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001 ヒーロー誕生!
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幼い頃から、僕にはふたつ憧れがあった――。
「皆様、おつき合いありがとうございました。今日の配信はこれでお終いにします。お楽しみいただけましたら、高評価、チャンネル登録お願いします」
いつもと同じ僕の言葉がダンジョンの壁に虚しく吸い込まれていく。
いや、それだけではない。
ネットを通じた向こう側の誰にも、僕の声は届かない。
――ダンジョン配信者。
僕の憧れのひとつだ。
ダンジョンに潜り、身を危険に晒し、興奮を届ける――それがダンジョン配信者。
臨場感溢れるモンスターとの戦闘。
視聴者たちとの手に汗握る一体感。
滝のように流れる賞賛のスパチャ。
当時、幼稚園児だった僕は初めて見るダンジョン配信に心を奪われた。
それからは自己流ながらも身体を鍛え。
高校生になってダンジョンに入れる資格を得て。
憧れのダンジョン配信者となったのだが――。
数多くいるダンジョン配信者の中でも、僕は最底辺の配信者だ。
今日の配信で、最高同接は3人。
そして、今、最後の1人が「フェイク動画流すな、クソ野郎!」と罵倒コメントを残して去り――。
誰も聞いていないのに、僕は律儀に終了コメントを言ってから、配信を終わらせた。
いつもと同じ繰り返しだ……。
「はあ、もう止めよっかな……」
ダンジョン配信を初めてから約一年。
チャンネル登録者数は8人。
最高同接は12人。
底辺も底辺。
ド底辺だ。
普通の人だったら、一ヶ月で心が折れるような数字だ。
それでも、僕は諦めず、ここまでやって来た。
憧れがあったから。
夢があったから。
「――いやあああああああ。助けてええええ」
響き渡る女性の叫び声。
僕は気配を探る。
ここからあまり離れていない場所。
ここはダンジョン下層だ。
強力なモンスターがいっぱいいる。
もし、彼女がピンチなら、長くは持たないかもしれない。
――どうするか?
そんなの決まっている。
僕が憧れてたもうひとつ。それは――。
――正義の味方。変身ヒーローだ。
日曜日の朝にやっている戦隊モノ、なんとかライダー。
姿を隠し、弱きを助け、悪を討つ――正義の味方。
幼い男の子たちが憧れ、ごっこ遊びに夢中になる。
そして、成長するにつれて、忘れてしまう。
ほとんどの人が失ってしまう正義の心。
だが、高校生になっても、その心は僕の中で熱く燃えている。
本当はまだ実行するつもりはなかった。
ヒーローに失敗は許されない。
誰かを救うためには、どんな強敵相手にも、勝利を収めなければならない。
今の僕には、まだその力がない。
ダンジョンの下層程度のモンスターなら余裕だ。
しかし、ダンジョンにはさらに奥がある。
深層。
深々層。
最奥層。
そこにいるモンスター相手に確実に勝てるとは言い切れない。
僕が失敗したら、誰かが命を落とす。
だから、もっと。
もっと、もっと、強くなってからだ。
そう思っていたけど――。
助けを求める声を聞いた以上、僕のとるべき手はただひとつ。
両腕を前に突き出し、両足を開く。
それから、何度も練習し、身体に染みついた変身ポーズを取る。
「ダンジョンヒーロー。変身ッ!!」
普通の冒険者装備から、全身を覆うヒーローらしきコムチュームに姿を変える。
今の僕は冴えないモブ高校生の「田中ひでお」ではない。
今の俺はモンスターから冒険者を救う正義の味方――ダンジョンヒーローだっ!
僕は急いで悲鳴のもとへ向かう。
このとき、僕は気がついていなかった。
切ったつもりだった配信が切れていなかったことを。
このことが僕の人生を激変させることになると――。
【後書き】
次回――『ヒーロー登場!』
◇◆◇◆◇◆◇
この度
『前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢~幼女になった皇帝、父親にブタ貴族へ売られそうになったから家を捨てて冒険者を目指すもカリスマ性は隠しきれない~』
が第16回ファンタジー小説大賞でキャラクター賞を受賞しました!
