死神の仕事も楽ではない!

水瀬 潤

文字の大きさ
上 下
2 / 2
第1章 死神課の仕事

1,新人の死神 08.01

しおりを挟む
「今日からお世話になります、水瀬 潤です。よろしくお願いしますっ!」
 よし。上手くいった。
 先程までバクバクと鳴っていた心臓が落ち着きかけている。三人の人に見つめられる中、まだ少し残っている緊張を隠すように、必死に笑顔を作る。
 拍手が起こり、初めに話かけてくれた人は男の人だった。
「僕は“松阪 悠斗”だよ。よろしくね。」
 優しく微笑む姿とその美しい容姿にうっとりとしてしまう。天然パーマで金色といった、目が潰れるほどの眩しさを持った髪が短めに切られている。空のような碧い目で見つめられれば、少し顔が赤めてくる。しばらくの間目が合い、慌てて続く言葉を言う。
「はっ……はい!新参者ですが、しっかりとお仕事を勤めてみせます。……と、言いたいのですが、私、恥ずかしながらこの《死神課》について何も知らなくて……」
 あらら、と言う松阪先輩に変わってこの場で唯一の黒髪ストレートロングの美しい女の人が説明を始める。
「あら、まだ聞かされてなかったの?ちなみに私は、“西山 かりん”よ。仕方ないから私が説明してあげる。私たちの仕事は死んだ人のお迎えにいく、という死神の仕事としてメジャーなものよ。みんな、それぞれ能力を持っていて、例えば私は《地震》の影響で出る死者が予知できるし……」
 言い終わる前に西山先輩がチラッと松阪先輩の方を見る。すると、空気を読んだかのように頷いてから喋り始めた。
「うん。僕は《火事》がいつどこで起きるかがわかるんだ。そして……」
 この場にいた最後の一人である男の人に全員の視線が集まった。ゴホンッと咳払いをしてから図太い声が放たれる。
「俺はここの課長をしている“荒井 真太郎”だ。ちなみに《海》の能力を持っている。海で起きる事故全ての情報が三日前までにわかる。」
 中年だが、マッチョな体つきで灰色の髪を刈り取った髪型をしている人にしては、可愛らしい名前だったので驚いたものだ。三人の軽い自己紹介が終わったところで視線は自分に集まった。
「……で、あなたはどんな能力を持っているの?まさか、それもわからないと言い出すんじゃないでしょうね?」
 ぐっと、痛いところを突かれたので、つい言葉に詰まってしまう。
「じ、実は。私、ここ一年間の記憶がなくてですね。目覚めた時は、天地裁判所?の裁判長さんがいて、ここに行けって言われたんです。本当に何もわからなくて……す、すみません。」
 さっきまで笑顔だった三人の顔が一気に青ざめたので、少し心配になった。
 私……変なこと言ったかな?
「あ、あの……?」
 ハッと我に戻った顔をした松阪先輩が変わらない青ざめた顔で聞き返す。
「今、《天地裁判所》とか《裁判長》って言ったかな?」
「は、はい。それが何か問題でもあるんですか?」
 つい、そんな疑問が思い浮かぶ。しかし、返ってきた言葉はさらに疑問が増えるだけだった。
「記憶がない……女の子。裁判所、裁判長。あぁ。そっか。なるほど、ね。うん。君のことが少しわかったよ。」
 一体、何を言っているのかわからない。ただ、三人の先輩全員が納得していて、自分が間違ったことを言っていなかったことに安心した。
 そして、しばらくの沈黙のあと、笑顔を取り戻した松阪先輩の一言は少し照れるものだった。
「よし。じゃあ、潤ちゃんは僕の弟子ね。いいですよね、課長?」
 話が勝手に進められ、頷く課長。少し慌てる西山先輩。笑顔がさらに満開になった松阪先輩。
「てことで、わからないこととかあったら、僕に聞いてね。仕事についても僕から専属で教えてあげるよ。」
「え、え……?どう言うことですか?」
 戸惑う自分に、先程とは一味違った笑顔を向け、からかうような言葉が次々と放たれる。
「んー。じゃあ、あとで僕の寮の部屋にきてよ。色々と教えてあ・げ・る♡」
 優しいという印象が一気に薄れ、その代わりにチャラいという印象が強まった。

 だけど、楽しい。なぜか落ち着く。こうやって話し合うの何年ぶりだろうか。ずっとこうなるのが夢だった……消えている記憶の奥底から何かが滲み出てきそうになる。

 そして、二週間後の悲劇は、さしもの未来予知ができる死神たちにも想像できないものだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...