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第二章 ~闇の少女~
しおりを挟む初歩的な攻撃。完全に見切れる速さの攻撃だ。
基本中の基本の剣術を受け流しながら、どうするべきかと思考を回す。
細剣での突きを華麗に躱してはダーインスレイヴで斬りにかかる。だが、あえなく防がれる。
弱い攻撃だが、なかなかに隙がない。一応は手練であるということか。面倒な相手である。
「ほんと、君たちはしつこいよ」
その腹を蹴り飛ばす。
その本人は、尖った耳、口から出ている牙。
伝承にあるとおりの吸血鬼である。
なぜかと千夜とその仲間は観戦している。手伝ってほしいものだ。
本人たちはライラが本当に人間を敵としてみていないかを確認するためらしい。人間を敵とみていないが、だからといって同胞を殺すのも気が引ける。
まあ、ライラとしては殺されかけた身であるため殺す気でいる。
ついさっき、この吸血鬼に襲われた。単身で来るとは思わなかったが、関係ない。ライラはいまや裏切り者扱いになっているからだろう。詳しいことはライラも知らないが。
「あぁ、もう飽きた」
しつこい吸血鬼に力任せでダーインスレイヴを振るう。
ざっくりと、感覚が剣越しに伝わる。
カチリと、ライラの中でなにかの針が進んだ。
「同族殺しのあだ名がつくな、これ」
吐き捨てるようにして吐露する。顔についた返り血を手の甲で拭い、ふぅ、と息をついた。
一回伸びをし、再度ため息をつく。それなりに、疲れた。特に精神的だろうか。
「なにしてるんだろ」
興味とともに千夜の方を向く。
今でも呑気に石に座っている千夜を見ると、ますます呆れてくる。これが他種族を圧倒している人間だと言うのだろうか。過度な注意ではだめだが、逆に過度な油断もならない。特に、まだ信用していない者へは信頼を置いてはならない。
強く地面を踏み、歩み寄る。それでもまだ仲間と話している。気配には気付いているはずなのに、全く警戒はしていなかった。
ー―私を捕まえる云々はどうしたんだよ。
「あぁ?」
千夜の前で仁王立ちすると、不機嫌そうな声が発せられる。しかし、また話し始める。ここまでスルーされると、何を話しているか気になる。だが、それはまた色々な専門用語だったため、理解できない。
「無視をするな」
はたまた無視されそうだったので、制止を求める。そうすると、やっと全員の意識がこちらに向いた。
「で、私を捕獲なんやらはどうする? このまま停戦もありだけど?」
「断る」
停戦を要求しても、即答された。
それほどの事情があるのか、ライラもさっぱり分からず、ダーインスレイヴを握り直す。。
さきほどギリギリのところで血を浴びなかったために、鞘には収められずじまいで少し困り果てている。
「じゃあ、望むままに殺ってやろうか?」
―ー勘違いではないだろうか。
「い、いや。そんなこと望んでないし。勘違いにも程がある」
慌てて否定するが、時すでに遅し。
千夜とその仲間は手元の武器を構えて襲いかかってきた。さきほどの吸血鬼といい、この千夜といい、なぜにライラを狙うのだろうか。
それが分かるようになるのはまた後々のことだろう。
「ダーインスレイヴ形態、エクスタンドウィッド」
剣は燃え盛る炎を纏い、陽炎を立ち昇らせる。持っているライラでさえも火傷を負うか恐ろしくなるほどだ。
「描きたまえ、フランマ・ラーミナ」
剣を円を描くようにして振る。空に描いた円のところから炎の刃が放たれる。
その刃を千夜は全て切り落とす。
これで千夜は体勢を崩し、隙だらけだ。そこに、低姿勢で打ち込む。だが千夜の仲間は千夜を庇うようにして前に出る。
そのままライラを倒そうとするがー―
「甘いわッッ!!」
覇気のこもった発声とともに吹く強風。
千夜の仲間の体は容易に吹き飛ぶ。
「吹け、アニベントゥス」
更に攻めようとするのを、風を吹かせて妨害する。追撃で一太刀、一太刀と放つ。
更に。
死角から銃弾が放たれた。どこからなど考えるよりも先に体を向く。
その銃弾は炎の鳥を具現化し、咆哮をあげながらライラのほうに羽ばたく。燃え盛る炎は確実に鳥の形を形成していた。
「フェニックス······?」
まさか伝承の鳥が顕現されるとは思わなかった。
魔神としても君臨するフェニックスだが、不死鳥であり、しかも炎を司る。それも、浄化の炎だ。色によって性質は異なるが、どれにせよ、吸血鬼には天敵と言える。
「あ、ヤバッ······!」
つい驚いてしまい、止まってしまった。
ダーインスレイヴを元の形態に戻し、盾がわりにかざす。
「ダイアモンドダストッ」
細氷が、フェニックスを襲う。細かくとも、雨のように降り注ぐため、回避はできない。
それでも炎は消えず、突っ込んでくる。痛くも痒くもないように、嘶きをあげる。衝撃を覚悟し、ギュッと柄を握る。
しかし、想像していた衝撃は来なかった。その代わりに――
「あ、」
ガシャリ、と盛大になにかが落ちる音がした。目を開けてみると、檻に閉じ込められてしまっていた。檻から見える空に、ヘリコプターが飛んでいた。
まさかのまさかでここで援軍。
少しばかり、衝撃を期待していたが、想像よりもはるかに魔神は弱者に成り果てていたようだ。
人間が召喚したのだから、それはもちろんそうなのだが。ライラの勘では、神霊の気配がした。ほんのちょっとだけ、力が残っていたのかもしれない。
どうりで、
「打ち落とせないかー········」
苦笑混じりに吐き捨てる。
