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第四章 ~囚われの秘密~
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目を覚ました。
また寝る。
また目を覚ます。
そしてまた寝る。
これを何回繰り返したのだろう。
運ばれた後、人間の基地の檻に入れられ、体内時計は一週間と観測する。しかも、特にされることはなく、放置状態になっていた。
何もされないまま、暇な一日が始まったとき、とても残念に思えた。
なにか実験でもされるのかと、予想はいろいろとしていたのだが、全くといっていいほど変わりない。
もしかしたら、吸血鬼の血への欲、というのを利用しようとしているのかもしれないが、それについては対処法がある。
吸血鬼は、血を長時間の間飲まないでいると、苦しみが湧き上がってくるが、ライラはなぜか例外だ。
そこに関しては、ライラでさえも分からない。
「あー、暇。超暇。誰か遊び相手になってくれないかな」
暇すぎてとても暇死しそうな勢いでライラはだる~ん、と壁に凭れ掛かる。
熱は篭ることなく、もうこのままでいいほどに快適な檻だが、味気なくてつまらないのが本音だ。程よい風、ちょうどいい明かり。暮らすにはさして苦労などしなさそうだが、心身的な問題がかなり積もっている。
「まあ、介抱されてる身だから贅沢なこと言えないけどさぁ・・・」
半目で現実をみてみる。
そこには目を開いて0.1秒だけで既に閉じたい光景である。
今閉じ込められている階は捕獲した吸血鬼を収容する、いわば刑務所のようなところだ。
無論、他の吸血鬼もいるわけだ。
しかし、なぜかとライラは特別扱いで隔離され、同じ階でもまた別の部屋にいる。それも、一番奥のものすっごく目立つところに。ガラス張りの壁でショーウィンドウのように。半ば見世物のように扱われているようでものすごく嫌になる。
唯一役に立ったのは、知り合いを見つけたことだろうか。
「ライラ様ではないですかっ?!」
先に気付いたのは元ライラの騎士、ノルだった。短髪が揺れ、驚きを隠しきれていない。相変わらずな元気さで、思わずノルの桃色の頭を撫でなくなってしまう。
「ノル、やめなさい。主が困ってるではないですか」
そうノルをなだめるのは反対の檻にいるニルだった。大人しさを醸し出す赤紫の髪は綺麗に長く伸びている。
「主、ご無事で何よりです。こんなかたちで会うのは少々気が引けますが」
視線を落とすニル。なにかに引け目を感じているらしい。こうなることに引け目を感じているのだから、人間と関わりがあるのだろうか。
そこで、気になっていることを確かめてみる。
「ノル、ニル。私のこと、話した?」
ピクリと、ニルの肩が跳ねる。顔を見なくてもわかる。
ノルも、視線がぐるぐると泳いでいる。バレバレなご様子だ。
仕方ないか、などと小さく呟く。それと同時にノルとニルはより思いつめたのか顔をうつむかせる。
「今の私は情報が少ない。できる限り教えて」
ノルとニルは顔を合わせると経緯を話し始める。
捕まった時のこと。
数々の吸血鬼が実験体になっていること。
ここでのライラの立場のこと。
「主のことは他にも仲間はいるか、ということで話してしまいました」
「我々は捕まる際に、抵抗していたので、力量は相手にしらしめていました」
落ち込んでいる雰囲気からドヤッとした態度で話しているニル。その態度から見て、だいぶ暴れたのだろう。
その様子を微笑みで受け取り、話を促す。
「それで、我々の主の力を思い知ると思ったのですが。捕獲に向かうぞ、とか言っていて。人間たちは頭がおかしいのではないですか?」
「誰が頭おかしいって?」
突然の声に振り向く。
見てみればライラの部屋のドアの前で千夜は壁にもたれかかっていた。
話に夢中になっていたのか、気配を感じなかった。全くと言っていいほどだ。己の警戒の薄さを実感し、水面下で警戒をはじめる。
しかし、そこでもまた疑問がある。
「どうやってここまできた? ここに来るにはノルとニルのところを通らないと来れない」
「そこのドアだよ。古いやつだが、今は俺ぐらいしか使ってないだろうな」
確かに、錆びれてボロボロな扉がある。言われなければ注目しない場所だ。
