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第十八章~心の行方~
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よくわからない。
暗い、暗いところ。視界には、自分の近くのみで、真っ暗闇だけが辺りの風景。
五感の全てがまともに機能しない。なんにも感じない。あるのはただ孤独だけ。
何かを紛らわすため、膝を抱く。体が自分のものではなくなったかのように、なにか抜け落ちている。
「なにがあったんだろ。千夜たちは無事かな?」
グレンから例のことを聞いた。
私は、ライラでもイリスでもない。パラダイムシフトより生まれた、本来いるはずのない存在。その目的は、この世を終わらせるため。表面上、禁忌を犯した人間を罰する。終わりをもたらす存在。
吸血鬼と人間を繋げる架け橋になりたかったのに、むしろ壊してしまっている。というか、全て、壊してしまう。なにもかも、この星ごと。
「もはや死神なのかな。なんつー冗談よ」
乾いた笑いが寂しく響く。
それを聞き、もっと寂しくなる。
「千夜たちと、最後まで戦いたかったな。こんなことになるんじゃ、もっとグレンとたわいない日々を過ごせばよかったなぁ」
未練がましい言葉は、傍から見れば恋する乙女だ。三角関係になりかけていることを知らないのだから、鈍感なのだろう。
溜め息を長くつき、掌を見る。
「来い。イラのグリモワール。我にその姿を見せよ」
まるで、元々知っていたかのように、スラスラと言葉が紡がれる。けれど、それは見たこともない古い本。この記憶錯誤がきっと証明になる。なってしまう。
「こんな古いものが、終わりをもたらすとはな。先人の偉大な功績ではなかろうな」
もう笑うしかなく、込み上げてくる笑いを噛み殺す。投げやりになるのもしかたがない。願っていることと違うのだから。結果的には同じであれど、こうもやり方が違えばなんのためにやるのかが分からなくなってくる。
「世界を破壊ね······。あの世で両種族は仲良く出来んのかな」
破壊すれば、一方的に押しつけているだけ。それでは意味がない。互いの同意の上でなければならない。今後を左右することなのだから。あちらにその気があればいいのだが。
「しっかし。これはこれはやばそうなものよ。たったこれだけで世界を破滅に追いやるなど。理から大それたことをしてくれる。むしろ面白くなりそうじゃな」
噛み殺した笑いが響き、さも他人事のように嗤う。現実から切り離されたのだから、もうどうすることもできまい。方法が分からない。変に動いても、それがアウトコースに入るなら、動かない方がまだマシ。全くもって先の見えない道に、もはや楽しみを待つしかない。一人しかいない今、何ができるというのだろう。ここで諦めてはダメだと、きっと千夜はいうに違いない。だが、後にも先にも道がないのに、どう進めばいいのが分からない。
「グレンの話が本当であれば、私はきっと、現実で暴れているに違いないな。そしてそれは未だ前兆。私自身が何かをしたときに発動するんじゃろうか」
そこで、おや? と首を傾げる。
「おいおい。ここでイリスの口癖が移ったのではなかろうか。ならば、もう終わりは近いのか? この本も今なら読めるのでは?」
今更気付いた、自分の老人口調に、呆れがさしてくる。
こんなに悪化したら、もうなす術がなさそうだ。現実の人に頑張ってもらいたい。
古い本は、確か文字が古代の魔界のものだから、イリスにしか読めないはずだ。となると、これが読めればイリスであるということになる。
「読めれば、この状況も分かるはず·······やってみる価値はありそうじゃな」
本を開く。目次を見れば、どうやら最後のほうが危ないものらしい。
早速、最後のほうを開き、頁を捲っていく。
再生、時操作、入れ替わり、乗っ取り、などなど。理を捻じ曲げるような内容のものばっかりだった。
「む。これは······」
目に留まったのは、ある頁。詳しく見てみると、内容はすぐわかった。
「蘇生の天使?」
天使の様子が描かれ、その天使の手元には筒がある。
