吸血鬼騎士のディアーボルス(悪魔)

結愛

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第八章 ~気付かされるモノ~

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暗い部屋の中で、記憶を思い返してみると、風邪を引くような、思い当たる節がある。

「前、誤って川に転落してな。それで、その日は暑かったし、ちょうどいいと思って、そのまま日陰に入って涼んでた」

あの日は暑かった、と懐かしんでいると、辺りは静まる。
急にシーンとした空気になり、なにか悪いことを言った気になってしまう。

「え。なんか変な事言った?」

思った通りに言葉にすると、千夜は、は?と返してくる。

「そりゃ、風邪引くだろ。あったかい格好しろ。たくもう。これじゃあ、まともに話せねぇじゃねえかよ。ほれ、俺の部屋の鍵だ。俺のベッド使っていいから、寝ろ。話はそれからだ」

何気に親切な言葉を投げかけられる。

まさか、ここまでの展開になるとは思わなかった。さっきまで戦っていたはずなのに、なぜか治療されている。

流れについていけず、どういうことかと、長をみる。
既に、長はいなかった。

話がなくなれば、すぐさま退散していくのだろうか。人間の上位者は。

円卓を囲んでいた人も、いつのまにかいなくなっている。
話が急展開して、思惑通りに事が進まなかったからであろう。その面では、鼻で笑える。

「お偉いさんはいいご身分だな」

というわけで、笑ってやった。

千夜は二度目のため息をつきながらも、ライラの手を引く。

「ほれ。さっさと行け。お前なら位置くらい分かるだろ。俺は別の用があるから、それが終わったら行く。俺の従者がいると思うから、面倒見てもらえ。言っとくが、お前は重要参考人として匿うだけだ。それは覚えとけ」

「面倒を見てもらうのは嫌いだ。面倒かけたくない。君らに貸しを作るわけにはいかないし。それに、私だって敵の中にいることは承知している」

反論しつつ、扉を開ける。

かなり眩しかった。暗いところにいたのだから、目はすぐには慣れない。

「うまく操られるんだろうな。私も、ノルもニルも」

他人事のように呟き、ルートを確認する。

しかし、よく分からなくなってきてしまう。

「位置くらいわかるって言われても知らないものは知らないし」

とりあえず、自分の思うままに進んでみる。

この建物は、人通りが少ないようだった。歩いている途中で誰にも会っていない。おそらくは、そこまで上位の者しか立ち入れないのだろう。

ところどころに、トラップらしきものもあって、物騒なことこの上なかった。

「こほっ、こほっ。だるい······」

口元に手を当てて、咳をすると、喉の痛みがわかる。だいぶ、疲れがあったようだ。少しばかり、無理をしていたのかもしれない。

「しかしなぁ」

まさか、敵である人間に看病をしてもらうことになるとは思わなかった。風邪ぐらいなら、普通、寝れば治るライラだったが、今回ばかり、なぜかと治癒能力が衰えている。しばらくすれば、その理由がわかるだろう。

自分の直感で進んでみた結果、辿り着いた。

「えっと、ここか。あの、ライラです、こほっ」

挨拶にも咳が交じる。

これで、ライラだということは情報が伝わっていればわかるだろう。

なんて。知られる必要性など、ライラにはない。むしろ、知られないほうがよっぽどマシだ。知られたぶんだけ、その後にくる影響が苦しい。そんなことは、分かっている。わかってるはずなんだけど。

「分かったフリしてるだけなのかな」

ぼんやりと、思ったままに呟く。

すると、がちゃりとドアが開いた。

人が出てくる。茶髪の髪をしていて、クルリと毛先がなっているショートカットの人。音羽梓、とか言ったっけ。たしか、千夜の従者。クナイを使う暗器使いの人。暴走したときの記憶は途切れ途切れにある。ライラに陰術『影縫い』をした人。あのあと、取るのに意外と時間がかかっている。まあ、いうほどでもなかったが。

「あ。あなたがライラさん?  千夜様から話は聞いています。どうぞ」

促され、部屋に入る。

中は質素なものだった。これは、千夜の部屋らしい。もちろん従者は別の部屋だそう。

「し、失礼シマス」

少しばかり、迷惑をかけてしまった人だ。罪悪感というのか、堂々となどいけない。

「そんなに固くせんでええよ?」

ギクッとなる。訛りの強い口調で唐突に話しかけられたのだ。声のした左のほうを見てみると、優雅にお茶を飲む紅蓮の色をした髪の人がいた。たしか、ノルとニルを捕まえた人。近距離の打撃による戦闘をする人、だったかな。

