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昔むかし…ってほどでもなく。5
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毒を含んだ笑みで、カーラは混乱している女ギツネに言いました。
お前がどこでどんな目に遭っていようと、わたし達にはどうでもいい事なのよ。生きていようと死んでいようと、どうでもいいわ。わたし達には関係無い事ですもの。
う……うぅぅ……うわあああ!
女ギツネは大声で喚き散らしながら、こちらに飛びかかって来ました。両手に双剣を持ち、メチャクチャに振り回しながら。
技も何もあったモノじゃありません。思い通りにならないことにじれた子供が、癇癪を起こしたようなモノでした。
ただ、何かを狙ってはいるようでした。相変わらず執拗に、自分の顔を狙ってきましたから。
カーラが女ギツネに問い掛けました。
何故白キズの顔ばかり狙うの?それも左側だけ。
答える訳無いだろう、と思っておりましたが、女ギツネは双剣を振るいながら。
だって白キズのそのキズは、カルが付けたものでしょう?カルの物は何も手に入らなかった。せめて痕跡だけでも欲しいと思って何が悪いの?それに、白キズの一部も手に入って一石二鳥じゃないの。
こいつは一体何を言っているのか?…と、一瞬茫然としました。
カーラも驚いて、女ギツネに問いました。
お前…白キズの顔の皮でも剥ぎ取るつもり?
女ギツネは動きを止めずに、恍惚とした表情で言いました。
そうよ。そしてアタシたちは一つになるの。ずっと一緒にいるのよ。
…まさか、剥ぎ取るだけじゃなく、食べるつもり…とか?
カーラがおそるおそる問いました。
女ギツネは嬉々として言いました。
そうよ。ずーっと一緒にいるのよ。アタシが死ぬまで…死んでも一緒よ。
自分、食われるのか…。
コイツは完全にイカレてる、と思いました。
カーラも。
…最初に送られた娼館が悪かった…。特殊性癖が過ぎたのかしらね…。
額に手を当てて、ウンザリとした顔で言いました。
何を想像してか、1人悦に入っている女ギツネから距離を取り、自分は言いました。
何か都合良く勘違いしているようだが、この傷はカーラ…カルが機関に来る前に、訓練中にやらかした傷だ。言ってみれば、未熟ゆえの単なる事故でついた傷だ。カルは一切関係無い。
カーラも言いました。
そうね。わたしが機関に連れて行かれた時、白キズはもう白キズと呼ばれていたものね。それに、わたし程度の腕じゃあ、白キズに手傷を負わせるなんて無理よ。無理無理。
…お前、どこまで自分の好きなように過去を歪めているの?そんな妄想に付き合わされるこちらの身にもなって欲しいわ、まったく。
そしてカーラは叫びました。
だってわたしは本来休暇中のはずだったのよ!休み中ならば城の勤務に支障はあるまい…って王が命じた時、一瞬本気で殺意が湧いたわよ!久しぶりに旦那様と、時を忘れてしっぽりと…。あーもう!すっごく楽しみにしていたのに、どうしてくれるのよ!
…あ~、うん。
巻き込んで、正直すまんかった…。
これはもう、さっさと片付けて、カーラを騎士団長の元へ帰してやるのが一番だな、と思いました。
自分に都合の良い幻想を、すべて叩き壊された女ギツネは、奇声を上げて暴れ始めました。
少し距離を開けてその暴れっぷりを眺めていた我々ですが、もう良いか、と片を付けようと動こうとした時です。
女ギツネは、部屋の中央にゆらりと立ち、自らの胸と腹に双剣を突き立てたのです。
大量の血が吹き出し、流れて女ギツネはその場に倒れ込みました。
そして…女ギツネを中心に流れ出た血が、勝手に魔法陣を描いていきました。
自分はカーラと共に部屋を出ようと…して、何かに足を取られました。見ると、自分の足首に女ギツネの血が蔓草のように絡みついていました。
自分の小刀でも、カーラのナイフでも切れないその血のつる草は、物凄い力でぐいぐいと、自分を女ギツネの方へと引き寄せようとしました。その引きの強さに、自分は倒れました。
カーラが引っ張りますが、つる草はびくともせず、むしろカーラごと引きずる始末です。
女ギツネは倒れ込んだままで、低く笑いながら。
ぐふふふ……アタシのモノにならないのならば、アタシと一緒に死ぬのよ…。ぐふふ…死んだって離さないわよ……ぐふふふふ…。
てめえどこまでオレ達に迷惑かけりゃ気が済むんだよ!
