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第三章 ~裏切り者の吸血鬼~
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果てしなく広がる青空。爛々と煌めく日光が降り注ぐ。
その下で、ライラは”不可視”の敵との対策を考えていた。それはどうも苦戦状態だ。相手はまだ攻撃をしてこないものの、それは時間の問題。そうこうしている間を狙ってくるだろう。
みえないのなら、戦えない。もはや、見えているライラしか戦えない。逃れることのない、同胞殺しだ。
諦めたようにため息をつき、千夜に近寄る。足取りは重いものの、やるしかないという義務感に駆り立てられた。
「弓はない? ちょっと試しで打ってみる」
「武器の所望か? お前に渡したら逃げるだろうが」
露骨に嫌そうな顔をして、断られる。それもそうなのだが、そうは言っていられない。死の予兆もないときほど大変なのはこれで実施された。
息を一つつき、千夜の目を見つめ返す。
「逃げない。君も近くにいれば?」
早くしなければ、この場の全員が死ぬかもしれない。煽り気味に、言ってみると、千夜は息をこぼした。
「分かった。ほらよ」
ライラのしつこさに観念したのか、弓を投げてくる。
この弓はおそらく、さきほど使われていたフェニックスの弓だろう。手を近付けると、拒否反応なのか、バチッと痛みと共に閃光が迸る。
だが、それをなかったことのように無視して掴み、矢をセットする。
「確かに受け取った。では、手始めにー―」
弓を引く。少女の見た目からは想像できないところまで引き、目標を定めた。
そして放つ。檻に向けて。
「ちょっ、おま、なにして、」
「撃ちにくくなるから壊しただけだが」
ぐにゃりと曲がり壊れた檻から一歩出て、更に構える。
「」
すると、弓が炎に包まれ、それがライラの全身を覆った。唖然としている間に、それは変化を遂げる。消えていく炎の下から衣服が姿を見せた。
比喩にあらず、フェニックスの宿った弓が、戦闘服を仕立てあげた。
「フェニックスにそんな力が······!」
「これぐらい、どうってことない。これは魔神フェニックスの血が混ざっているようだね。神格もあるし、使いこなせばそれなりには強い」
驚く千夜に得意げに胸を張る。こうも驚かれると、もっと話してやりたいところだが、喉元で下し、戦闘に集中した。
ライラは赤を貴重とした服を翻し、髪を手で払う。この荒れた戦場にて、ここまで優雅に戦えるのは彼女くらいであろう。それもまた、彼女の持つ力あってこそのものだが。
「穿ちたまえ、放ちたまえ。万物を貫く魔神よ、その力を我に示したまえよ」
弓をキリリリと鳴るまで思いっきり引く。ライラでさえも視覚で捉えていない的。感覚を研ぎ澄まし、視えたところを見据える。
「イグニファストゥス」
技名を呟き、矢が軌跡を描いて放たれる。キュィイイイン!! と高い音を出し、青白い炎を纏った矢は、グサリとなにかに刺さる。
やがて、なにかは、刺さった矢で燃え上がり、姿を現す。不可視にしていたのはマントのようだった。特徴をみれば、やはり、ライラの言ったとおりの吸血鬼とみえる。
「ほら、言った。吸血鬼だって」
などと、子どものように吸血鬼を指差し、あれをみろと言わんばかりに真顔で抗議の声をあげる。抗議をされた側は、その言葉に反論するよりも、吸血鬼の出現に焦燥感を抱いていた。
「お前は子どもかよ······。下がってろ、こっからは俺がする」
取り乱していなかった千夜は鞘から刀を取り出し、一振りする。
吸血鬼は炎に焼かれながらもその攻撃を回避し、トラックの上の千夜を狙ってくる。
「下がってるわけないでしょう」
弓を引き、援護とばかりに放つ。迎え撃つつもりでいた千夜は出鼻をくじかれた様子で戦意を半ば喪失させかけていた。
