手軽に読める短い話

ぴろわんこ

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特殊風鈴

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私は特殊風鈴という物を作り上げた。どういう物かというと、風の色によって音を変える風鈴である。
静かで安らかな音色の時は、自然も人の心も穏やかに流れている時である。そんな時は緑色の風だった。
風が穏やかであっても、荒々しい音色の時もあった。そんな時は毒々しい赤色の風であった。人心が乱れているようだった。

私は芸術作品を作っていたが、特殊風鈴の力を借りるようになってからより一段と作品に磨きがかかったようだ。以前よりも作品が評価されて、それなりに売れるようになってきた。

足繁く私の作品を見に来てくれて、買ってくれることも多い客の一人に涼子という人がいた。
綺麗な人だし、ありがたいことではあったのだが彼女が来ると灰色の風が流れ、音色も沈んだものになった。

美人特有のさまざまな苦労を重ねてきたのだろうと、私なりに推察した。だが彼女の思いは分からないが、やや屈折した彼女相手にあまり交流する気は起きなかった。事務的なやり取りに、終始することが多かった。

ある日涼子が、由紀という友人を連れて作品展に来てくれた。容姿でいえば、涼子よりは劣る女性である。

しかし私は由紀が近づいて来ると、今までに聞いたことがないような安らかな音色を感じた。風の色も穏やかで優しげな神秘的な色をしていた。私はすぐさま、由紀に話しかけた。

由紀は涼子から私は無口だと聞いていたようで、やや戸惑った様子だった。だが話が盛り上がり、意気投合となった。涼子には悪いが二人とも彼女の存在を、忘れるくらいの気の合いようだった。

由紀と私は交際するようになり、結婚した。その後、何十年と大きなトラブルもなく幸せに暮らしている。
特殊風鈴によって得た最大の物は、数々の芸術作品ではなく由紀だったのだろう。
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