錆びれている部分とは別に、爪のようなものできったような傷がある。そこからの推測は容易だ。だいぶ古いものなのだろう。
「おいおい。そのような逃げ口らしきものを放っておいていいの?」
「ん? 大丈夫だろ。あの先には川があるからな」
「か、川か···」
回答の内容に少し残念そうに呟く。
吸血鬼は、聖水を苦手とする。死ぬほどの苦しみを味あわなければならない。それに、疲れた後には人間が待っているだろう。そんなことを思いながら千夜の話を聞き流していると、
「んじゃ、ノル、ニル、ライラは仮釈放な」
終わりとでもいうように錆びれた扉から出ていってしまう。
理解が追いつかず、その背中を見ていると、ノルとニルが説明してくる。
「どうやら、私たちを危険対象としては認識せず、もし人間を敵視しないのなら、人間のために戦え、だそうです」
淡々と述べ、ライラはうそ、と落胆をつく。戦うなら、恐らく吸血鬼を殺せ、ということだろう。
「千夜は······同族殺しの意味を理解しているのかな······?」
少しだけ、軽く見られているように思えて不安になってくる。例え裏切り者として扱われていようが、同族であるのだ。そこに仲間意識が芽生えるのは自然なもの。心苦しいものである。
ノルとニルはそのようなライラをみて、千夜の素性を探る。
「千夜はどちらかというと適当でしょうか。かなり、なんとかなるだろう、的な感じですし」
ノルは千夜の真似をしてみる。
その様子がなかなかに似ていて思わず吹き出してしまう。
「ざっくり言って、めんどくさがり屋ですね」
「結局その答えしか出せないか」
がっくりと項垂れ、深いため息をつく。
「戯れる必要がある、か」
仲間ごっこをしなければならない。今のライラの立場は、吸血鬼を殺したことにより、若干人間寄りだ。接触する機会が一番多い。
だが、千夜のように仲間に取り囲まれているなら嘘で付き合うとバレる可能性がある。
「嘘も通じるわけないよな」
「でしたら、主は千夜が気になりますか?」
「は?」
突飛な質問に思わず吃驚してしまう。
単刀直入に好きなの? 的な発言されたら困るというものだ。いや、むしろそう受け取ったライラの思考がおかしいのだろうか。
「敵としてなら、どうやって人間なのにあのような力があるのかが気になる。特に宿っている神の欠片が」
などと、完璧な如く味方としては見ず、敵としてだけ認識する。出会った瞬間から敵だったのだ。それが今更ひっくり返ることは無い。
「ライラ様ぁ? 本音はそのようなものなんですか~? かっこいいとか、素敵だなー、なんて思わないんですか~?」
少し挑発気味な喋り方で追求するようにライラに迫る。
何を言わせたいのかいまいち分からなかったが、ライラは答える。
「い、いや、最初は敵として会ったんだ。それが惚れるみたいなことになるわけがないだろう。第一、あいつと私の関係は敵という形で結びついているわけだし」
否定する形で、そうなんだ、と自分自身にも言っていた。
その言葉は、ノルのテンションをこれでもかというくらいに下げ、ライラはしまったとでもいうように気まずくなる。
そこで、ニルは口を挟む。
「そういえば、千夜はいつ釈放するとは言ってなかったです。いつ釈放されるのでしょうか? ちょっと理屈っぽいことになるかもですね」
顎に手を当て、思考を巡らすニルの推理にライラは頷く。
そこで、ノルは疑問に思ったことをそのまま口にした。
「あれ? だったら、千夜の言っていた、お前らは強いのか? と試していたのは多少荒くしても平気だろうという確信の元で釈放したかったからでしょうか?」
フラグ的なことを建てるフラグ建築士。
嫌な予感に、ぞっと鳥肌が立つ。
こういう場合、ノルのフラグは当たるのだ。
いや、ノルの予測は当たるのだ。
五感を研ぎ澄まし、敵が来るのかを確認していく。
「いまのところはいない。ニル、どう?」
ニルに話を持ちかける。
ちょうどニルは、予知鏡という特殊な鏡を召喚して覗き込み、遠いところを視ている。これはニルの能力だ。
「遠くに、どうやら潜伏しているようです。しかし妙ですね。変な、狭いところにいるようです。錆びてる······のでしょうか」
もし攻撃するなら正面からのほうがいいのだろう。そのほうが、スムーズかつ大人数で行ける。しかし、錆びてるところで狭い。となると、人数が狭められてくる。
はてさて、どうしたものか、と考えていると足音が聞こえた。まだ近くではないが、徐々に近づいてくるようだ。