千夜はライラを一瞥するのに対し、ライラは微笑みで返す。
「はっ。勝手にしろ。来るぞ!」
千夜は吸血鬼に向き直り、トラックから降りる。それを見届けたライラはフェニックスの持ち主、珍しい灰色の髪を持った青眼の男性の方を向く。
敵意を向けられるのかと思ったらしいその男は、格闘での臨戦態勢に入ろうとしていた。
顔の前で両手を振りながら誤解を解く。
「ああ、違うから。ちょっと、ついてきてくれる? 監視役に頼みたい」
「わかったよ。あ、でも逃げるなよ?」
「逃げないから。ついでにこの使い方も教えるから。じゃ、行こっか。とりあえずあそこのビルまで。競争ね、よーいドン」
「え? え?」
ライラはそう言い残すと、動いているトラックから、ビルの方まで跳躍した。トラックのほうにはクレーターの一つもない。助走なしの、それもあまり力を込めていないはずの脚力で、消えるように空へ飛び出した。
四階建てくらいのビルの高さを疑うぐらいの跳躍だ。
たった1回の跳躍で、四階建てのビルをあっという間に越え、落ちる勢いを殺しながら屋上へ着地する。
「おーい。遅いぞ」
とんでもない跳躍力に、唖然とする一同。呼吸すら出来ていなかった。これを相手にしようとしていたのだから、本気であれば命はなかっただろう。本当に運が良かったと言える。
当のライラは当たり前とでも言うようにトラックへと手を振って呼んでいる。人間を卑下しているわけでないが、時間はとても大切にしておきたかった。
数分後。ライラは不満げに目を細め、愚痴を一つこぼした。
「おっそい」
「君が早すぎなんだよ」
呆れられたライラは可愛らしく頬を膨らます。
「で、君の名前は?」
「え?」
突然の問いに理解が追いつかない。吸血鬼と仲良くするなんてことは一切ないため、新鮮な感覚だ。
「えっと、僕は七瀬駿。よろしく、ライラ」
「私はライラ・イラ・コード。よろしく。というわけだから、レクチャーといこうか」
どんどん話が進むなか、地上では千夜が戦っていた。
それほど苦労する相手ではないと思ったのだが、的外れの大ハズレ。かなりの強者だ。ライラが放った矢もいつの間にか抜き、こちらへ飛ばしてくる。
「そりゃ、ライラが駿に技を教える余裕があるわけか」
少し手間取っているが、なるべく駿が試しうちをするまでは倒せない。
手加減しつつも、その隙に入ってくる吸血鬼にイライラを感じるのも致し方ない結果だろう。
「あとでライラをしばくか」
物騒なことを考えながら、千夜は守りに徹した。
「今、千夜が凄いこと考えたような気がする」
クシュンと可愛らしく、くしゃみをしながら、駿にやりかたを教える。
「フェニックスは存在が存在なために、悪行には断じて参加しない。むしろ、退治する側だ。君も気をつけなよ」
にやけつつライラは駿に意地悪く言ってみると、駿は苦笑交じりに反論した。
「それはさすがにないな。そもそもそんなことしてる暇なんてないし」
それもそうか、とライラは相槌を打つ。
「にしても、存在が存在ってどういうこと?」
「フェニックスを従えるのになんでそれくらい知らないの? アホ? ただのアホ?」
侮辱と呆れが交じった声音で言ってみると、駿は受け流すかのように軽薄な笑いをした。内心では愚痴っていること確定だろう。
「フェニックスは、魔神とも言われている。最も、神に昇格したのは真実。神のほうでもそこそこ有名。それに不死鳥でもあるから。善悪どちらか選ぶのは言わなくとも分かるでしょ」
弓を駿に手渡し、駿の弓を持っていない方の手に自分の掌を乗せる。
「これはただの術式共有。君が術を唱えなくとも、私が唱えれば発動する。しばらくじっとしてて」
ライラは、こういうことをするのが初めてなのか、顔を俯かせた。顔色は伺えないが、察することは容易だ。
駿はその意外性に吹き出しそうになるのを堪える。