みたところ、ラッパのようだった。
「黙示録のラッパか?! ならば、この天使はラッパ吹き·······」
読み進めていけば、曖昧だが、なんとなくわかる。
「『蘇生の天使を召還せし者、対価を捧げるべき。終わりを用いて再生をもたらす。失われた息吹を取り戻すには、始まりと終わりの音色を響かせる。終わりとともに、再生は現れたり。終わらせる者、最後の音色を響かせる。さすれば天使は舞い降り、再生をもたらさん』」
声に出して、噛み締めるように復唱する。
しばらくの間、知識から似たようなものを引き出す。
「か、書くものがほしいのぅ·····」
頭の中だけでは整理ができず、思わず呟く。
すると、なぜかその呟きに答えたかのように、ペンと紙が目に入った。
「い、イリスってほんとすごかったんじゃな」
改めて関心して、手に取る。
「黙示録のラッパは全てで七つ。これは、人間に改心する時間をもたらすという。ならば、終わるのは第七のラッパがなったとき。これが、終わらせる者がならすラッパ。というと、それまでは終わらせる者以外がならす。この世に起こった異変······それはきっと荒廃したことと、種族がでてきたこと。まてよ。なら、第一から第六までの間で、種族は生まれていたということか?」
今のところ、確認されているのは、人間、ケットシー、人狼、セイレーン、エルフ、ドラゴン、吸血鬼。この七つの種族。それ以外は、まだ出現したという報告がきていない。
「七つの種族。ちょうどラッパと同じ数。きっと、最後の種族は吸血鬼だろうな。他の種族より明らかに強い。なら、第七ラッパと同時。吸血鬼を生んだやつということになるから········。え」
思わずたどり着いた答えに思考がとまる。
グレンの話を信じるならば、私はパラダイムシフトで生まれ、そして吸血鬼を生んだ。
「この終わらせる者は私なのか。だが、吸血鬼を生んだのは他の誰でもなく私自身の行為。グレンは終わらせるためと言っていた。じゃあ、私は最後の第七ラッパ·······? だが、なぜ私が生まれた。それまでのラッパはもうなったのか。では、誰が·······。っ、人間? 人間が第六ラッパまでならしたのか。その理由は、蘇生の天使を召還するため。綺麗なほど繋がるなぁ。人間は何を蘇生しようとしている? これまで失くした仲間? やりかねんな。確か、死人の記録があったはず。これまで、この実験をしているのならば、死人の記録があるやつが完全でなくとも蘇生していればこの世にいるはず。ラッパが次々なるのは改心していないからだろうな。蘇生の実験を続けてるのか」
そこまで考えて、新たに出てくる本を手に取る。
これもまた、厚くて読むのには骨が折れそうだ。
「うわっ。めんど」
見るなり読む気をなくし、魔術に頼る。
「我、イリスの名において、我が知り合いの名を映すべし」
本の上にてをかざし、唱えれば、ひらひらとひとりでに頁が捲られる。
捲られているのだから、いるのだ。知り合いに。日本帝国軍の人は大抵面識がある。誰かは見れば分かるだろう。
「あ、止まった」
気付けば、パタリと止まり、赤いラインが引かれている。きっと、この赤で示されたのが知り合いなのだろう。
「はてさて誰かねぇ」
もう気が抜け、そこまでやる気が出ていないなか、赤で引かれたところを読む。
「なっ·······」
その事実に、声を出してまで驚かざるを得なくなる。
「ありえんことよ。なぜ、あいつらが載っている?!」
声を荒らげて地を叩く。
そこに、載せられていた名は――。
駿、薫、隼人、梓、小春だった。
それも、他に赤い線が引かれたところはなく、この五人のみが死者とされていたのだ。さらに、この五人は、ほぼ同時刻、同じ場所で殺されており、また、殺した人物も同じだった。
ここまで同じだと、偶然などとはとても思えず、千夜の仲間だけが死んでいることが分かる。
「まさかだが、千夜が蘇生の天使を召還したのか?」
むむっ、と更に考え込むライラ。
ここには誰もおらず、ライラの問いにも答えてくれる人はいない。けれど、ライラは声に出して、情報を整理する。