こちらも自信作なので、是非お読みください!
「皆様、おつき合いありがとうございました。今日の配信はこれでお終いにします。お楽しみいただけましたら、高評価、チャンネル登録お願いします」
いつもと同じ僕の言葉がダンジョンの壁に虚しく吸い込まれていく。
いや、それだけではない。
ネットを通じた向こう側の誰にも、僕の声は届かない。
――ダンジョン配信者。
僕の憧れのひとつだ。
ダンジョンに潜り、身を危険に晒し、興奮を届ける――それがダンジョン配信者。
臨場感溢れるモンスターとの戦闘。
視聴者たちとの手に汗握る一体感。
滝のように流れる賞賛のスパチャ。
当時、幼稚園児だった僕は初めて見るダンジョン配信に心を奪われた。
それからは自己流ながらも身体を鍛え。
高校生になってダンジョンに入れる資格を得て。
憧れのダンジョン配信者となったのだが――。
数多くいるダンジョン配信者の中でも、僕は最底辺の配信者だ。
今日の配信で、最高同接は3人。
そして、今、最後の1人が「フェイク動画流すな、クソ野郎!」と罵倒コメントを残して去り――。
誰も聞いていないのに、僕は律儀に終了コメントを言ってから、配信を終わらせた。
いつもと同じ繰り返しだ……。
「はあ、もう止めよっかな……」
ダンジョン配信を初めてから約一年。
チャンネル登録者数は8人。
最高同接は12人。
底辺も底辺。
ド底辺だ。
普通の人だったら、一ヶ月で心が折れるような数字だ。
それでも、僕は諦めず、ここまでやって来た。
憧れがあったから。
夢があったから。
「――いやあああああああ。助けてええええ」
響き渡る女性の叫び声。
僕は気配を探る。
ここからあまり離れていない場所。
ここはダンジョン下層だ。
強力なモンスターがいっぱいいる。
もし、彼女がピンチなら、長くは持たないかもしれない。
――どうするか?
そんなの決まっている。
僕が憧れてたもうひとつ。それは――。
――正義の味方。変身ヒーローだ。
日曜日の朝にやっている戦隊モノ、なんとかライダー。
姿を隠し、弱きを助け、悪を討つ――正義の味方。
幼い男の子たちが憧れ、ごっこ遊びに夢中になる。
そして、成長するにつれて、忘れてしまう。
ほとんどの人が失ってしまう正義の心。
だが、高校生になっても、その心は僕の中で熱く燃えている。
本当はまだ実行するつもりはなかった。
ヒーローに失敗は許されない。
誰かを救うためには、どんな強敵相手にも、勝利を収めなければならない。
今の僕には、まだその力がない。
ダンジョンの下層程度のモンスターなら余裕だ。
しかし、ダンジョンにはさらに奥がある。
深層。
深々層。
最奥層。
そこにいるモンスター相手に確実に勝てるとは言い切れない。
僕が失敗したら、誰かが命を落とす。
だから、もっと。
もっと、もっと、強くなってからだ。
そう思っていたけど――。
助けを求める声を聞いた以上、僕のとるべき手はただひとつ。
両腕を前に突き出し、両足を開く。
それから、何度も練習し、身体に染みついた変身ポーズを取る。
「ダンジョンヒーロー。変身ッ!!」
普通の冒険者装備から、全身を覆うヒーローらしきコムチュームに姿を変える。
今の僕は冴えないモブ高校生の「田中ひでお」ではない。
今の俺はモンスターから冒険者を救う正義の味方――ダンジョンヒーローだっ!
僕は急いで悲鳴のもとへ向かう。
このとき、僕は気がついていなかった。
切ったつもりだった配信が切れていなかったことを。
このことが僕の人生を激変させることになると――。
【後書き】
次回――『ヒーロー登場!』
◇◆◇◆◇◆◇
この度
『前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢~幼女になった皇帝、父親にブタ貴族へ売られそうになったから家を捨てて冒険者を目指すもカリスマ性は隠しきれない~』
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