青い花の里の物語

アンジュ・あんこ

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【第七話 青い花の里の長】

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「お出迎えありがとうございます。はい、私が冬月玲央ですが……」

「私はこの里の長のアオと申します。ふふ、解せないという顔ですね。あなたはこの里は閉塞している空間だとお思いでしょうが、実はあなたの村と交流しているルートがあるのですよ」

 白い仮面の女性の言葉は穏やかだが、相変わらず目は笑っておらず、玲央はプレッシャーを感じていた。

「なるほど……そういうことだったのですね」

 玲央は女性への警戒心を隠さずに答えた。

「まだ解せないといったお顔ですが……ああ、この能面ですか。私たちの里では、外の世界の者と会う時は、この白い能面をつける決まりなのです。実は、この里にはある風土病がありましてね。外の人間に感染させないための、私たちなりの配慮です。なので、どうかお気になさらず」

 この里の住民は外部の人間と接する時に、何故か顔を能面のような白い仮面で隠している。
 彼女の説明によれば、この地には、腹が妊婦のように膨れてしまう風土病があるとのことで、外部の人間と接する時には、感染予防として、白い仮面をつけているのだという。

(ミヤイリガイという貝に寄生している寄生虫が原因で、そのような風土病が存在することは知っている。だが、彼女の話はおそらく嘘だ。この地域にミヤイリガイが生息しているという話は聞いたことがない。それに寄生虫が原因の病気を、仮面で防ぐなどというのもおかしな話だからな。きっと、自分たちの顔を隠したい何らかの事情があるのだろう。何らかの方法で、彼女たちの仮面の下を確認できるといいのだが……)
 
 この時の玲央は知らなかったが、この集落の住民は鬼の血を引いており、全身にその特徴が発現しているため、外から人間がやってきた時には仮面を着用して素顔を隠していた。
 この里の唯一の出入口である洞窟は、常に住民が監視をしているので、外部の人間がくればすぐにわかる仕組みとなっていた。

「……わかりました」

「冬月様はこの里に咲いている青い花のことをお調べにいらっしゃったのでしょう? どうぞ、あなたの気の済むまでお調べなさいな。その代わり、一つだけ約束してくださるかしら? 私たちはあなたに干渉しないから、あなたも私たちにも干渉しないでくれるとうれしいわ。了承していただけるなら、あなたが自由に滞在出来るよう、里の外れに住居を用意しましょう」

 アオという女性は、終始穏やかな口調で話していたが、その間彼女の両目はけっして笑ってはおらず、玲央にプレッシャーをかけ続けていた。

(困ったな。彼女は明確に俺に敵対の意思を示している。しかも、村役場にも彼女の協力者がいるとはな……。まあいい。俺は俺の仕事をするだけだからな)

「わかりました。私は決してあなた達に迷惑をかけるようなことはしないつもりです。ご協力、ありがとうございます」

 玲央はアオに深々と頭を下げた。

 こうして、里の長であるアオから滞在を許されたレオは、彼が滞在することとなる住居へと向かった。

 以外なことに、アオの用意してくれた住居は、比較的新しく、生活必需品も用意してあり、キレイに清掃もされていたので、彼は調査期間中、快適に過ごすことが出来た。

 彼の仕事は、ケシと思われる青い花の採取と成分の分析。
 花の分布している場所の確認。
 里内でケシを加工してアヘンとして流通させているかの確認。
 そして……
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