​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン

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2話

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 ​(……痛い)

 ​全身を鈍い痛みが駆け巡っている。
 特に腹部と、内側を抉られたような胸の奥。息をするだけでひどい吐き気と鉄の味がした。

 ​(あれ……俺、死んだはずじゃ……)

 ​東堂裕太、29歳。
 ブラック企業で身を粉にして働き、ようやく訪れた正月休み。実家のこたつで呑気に食べていた磯辺焼きが喉に詰まり、そのまま意識が暗転した――という、あまりにもあっけない最期だったことは明確に覚えている。

 ​重い瞼をゆっくりと押し上げる。
 ぼやけた視界に入ってきたのは、見慣れたアパートの天井でも、病院の白い蛍光灯でもなく、カビと汚れにまみれた薄暗い石造りの天井だった。

 ​「……っ、」

 ​身じろぎしようとして、手足が異様に重いことに気づく。
 視線を落とすと、そこには細く、青白い腕があった。赤黒い痣が点々と浮かび、手首には冷たい鉄の枷が嵌められている。どう見ても自分の体ではない。ひどく痩せ細った、見知らぬ少年の体だった。

 ​ズキリ、と頭の奥が痛む。
 それと同時に、この体の持ち主――『ルカ』という少年の凄惨な記憶が、水のように流れ込んできた。

 ​婚約者による地下室での監禁。絶え間ない暴力。そして、生き血をすするような容赦のない魔力の搾取。激痛と絶望に苛まれ続けた記憶。

 ​(……そうか、ルカは死んでしまったのか)

 ​過酷すぎる現実に直面しているというのに、酷く冷静な自分がいた。

 ​その時、ガチャリと扉が開く音がした。
 ​足音とともに薄暗い地下室に現れたのは、ルカをこんな目に遭わせた張本人、ポテト。

 ​「チッ、まだ息があったのか。しぶとい奴め」

 ​ポテトは倒れ伏す裕太(ルカ)を冷ややかに見下ろすと、容赦なくその細い腹を蹴り上げた。

 ​「ぐっ……!」
「おいグズ。休んでる暇なんてねぇぞ。さっさと魔力を出せ」

 ​ルカの心が死に、中身が入れ替わったことなど微塵も気づいていない。ポテトは乱暴に裕太の襟首を掴み上げると、有無を言わさず強制的に『パス』を繋いできた。

 ​「あ、が……っ!」
 ​(……ッ!痛い、痛い痛い痛い!)

 ​強引に魂の奥底から何かを引き剥がされるような、前世で経験したことがない物理的な激痛と搾取。ルカの体に深く刻み込まれた恐怖のトラウマと、裕太自身の精神的な疲労感が重くのしかかる。

 ​「ははっ、まだ絞り出せるじゃねぇか」

 ​歓喜するポテトの顔を見ながら、裕太は虚ろな瞳をうっすらと開けた。

 怒りすら湧かない。反抗すれば、また痛い思いをするだけだ。波風を立てず、このままひっそりと死なせてくれるならそれが一番いい。

 ​(頼むから……早く俺を終わらせてくれ……)

 ​裕太は霞む意識の中で、ただ早くこの地獄から解放されることだけを祈り、静かに目を閉じた。
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