カーラがカルに戻って叫んでおりました。
カーラ、先に行け。
白キズ?
お前に傷でも付けた日にゃ、騎士団長に恨まれるからな。あいつ結構粘着質だから、いろいろと面倒くさいし。
そう言って、先に逃がそうとしたのですが、カーラは。
この状況でお前置いてくとか、ねえだろ。
不敵に笑っていたのです。
無駄に男前だな、と思いました。
女ギツネの魔法陣が発動する前に、なんとか逃げ出さなければなりません。が、血のつるを切り離す手段がありません。
女ギツネは笑っていました。
ふと、血は血でなんとかならないものか、と頭によぎりまして、自分は自らの左手首を切り裂き、流れ出た血をつる草になすりつけてみました。すると、つるが細くなったのです。更に血を流し、つるになすりつけ続けると、ふっつりとつるが切れました。
つる草をすべて取り外し立ち上がると、魔法陣は発動直前でした。
カーラと2人、部屋を出ると同時に濁った光が部屋を満たし、轟音と共に爆発しました。
自分はカーラを庇い、直撃だけは避けてなんとか部屋を抜け出しました。しかしアジト全体が女ギツネの魔法陣で崩れ落ち、押し潰されてしまいました。
すべてが終わった後に残っていたのは、崩れたガレキの山だけでした。
自分はあちこちの骨が折れ、身動き一つ出来ず、立ち上がる事すらままならぬ状態で。
カーラが引きずり出して、応急処置を施してくれなかったら、今ここには居なかったはずです。
自分に最低限の処置をした後──カーラは治癒魔法はあまり得意では無いので──彼女は夫の元へと帰りました。
女ギツネは…あの様子では生きてはいない、と思いますが…。
これが、昨日までの自分の行動のすべてです。
お前がどこでどんな目に遭っていようと、わたし達にはどうでもいい事なのよ。生きていようと死んでいようと、どうでもいいわ。わたし達には関係無い事ですもの。
う……うぅぅ……うわあああ!
女ギツネは大声で喚き散らしながら、こちらに飛びかかって来ました。両手に双剣を持ち、メチャクチャに振り回しながら。
技も何もあったモノじゃありません。思い通りにならないことにじれた子供が、癇癪を起こしたようなモノでした。
ただ、何かを狙ってはいるようでした。相変わらず執拗に、自分の顔を狙ってきましたから。
カーラが女ギツネに問い掛けました。
何故白キズの顔ばかり狙うの?それも左側だけ。
答える訳無いだろう、と思っておりましたが、女ギツネは双剣を振るいながら。
だって白キズのそのキズは、カルが付けたものでしょう?カルの物は何も手に入らなかった。せめて痕跡だけでも欲しいと思って何が悪いの?それに、白キズの一部も手に入って一石二鳥じゃないの。
こいつは一体何を言っているのか?…と、一瞬茫然としました。
カーラも驚いて、女ギツネに問いました。
お前…白キズの顔の皮でも剥ぎ取るつもり?
女ギツネは動きを止めずに、恍惚とした表情で言いました。
そうよ。そしてアタシたちは一つになるの。ずっと一緒にいるのよ。
…まさか、剥ぎ取るだけじゃなく、食べるつもり…とか?