「別に、固くしているつもりはありません。ただ、先日の暴走で、迷惑をかけてしまっているので。態度で示すだけです」

その茶色がかった瞳を見つめる。

それで、意志がだいぶ伝わったようだ。

わかったとでもいうように、ティーカップを傾けている。

「そういえば、名乗っておらんかったな。私は五月雨薫。普通に呼んでかまへん。私の方も、ライラと呼ばせてもらうわ~」

笑みを浮かべて、ティーカップをテーブルに置く薫。

ライラは少しばかり、口調を和らげた。

「そうか。では、遠慮なく呼ばせてもらう、薫。······それと、聞いておきたいのだが、アレはなんだ?」

右のほうにいる、長い黒髪の少女。

薫たちと同い歳のはずだが、その姿はとても、ちっちゃい、とてもちっちゃい少女だ。

「誰がちっちゃいですか」

ぼそりと、その少女が不満そうに言い放つ。声音は、冷徹を帯びていて、透き通る。

「いや、すまない。私も小さい身なので気にしないでくれ」

苦笑いを貼り付けながら、なんとかやり過ごす。思わず声に出てしまったようだ。

「あれは朝霧小春。おもに、呪符を武器としています」

筆に墨をつけて、なにやら書いている小春。

人間の世界で、「シュウジ」というものらしい。あまり、国ごとの文化に詳しくないライラにとって、興味が湧くものだ。

「それで、そこにいるのが――」

「二ノ宮隼人、か?」

「え?   なんで俺の名前知ってんの?」

驚かれる。

確かに、ライラは一言も、名前など聞いていない。聞いていないのだ。

「私が連行されるとき、一部の人で話題になってて。たまたま聞こえたんだ。あとは、あのときの戦いだな」

記憶を探るように、顎に人差し指をあててみる。たしかに、話題に上がっていた。

「あいつら······。任務中に私語を挟むなと言ったはずなのに······」

「そう怒らんといてや、小春。ライラはあまり脅威ではなかったんやろ?   安堵の息ぐらいさせてぇや?」

小春の募る怒りを薫がなだめる。小春は、後輩に厳しいようだ。

「それで、風邪はどのくらいですか?   軽ければ私が治せますけど」

梓が、ライラの額に手をあてようとする。

ライラは、少し拒絶反応を見せたが、渋々されるがままになる。

熱を確認されたあと、喉を見られ、薬を飲まされた。

「へぇ。吸血鬼といえど、人間と同じ風邪を引くんやなぁ」

「くしゅん。お前らと一緒にしないでくれ」

抗議するも、意味をなさない。

薫は、微笑みながら、お茶を注いでくれる。

「まあ、あったかいものでも飲みぃな。飲めば少しは楽になるかもしれないからなぁ」

湯気がたつ、いかにもあったかそう、否、熱そうなお茶が出される。その湯呑みを受け取り、口をつける。

「ん。ありがと。あったかい」

暖かみを感じて、ほっこりする。少し、舌が火傷しそうだったが、声に出すほどではなかった。

体の中が、瞬く間に温まり、少し寒く感じたものがなくなった。

「やっぱり、吸血鬼だから、おばあちゃんっぽい」

小春が、皮肉を言うかの如く冷徹の含まれた声音で言い放つ。

ライラは、それをさらりと受け流して返す。

「はは。まあ、これでも口調は気を付けているのだけれど、やはり感覚はそうかもしれないわね」

無表情を貫いていたライラだが、いつにも増して怖い笑顔を顔に貼り付けている。口調も同様にお嬢様のようになっている。

不気味な感情に、小春は、警戒するように唇を噛む。

「ほらほら、小春ちゃんも落ち着いて」

「あんたに言われたくないわ、隼人」

すかさず、小春は、隼人に突っ込む。なぜか、みんな隼人にはキツい。

そんな微笑ましい光景をみて、ライラは、少しだけ寂しく思う。

けれど、首を左右に振り、思いをふっきる。
「はぁ。こんなことでつまずいてたらだめだな。感情はまだ取り戻せない」

近くの窓のカーテンを開け、夜空で、一つだけ輝く月を見上げた。

「嗚呼。なんと儚く、美しいのだろう。孤独など、振り払うために、ああなるのだろうか」
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