「錆びてるところって、あの扉の通路かな?」
そちらのほうに目を向けてみると――。
駿がいた。
駿は弓を構えてこちらに放ってこようとする。危険を察知し、ライラは力任せに硝子を割った。追うように矢が放たれる。
ノル、ニルは自らの力で檻を壊し、通路に出る。背を預ける形で全方位を警戒する。
「もしかして、釈放ついでに実力もみたいの?」
「まあ、そんな感じだねぇ。あ、でも逃げちゃあダメだよ。僕は君たちを解放するために来ただけだし、本命はあっちだから」
と、通路を指さす。
つられて見てみると、そこは煙で覆われていた。音という音は聞こえない。
「幻術かっ」
五感を最大限にまで研ぎ澄ませ、煙を睨みつける。煙のせいで、五感がきかない。
「ノル、ニル。下がって。あっちからの攻撃に備えられないよ」
と言ったそばから。
煙の中から腕が飛び出してきた。
その速さは並の人間ではない。死角からの攻撃だ。二人の反応がかなり遅れる。どうやら、煙には麻痺毒も含まれているようだ。
その腕はノルの細い首を掴み、更に出た腕がニルの首も掴んでしまう。
「うっ······!」
「なっ······うわっ!」
その腕の力は、かなり強いようでノルとニルはもがいている。
「抵抗をするのはやめなさい。さもなくばー―」
余裕ぶった様子で注意をしてくる。
だが、ライラはそれを遮る。
「さもなくば?」
冷徹な瞳からは覇気が溢れ出るように出てくる。威嚇というよりも、少しの怒りをこめたようだった。その変わりようにほんの少し、けれど致命傷ほどに萎縮した。
「別に、私たちにとってあなたたちが何をしようが心の底からどうでもいい。けど、私の従者を傷つけようものなら、それは見過ごすわけにはいかない」
威圧の込めた声音は、外見からは想像出来ないほどに低く、透き通るようなものだった。これまでの研鑽が物語っているものだろう。
「お前にも、ちゃんと仲間意識があったんだな。こりゃ意外」
奥から千夜が出てくる。やはりその気配は感じ取れない。
(厄介だな、この煙)
少し面倒くさく思いながら、千夜の言葉に笑う。
「君たちとほとんど変わらない種族。別にどうってことない。そもそも孤独な種族があるとは思えない」
目を細めて淡々と告げ、左足を一歩下げる。
同時に千夜たちがなにをしたいのかを考える。こんな話をしに来たわけではないだろう。
「で、君たちは何がしたい? 実力調べ?」
「まあ、そんなところだな。んじゃあ、お前の従者を取り返してみろよ」
足に力を込め、地を蹴る。そのまま右に体を捻り、蹴りを入れようとする。
が、千夜はそれを避け、数歩、後ろに下がる。ライラは着地をしても止まらず、更に体を捻る。千夜は懐から呪符を取り出し、放ってくる。爆発系統だと判断するが、躱すにも遅れてしまう。
そこで――。
空間がパキリと割れたような音を出し、そこから武器が出現する。
その武器は、呪符を切り裂き無効化させ、パリィンと音を立てて消えた。
「なんだよ、この武器はっ」
突然の攻撃に、千夜は刀を抜き取り、ライラへと剣戟を放つ。その攻撃を紙一重で躱し、手元に出現した剣を掴み、防ぐ。
「これが私の能力の一種。『空間操作』」
どこに現れるのか分からないその攻撃を、千夜は瞬時に反応して刀で弾いていく。
更に『空間操作』を使い、どんどん召喚していく。無限という訳では無いが、それこそ無限に等しい。宝物庫と空間を繋げているだけなのだが、その宝物庫にある武器の量と質がとてつもないものだ。尽きることはないだろう。
「おいおい。これはチート級だろーがっ」
一気に降りかかる刃の雨。
避ける場も無ければ完全に避けようがない。
しかし、その雨を近くの紅色の髪の女が横から蹴りを飛ばしていく。ノルとニルを捕まえている女だ。
「ノル、ニル。抜け出せ」
一定の音量で、叫ぶこともなく、話しかけるようにいう。
その言葉に反応し、ノルとニルは女の横腹を殴る。そこですかさず、ライラは刃を降らせ、逃げられるように、女の周りを囲む。
「行くよ」
その瞬間を逃さず、錆びている扉に駆け寄る。
「しまった!」
そこで扉の前を開けられたことに舌打ちをする。千夜たちが追いかけてくるも、遅い。
扉を開け、すぐさまその場を立ち去る。
ひとまずは、逃げきれた。
途中で、駿の姿が見えないことに違和感を抱いたが、特に気にすることなく、道なりに走った。
