伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン

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第26話

​「……ただいまぁ!」
​屋敷の重厚な扉が閉まる音が、戦いの終わりを告げた。
ローズ公爵家へのカチコミ――もとい、正当な権利主張を終え、無事帰宅した。
​「疲れたか、薫」
「ええ、まあ。……精神的に」
​俺がネクタイを緩めると、ガルドが背後からそっと抱きしめてきた。
大きな体温。
以前のような一方的な拘束ではない。包み込むような、優しいハグだ。
​「……ありがとう。君が止めてくれなければ、俺はあの一帯を更地にしていた」
「更地になったら困るのは俺ですよ。慰謝料が取れなくなりますから」
​俺は軽口を叩きながら、ガルドの腕に自分の手を重ねた。
​「でも……俺のために本気で怒ってくれたこと。……嬉しかったです」
「薫……」
​ガルドが俺の肩に顎を乗せる。
その吐息が、俺の耳をくすぐった。
​「……部屋に行こう。……君の顔を、もっと近くで見たい」
​   ◇
​寝室
薫グッズで埋め尽くされたその空間は、今や俺にとっても一番落ち着く場所になっていた。
​ベッドに腰を下ろすと、ガルドが俺の前に膝をついた。
英雄が、臣下のように傅(かしず)いている。
その碧眼が、真っ直ぐに俺を射抜いた。
​「……薫。以前、風呂場で言ったことを覚えているか」
「え? ああ……『匂いがなくても好きだ』ってやつですか?」
「そうだ」
​ガルドが俺の手を取り、指先一本一本に口付けた。
リップ音が、静かな部屋に響く。
​「あれは嘘じゃない。……君が『聖香』の持ち主でなくても、ただの事務員だとしても……俺は君を見つけて、君に惚れていただろう」
「……」
​卑怯だ。
そんな顔で、そんな声で言われたら、敵うわけがない。
​「……俺だって」
​俺は視線を逸らしながら、ボソリと言った。
​「俺だって、もう……あんたがいなきゃ駄目ですよ」
「薫?」
「あんたの馬鹿でかい背中も、暑苦しい体温も、俺を一番に考えてくれるその重たい愛も……ないと、生きていけない体になりました」
​言ってしまった。
顔から火が出そうだ。
でも、ガルドはパァッと顔を輝かせ、まるで尻尾を振る大型犬のように身を乗り出した。
​「……薫……!」
「わっ」
​俺はベッドに押し倒された。
ガルドの顔が近づいてくる。
いつものように首筋に行くのかと思いきや、ガルドの唇は、俺の唇に重なった。
​チュッ。
​柔らかく、深い口づけ。
呼吸を奪うためではない。愛を確かめ合うためのキス。
俺は自然とガルドの首に腕を回し、それに応えた。
​「……ん……ガルド……」
「……愛してる、薫」
​甘い空気が部屋を満たす。
これだよ。普通の恋人同士ってのは、こういう……。
​「……さて」
​不意に、ガルドの声色が一段低くなった。
目を開けると、そこには――獲物を前にした肉食獣の目があった。
​「ん?」
「……ここからは、『ご褒美』の時間だ」
「は?」
​ガルドの手が、俺のシャツのボタンが弾け飛ぶ勢いで引きちぎった。
​「ちょ、お気に入りのシャツ!」
「新しいのを百着買ってやる! ……それよりも、限界だ!!」
​ガルドが俺の胸板に顔を埋めた。
​「スゥゥゥゥゥッッッ!!!! ハァァァッ……!!!」
​掃除機の強モードだ。
さっきまでのロマンチックな雰囲気はどこへやら、ガルドは俺の鎖骨、胸、そして腹を猛烈な勢いで吸い込み始めた。
​「待っ、くすぐったい!」
「待たん! 公爵家では格好をつけていたが、俺の肺は君不足で酸欠寸前だったんだ!」
​ガルドの舌が、俺の乳首のあたりをザラリと舐め上げる。
​「ひっ!?」
「……んんッ! 甘い! 緊張の汗と、安堵の脂が混じり合い……極上のスープのようだ!」
「スープにするな!」
​ガルドは止まらない。
俺のベルトを外し、ズボンを引きずり下ろす。
そして、俺のへそに狙いを定めた。
​「そこは! そこは駄目だって!」
「ここが一番、匂いが溜まる聖域!!」
​ズボッ!!
​ガルドの鼻と口が、俺のへそに密着した。
​「んごぉぉぉぉぉぉッ!!!」
「おっさんの鼻息が直撃してる! 腹に響く!」
「スゥーッ……! 香ばしい……! 野生の薫りだ……! 生き返る……!!」
​ガルドは俺の腰をガッチリとホールドし、一心不乱にへそ呼吸を繰り返す。
熱い吐息が腹の中まで浸透してくるようで、俺の体は芯から熱くなっていく。
​「……はぁ……はぁ……変態……」
「褒め言葉だ」
​ガルドが顔を上げ、糸を引く唇でニヤリと笑った。
その顔は、悔しいけれど、どうしようもなく色っぽかった。
​「……まだ足りない。君の全身の毛穴という毛穴から、摂取させてくれ」
「………勝手にして」
​俺は諦めて、ガルドの頭を抱き寄せた。
どうせ逃げられないなら、骨の髄まで愛されてやる。
​「……優しくしてくださいよ、馬鹿犬」
「善処する。……だが、保証はできん」
​ガルドが再び、俺の首筋に噛み付くように口付けた。
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