「じゃあ、術式を唱える。集中してなよ。自然と覚えるはず」
ライラはゆっくり目を閉じ、囁きかけるように唱えはじめる。
〈あらゆる炎を纏いし、不死鳥よ。我、イラの願いに命じ汝、馳せ参じたまえよ〉
にわかに駿とライラの手が重なるところが光る。
その様子に見とれながら、駿の気持ちはたかぶっていく。いままでなかったような感覚が全身を駆け巡る。
「力が溢れてくる……!」
体の奥底から込み上げてくるたかぶりに、思わず心を躍らされる。
一方で、ライラは苦悶に歪んだような顔色だ。それは、吸血鬼であるからなのか、それとも別の意味があるのか。いまいち駿には分からなかった。
「私に逆らうとは上等だ」
強気になっているのか、言葉がだんだんと恐ろしいものになっていく。
「ら、ライラ?? 独り言で怖いんだけど」
駿は気にかけるが、ライラはそんなことは聞かず、1人でブツブツなにかいっている。
処置は施せないと判断したのか、駿は放っておくことにした。
「よし、終わった。ん? どうした?」
少し引き気味の駿を見るなり、ライラは首をかしげる。
どうやら気付いていないらしい。
「なんでもない」
駿は何気に嫌な予感がしたため、あえて言わなかった。
その曖昧さにライラは疑問に思いつつも、話し始める。
「心に浮かぶ言葉に従って唱えて。そうすれば、フェニックスは答えるはず」
駿の胸を軽く叩き、微笑みを浮かべる。こうも親切にしてくれるのだから、駿は少々敵だということを忘れかけていた。
「心の言葉……ね」
意味深にもう一度言う。
駿にとって、なにか引っかかるものがあるのだろう。
ライラはフム、と頷き、地上で闘っている千夜のほうをむく。その苦戦を見るやいなや、笑い声を漏らしたのは神のみぞ知ることだろう。
「では、実戦いってみようか」
ライラの合図とともに、駿が唱えはじめる。
「魔神、フェニックスよ。我が望みにこたえ、我に従えよ! イグニース・ソレイユ!」
駿の服が、瞬く間に赤を基調とした服に変わる。
紅蓮の炎を纏った弓は、みるみるうちに、形作っていく。
出来上がったのは、艶びやかな本体に、炎を表す飾りがつけられた弓。さきほどライラが展開したものと異なるが、それはフェニックスの意思によるものだろう。
一目見るだけで、良い代物だと伺える。
「ルフス・イグニース!!」
高い音を出し、吸血鬼に向かって急降下する。
避ける間もなく吸血鬼に刺さり、燃え盛る。その矢を抜くことはできない。炎は息をも許さぬように瞬く間に燃え広がる。
吸血鬼は灰となり風に乗って消えた。
「うむ。良い矢」
一直線に飛ぶ矢を見るなり、ライラは頷く。
予想通り、と言ったように縁に一歩だし、千夜をみる。
千夜は少し不機嫌そうだった。そんな千夜に対してブイ、と駿はVの字をつくる。
「ね? フェニックスは強いでしょ」
ドヤッとしたように駿に振り向くライラ。自分が加担したこともあり、こちらはこちらで嬉しそうだ。
駿は、満足気な表情で炎とともに消える服と弓に、見入っていた。
「さて、じゃあ戻るか。駿はさっきので少し疲れたろ。私が連れてってやる」
よっこいしょ、と駿を担ぎ上げ、トラックのほうをみる。
そこにはすでに千夜が戻り、ライラたちを待っているようだった。
「んじゃ、しっかり捕まっときなよ」
もう一度しっかり担ぎ直すと、ライラは返事を待たず跳躍した。
「え? ちょっ、まっ――」
駿の静止の声も聞き届け、そのまま急降下。
四階建てビルから落ち、あっという間に地上に近づく。
着地するだけで地面は抉れ、崩壊する。下は空洞ではなかったので瓦解は免れたが、大幅なクレーターが発生した。
「派手な着地だな」
「それは言えてる」
足元の惨状を見ながら、トラックに飛び乗る。自分から入っている異常さは目に見えているが、誰も突っ込む気にはならなかった。
駿を肩から下ろし、壊れた檻の中にはいる。