隅は見えないが、とても広い空間だ。ライラの声が一切反響しない。ただ、本を捲る音や、服の擦れる音、ライラの息遣いなど、他者からの音は感じない。完全に、孤立した空間だ。どこなのかもわからない今、ただ目の前にある疑問を解くしかないのである。
「蘇生の天使の前座が黙示録のラッパか。これは悪趣味なことこの上ないな。しかも、全てなった時に発動だと? 笑わせてくれる。·······じゃが、なぜ私はまだ終わりを告げていないのに、この五人は蘇生しておるんじゃろうか。始まりと終わりの音を響かせる·······。つまりは、第一ラッパと第七ラッパのどちらかを吹けば発動するのか? そしたら、最後に、死んだ仲間を蘇生させるのか」
迷宮入りしそうな疑問に、ぐぬぬと苦戦する。
この黙示録のラッパも、ただの方法。そこまでして蘇った人間も、不完全な状態だ。
「仲間のためならなんでもする。·······なんて強欲だろう。泥沼にハマっていくだけではないか。クックック」
嘲笑うかの如く噛み殺した笑いは、虚しくも宙を漂う。
もうこの空間に慣れたとでもいうように、ライラは特に感傷せず、思考を巡らす。
「さてね。整理するか。蘇生の天使を召還するには、黙示録のラッパを吹かなければならない。そして、初めと終わりのラッパ、どちらかを吹けば始まる。さらに、ラッパが鳴るごとに種族が出てくる。最後の第七ラッパは私。その破滅はまだ行われておらず、これからということになる。そうすれば、みな滅ぶ······。なら、やる意味はないのではないか? もしやるなら、制御しないとだよな。そしたら、人間にはその力がある。私は確か、アジ・ダカーハだから、それなりに強いはず。人類最終試練なのだからな」
ふむ、と頷きながら整理する。
ここまでくれば、もうだいぶ謎は解けた。
けれど、問題はあと一つある。
「私はパラダイムシフト。しかも、アジ・ダカーハとして存在する、第七ラッパ。今はその化身とも言うべき悪魔が暴れてる。悪魔はパラダイムシフトにより生まれるから、ここは特になにもないな。ただ、どうやって抑えるか。こっから全魔力をぶっ放す? なにか唱える? よくわからんなぁ」
『ここまで来たのですね、アジ・ダカーハ』
苦闘しているとなにか声が聞こえてくる。
体がビクンッと跳ね、思わず後退する。
辺りを見渡すが、誰もいない。
「っ。誰だ! 姿を現さんか!!」
膨大な覇気を放ち、牽制する。
だが、声は未だ響き、ふふふ、と不気味に笑っている。
『妾は天使である。光栄に思え、アジ・ダカーハ。本来は出るべきではないのだがやむを得ない状況なのでな』
「ほほう? それは興味深い話だな。天使とは、実に突拍子もない」
『無知ですね。妾たち、天使を知らないなど。······まあ、いいでしょう。それよりも、ここから出してあげましょう。けれど、それまであなたの体が保っているでしょうかね。大きな力を持った者は、いずれ滅ぶ。あなたもわかっているのでは?』
頭の中に響いていると思い、牽制をやめ、黙り込む。
確かに、なにかの余波は感じ取っていた。風邪を引いた時、休日前。色んな場面で、自分の終わりを感じていたように思える。
いつも、空を見上げ、遠いところを見るように。
「かもな。だが、それも摂理。私は不死身であるが、もうそうではないだろう。いつか朽ちて、地となり見守る。それが私の終末だ。その前に、まずは中立せねばならんのだ。だから、まずはここからでる」
決意を見せ、ぐっと拳を握る。
自分を鼓舞し、自称天使に言い放つ。
天使はしばらく黙ると、ふっと笑った。
『あなたも、成長したようですね。いいでしょう。出します』
「これで、イリスの願いを·······」
天使の言葉に、念願を果たす実感を得る。
道のりはながく、ましてや死ねない体だ。これで、死ねるならば、功績をあげなければいけない。それで全ての片をつける。
『あ、あぁ。そうなのか』
なぜか納得し始めた天使に、疑問の顔を上げる。
『あなたはもう解放されるのですよ。私が出る幕はなさそうですね。ふふっ。そして、いずれ、あなたは妾の力を借りに来る。そう、演奏するの。最後の音色を。·······じゃあ、また今度ね』
意味深なセリフだけ残し、声は聞こえなくなった。
全く理解が追いつかないまま、呆然と立っていると、光が見えた。
恐らく、開放されるんだ。はやく、表に出たら悪魔を止めなければならない。そうしなければ、千夜たちに迷惑がかかってしまう。なんとしてでも食い止めなければならない。
より一層決意を固め、ライラは光の方へと歩んだ。
「ぐはぁっ!! なんで······こんな、ことに······」
荒い息をしながらも、胸を抑え、膝から崩れ落ちる。
そして、脳裏に全てが浮かぶ。
それで、理解する。なぜ光が見えたのかを。
きっと、そうなのだ。狂った挙句に殺され正気を戻す。定番なものだ。
溢れる紅色は、川のように流れ、血溜まりとなる。そこにひらりと舞い散る白髪は、おそらく自分のもの。自分で見ても、綺麗だと思った。白髪が紅く染められる。とめどなく溢れる血は、大地を濡らし、綺麗に染めた。血と、死の匂いがする。戦場であることは間違いない。
場所を確認して、鞭打ってでも足を地に立てた。
誰もが、驚愕の表情。それはきっと、戻ってきたライラを傷つけてしまったからだろう。
後ろを振り向けば、仮面を被った、けれどボロボロな吸血鬼がいた。きっと、この人がやってくれたのだ。顔が見えなくとも、誰かはわかる。その事実に、ほんの少し、安堵の表情を向ける。その吸血鬼は、掠れた声を出して、後悔をしているだろう。罪悪感に、苛まれるだろう。だが、おかげで戻ってこれたのだ。なにか、言ってやらねばならない。
吸血鬼に近付き、しっかりと地を踏む。最後の地上となるだろうから。
物寂しく、ライラは口を開く。
言い終わったところで、力が抜けてしまい、前に倒れ込む。その体を、吸血鬼が受け止めてくれる。温かかった。吸血鬼にあるはずのない温もり。けれど、それが感じられた。もう、まともに動けない。指一本動かすことさえままならない。
吸血鬼に支えてもらい、ライラは告げた。己の全てを。願いを。
そして、ライラは星となる。
暗い、暗いところ。視界には、自分の近くのみで、真っ暗闇だけが辺りの風景。
五感の全てがまともに機能しない。なんにも感じない。あるのはただ孤独だけ。
何かを紛らわすため、膝を抱く。体が自分のものではなくなったかのように、なにか抜け落ちている。
「なにがあったんだろ。千夜たちは無事かな?」
グレンから例のことを聞いた。
私は、ライラでもイリスでもない。パラダイムシフトより生まれた、本来いるはずのない存在。その目的は、この世を終わらせるため。表面上、禁忌を犯した人間を罰する。終わりをもたらす存在。
吸血鬼と人間を繋げる架け橋になりたかったのに、むしろ壊してしまっている。というか、全て、壊してしまう。なにもかも、この星ごと。
「もはや死神なのかな。なんつー冗談よ」
乾いた笑いが寂しく響く。
それを聞き、もっと寂しくなる。
「千夜たちと、最後まで戦いたかったな。こんなことになるんじゃ、もっとグレンとたわいない日々を過ごせばよかったなぁ」
未練がましい言葉は、傍から見れば恋する乙女だ。三角関係になりかけていることを知らないのだから、鈍感なのだろう。
溜め息を長くつき、掌を見る。
「来い。イラのグリモワール。我にその姿を見せよ」
まるで、元々知っていたかのように、スラスラと言葉が紡がれる。けれど、それは見たこともない古い本。この記憶錯誤がきっと証明になる。なってしまう。
「こんな古いものが、終わりをもたらすとはな。先人の偉大な功績ではなかろうな」
もう笑うしかなく、込み上げてくる笑いを噛み殺す。投げやりになるのもしかたがない。願っていることと違うのだから。結果的には同じであれど、こうもやり方が違えばなんのためにやるのかが分からなくなってくる。
「世界を破壊ね······。あの世で両種族は仲良く出来んのかな」
破壊すれば、一方的に押しつけているだけ。それでは意味がない。互いの同意の上でなければならない。今後を左右することなのだから。あちらにその気があればいいのだが。
「しっかし。これはこれはやばそうなものよ。たったこれだけで世界を破滅に追いやるなど。理から大それたことをしてくれる。むしろ面白くなりそうじゃな」
噛み殺した笑いが響き、さも他人事のように嗤う。現実から切り離されたのだから、もうどうすることもできまい。方法が分からない。変に動いても、それがアウトコースに入るなら、動かない方がまだマシ。全くもって先の見えない道に、もはや楽しみを待つしかない。一人しかいない今、何ができるというのだろう。ここで諦めてはダメだと、きっと千夜はいうに違いない。だが、後にも先にも道がないのに、どう進めばいいのが分からない。
「グレンの話が本当であれば、私はきっと、現実で暴れているに違いないな。そしてそれは未だ前兆。私自身が何かをしたときに発動するんじゃろうか」
そこで、おや? と首を傾げる。
「おいおい。ここでイリスの口癖が移ったのではなかろうか。ならば、もう終わりは近いのか? この本も今なら読めるのでは?」
今更気付いた、自分の老人口調に、呆れがさしてくる。
こんなに悪化したら、もうなす術がなさそうだ。現実の人に頑張ってもらいたい。
古い本は、確か文字が古代の魔界のものだから、イリスにしか読めないはずだ。となると、これが読めればイリスであるということになる。
「読めれば、この状況も分かるはず·······やってみる価値はありそうじゃな」
本を開く。目次を見れば、どうやら最後のほうが危ないものらしい。
早速、最後のほうを開き、頁を捲っていく。
再生、時操作、入れ替わり、乗っ取り、などなど。理を捻じ曲げるような内容のものばっかりだった。
「む。これは······」
目に留まったのは、ある頁。詳しく見てみると、内容はすぐわかった。
「蘇生の天使?」
天使の様子が描かれ、その天使の手元には筒がある。
みたところ、ラッパのようだった。
「黙示録のラッパか?! ならば、この天使はラッパ吹き·······」
読み進めていけば、曖昧だが、なんとなくわかる。
「『蘇生の天使を召還せし者、対価を捧げるべき。終わりを用いて再生をもたらす。失われた息吹を取り戻すには、始まりと終わりの音色を響かせる。終わりとともに、再生は現れたり。終わらせる者、最後の音色を響かせる。さすれば天使は舞い降り、再生をもたらさん』」
声に出して、噛み締めるように復唱する。
しばらくの間、知識から似たようなものを引き出す。
「か、書くものがほしいのぅ·····」
頭の中だけでは整理ができず、思わず呟く。
すると、なぜかその呟きに答えたかのように、ペンと紙が目に入った。
「い、イリスってほんとすごかったんじゃな」
改めて関心して、手に取る。
「黙示録のラッパは全てで七つ。これは、人間に改心する時間をもたらすという。ならば、終わるのは第七のラッパがなったとき。これが、終わらせる者がならすラッパ。というと、それまでは終わらせる者以外がならす。この世に起こった異変······それはきっと荒廃したことと、種族がでてきたこと。まてよ。なら、第一から第六までの間で、種族は生まれていたということか?」
今のところ、確認されているのは、人間、ケットシー、人狼、セイレーン、エルフ、ドラゴン、吸血鬼。この七つの種族。それ以外は、まだ出現したという報告がきていない。
「七つの種族。ちょうどラッパと同じ数。きっと、最後の種族は吸血鬼だろうな。他の種族より明らかに強い。なら、第七ラッパと同時。吸血鬼を生んだやつということになるから········。え」
思わずたどり着いた答えに思考がとまる。
グレンの話を信じるならば、私はパラダイムシフトで生まれ、そして吸血鬼を生んだ。
「この終わらせる者は私なのか。だが、吸血鬼を生んだのは他の誰でもなく私自身の行為。グレンは終わらせるためと言っていた。じゃあ、私は最後の第七ラッパ·······? だが、なぜ私が生まれた。それまでのラッパはもうなったのか。では、誰が·······。っ、人間? 人間が第六ラッパまでならしたのか。その理由は、蘇生の天使を召還するため。綺麗なほど繋がるなぁ。人間は何を蘇生しようとしている? これまで失くした仲間? やりかねんな。確か、死人の記録があったはず。これまで、この実験をしているのならば、死人の記録があるやつが完全でなくとも蘇生していればこの世にいるはず。ラッパが次々なるのは改心していないからだろうな。蘇生の実験を続けてるのか」
そこまで考えて、新たに出てくる本を手に取る。
これもまた、厚くて読むのには骨が折れそうだ。
「うわっ。めんど」
見るなり読む気をなくし、魔術に頼る。
「我、イリスの名において、我が知り合いの名を映すべし」
本の上にてをかざし、唱えれば、ひらひらとひとりでに頁が捲られる。
捲られているのだから、いるのだ。知り合いに。日本帝国軍の人は大抵面識がある。誰かは見れば分かるだろう。
「あ、止まった」
気付けば、パタリと止まり、赤いラインが引かれている。きっと、この赤で示されたのが知り合いなのだろう。
「はてさて誰かねぇ」
もう気が抜け、そこまでやる気が出ていないなか、赤で引かれたところを読む。
「なっ·······」
その事実に、声を出してまで驚かざるを得なくなる。
「ありえんことよ。なぜ、あいつらが載っている?!」
声を荒らげて地を叩く。
そこに、載せられていた名は――。
駿、薫、隼人、梓、小春だった。
それも、他に赤い線が引かれたところはなく、この五人のみが死者とされていたのだ。さらに、この五人は、ほぼ同時刻、同じ場所で殺されており、また、殺した人物も同じだった。
ここまで同じだと、偶然などとはとても思えず、千夜の仲間だけが死んでいることが分かる。
「まさかだが、千夜が蘇生の天使を召還したのか?」
むむっ、と更に考え込むライラ。
ここには誰もおらず、ライラの問いにも答えてくれる人はいない。けれど、ライラは声に出して、情報を整理する。
隅は見えないが、とても広い空間だ。ライラの声が一切反響しない。ただ、本を捲る音や、服の擦れる音、ライラの息遣いなど、他者からの音は感じない。完全に、孤立した空間だ。どこなのかもわからない今、ただ目の前にある疑問を解くしかないのである。
「蘇生の天使の前座が黙示録のラッパか。これは悪趣味なことこの上ないな。しかも、全てなった時に発動だと? 笑わせてくれる。·······じゃが、なぜ私はまだ終わりを告げていないのに、この五人は蘇生しておるんじゃろうか。始まりと終わりの音を響かせる·······。つまりは、第一ラッパと第七ラッパのどちらかを吹けば発動するのか? そしたら、最後に、死んだ仲間を蘇生させるのか」
迷宮入りしそうな疑問に、ぐぬぬと苦戦する。
この黙示録のラッパも、ただの方法。そこまでして蘇った人間も、不完全な状態だ。
「仲間のためならなんでもする。·······なんて強欲だろう。泥沼にハマっていくだけではないか。クックック」
嘲笑うかの如く噛み殺した笑いは、虚しくも宙を漂う。
もうこの空間に慣れたとでもいうように、ライラは特に感傷せず、思考を巡らす。
「さてね。整理するか。蘇生の天使を召還するには、黙示録のラッパを吹かなければならない。そして、初めと終わりのラッパ、どちらかを吹けば始まる。さらに、ラッパが鳴るごとに種族が出てくる。最後の第七ラッパは私。その破滅はまだ行われておらず、これからということになる。そうすれば、みな滅ぶ······。なら、やる意味はないのではないか? もしやるなら、制御しないとだよな。そしたら、人間にはその力がある。私は確か、アジ・ダカーハだから、それなりに強いはず。人類最終試練なのだからな」
ふむ、と頷きながら整理する。
ここまでくれば、もうだいぶ謎は解けた。
けれど、問題はあと一つある。
「私はパラダイムシフト。しかも、アジ・ダカーハとして存在する、第七ラッパ。今はその化身とも言うべき悪魔が暴れてる。悪魔はパラダイムシフトにより生まれるから、ここは特になにもないな。ただ、どうやって抑えるか。こっから全魔力をぶっ放す? なにか唱える? よくわからんなぁ」
『ここまで来たのですね、アジ・ダカーハ』
苦闘しているとなにか声が聞こえてくる。
体がビクンッと跳ね、思わず後退する。
辺りを見渡すが、誰もいない。
「っ。誰だ! 姿を現さんか!!」
膨大な覇気を放ち、牽制する。
だが、声は未だ響き、ふふふ、と不気味に笑っている。
『妾は天使である。光栄に思え、アジ・ダカーハ。本来は出るべきではないのだがやむを得ない状況なのでな』
「ほほう? それは興味深い話だな。天使とは、実に突拍子もない」
『無知ですね。妾たち、天使を知らないなど。······まあ、いいでしょう。それよりも、ここから出してあげましょう。けれど、それまであなたの体が保っているでしょうかね。大きな力を持った者は、いずれ滅ぶ。あなたもわかっているのでは?』
頭の中に響いていると思い、牽制をやめ、黙り込む。
確かに、なにかの余波は感じ取っていた。風邪を引いた時、休日前。色んな場面で、自分の終わりを感じていたように思える。
いつも、空を見上げ、遠いところを見るように。
「かもな。だが、それも摂理。私は不死身であるが、もうそうではないだろう。いつか朽ちて、地となり見守る。それが私の終末だ。その前に、まずは中立せねばならんのだ。だから、まずはここからでる」
決意を見せ、ぐっと拳を握る。
自分を鼓舞し、自称天使に言い放つ。
天使はしばらく黙ると、ふっと笑った。
『あなたも、成長したようですね。いいでしょう。出します』
「これで、イリスの願いを·······」
天使の言葉に、念願を果たす実感を得る。
道のりはながく、ましてや死ねない体だ。これで、死ねるならば、功績をあげなければいけない。それで全ての片をつける。
『あ、あぁ。そうなのか』
なぜか納得し始めた天使に、疑問の顔を上げる。
『あなたはもう解放されるのですよ。私が出る幕はなさそうですね。ふふっ。そして、いずれ、あなたは妾の力を借りに来る。そう、演奏するの。最後の音色を。·······じゃあ、また今度ね』
意味深なセリフだけ残し、声は聞こえなくなった。
全く理解が追いつかないまま、呆然と立っていると、光が見えた。
恐らく、開放されるんだ。はやく、表に出たら悪魔を止めなければならない。そうしなければ、千夜たちに迷惑がかかってしまう。なんとしてでも食い止めなければならない。
より一層決意を固め、ライラは光の方へと歩んだ。
「ぐはぁっ!! なんで······こんな、ことに······」
荒い息をしながらも、胸を抑え、膝から崩れ落ちる。
そして、脳裏に全てが浮かぶ。
それで、理解する。なぜ光が見えたのかを。
きっと、そうなのだ。狂った挙句に殺され正気を戻す。定番なものだ。
溢れる紅色は、川のように流れ、血溜まりとなる。そこにひらりと舞い散る白髪は、おそらく自分のもの。自分で見ても、綺麗だと思った。白髪が紅く染められる。とめどなく溢れる血は、大地を濡らし、綺麗に染めた。血と、死の匂いがする。戦場であることは間違いない。
場所を確認して、鞭打ってでも足を地に立てた。
誰もが、驚愕の表情。それはきっと、戻ってきたライラを傷つけてしまったからだろう。
後ろを振り向けば、仮面を被った、けれどボロボロな吸血鬼がいた。きっと、この人がやってくれたのだ。顔が見えなくとも、誰かはわかる。その事実に、ほんの少し、安堵の表情を向ける。その吸血鬼は、掠れた声を出して、後悔をしているだろう。罪悪感に、苛まれるだろう。だが、おかげで戻ってこれたのだ。なにか、言ってやらねばならない。
吸血鬼に近付き、しっかりと地を踏む。最後の地上となるだろうから。
物寂しく、ライラは口を開く。
言い終わったところで、力が抜けてしまい、前に倒れ込む。その体を、吸血鬼が受け止めてくれる。温かかった。吸血鬼にあるはずのない温もり。けれど、それが感じられた。もう、まともに動けない。指一本動かすことさえままならない。
吸血鬼に支えてもらい、ライラは告げた。己の全てを。願いを。
そして、ライラは星となる。
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だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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