吸血鬼騎士のディアーボルス(悪魔)

結愛

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第十三章 ~戦場と恋人~

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膝を抱えて、これからのことを考える。

きっと、戦争ではライラ自身も死ぬ可能性がある。

神の武器でも簡単に死なないライラは、吸血鬼相手でも遅れをとることはない。現に、今まで手傷は負っていない。だが、今回は別格だ。

人間がなにか考えている可能性がある。

その策略のなかに、ライラも入っているだろう。いつ反旗を翻すかわからない。そんなのを側に置いておけば、感情をもたず、人間を駆逐する、生きた殺戮兵器になる。

そしたら、まずは吸血鬼の能力で一番封じたい、治癒をなんとかするだろう。

そんなことになれば、ライラにも影響が及んでしまう。

運が良ければライラも用無しということで切り捨てる。そんな種族だ。

「こりゃ、はやく対策たてないとか」

ポツリと呟き、瞼を閉じる。

眠りにつこうとしたとき、扉をノックする音が聞こえた。

眠りを妨げられ、ライラは不満げに扉の前に立つ。

その足音を聞いたのか、扉の向こうにいるであろう人は、声をかけてくる。

「俺だ。開けろ」

「誰だよ」

「あ?   俺の声聞いても分かんねぇのかよ」

「だから誰だよ」

ライラは、込み上げてくるような笑いを必死に堪え、問い続ける。

やがて、怒りそうだったので、観念して扉を開ける。

そこには、みるからに不機嫌な千夜が立っていた。

「名乗らなかったお前が悪い」

「知るか。話があんだよ。入るぞ」

ズカズカと、千夜は部屋に入る。

その堂々さに呆れ、入るなよ、と毒づきながら扉を閉めた。

「異常はなさそうだな」

「女子部屋に男がいる点以外はな」

顎で千夜を木製の椅子へと促し、自分はまたベッドへ腰を下ろす。

千夜は不機嫌そうな顔のまま、半目でこっちをみてくる。

「用無しで入ってくるやつは変態だな」

「お前のことだよ」

「俺は用があるんだよ」

戦争前だというのに、緊張感もなく、くだらない話をしているのは恐らく二人を除いていないだろう。余裕があるわけでもなく、ないわけでもない。ただ、暇人なだけだ。

「んで。話って?」

足を組み、千夜に問う。

千夜は、やっとか、と言わんばかりに椅子の背もたれに腕をかけ、足を組む。

「用ってのは、戦争についてだ」

本題に入った。

さきほどまでの穏やかな空気はなくなり、しん、と静まる。

ライラは、その空気を感じ取り、真面目な顔になる。

「ほう。急なものだしな。なんか問題でもあるのか?」

いちいち話をするならば、問題点があるはずだ。それこそ、吸血鬼がいるなかでの連携だとか、どこに配属されるのかとか。吸血鬼、という立場で色々な問題が起こりうる。それこそ、欠点になってしまうものだ。

