聖夜のイタズラ

結愛

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お出まし

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 東京のクリスマスは、イブであっても壮大なものだった。賑やかさはいつもの倍、特にカップルをよく見かける。ハロウィンと違って、それが集中していたのはイルミネーションの多い街路であった。



 ――そういう場所こそ、悪事は陰で行われている。



「きゃっ、やめっ·······!」
「おいおい、お姉ちゃんよォ。一緒に遊ぼうやァ」

 街路の路地裏。夜になれば特に暗くなるそこは、街路が光り輝くことで、より闇を深めていた。犯罪が起きるには、もってこいの場所である。しかも、月が雲に隠れ、光は差さない。

 今まさに、女性が一人、連れ込まれようとしていた。

(なっ、なんで·······!    友達待ってるのに!)

 彼女は佐藤美咲。今年、二十歳を迎え、来年には成人式を控えている。丁度今、気持ちが浮かれているところだった。大学でできた友達と、今日はクリスマスを過ごす予定であった。

 女の細い力では、男二人に到底かなわない。抵抗も虚しく、軽々と路地裏の奥へと入り込んでしまった。

 不運にも、この路地裏は行き止まりで、逃げ道は男二人に塞がれてしまっている。逃げる余地など、ない。

 脳は危機を訴え、嫌な程にこれから起こりうる全てのことが、脳内で描かれる。そのどれもが最悪だ。

 瞳は潤み始めたものの、あまりの恐怖にその雫が落ちることは無い。

 迫り来る男。その目は欲情に駆られた獣そのものだ。唇を舌で舐め回す音。ジリジリと近づく足音。口から漏れ出る嗤い声。

 視界が、聴覚が、逃げろと訴える。いつのまにか体内から早鐘が聞こえ、掠れた声が口から出たのを聞いた。

「た、助け·······」
「だぁめだよ。そんなことしちゃあ」

 突如、男達の背中越しに声が聞こえる。男達と同じような、なまめかしく、恐怖を引き出されるものだったが、本質は違った。彼女を襲うようなものではない。故に、なぜだか心は落ち着いた。
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