「つかれた」
ゴロンと横になり、目を閉じる。すぐ睡魔はやってきた。寝ていることを襲撃されることもありそうではあるが、ひとまずそんな不安はよそに置いておく。
そして、ライラは眠りについた。
その下で、ライラは”不可視”の敵との対策を考えていた。それはどうも苦戦状態だ。相手はまだ攻撃をしてこないものの、それは時間の問題。そうこうしている間を狙ってくるだろう。
みえないのなら、戦えない。もはや、見えているライラしか戦えない。逃れることのない、同胞殺しだ。
諦めたようにため息をつき、千夜に近寄る。足取りは重いものの、やるしかないという義務感に駆り立てられた。
「弓はない? ちょっと試しで打ってみる」
「武器の所望か? お前に渡したら逃げるだろうが」
露骨に嫌そうな顔をして、断られる。それもそうなのだが、そうは言っていられない。死の予兆もないときほど大変なのはこれで実施された。
息を一つつき、千夜の目を見つめ返す。
「逃げない。君も近くにいれば?」
早くしなければ、この場の全員が死ぬかもしれない。煽り気味に、言ってみると、千夜は息をこぼした。
「分かった。ほらよ」
ライラのしつこさに観念したのか、弓を投げてくる。
この弓はおそらく、さきほど使われていたフェニックスの弓だろう。手を近付けると、拒否反応なのか、バチッと痛みと共に閃光が迸る。
だが、それをなかったことのように無視して掴み、矢をセットする。
「確かに受け取った。では、手始めにー―」
弓を引く。少女の見た目からは想像できないところまで引き、目標を定めた。
そして放つ。檻に向けて。
「ちょっ、おま、なにして、」
「撃ちにくくなるから壊しただけだが」
ぐにゃりと曲がり壊れた檻から一歩出て、更に構える。
「」
すると、弓が炎に包まれ、それがライラの全身を覆った。唖然としている間に、それは変化を遂げる。消えていく炎の下から衣服が姿を見せた。
比喩にあらず、フェニックスの宿った弓が、戦闘服を仕立てあげた。
「フェニックスにそんな力が······!」
「これぐらい、どうってことない。これは魔神フェニックスの血が混ざっているようだね。神格もあるし、使いこなせばそれなりには強い」
驚く千夜に得意げに胸を張る。こうも驚かれると、もっと話してやりたいところだが、喉元で下し、戦闘に集中した。
ライラは赤を貴重とした服を翻し、髪を手で払う。この荒れた戦場にて、ここまで優雅に戦えるのは彼女くらいであろう。それもまた、彼女の持つ力あってこそのものだが。
「穿ちたまえ、放ちたまえ。万物を貫く魔神よ、その力を我に示したまえよ」
弓をキリリリと鳴るまで思いっきり引く。ライラでさえも視覚で捉えていない的。感覚を研ぎ澄まし、視えたところを見据える。
「イグニファストゥス」
技名を呟き、矢が軌跡を描いて放たれる。キュィイイイン!! と高い音を出し、青白い炎を纏った矢は、グサリとなにかに刺さる。
やがて、なにかは、刺さった矢で燃え上がり、姿を現す。不可視にしていたのはマントのようだった。特徴をみれば、やはり、ライラの言ったとおりの吸血鬼とみえる。
「ほら、言った。吸血鬼だって」
などと、子どものように吸血鬼を指差し、あれをみろと言わんばかりに真顔で抗議の声をあげる。抗議をされた側は、その言葉に反論するよりも、吸血鬼の出現に焦燥感を抱いていた。
「お前は子どもかよ······。下がってろ、こっからは俺がする」
取り乱していなかった千夜は鞘から刀を取り出し、一振りする。
吸血鬼は炎に焼かれながらもその攻撃を回避し、トラックの上の千夜を狙ってくる。
「下がってるわけないでしょう」
弓を引き、援護とばかりに放つ。迎え撃つつもりでいた千夜は出鼻をくじかれた様子で戦意を半ば喪失させかけていた。
千夜はライラを一瞥するのに対し、ライラは微笑みで返す。
「はっ。勝手にしろ。来るぞ!」