ライラは、その問題点の答えを考えながら、千夜の返答を待つ。

千夜は、前髪をかきあげ、言いずらそうに視線を床に移す。

「吸血鬼が、相手だしな。お前の恋人とかとあたったら斬れるか?」

待ち受けていた問題と大幅に違い、ライラは思考を停止させる。

またその問題点に頭を回し、回答を導き出す。

「いやぁ······。問題ない··········と思う」

確立しない回答に、千夜は分かっていたかのように息をつく。

視線を泳がせ、答えづらくなったライラは、偶然、飛んでいる鳥をみつけ、そのほうへと話題をずらす。

「あ、あそこに鳥が·······珍しいね、こんな壊れた世界で(棒)」

感情の一つすらなく、見事に抑揚のない棒読みで読み上げたその言葉は華麗に彼方へ飛んでいった。

「おい」

「ハイ」

威圧的な声で、話を即戻される。

千夜は、先程より不機嫌な顔でこちらを睨み、口を開いた。

「おまえ、喜怒哀楽はあるんだろ?」

前ではありえなかったような戯れに、千夜は少し疑問を感じたようだ。

「うん。七つの大罪の感情以外は封印してないから。ただ、無表情だったときは、誰とも話してなかったから感情が出なかったかも」

苦笑を少し浮かべて、視線を落とす。

木漏れ日も、月でさえも、見ていて、感じていて楽しいものは何一つなかった。

その感情さえも忘れて、ただ目的のために行動していた。感情はときに足を引っ張るものとなってしまう。丁度いいとまで思っていた。

それは最早、感情の持たない殺戮兵器だ。

意思をコントロールされれば、瞬く間に周りは血の海と化す。

気が付かない間にコントロールされることもある。今一番恐れているのはその可能性だ。人間とここまで接してしまった以上、その欲に呑み込まれるのは確率的に高い。または巻き添えをくらうか。最悪の場合、その両方を味わうことになる。

避けることもできず、それを受け止めることも困難だろう。

「まあ、恋人であれど、私にはもう道がないからな。その恋人も、長生きして疲れたとか言ってたし。殺してもさほど問題は無い。そもそも、私が千夜たちに協力した時点で覚悟は決まってるさ」

当たり前だろうというように、ライラは目を閉じて天井を仰ぐ。

千夜は、その少し寂しげな行動に、目を細めつつ、そうか、と相槌を打った。

「それはそうと」

ライラは千夜の言葉に反応し、千夜をみる。

千夜は若干疑心暗鬼の目で問う。

「お前に恋人なんかいたのか?」

興味の色も含ませた目線は、まっすぐライラを捉えていた。

なにかほかにも言いたそうだが、言う勇気がないというような目。

「残念ながらいたな。だがまあ、もう会えないだろうな。そいつは戦うことを面倒とするやつで、なかなか表にでてくることはない。実に厄介かつ面白いぞ」

笑いを堪えるかのように口元を片手で抑え、面白そうに笑を浮かべる。

その意地悪そうな笑みは、千夜の背中に悪寒をはしらせた。

嫌そうな顔をしながら、千夜は立ち上がる。

立つと、即座に切り替え、ドアのほうへと向かう。

「今回の戦は、どうやらこれからの命運を決める重要なものになりそうだな」

ライラは哀愁の漂う声音で千夜の背中に語りかける。

千夜は、その言葉を下唇を噛んで背中で受け止めた。

ライラは、自らの言葉に苦笑し、ベッドから立ち上がる。

「もう今日も終わる。明日はしっかり休めよ」

うん、とライラは軽く返し、千夜は部屋から出ていく。

ライラは見送ると、張り詰めていた息を長く吐いた。

休みに戻ってきたのに、戦争の話ばかりだ。もう、吸血鬼に耐えられるほど人間は我慢ができないのだろう。威厳というものがそれを許さない。さぞ、行きずらいことこの上ない。

「面倒臭い生き物だなぁ。ラクに生きればいいのに」

新たに力を求めなければ、こんな、自業自得と心から嗤えることはないだろう。

欲は欲を呼び寄せ、更なる悲劇をもたらす。

歴史をみれば一目瞭然のこと。歴史を勉強しているなら学んでいるはずだ。

どこから人間は始まったのか。

欲に従順になった者を出発点として、ジリジリと巻き込まれていく。関係のない者も知らずのうちに巻き込まれ、犠牲者と成り果てる。確かに傍から見れば滑稽なものだろう。だが、その事件に巻き込まれたのは他でもない吸血鬼であり、ライラである。至極迷惑な話だ。傍観するのは一向に構わないが巻き込まれるのは別だ。それも、ライラはほぼ中心に属している。当人も、ここまで深入りする必要が無いのだが、流れでこうなってしまったことを悔やむ。もう少し、位の小さい隊に捕まればよかっただろうか。乱暴に扱われても、簡単に屈することはないし、そっちのほうがよかったのかもしれない。