また寝る。
また目を覚ます。
そしてまた寝る。
これを何回繰り返したのだろう。
運ばれた後、人間の基地の檻に入れられ、体内時計は一週間と観測する。しかも、特にされることはなく、放置状態になっていた。
何もされないまま、暇な一日が始まったとき、とても残念に思えた。
なにか実験でもされるのかと、予想はいろいろとしていたのだが、全くといっていいほど変わりない。
もしかしたら、吸血鬼の血への欲、というのを利用しようとしているのかもしれないが、それについては対処法がある。
吸血鬼は、血を長時間の間飲まないでいると、苦しみが湧き上がってくるが、ライラはなぜか例外だ。
そこに関しては、ライラでさえも分からない。
「あー、暇。超暇。誰か遊び相手になってくれないかな」
暇すぎてとても暇死しそうな勢いでライラはだる~ん、と壁に凭れ掛かる。
熱は篭ることなく、もうこのままでいいほどに快適な檻だが、味気なくてつまらないのが本音だ。程よい風、ちょうどいい明かり。暮らすにはさして苦労などしなさそうだが、心身的な問題がかなり積もっている。
「まあ、介抱されてる身だから贅沢なこと言えないけどさぁ・・・」
半目で現実をみてみる。
そこには目を開いて0.1秒だけで既に閉じたい光景である。
今閉じ込められている階は捕獲した吸血鬼を収容する、いわば刑務所のようなところだ。
無論、他の吸血鬼もいるわけだ。
しかし、なぜかとライラは特別扱いで隔離され、同じ階でもまた別の部屋にいる。それも、一番奥のものすっごく目立つところに。ガラス張りの壁でショーウィンドウのように。半ば見世物のように扱われているようでものすごく嫌になる。
唯一役に立ったのは、知り合いを見つけたことだろうか。
「ライラ様ではないですかっ?!」
先に気付いたのは元ライラの騎士、ノルだった。短髪が揺れ、驚きを隠しきれていない。相変わらずな元気さで、思わずノルの桃色の頭を撫でなくなってしまう。
「ノル、やめなさい。主が困ってるではないですか」
そうノルをなだめるのは反対の檻にいるニルだった。大人しさを醸し出す赤紫の髪は綺麗に長く伸びている。
「主、ご無事で何よりです。こんなかたちで会うのは少々気が引けますが」
視線を落とすニル。なにかに引け目を感じているらしい。こうなることに引け目を感じているのだから、人間と関わりがあるのだろうか。
そこで、気になっていることを確かめてみる。
「ノル、ニル。私のこと、話した?」
ピクリと、ニルの肩が跳ねる。顔を見なくてもわかる。
ノルも、視線がぐるぐると泳いでいる。バレバレなご様子だ。
仕方ないか、などと小さく呟く。それと同時にノルとニルはより思いつめたのか顔をうつむかせる。
「今の私は情報が少ない。できる限り教えて」
ノルとニルは顔を合わせると経緯を話し始める。
捕まった時のこと。
数々の吸血鬼が実験体になっていること。
ここでのライラの立場のこと。
「主のことは他にも仲間はいるか、ということで話してしまいました」
「我々は捕まる際に、抵抗していたので、力量は相手にしらしめていました」
落ち込んでいる雰囲気からドヤッとした態度で話しているニル。その態度から見て、だいぶ暴れたのだろう。
その様子を微笑みで受け取り、話を促す。
「それで、我々の主の力を思い知ると思ったのですが。捕獲に向かうぞ、とか言っていて。人間たちは頭がおかしいのではないですか?」
「誰が頭おかしいって?」
突然の声に振り向く。
見てみればライラの部屋のドアの前で千夜は壁にもたれかかっていた。
話に夢中になっていたのか、気配を感じなかった。全くと言っていいほどだ。己の警戒の薄さを実感し、水面下で警戒をはじめる。
しかし、そこでもまた疑問がある。
「どうやってここまできた? ここに来るにはノルとニルのところを通らないと来れない」
「そこのドアだよ。古いやつだが、今は俺ぐらいしか使ってないだろうな」
確かに、錆びれてボロボロな扉がある。言われなければ注目しない場所だ。
錆びれている部分とは別に、爪のようなものできったような傷がある。そこからの推測は容易だ。だいぶ古いものなのだろう。
「おいおい。そのような逃げ口らしきものを放っておいていいの?」
「ん? 大丈夫だろ。あの先には川があるからな」
「か、川か···」
回答の内容に少し残念そうに呟く。
