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Queen of Mermaid
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しおりを挟む揺らめく赤いもの。それは轟々と唸り、天井をも赤く染め上げた。
視界の角度から察するに、横たわっていると理解した少女は、虚ろな瞳で唇を動かす。
「どこ」
「どこ」
「お母さん、お父さん」
「どこ」
「私の家族は」
「ドコ」
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「続いてのニュースです。昨夜未明、吉祥寺駅近くで火災が発生しました。出火は木造二階建ての一軒家だと見られ、隣接する倉庫に延焼していましたが、数時間後には消し止められました。また、その家に住んでいたと思われる、暁月夫妻とその娘、波さん(14)だと見られる遺体が現場で発見されました―――·········」
アナウンサーから発せられるそのニュースを、暗い部屋の中で見る。画面上に弾幕の如き流れる字幕を目で追いながら、お茶を一口飲んだ少女は細い息を吐いた。
目の下にはクマがあり、猫耳付きフードの黒いワンピースを羽織った姿はさながら引きこもりだ。
「こーんにーちわー」
扉を開けて人が入ってくる。
視界が明るくなって、少女は視線を後ろに向けた。虚ろな瞳から発せられる光は僅かで、入ってきた人ーー青年は顔を強ばらせる。
「何、みてたの?」
取り繕った笑みだと理解できるほどに、下手な笑顔を見せた青年は、硬直した。
テレビでは、未だ火災のニュースが放送され、周辺の人の情報やらが言われている。
「また、見てたんだね」
言うと同時にレコーダーを確認すると、録画放映中のサインがある。つまり今流れているのは録画だ。
時刻は現在と合致していないし、画面の端にある月日は一ヶ月以上前のもの。
コクリと首を縦に動かし、少女は青年に飛びついた。
その顔に笑みは無いものの、多少柔らかくなっている。その変化は、初対面の人では分かりづらいだろう。
その頭を撫でてやりながら、青年は少女に、顔をこちらに向けるよう示唆し、問う。
「まだ、傷が、痛む?」
少女は首を横に振る。
「まだ、家族が、恋しい?」
少女は、先ほどより勢いを落として首を横に振る。
「俺と、いるのは、嫌?」
少女は首を勢いよく横に振った。
首だけの返答では分かりづらいと思ったが、そのレパートリーは多いらしく、イエスorノー以外の答えも伝わった。
「そっか。じゃあ、夕飯に、しようか」
少女は首を縦に振り、レコーダーを止めるべくテレビの前に戻る。
やることを終えて、キッチンに行った青年の後を追いかけるように、少女も向かう。
ワンピースの長袖を捲り上げ、エプロンをつけると、青年と共に包丁を握る。
手際よく材料を切り、青年が用意したフライパンの中に入れる。二人もキッチンに入れば狭いと思っていたが、案外そうでもないようだ。
手馴れた感じで夕食を作ること二十分。
食卓に乗った食事はどれもいい匂いを漂わせている。
「いただきます」
青年の声が部屋に響くと、少女もそれにつられて手を合わせる。
食後は寝る準備を整え、二人でテレビを見るだけだった。だが、青年の表情は曇っている。
青年に身を預けるように前に座っている少女は、青年の顔を見上げると、その頬を抓った。
「痛っ、ちょっ、なにひゅるのー」
構わず抓る少女は少し眉間にシワを寄せたような顔をしている。
「んー。暗かったぁー?」
コクコクと表情を変えないまま頷く少女の怒りはまだ収まっていないようだ。
「ごめんね。不安に、させちゃったね」
よしよし、と頭を撫でると、眉間のシワが消える。
「さて、寝ますか」
青年は少女を抱え、ベッドのある別室に向かう。
寝間着で一日を過ごす少女は着替える必要もなく、青年の着替える様にも興味は無いので、首元まで毛布にくるみ、寝る体勢をとる。
深夜。青年は熟睡し、月が高く昇る時。
少女はおもむろに身を起こした。目の下にクマはない。
「あ、あー」
長らく声を出していなかったので、喉の具合を見てみる。
今日初めて声を発した。
「さてと。·········ごめんなさい、おにいさん」
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