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035 八王子ダンジョン(3)

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「あの、ちょっとお訊きしたいことがあるのですが――」
「なっ、なんでしょう?」

 僕は配信端末を指差す。

「今の救助シーンを動画に使っても良いですか?」
「えっ……」

 彼女の顔に戸惑いが浮かぶ。
 罠にハマったところをみんなに見られるのは恥ずかしい。
 予想はしてたけど、やっぱり嫌がられるかな。

「もちろん、モザイクはかけますので」
「いっ、いえ」

 彼女が顔を横に振る。
 そうだよね――と諦めたところで、僕の顔を見て察したのか、彼女が口を開く。

「違うんです。出るのがイヤじゃないんですっ!」

 さっきの困惑が嘘のように、彼女は目をキラキラと輝かす。

「ダンジョンヒーローさんのチャンネルに出られるなんて光栄です。モザイクなんかいりません」
「そっ、そうなの」

 身を乗り出して食らいつかんばかりの彼女に、僕は圧倒されて思わず後ずさりしてしまう。
 相手にグイグイ来られるのは苦手だ。

「では、ありがたく使わせていただきますね」
「はいっ! 動画楽しみにしてます。知り合いにも宣伝しますので」

 みんなに自慢できるなあ――と彼女が呟く。
 周囲に宣伝してもらえるのは嬉しいな。

「上級探索者が巡回しているけど、必ず間に合うとも限らないので、気をつけてくださいね」
「わかりました。ダンジョンヒーローさんも頑張ってくださいね。応援してます!」
「それでは、失礼します」

 ブンブンと手を振る彼女に別れを告げ、僕はその場を後にする。
 彼女から離れたところで、僕は配信端末に向かって話しかける。

「というわけで、今回の依頼内容は罠にハマった探索者の救助です」

 少し間をおいてから、説明を続ける。

「八王子ダンジョンは上層を卒業して、中層を目指す探索者向けの場所です。僕も最初の頃はお世話になりました」

 上層で楽に戦えるようになり自信がつく頃。
 自分の力を過信し、油断してしまう頃。
 この段階が一番危ないといわれる頃。
 痛い目を見て、厳しさを学ぶ頃。

「ここに出現するモンスターはワイルドモンキーという小さい猿型モンスターだけで、中層を目指すレベルなら楽に倒せる相手です。あっ、ちょうどいいですね」

 視界に入ったワイルドモンキーに駆け寄る。
 せっかくなので、撮れ高に貢献して貰おう。

 ――ウキャキャ。

 突然現れた僕にワイルドモンキーは驚いた声を上げる。
 僕は棒立ちになって、ワイルドモンキーに隙を見せる。

「ワイルドモンキ-の攻撃は単調で、パターンも少ないです」

 爪で引っ掻く。
 体当たりする。
 噛みついてくる。

 僕はそれを躱しながら、解説する。

「こんな感じなので、簡単にしのげます。それにHPも50ぐらいなので――」

 ワイルドモンキーの腹を軽くパンチ。
 失神したワイルドモンキーを抱え、配信端末に映す。

「倒すのも簡単です」

 見えやすいようにトドメを刺す。

「どうってことないですよね?」

 上手く撮れたかな?
 念のために、三匹くらい同じように撮影する。
 これくらい撮っておけば大丈夫かな。

 このダンジョンでワイルドモンキーとの戦闘は脅威ではない。
 やっかいなのはワイルドモンキーの習性だ。
 それを説明しようと思ったところで――ヒーローアラートが警告する。

 また、変身し俺は駈け出す――。

 そういえば、ヒーローアラートのことも説明しないとな。
 それにファストパスの件も。
 今日は話すことがいっぱいある。
 忘れないようにメモしてあるから、救助しながら順番にこなさないといけない。
 空き時間が多いかと思っていたけど、実際にやってみると結構時間がかかる。

 全力で走り、1分もかからないうちに、救助要請があった場所に駆けつける。

 ――うわ、エグいな。

 今度は男性三人組みパーティーだ。
 すぐに命にかかわるわけではないが、彼らが置かれた状況はキツい。
 下手したらトラウマものだ。
 早く助けないと。

【後書き】
次回――『八王子ダンジョン(4)』
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