吸血鬼は、聖水を苦手とする。死ぬほどの苦しみを味あわなければならない。それに、疲れた後には人間が待っているだろう。そんなことを思いながら千夜の話を聞き流していると、
「んじゃ、ノル、ニル、ライラは仮釈放な」
終わりとでもいうように錆びれた扉から出ていってしまう。
理解が追いつかず、その背中を見ていると、ノルとニルが説明してくる。
「どうやら、私たちを危険対象としては認識せず、もし人間を敵視しないのなら、人間のために戦え、だそうです」
淡々と述べ、ライラはうそ、と落胆をつく。戦うなら、恐らく吸血鬼を殺せ、ということだろう。
「千夜は······同族殺しの意味を理解しているのかな······?」
少しだけ、軽く見られているように思えて不安になってくる。例え裏切り者として扱われていようが、同族であるのだ。そこに仲間意識が芽生えるのは自然なもの。心苦しいものである。
ノルとニルはそのようなライラをみて、千夜の素性を探る。
「千夜はどちらかというと適当でしょうか。かなり、なんとかなるだろう、的な感じですし」
ノルは千夜の真似をしてみる。
その様子がなかなかに似ていて思わず吹き出してしまう。
「ざっくり言って、めんどくさがり屋ですね」
「結局その答えしか出せないか」
がっくりと項垂れ、深いため息をつく。
「戯れる必要がある、か」
仲間ごっこをしなければならない。今のライラの立場は、吸血鬼を殺したことにより、若干人間寄りだ。接触する機会が一番多い。
だが、千夜のように仲間に取り囲まれているなら嘘で付き合うとバレる可能性がある。
「嘘も通じるわけないよな」
「でしたら、主は千夜が気になりますか?」
「は?」
突飛な質問に思わず吃驚してしまう。
単刀直入に好きなの? 的な発言されたら困るというものだ。いや、むしろそう受け取ったライラの思考がおかしいのだろうか。
「敵としてなら、どうやって人間なのにあのような力があるのかが気になる。特に宿っている神の欠片が」
などと、完璧な如く味方としては見ず、敵としてだけ認識する。出会った瞬間から敵だったのだ。それが今更ひっくり返ることは無い。
「ライラ様ぁ? 本音はそのようなものなんですか~? かっこいいとか、素敵だなー、なんて思わないんですか~?」
少し挑発気味な喋り方で追求するようにライラに迫る。
何を言わせたいのかいまいち分からなかったが、ライラは答える。
「い、いや、最初は敵として会ったんだ。それが惚れるみたいなことになるわけがないだろう。第一、あいつと私の関係は敵という形で結びついているわけだし」
否定する形で、そうなんだ、と自分自身にも言っていた。
その言葉は、ノルのテンションをこれでもかというくらいに下げ、ライラはしまったとでもいうように気まずくなる。
そこで、ニルは口を挟む。
「そういえば、千夜はいつ釈放するとは言ってなかったです。いつ釈放されるのでしょうか? ちょっと理屈っぽいことになるかもですね」
顎に手を当て、思考を巡らすニルの推理にライラは頷く。
そこで、ノルは疑問に思ったことをそのまま口にした。
「あれ? だったら、千夜の言っていた、お前らは強いのか? と試していたのは多少荒くしても平気だろうという確信の元で釈放したかったからでしょうか?」
フラグ的なことを建てるフラグ建築士。
嫌な予感に、ぞっと鳥肌が立つ。
こういう場合、ノルのフラグは当たるのだ。
いや、ノルの予測は当たるのだ。
五感を研ぎ澄まし、敵が来るのかを確認していく。
「いまのところはいない。ニル、どう?」
ニルに話を持ちかける。
ちょうどニルは、予知鏡という特殊な鏡を召喚して覗き込み、遠いところを視ている。これはニルの能力だ。
「遠くに、どうやら潜伏しているようです。しかし妙ですね。変な、狭いところにいるようです。錆びてる······のでしょうか」
もし攻撃するなら正面からのほうがいいのだろう。そのほうが、スムーズかつ大人数で行ける。しかし、錆びてるところで狭い。となると、人数が狭められてくる。
はてさて、どうしたものか、と考えていると足音が聞こえた。まだ近くではないが、徐々に近づいてくるようだ。
「錆びてるところって、あの扉の通路かな?」
そちらのほうに目を向けてみると――。
駿がいた。
駿は弓を構えてこちらに放ってこようとする。危険を察知し、ライラは力任せに硝子を割った。追うように矢が放たれる。