しかも、人間の心さえ折れなかった。どうやら、ライラ自身も弱くなってしまったようだ。嬉しいのか、悲しいのか。今のライラでは到底分からない。
ダーインスレイヴで、自分の手首を浅く斬る。出てきた血を、ダーインスレイヴに当てて、血を浴びせた。
「我の血を吸え、カース·カルバリズム」
これで、ダーインスレイヴは、鞘に戻せる。鞘に戻すと、ちらりと、千夜のほうをみる。その背中に、昔の知人を描いてしまうのは、恋しいからなのか。
人間は、前よりも強くなったのだろう。
「数十年前までひよっこだったのになぁ」
ぼそりと呟く。
その呟きに、檻にもたれかかっていた千夜は反応する。
「数十年前······?」
どうやら、ライラの容姿からは想像出来ないらしい。ピンとこないように疑問の表情を浮かべた。
「私はこれでも十数万年生きた強者だぞ?」
軽薄な笑いをしながら自慢げに小さい胸を張る。このように可愛い姿からは想像出来ないような年齢には、触れない方がいいのかもしれない。
「てか、お前は何年に生まれたんだ?」
興味本位で頭だけで振り返る千夜。
ライラは少しムッとしながらあぐらをかく。
「そういうことを聞くのは男としてどうかと思うのだが」
女としてのプライドはまだ持っている。
とはいえ、現代に追いつくのは、適応性が高いためライラにとっては朝飯前だ。
嫌そうな顔をしたが、しっかり答える。
「んー。何年かな。そもそも別の星で生まれたし。地球は生まれてただろうけどいつかは分かんない。なんせ、時代のようなものがなかったから」
「別の星?」
ライラの言葉に反応し、オウム返しをする千夜。食いつく千夜に、少々ガッカリする。
「その星は今どこに?」
なにか別のことを考えていそうでライラは顔をしかめる。
「言っておくが、お前らの技術だと、その星まで行けないから。あと、もうその星、壊されてるから」
千夜が驚いたように目を見開く。
星が壊されるということは、その星に住む人々も死ぬということ。
ライラの”壊された”は、消えたということでもある。もしそうなら、かなりの問題だ。
生命ごと消えたなら、はてどこにいったのか。そんなことを知る人はなかなかいない。
いたとしても恐怖で逃げてしまう。その人は、星が壊される直前に逃げたということだからだ。
「もうどこにあるかなんて分からない。とうの昔に消えたから。十万年も前のこと。覚えていても、思い出したくない代物だと思う」
呆れながら肩を竦める。
千夜もそうか、などと相槌を打ち、会話は終了。そろそろライラは運ばれるだろう。捕まった以上、抵抗する意味などない。そもそも、ライラには別の目的があった。
「お出かけの時間?」
笑いを少々含みながら、お遊びのように言う。
人間のアジト、というのも悪くない。容姿からなのか、なぜかと楽しみでならない。ライラのアジトは簡素すぎてセンスがなさすぎる。これでもコーデには興味があるライラにとってつまらなくてしかたない。
密かな楽しみを味わえるというのはなにやら顔が緩んでしまう。目をキラキラとさせていたライラだったが、乗り物を見てその気分は急降下した。
「って、トラックなのか。もう少しコンテナとかない?」
不満げに千夜の方を向く。
千夜は呆れつつため息をつく。
「しょうがねぇだろ。吸血鬼が来るかも知んねぇんだから、人質だ」
あっさり人質と言われ、またまた不満の1つ言いたくなる。そもそも、人質の役割すら果たせるのか、裏切り者となった今では分からない。紫外線に弱い吸血鬼だ。それなりに痛い。精神的にも。
「なんか、売られてくモンスターの気分ナンデスケド」
片言で千夜に訴えてみるが、千夜はもう他人のフリをし、ライラの言葉など耳に受け付けない。
ライラは助けの綱を掴み損ねたように項垂れる。八割ほど演技なのだが、それは嘘には見えない。
「なんでこんなことに」
一人で悔やみながら、違和感に気づく。いきなり閉鎖空間が訪れたような感覚だ。
立ち上がって、ぐるりと周囲を見てみると、やはり違和感がある。
「どうした?」
千夜はライラの不可解な行動に問いを投げかける。
ライラは、千夜の問いに答えるように立ち上がった。その双眸からは警告の色が浮かび上がっていた。異様な変化に千夜も警戒を始める。
「戦闘準備、しときなよ」
「は?」
千夜は訳が分からず疑問の声を上げる。
ライラは、ジーッと後方を見る。その目の先は地上だ。ほんの僅か、不自然に瓦礫が動く。
その違和感は突然、形を模した。後方全体に広がっていた違和感が収縮していく。
「来た。吸血鬼が······来る」
なに? とライラの言葉に耳を疑う。どよめきが起こる。ライラを中心としてどよめきは伝播した。
今すぐにでも戦闘準備しておかないと、襲撃を受けるのに、おろおろとしている。その鈍さからあの強さは垣間見えない。
まるで吸血鬼など見えていないかのように。
「え、見えていない······?」
「俺にはさっぱり見えんぞ。ほんとに吸血鬼なんているのか?」
千夜は、不思議そうな顔で辺りをみる。その目に吸血鬼はうつっていない。
(あいつら、不可視をつかってるのか?)
吸血鬼が未だ強いのはそういう技術の先端にいるからであろう。ほとんどの種族から受け継いだらしい様々な技術は人間を抑制するのに大半使われている。これもそのうちの一つであることには間違いない。
ライラしか戦えないが、この状況下でド派手にすることもできない。そこらへんの手加減はライラの不得意分野だ。
そのときの太陽は、ライラの力を弱めるかのように爛々と輝いていた。
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