千夜は吸血鬼に向き直り、トラックから降りる。それを見届けたライラはフェニックスの持ち主、珍しい灰色の髪を持った青眼の男性の方を向く。
敵意を向けられるのかと思ったらしいその男は、格闘での臨戦態勢に入ろうとしていた。
顔の前で両手を振りながら誤解を解く。
「ああ、違うから。ちょっと、ついてきてくれる? 監視役に頼みたい」
「わかったよ。あ、でも逃げるなよ?」
「逃げないから。ついでにこの使い方も教えるから。じゃ、行こっか。とりあえずあそこのビルまで。競争ね、よーいドン」
「え? え?」
ライラはそう言い残すと、動いているトラックから、ビルの方まで跳躍した。トラックのほうにはクレーターの一つもない。助走なしの、それもあまり力を込めていないはずの脚力で、消えるように空へ飛び出した。
四階建てくらいのビルの高さを疑うぐらいの跳躍だ。
たった1回の跳躍で、四階建てのビルをあっという間に越え、落ちる勢いを殺しながら屋上へ着地する。
「おーい。遅いぞ」
とんでもない跳躍力に、唖然とする一同。呼吸すら出来ていなかった。これを相手にしようとしていたのだから、本気であれば命はなかっただろう。本当に運が良かったと言える。
当のライラは当たり前とでも言うようにトラックへと手を振って呼んでいる。人間を卑下しているわけでないが、時間はとても大切にしておきたかった。
数分後。ライラは不満げに目を細め、愚痴を一つこぼした。
「おっそい」
「君が早すぎなんだよ」
呆れられたライラは可愛らしく頬を膨らます。
「で、君の名前は?」
「え?」
突然の問いに理解が追いつかない。吸血鬼と仲良くするなんてことは一切ないため、新鮮な感覚だ。
「えっと、僕は七瀬駿。よろしく、ライラ」
「私はライラ・イラ・コード。よろしく。というわけだから、レクチャーといこうか」
どんどん話が進むなか、地上では千夜が戦っていた。
それほど苦労する相手ではないと思ったのだが、的外れの大ハズレ。かなりの強者だ。ライラが放った矢もいつの間にか抜き、こちらへ飛ばしてくる。
「そりゃ、ライラが駿に技を教える余裕があるわけか」
少し手間取っているが、なるべく駿が試しうちをするまでは倒せない。
手加減しつつも、その隙に入ってくる吸血鬼にイライラを感じるのも致し方ない結果だろう。
「あとでライラをしばくか」
物騒なことを考えながら、千夜は守りに徹した。
「今、千夜が凄いこと考えたような気がする」
クシュンと可愛らしく、くしゃみをしながら、駿にやりかたを教える。
「フェニックスは存在が存在なために、悪行には断じて参加しない。むしろ、退治する側だ。君も気をつけなよ」
にやけつつライラは駿に意地悪く言ってみると、駿は苦笑交じりに反論した。
「それはさすがにないな。そもそもそんなことしてる暇なんてないし」
それもそうか、とライラは相槌を打つ。
「にしても、存在が存在ってどういうこと?」
「フェニックスを従えるのになんでそれくらい知らないの? アホ? ただのアホ?」
侮辱と呆れが交じった声音で言ってみると、駿は受け流すかのように軽薄な笑いをした。内心では愚痴っていること確定だろう。
「フェニックスは、魔神とも言われている。最も、神に昇格したのは真実。神のほうでもそこそこ有名。それに不死鳥でもあるから。善悪どちらか選ぶのは言わなくとも分かるでしょ」
弓を駿に手渡し、駿の弓を持っていない方の手に自分の掌を乗せる。
「これはただの術式共有。君が術を唱えなくとも、私が唱えれば発動する。しばらくじっとしてて」
ライラは、こういうことをするのが初めてなのか、顔を俯かせた。顔色は伺えないが、察することは容易だ。
駿はその意外性に吹き出しそうになるのを堪える。
「じゃあ、術式を唱える。集中してなよ。自然と覚えるはず」
ライラはゆっくり目を閉じ、囁きかけるように唱えはじめる。