ノル、ニルは自らの力で檻を壊し、通路に出る。背を預ける形で全方位を警戒する。
「もしかして、釈放ついでに実力もみたいの?」
「まあ、そんな感じだねぇ。あ、でも逃げちゃあダメだよ。僕は君たちを解放するために来ただけだし、本命はあっちだから」
と、通路を指さす。
つられて見てみると、そこは煙で覆われていた。音という音は聞こえない。
「幻術かっ」
五感を最大限にまで研ぎ澄ませ、煙を睨みつける。煙のせいで、五感がきかない。
「ノル、ニル。下がって。あっちからの攻撃に備えられないよ」
と言ったそばから。
煙の中から腕が飛び出してきた。
その速さは並の人間ではない。死角からの攻撃だ。二人の反応がかなり遅れる。どうやら、煙には麻痺毒も含まれているようだ。
その腕はノルの細い首を掴み、更に出た腕がニルの首も掴んでしまう。
「うっ······!」
「なっ······うわっ!」
その腕の力は、かなり強いようでノルとニルはもがいている。
「抵抗をするのはやめなさい。さもなくばー―」
余裕ぶった様子で注意をしてくる。
だが、ライラはそれを遮る。
「さもなくば?」
冷徹な瞳からは覇気が溢れ出るように出てくる。威嚇というよりも、少しの怒りをこめたようだった。その変わりようにほんの少し、けれど致命傷ほどに萎縮した。
「別に、私たちにとってあなたたちが何をしようが心の底からどうでもいい。けど、私の従者を傷つけようものなら、それは見過ごすわけにはいかない」
威圧の込めた声音は、外見からは想像出来ないほどに低く、透き通るようなものだった。これまでの研鑽が物語っているものだろう。
「お前にも、ちゃんと仲間意識があったんだな。こりゃ意外」
奥から千夜が出てくる。やはりその気配は感じ取れない。
(厄介だな、この煙)
少し面倒くさく思いながら、千夜の言葉に笑う。
「君たちとほとんど変わらない種族。別にどうってことない。そもそも孤独な種族があるとは思えない」
目を細めて淡々と告げ、左足を一歩下げる。
同時に千夜たちがなにをしたいのかを考える。こんな話をしに来たわけではないだろう。
「で、君たちは何がしたい? 実力調べ?」
「まあ、そんなところだな。んじゃあ、お前の従者を取り返してみろよ」
足に力を込め、地を蹴る。そのまま右に体を捻り、蹴りを入れようとする。
が、千夜はそれを避け、数歩、後ろに下がる。ライラは着地をしても止まらず、更に体を捻る。千夜は懐から呪符を取り出し、放ってくる。爆発系統だと判断するが、躱すにも遅れてしまう。
そこで――。
空間がパキリと割れたような音を出し、そこから武器が出現する。
その武器は、呪符を切り裂き無効化させ、パリィンと音を立てて消えた。
「なんだよ、この武器はっ」
突然の攻撃に、千夜は刀を抜き取り、ライラへと剣戟を放つ。その攻撃を紙一重で躱し、手元に出現した剣を掴み、防ぐ。
「これが私の能力の一種。『空間操作』」
どこに現れるのか分からないその攻撃を、千夜は瞬時に反応して刀で弾いていく。
更に『空間操作』を使い、どんどん召喚していく。無限という訳では無いが、それこそ無限に等しい。宝物庫と空間を繋げているだけなのだが、その宝物庫にある武器の量と質がとてつもないものだ。尽きることはないだろう。
「おいおい。これはチート級だろーがっ」
一気に降りかかる刃の雨。
避ける場も無ければ完全に避けようがない。
しかし、その雨を近くの紅色の髪の女が横から蹴りを飛ばしていく。ノルとニルを捕まえている女だ。
「ノル、ニル。抜け出せ」
一定の音量で、叫ぶこともなく、話しかけるようにいう。
その言葉に反応し、ノルとニルは女の横腹を殴る。そこですかさず、ライラは刃を降らせ、逃げられるように、女の周りを囲む。
「行くよ」
その瞬間を逃さず、錆びている扉に駆け寄る。
「しまった!」
そこで扉の前を開けられたことに舌打ちをする。千夜たちが追いかけてくるも、遅い。
扉を開け、すぐさまその場を立ち去る。
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こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
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