その異世界転移はおかしいだろ!〈連載版〉

tiroro

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その4(最終話).無双ゲームの世界

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 あたし、OLのトモカ。

 恋人居ない連盟のミドリ、ユーコと朝までカラオケオールし、疲れてベッドでゴロゴロしてたはずだったのに、目が覚めるとまたもや異世界に飛ばされていた。
 目の前には中世ヨーロッパ風の街並みが広がっている。

 これは、きっとアイツの仕業。
 あのファンキーでアロハなパイナップル野郎が関わっているに違いない。

 今度は一体何のゲームの世界なんだろ?
 見た感じ、ようやくRPGの世界に見えるけど。

 まあいいか、とりあえずせっかく異世界に来たことだしいつもと違う日常を楽しんでやろうじゃないの。
 まずは、ちょうどそこに立っている兵士さん(ちょっとイケメン)に声を掛けてみるか。

「あのー、すみません」
「!”#$’’’&@@@:」

 ……何言ってんのかわかんねえよぉおおお!?
 そーですよね!? 普通、異世界なんかに来たら言葉なんて通じるわけないですよね!?
 てゆうか、なんでそこだけリアルなんだよぉおおおお!!

「+*!”###”&!」
「あのー……よくわかんないんスけど」
「’%?+;=~*^Д^*9m」

 うん、よくわからんけどなんか馬鹿にされたことはわかった。
 ちょっと顔が良いからっていい気になりやがって。イケメンはいつもそうだ。
 もういいや。こいつは無視して別の手掛かりを探そう。

「もし、そこのOLさん」
「え!?」

 突然聞き覚えのある言葉が聞こえ、振り向くとそこには何やらスーツを着たサラリーマン風の人がいた。
 残念ながら、見た目はただのさえないおっさんだが。

「君もこの世界に飛ばされてきたのかい?」
「君もってことは、あなたも? って、なんで部屋着のあたしをOLだとわかったんですか!?」
「まず最初の質問に答えよう。それはいかにも。残業に耐えるため翼を与えてくれる例のアレを飲んで、さあこれからが本番だぞというところで気が付いたらこの世界に居たのだ」
「レッ〇ブルですね」
「そして次の質問だが、君が典型的なOL顔をしていたのでね。あ、わたくしこういうものです」

 リーマンから、社会人のたしなみである名刺を受け取る。
 山田五郎さん。五男坊なんだろうか。

 そして、典型的なOL顔ってなんだ。

「もしかして頭にヘタのあるパイナップルみませんでした?」
「いや、全身黒タイツの男なら見たが」

 ……コ〇ンの犯人か!

「それより、これを渡しておこう。これがあればこの世界の住民の言葉がわかるぞ」

 リーマンから何やらスマホのようなものを受け取った。
 スイッチをオンヌすると周りの人達の声が普段よく聞くような日本語として聞こえるようになった。

「てゆうかさー、ありえなくね? あの女、オレっちに話し掛けれる顔じゃねーっての」

 やっぱ馬鹿にしてやがったあの兵士。
 すっぴん馬鹿にすんじゃねーよ。顔半分だけメイクして怖がらすぞ。

「ちなみにこっちの言ってることは相手にはわからないらしいから。それだけ気を付けてくれたまえ」
「わかりました。親切にありがとうございます」

 リーマンはそういうと繁華街へと消えていった。
 こんな昼間から飲みに行く気らしい。

 それより困った。
 どうやら今回はゲームの世界ではないのかな。
 それどころか、あたし以外の人がいるということは、パイナポーも関わっていない可能性があるうえ毎日殺人事件が起こる世界の犯人がいるらしい。