〈あらゆる炎を纏いし、不死鳥よ。我、イラの願いに命じ汝、馳せ参じたまえよ〉
にわかに駿とライラの手が重なるところが光る。
その様子に見とれながら、駿の気持ちはたかぶっていく。いままでなかったような感覚が全身を駆け巡る。
「力が溢れてくる……!」
体の奥底から込み上げてくるたかぶりに、思わず心を躍らされる。
一方で、ライラは苦悶に歪んだような顔色だ。それは、吸血鬼であるからなのか、それとも別の意味があるのか。いまいち駿には分からなかった。
「私に逆らうとは上等だ」
強気になっているのか、言葉がだんだんと恐ろしいものになっていく。
「ら、ライラ?? 独り言で怖いんだけど」
駿は気にかけるが、ライラはそんなことは聞かず、1人でブツブツなにかいっている。
処置は施せないと判断したのか、駿は放っておくことにした。
「よし、終わった。ん? どうした?」
少し引き気味の駿を見るなり、ライラは首をかしげる。
どうやら気付いていないらしい。
「なんでもない」
駿は何気に嫌な予感がしたため、あえて言わなかった。
その曖昧さにライラは疑問に思いつつも、話し始める。
「心に浮かぶ言葉に従って唱えて。そうすれば、フェニックスは答えるはず」
駿の胸を軽く叩き、微笑みを浮かべる。こうも親切にしてくれるのだから、駿は少々敵だということを忘れかけていた。
「心の言葉……ね」
意味深にもう一度言う。
駿にとって、なにか引っかかるものがあるのだろう。
ライラはフム、と頷き、地上で闘っている千夜のほうをむく。その苦戦を見るやいなや、笑い声を漏らしたのは神のみぞ知ることだろう。
「では、実戦いってみようか」
ライラの合図とともに、駿が唱えはじめる。
「魔神、フェニックスよ。我が望みにこたえ、我に従えよ! イグニース・ソレイユ!」
駿の服が、瞬く間に赤を基調とした服に変わる。
紅蓮の炎を纏った弓は、みるみるうちに、形作っていく。
出来上がったのは、艶びやかな本体に、炎を表す飾りがつけられた弓。さきほどライラが展開したものと異なるが、それはフェニックスの意思によるものだろう。
一目見るだけで、良い代物だと伺える。
「ルフス・イグニース!!」
高い音を出し、吸血鬼に向かって急降下する。
避ける間もなく吸血鬼に刺さり、燃え盛る。その矢を抜くことはできない。炎は息をも許さぬように瞬く間に燃え広がる。
吸血鬼は灰となり風に乗って消えた。
「うむ。良い矢」
一直線に飛ぶ矢を見るなり、ライラは頷く。
予想通り、と言ったように縁に一歩だし、千夜をみる。
千夜は少し不機嫌そうだった。そんな千夜に対してブイ、と駿はVの字をつくる。
「ね? フェニックスは強いでしょ」
ドヤッとしたように駿に振り向くライラ。自分が加担したこともあり、こちらはこちらで嬉しそうだ。
駿は、満足気な表情で炎とともに消える服と弓に、見入っていた。
「さて、じゃあ戻るか。駿はさっきので少し疲れたろ。私が連れてってやる」
よっこいしょ、と駿を担ぎ上げ、トラックのほうをみる。
そこにはすでに千夜が戻り、ライラたちを待っているようだった。
「んじゃ、しっかり捕まっときなよ」
もう一度しっかり担ぎ直すと、ライラは返事を待たず跳躍した。
「え? ちょっ、まっ――」
駿の静止の声も聞き届け、そのまま急降下。
四階建てビルから落ち、あっという間に地上に近づく。
着地するだけで地面は抉れ、崩壊する。下は空洞ではなかったので瓦解は免れたが、大幅なクレーターが発生した。
「派手な着地だな」
「それは言えてる」
足元の惨状を見ながら、トラックに飛び乗る。自分から入っている異常さは目に見えているが、誰も突っ込む気にはならなかった。
駿を肩から下ろし、壊れた檻の中にはいる。
「つかれた」
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