カーラがおそるおそる問いました。
女ギツネは嬉々として言いました。
そうよ。ずーっと一緒にいるのよ。アタシが死ぬまで…死んでも一緒よ。
自分、食われるのか…。
コイツは完全にイカレてる、と思いました。
カーラも。
…最初に送られた娼館が悪かった…。特殊性癖が過ぎたのかしらね…。
額に手を当てて、ウンザリとした顔で言いました。
何を想像してか、1人悦に入っている女ギツネから距離を取り、自分は言いました。
何か都合良く勘違いしているようだが、この傷はカーラ…カルが機関に来る前に、訓練中にやらかした傷だ。言ってみれば、未熟ゆえの単なる事故でついた傷だ。カルは一切関係無い。
カーラも言いました。
そうね。わたしが機関に連れて行かれた時、白キズはもう白キズと呼ばれていたものね。それに、わたし程度の腕じゃあ、白キズに手傷を負わせるなんて無理よ。無理無理。
…お前、どこまで自分の好きなように過去を歪めているの?そんな妄想に付き合わされるこちらの身にもなって欲しいわ、まったく。
そしてカーラは叫びました。
だってわたしは本来休暇中のはずだったのよ!休み中ならば城の勤務に支障はあるまい…って王が命じた時、一瞬本気で殺意が湧いたわよ!久しぶりに旦那様と、時を忘れてしっぽりと…。あーもう!すっごく楽しみにしていたのに、どうしてくれるのよ!
…あ~、うん。
巻き込んで、正直すまんかった…。
これはもう、さっさと片付けて、カーラを騎士団長の元へ帰してやるのが一番だな、と思いました。
自分に都合の良い幻想を、すべて叩き壊された女ギツネは、奇声を上げて暴れ始めました。
少し距離を開けてその暴れっぷりを眺めていた我々ですが、もう良いか、と片を付けようと動こうとした時です。
女ギツネは、部屋の中央にゆらりと立ち、自らの胸と腹に双剣を突き立てたのです。
大量の血が吹き出し、流れて女ギツネはその場に倒れ込みました。
そして…女ギツネを中心に流れ出た血が、勝手に魔法陣を描いていきました。
自分はカーラと共に部屋を出ようと…して、何かに足を取られました。見ると、自分の足首に女ギツネの血が蔓草のように絡みついていました。
自分の小刀でも、カーラのナイフでも切れないその血のつる草は、物凄い力でぐいぐいと、自分を女ギツネの方へと引き寄せようとしました。その引きの強さに、自分は倒れました。
カーラが引っ張りますが、つる草はびくともせず、むしろカーラごと引きずる始末です。
女ギツネは倒れ込んだままで、低く笑いながら。
ぐふふふ……アタシのモノにならないのならば、アタシと一緒に死ぬのよ…。ぐふふ…死んだって離さないわよ……ぐふふふふ…。
てめえどこまでオレ達に迷惑かけりゃ気が済むんだよ!
カーラがカルに戻って叫んでおりました。
カーラ、先に行け。
白キズ?
お前に傷でも付けた日にゃ、騎士団長に恨まれるからな。あいつ結構粘着質だから、いろいろと面倒くさいし。
そう言って、先に逃がそうとしたのですが、カーラは。
この状況でお前置いてくとか、ねえだろ。
不敵に笑っていたのです。
無駄に男前だな、と思いました。
女ギツネの魔法陣が発動する前に、なんとか逃げ出さなければなりません。が、血のつるを切り離す手段がありません。
女ギツネは笑っていました。
ふと、血は血でなんとかならないものか、と頭によぎりまして、自分は自らの左手首を切り裂き、流れ出た血をつる草になすりつけてみました。すると、つるが細くなったのです。更に血を流し、つるになすりつけ続けると、ふっつりとつるが切れました。
つる草をすべて取り外し立ち上がると、魔法陣は発動直前でした。
カーラと2人、部屋を出ると同時に濁った光が部屋を満たし、轟音と共に爆発しました。
自分はカーラを庇い、直撃だけは避けてなんとか部屋を抜け出しました。しかしアジト全体が女ギツネの魔法陣で崩れ落ち、押し潰されてしまいました。
すべてが終わった後に残っていたのは、崩れたガレキの山だけでした。
自分はあちこちの骨が折れ、身動き一つ出来ず、立ち上がる事すらままならぬ状態で。
カーラが引きずり出して、応急処置を施してくれなかったら、今ここには居なかったはずです。
自分に最低限の処置をした後──カーラは治癒魔法はあまり得意では無いので──彼女は夫の元へと帰りました。
女ギツネは…あの様子では生きてはいない、と思いますが…。
これが、昨日までの自分の行動のすべてです。
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