「元の世界に帰る方法を探さなきゃ。これって夢じゃないんだよね?」

 頬を抓ってみたら普通に痛い。
 やばい……これはOLトモカ始まって以来の最大のピンチかも知れない。

 とりあえず言葉が通じないならとイケメンにめちゃくちゃ文句を言いまくってから、あたしは情報を集めることにした。


***

 情報収集はまず酒場から。
 結局あたしもリーマンと同じ繁華街に来ざるを得なかった。

「らっしゃっせー」

 異世界でも店員の挨拶の仕方は現実と変わらないのか。
 お金は持っていないので、ひとまず酒場にいる人達の会話を聞いて情報を集めよう。

「ミミたんマジ天使」
「萌え萌えの萌ゆす」

 ぶりっ子魔女を挟んでブヒブヒ言っているオタっぽい奴らが居た。
 ミミたんという魔女は、きっと冒険サーの姫なんだろう。

「なんだ、君もここに来たのか」

 頭にネクタイを巻いて既に出来上がっているリーマンが現れた。
 目的はあんたとは全然違うけどな。

「ここはいいぞー。昼間から飲んでも誰にも咎められることは無い」
「それは良かったですね……」

 リーマンはボトル片手にグビグビと飲みながら器用に話していた。

「あたしはここに現実に帰るための手掛かりを探しに来たんです」
「現実に? なんで?」
「何でってそりゃ、こんな言葉も通じない世界に来たって……生活だってどうやっていいのか……」
「こんなに素晴らしい世界は無いぞー。ほら、見たまえ」

 そう言って空になったボトルを大きく振りかざし、リーマンは隣に居た女性の頭に叩きつけた。
 一瞬何が起こったのかわからず、声を上げることもできない中リーマンは続ける。

「こんな酷いこと、現実の世界じゃできないだろ……? この世界では何でもアリだ」

 遅れて響き渡る悲鳴。
 倒れた女性に更に割れた瓶の破片を突き刺し、やがて女性は動かなくなった。

「君も元の世界にストレスを感じていたんじゃないのかい?」

 違う……確かにストレスは感じていたけど、あたしはそんなことを望んでいるわけじゃない。

 逃げなきゃいけないってのに、人間って怖すぎると声を上げることも動くこともできなくなるのか。
 この状況で、妙に頭だけが冷静だ。

「この世界ならこんなことをしても逮捕されたりしないんだ。もちろん、このように」
「この狂人め!」
「歯向かってくる奴はいるが、皆現実世界の人間より弱い」

 リーマンはリーマンらしからぬ動きで掛かってきた大男のコブシを受け止め、そのまま壁へと叩きつけた。
 なんだこれ……いつもみたいにギャグじゃないの?

「君にだってこのくらいはできるはずだ。さあ、共にストレス解消といこうじゃないか」
「あたしは……そんなことしたくない」
「……無双だよ」
「え……?」
「ここは無双の世界。神が我々弱きもののために作った捌け口の世界だ」

 無双……また恋愛要素皆無のゲームじゃねーか!

「安月給でなにが悪い!」

 リーマンは己の捌け口をぶつけるように店の中で暴れ始めた。

「お父さんのお風呂の後で何が悪い! 洗濯物を一緒に洗って何が悪い!」

 それは……お気の毒ですけど、生物学上そうなるのが正常なことらしいですよ!?

 みるみる血だまりに沈んでいく異世界の人々。
 リーマンに立ち向かった守衛の人達もたちまち肉塊になって沈んでいく。

「こんなに大変な状況なのに……僕は歌うことしかできないのか……」

 詩人風の格好をした人がポツリと呟いた。
 いや、歌ってる場合じゃねーだろ。

「君も私のようになれると思っていたが……まだ抵抗があるようだね」
「そんなの当たり前……こんなの望んでないし、あたしは一刻も早く元の世界に帰りたい!」

 そう言うとリーマンは台所にあった包丁を手に取り、あたしへと近付いてきた。

「残念だ。この世界で私に逆らうものは皆コロスことにしているのでね……悪いが君にも消えてもらう」

 狂ってる。
 もう、このリーマンに人の心は残っていないんだろう。

 怖い……。
 こんなわけのわからない世界で死にたくない!
 誰か……誰か助けて!
 誰かこいつをやっつけて!

「そこまでだZE」

 不意にカウンターを飛び越えアロハシャツがリーマンに飛び掛かった。

「大丈夫KA! トモCA!」

 いつものヘタがビンビンに逆立って、パイナップルはあたしに叫んだ。

「怖かったNA……よく一人で耐えたZE。そして、遅れてすまん」
「パイナポー!」
「せっかく人が気分よく殺戮を楽しんでいたのに……よくも邪魔をしてくれたな!」
「それはこっちのセリフだZE! 自分だけ楽しんでいればいいものを、よくも私の大事なトモカを……巻き込んでくれたNA!!」

 え……?
 いま、パイナポー……なんて?
 それに、今の声は……?

