、死病に侵された皮膚が、全て回復を果たしたのだ。
光が淡く散っていく中、わたしたちは長らく呆然とし――やがて、驚愕の絶叫を張り上げた。
「えっ、えええええええええええええええっ!? 手が、わたしの手がッ!?」
「お、おいらの脚がっ! 足が生えてるよ!」
「うそ、身体が痛くない! 羽が生えたみたいに軽いわ!」
「バカな……そんなこと、あぁ、見える、目が、オレの腕がぁっ!!!」
驚きの声をあげるわたしたちは、決して広くはない檻の中で、回復した身体を思い思いに動かし――やがて、歓喜にむせび泣いた。
「そんな、こんなことって!?」
わたしたちの胸の中は信じられない気持ちでいっぱいだった。
「アネモネ!」
「ガウェイン!」
むせび泣くガウェインが「見える、お前が見えるぞアネモネ」わたしの頬にそっと触れた。
わたしはそんな彼を力いっぱい抱きしめた。
「神は、オレたちを見捨ててなどいなかったのだ!」
「うん、うん……」
もう二度と、誰かを抱きしめることなんてないと思っていた。
抱き合うって、こんなに温かくて素敵なことだったんだ。
「やっぱり神様が作る武具はすご過ぎですよ!」
奴隷という地獄から解放してくれるだけでなく、彼らはわたしたちのために特別な魔法を使ってくれた。
失くした手足が生えてくるほどの回復魔法など、わたしたちは聞いたことがなかった。
とある国の王宮魔導師ですら、千切れた手足をつなげるのがやっとだと聞いたことがある。それに比べれば、まさに奇跡の神業としか云いようがない。
大粒の涙を流し抱き合うわたしたちに、優しくも偉大な少年――いえ、まさに神様と呼ぶに相応しき御方は頷く。
「この村では人間とゴブリンが共に生活をしている。お前たちもゆっくりでいいから仕事を覚えていってくれればいい。あっ、それと、お前たちの傷を癒やしたこいつが、この村の王だ」
「はじめまして、皆さん。この村で王様をやらせてもらっています、アーサー・ペンドラゴンです!」
偉大なる神様の言葉に応え、アーサーと名乗った優しげな王様が笑顔を向けてくれる。
「ガウェイン! オラのいう通り、運命は変わったべな」
「……!?」
ガウェインはただ黙って、腹巻きゴブリンに頭を下げた。
すべて、わたしたちの勘違いだったのだと、ようやくわかった。
思い返せば、わたしたちが死の商人と蔑んでいたこの男も、魔族の街で出会ったダークエルフも、みんな良かったねと祝福してくれていたのだ。
檻から出たわたしたちを、村の方々は大きな声で迎え入れてくれる。
「「「ようこそ、アーサー村へ!!」」」
見上げれば青空。大嫌いだった晴れ渡る空が、わたしたちを祝福していた。
いつか、ダークエルフの彼女に会うことがあったら謝ろうと思う。
これまでの悲惨な過去を消し去ることはできないけれど、わたしたちはこの村からやり直そう。ここから幸せになろうと誓った。
――――なお、彼らは知らない。
「ガウェイン、めちゃくちゃ強いの手に入れたぞ! しかもアネモネは魔法使いの素質ヤバいし! トトとかいうあのチンチクリンも……ぐふふ! 大幅な戦力アップだ!」
あの日、ウリエルから彼らのことを聞かされた時から、ウゥルカーヌスは彼らがやって来るのを心待ちにしていたのだ。
そして、閃いた。
各地にいる才能ある奴隷たちを、こっそりアーサー村に運び込んで最強の軍隊を作り上げてやろうと。
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地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
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