だが、これからのことを考えれば、長と面会でき、戦にも参加できる、位の高いほうが丁度よかったのかもしれない。

矛盾するような話を考えながら、ライラは外を見る。

外は既に暗くなり、月が雲から見え隠れしている。月光は辺りを照らし、若葉でさえも幻想的に魅せる。

雲から差し込む光はまさに神光とも比喩できるだろう。

その神光はむしろなにか忠告しているようにも思える。

大きな戦の前にありがちなものだろう。このような現象が起こるのは大体歴史の改変のときだ。

目に焼き付けておくには充分な美しさである。

ぼんやりと見つめていると、なにか気配がする。それも、窓の向こう側だ。

違和感を感じ、ライラはベッドにかけてあった天叢雲剣を手に取り、構える。殺気を放ち、牽制しながら、慎重に窓に歩み寄る。

少しずつ忍び寄り、窓の鍵に手を伸ばす。

鍵を開けて、少しの間のあと、一気に開く。

気配はその音に気付き、こちらに姿を現す。こちらを見ると、なにやら武器を放ってくる。顔は影で見えなかったが、ライラは、投擲されたその武器を瞬時に避け、天叢雲剣を首筋を狙って突き出す。ピタリとまさに寸止めでライラは突き出そうとした手を止める。

詰めた息をゆっくりと吐き、目の前にいる人物に鋭い視線を向ける。

そこには、両手を上げ、肩を震わせているノルがいた。

ノルの頭には、肩と同じく震えている髪色と同じ桃色の尖った耳がある。

さらに、ノルの奥には、ニルがまたもやノルと同じような、髪色と同色の赤紫色の耳を頭上に乗せ、深く溜息をついた。

二人の異様な姿に、ライラは納得し、天叢雲剣を鞘に収めた。

カチャリと、しっかり鞘に収められたのと同時に、ノルが安堵の息をついた。

ライラはキッ、と鋭い目線を送り、口を動かす。

「で。どうしたの?」

嘘は許さんとばかりの覇気を小さい身体から放ち、ノルの返答を待つ。

「人狼になってまですることってなに?」

さらに問いかけ、答えが出しやすいように仕向ける。

「あ、あの·····その·····」

紛れもない、狼のような姿のノルはしどろもどろになる。
人狼。

それは、滅びかけている種族の一つ。満月の力によって狼となる狼男とは違い、自らの意思で人狼の姿へと変わることができる種族。人並み以上の力を持ち、”血解”という力を解放できる者は吸血鬼にも並びかねない。そして、ノルとニルは、血解を使える、数少ない人材である。

ノルは、表情を緩ませず、まずは部屋に上がり込む。

これも、窓からひょいっと自分の身丈はありそうな高さを乗り越え、着地する。

ニルも、呆れたように上がり込む。

覇気を消し、ライラはノルの言葉を待つ。

「主。千夜と話し込まれているようなので、陰から見守っていただけでございます。先ほどは、ただノルが主様を元気づけようと、驚かせるために行いました」

ニルは、目を泳がせているノルに助け舟をだす。目を伏せ、事実のみを述べるニルに、ライラはそう、と相槌を打つ。

少し考えたあと、ライラは少し照れくさそうに、あえてノルのほうを向かず、腕を組む。

「心配は結構。ノルが不審者として扱われるほうが心配だ。不自然な行動はしないで。むしろ気になる」

ぶつぶつとなにかいうが、その声はノルとニルには届かない。

二人は耳をひょこひょこ動かし、首を傾けるが、ライラはなんでもない、と問わせる隙をなくす。

「とりあえず、今日のところは寝ますか。明日はゆっくり休もう」

「そうですね!   明日はなにかお菓子でも作りましょう!」

「そしたら、紅茶もいれなければいけませんね。良いのを用意しておきます」

ノルは、さっきの話を忘れたかのように目を輝かせ、冷蔵庫の中をみる。

ニルは微笑みながら、寝巻きの準備をする。

そしてライラは、窓を閉めてからカーテンをして、戸締りをする。

ほんの少しだけ夜空をみて、僅かに微笑む。

「明後日か······。私も星になるのかな·····?」

ぽつりと呟いた声は、誰の耳にも入らず、空に溶けた。
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