「パイナPOーミサイル!」

 パイナポーはリーマンに向かってドロップキックを放ち、倒れた隙にあたしを抱えて酒場を飛び出した。

「あとは俺が全部片づけておくYO! お前は現実世界に帰るんだZE」
「パイナポー……さっき、あたしのこと大事って……?」
「……NU」
「逃がさん!!」
「しつこいヤツだZE!」

 リーマンは片手に何かキラキラ光るアイテムを握っていた。
 たぶん、足が速くなる系のアイテムだ。

 そして、鉈を持って飛び掛かり、寸でのところでかわしたパイナポーの自慢のヘタを切り落とした。

「……トモカは現実へと帰る。お前だけ、一生一人だけの世界で過ごしていけ」
「一人だけの世界だと? そんなことが、お前ごときにできるわけがない」
「俺一人では無理DA。だが、俺には強い味方がいる」

 パイナポーに強い味方?
 そして、いつもと違ってやたらとシリアスな空気についていけてないあたし。

「出ろぉおおおおお!! キャッサリィイイイインッ!!!!」
「ハ~~~~イッッ!!」
「いきなり何もないところからパツキン美女が現れたぁぁああああ!?」

 キャサリンを見て驚くリーマン。
 こんなの、あたしが今まで体験してきた世界じゃしょっちゅうよ。

「あなたはやりすぎたようね。パイナポーが珍しく本気で怒ってる」
「キャッシィ、すまないがこの世界の浄化を頼むZE」

 キャサリンだかキャッシィだかが手をかざすと、リーマンが壊したものや死んだ人達が元に戻っていく。

「これが……ミミたんの奇跡!?」

 ちげーYO!

「このパワーは……!? お前達、いったい何者だ!?」
「あなたが知る必要はないわ。さあ、次はあなたをあなただけの世界へと閉じ込めて差し上げましょう」
「やめろ……! そんなこと私は望んでいない!!」
「手遅れだZE」

 空間に亀裂が入り、リーマンの体が徐々に吸い込まれていく。

「やめろやめろやめろぉおおおお!! まだ……私は……!!」

 そして、響いていた声が遠ざかり、空間は完全に閉じられてしまった。
 まるで何事も無かったかのように、町が平穏を取り戻していく。


***

「パイナポー、ありがとう」
「お前が無事で何よりだZE」
「ん……」

 いつもと違う雰囲気に、なかなか言葉が続けられない。
 あの時、パイナポーはあたしに言った。
 『私の大事なトモカ』っていつもと違う声で。

「お前は昔から悪夢を見やすいからNa……」
「もしかして、パイナポーって……」

 ふと、パイナポーから懐かしい香りがしたような気がする。
 そう……なんとなくわかったよ。
 あたしが怖い夢を見ないようにと、いつも心配してくれていたんだね。


「さてTO、俺達もそろそろ帰るZEキャッシィ」
「久しぶりにがんばったから疲れちゃったわ」
「あたしも元の世界に帰らなきゃね。そうだ、どうせなら次こそはあたしの望むゲームの世界に転移させてよ」
「駄目DA! お前の望むのはイケメンばかりの逆ハーレムじゃねーかYO!」
「やっぱお前があたしの夢を阻止してやがったのかYOーーーッ!!」

 喧嘩をしているあたし達を見てほほ笑むキャサリン。
 こうしていると、さっきあんな凄いことをやった人には見えないね。

「また……会えるよね?」
「夢の中ならNa」
「お母さんに、あの世でパツキン美女とヨロシクやってること言ってもいい?」
「NA……NANA……ッ!? NANIを言ってるんだZeッ!?」
「冗談、パイナポーはパイナポーだもんね。でも、ちょっとだけ……ちょっとだけでいいから抱き着いてもいいかな?」

 あたしがそう言うと、パイナポーは黙って腕を広げてくれた。
 



「……最期……間に合わなくてごめんね……」
「大丈夫DA……」


「……お参りもあまり行けてなくてごめんね……」
「気にするNA……」


「……いっぱい嫌いって何度も言っちゃってごめんね……そんなこと無かったのに……」
「……私は、お前が元気でいてくれることが何より一番だよ」




 パイナポーのその言葉に思わず顔を上げると、だんだんと視界がぼやけていく。
 ああ、現実世界に帰るんだ。



 今日のこの世界でのこと、あたし、忘れないよ。
 そして、絶対パイナポーの反対を押し切ってでも次こそハーレムの世界の夢を見るよ。

 またね、あたしの大好きな────




******

****

**





 気が付くと、いつも通りの部屋、いつも通りのベッドの中だった。
 夢見は最悪だったけど、目が覚めた今はなんだかつかえていたものが取れたような気がする。

 さて、せっかくの休みだけど、久しぶりに実家に顔を出そうかな。
 お母さんへの報告も色々とあるしね。

 あたしは、まだこの世界でがんばれる。
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