4 / 8
お出まし
しおりを挟む東京のクリスマスは、イブであっても壮大なものだった。賑やかさはいつもの倍、特にカップルをよく見かける。ハロウィンと違って、それが集中していたのはイルミネーションの多い街路であった。
――そういう場所こそ、悪事は陰で行われている。
「きゃっ、やめっ·······!」
「おいおい、お姉ちゃんよォ。一緒に遊ぼうやァ」
街路の路地裏。夜になれば特に暗くなるそこは、街路が光り輝くことで、より闇を深めていた。犯罪が起きるには、もってこいの場所である。しかも、月が雲に隠れ、光は差さない。
今まさに、女性が一人、連れ込まれようとしていた。
(なっ、なんで·······! 友達待ってるのに!)
彼女は佐藤美咲。今年、二十歳を迎え、来年には成人式を控えている。丁度今、気持ちが浮かれているところだった。大学でできた友達と、今日はクリスマスを過ごす予定であった。
女の細い力では、男二人に到底かなわない。抵抗も虚しく、軽々と路地裏の奥へと入り込んでしまった。
不運にも、この路地裏は行き止まりで、逃げ道は男二人に塞がれてしまっている。逃げる余地など、ない。
脳は危機を訴え、嫌な程にこれから起こりうる全てのことが、脳内で描かれる。そのどれもが最悪だ。
瞳は潤み始めたものの、あまりの恐怖にその雫が落ちることは無い。
迫り来る男。その目は欲情に駆られた獣そのものだ。唇を舌で舐め回す音。ジリジリと近づく足音。口から漏れ出る嗤い声。
視界が、聴覚が、逃げろと訴える。いつのまにか体内から早鐘が聞こえ、掠れた声が口から出たのを聞いた。
「た、助け·······」
「だぁめだよ。そんなことしちゃあ」
突如、男達の背中越しに声が聞こえる。男達と同じような、艶めかしく、恐怖を引き出されるものだったが、本質は違った。彼女を襲うようなものではない。故に、なぜだか心は落ち着いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる