死神の仕事も楽ではない!

水瀬 潤

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ー始まりー

序章

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『たっ…ただ今っ!連続殺人事件の犯人の判決が決まりました。死刑です…!』
 朝からテレビでは連続殺人事件について熱く語っている。先月から度々起きる自殺が、この犯人によるものとわかったのはつい三日前ほどのことである。
 この犯人はまだ未成年の子供、十八歳の少女で一ヶ月で何十人もの死者が出たらしい。全て自殺に見せかけたもので、何よりも不可解なのは……
『いや~。それにしても、親御さんたちはこの判決をどう思っているのでしょうかね。被害者の家族は願ってもないことでしょうが、この犯人の情報は一つもないのでしょう?』
 そう。犯人は自分の犯行は認めるものの、個人情報については何も語らず、ましてや、家族の情報までもがない。どこを調べても履歴がなく、SNSなどでは
〝死神だ、こいつwww〟
と、ばかり呟かれている。

 それにしても。少女が車に乗って移動をする際、チラッと見えたあの目。
 全ての色や光を失ったかのような何も映らないあんな目……初めて見た。

「あんた、今日こそは学校行きなさいよ。」
 不意に、母が喋りかけてきたので固まった状態になった。
 だが、母は言い終えるとすぐに仕事へ行ってしまった。何も知らないくせに。
 学校へ行ってはいじめられ。休めば、母に責められる。そんな日々が続き、生きるのが嫌になってきた。
「はぁ……いっそのこと、この犯人。私のことも殺してくれればよかったのになぁ。」
そんな言葉がつい出てしまった。



 日本での犯人死刑後、空の国では天国か地獄へ逝くかの裁判が行われていた。
 裁判は、地獄側、天国側、心を読める裁判長の三人によるもので、いつもは一人五分もかからない。生きている時に罪を犯した者は多くが地獄逝きなので、すぐに判決はでる。はずなのだが……
「なぜじゃっ!?こやつは連続殺人犯なのじゃぞ?話し合うまでもなく、地獄逝きじゃないか。なのに、なぜ止めるんじゃ!裁判長っ!!」
 地獄側の意見を見下ろす形でしかない目をした裁判長に対して、いつもはなるべく天国に逝くようサポートする天国側も同じ意見を持っていた。
「裁判長……妾も同じ意見ですわ。いくら裁判長がこの子の心を読めていたとしても、日本で多くの人を殺したことを、この子自身が認めていますわ。それ以外何も語らないのであれば、仕方ないと思われます。それに、もしこの子が天国へ来れば、騒ぎになるに違いありませんわ。」
 意見が聞こえないかと思えるぐらい、表情を一切変えずに少女の魂を見つめる裁判長。しばらくの沈黙は裁判長自らが破った。
「魂よ……なぜ何も言わん?私は見えているのだぞ?お前がその事実を言えば、助かると言うのにな。」
 先程と表情を全く変えずに質問する裁判長。そして、何も語らない魂。
 少しだけ裁判長の口角の端が上がって、透き通るような声が響き渡った。
「判決を下そう!こいつは……!!!」

 この判決に誰もが謎を増やすばかりだった。
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