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【第六話 村から来た調査員】
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昭和五十●年八月一日。
I県北部にある魅禍月村の山奥に、地図に記載されていない集落があるという噂が流れていた。
そして、その魅禍月村の役場に、その集落でケシの花を違法栽培しているという匿名の通報があった。
魅禍月村は山地で高度が高いため、一年を通して冷涼な気候であり、ケシの栽培には適した場所であった。
そのため、魅禍月村役場の環境課の職員であり、東京の大学で植物学を専攻していた冬月玲央という青年が真相を確かめるために、この集落を訪れることになった。
本来であれば、これは保健所が対応する業務であったが、この魅禍月村は僻地であったため、保健所の職員が調査に来るのは大変だろうという村長の判断で、身内の職員である玲央に白羽の矢が立った。
この判断には、初めから保健所の対応になってしまうと、色々と面倒なことになるので、出来れば村内で処理したいという思惑もあった。
この集落は周囲を崖に囲まれており、集落内に入るには唯一の出入口となる洞窟を抜けなければならなかった。
洞窟を抜けた先にある集落はとても大きく、それ自体が小さな村だといってもいい規模であった。
そして、集落のいたるところで、青色の花が咲き乱れていた。
「驚いたな。そこら中、ケシの花だらけじゃないか。しかも、全て青色の花だ。ヒマラヤに自生しているメコノプシスという種に似ている。だが、暑さに弱いメコノプシスは、日本の夏を越せずに枯れてしまうと聞いた。日本に青色の花のケシが自生しているなんて、聞いたことが無い。そもそも、存在出来ないはずの花なんだ」
日本に存在しないはずの青いケシの花。
その花がこの集落中に咲き誇っているという事実に、玲央は驚きを隠せなかった。
(……まあ、それはどうでもいいことだ。この集落を詳しく調べる口実が出来たのだから)
玲央はまだ知らなかったが、この集落では全域でケシの花を違法に栽培しており、それを加工してアヘンを製造していた。
そのアヘンを集落の外へ持ち込み、魅禍月村にいる仲介者を通じて闇のルートで売ることで莫大な利益を得ていた。
そのため、この集落の住人たちは、前述のルートを通して生活必需品を入手しており、閉ざされた世界でありながら、生活水準は外の魅禍月村よりもかなり高かった。
玲央がしばらく歩いていくと、住居が密集している場所を見つけた。
そしてその入口に、白い能面をつけた背の高い女性が立っていた。
「お待ちしておりました。冬月玲央様ですね?」
白い能面をつけた女性が玲央に話しかけてきた。
長い髪をなびかせながら、妖艶な雰囲気を醸し出している女性。
しかし、能面の奥から見える彼女の両目は、こちらを見定めるように、玲央の顔をじっと見つめていた。
(白い能面で素顔はわからないが、年齢はおそらく俺と対して変わらないだろう。しかし、この威圧感はなんなんだ? 気をつけろ、この人は、見た目よりずっとヤバそうだ。少しでも隙を見せれば一気に命まで取られてしまいそうな、そんなプレッシャーを感じるんだ)
玲央は相手に悟られないように、心の中で身構えた。
I県北部にある魅禍月村の山奥に、地図に記載されていない集落があるという噂が流れていた。
そして、その魅禍月村の役場に、その集落でケシの花を違法栽培しているという匿名の通報があった。
魅禍月村は山地で高度が高いため、一年を通して冷涼な気候であり、ケシの栽培には適した場所であった。
そのため、魅禍月村役場の環境課の職員であり、東京の大学で植物学を専攻していた冬月玲央という青年が真相を確かめるために、この集落を訪れることになった。
本来であれば、これは保健所が対応する業務であったが、この魅禍月村は僻地であったため、保健所の職員が調査に来るのは大変だろうという村長の判断で、身内の職員である玲央に白羽の矢が立った。
この判断には、初めから保健所の対応になってしまうと、色々と面倒なことになるので、出来れば村内で処理したいという思惑もあった。
この集落は周囲を崖に囲まれており、集落内に入るには唯一の出入口となる洞窟を抜けなければならなかった。
洞窟を抜けた先にある集落はとても大きく、それ自体が小さな村だといってもいい規模であった。
そして、集落のいたるところで、青色の花が咲き乱れていた。
「驚いたな。そこら中、ケシの花だらけじゃないか。しかも、全て青色の花だ。ヒマラヤに自生しているメコノプシスという種に似ている。だが、暑さに弱いメコノプシスは、日本の夏を越せずに枯れてしまうと聞いた。日本に青色の花のケシが自生しているなんて、聞いたことが無い。そもそも、存在出来ないはずの花なんだ」
日本に存在しないはずの青いケシの花。
その花がこの集落中に咲き誇っているという事実に、玲央は驚きを隠せなかった。
(……まあ、それはどうでもいいことだ。この集落を詳しく調べる口実が出来たのだから)
玲央はまだ知らなかったが、この集落では全域でケシの花を違法に栽培しており、それを加工してアヘンを製造していた。
そのアヘンを集落の外へ持ち込み、魅禍月村にいる仲介者を通じて闇のルートで売ることで莫大な利益を得ていた。
そのため、この集落の住人たちは、前述のルートを通して生活必需品を入手しており、閉ざされた世界でありながら、生活水準は外の魅禍月村よりもかなり高かった。
玲央がしばらく歩いていくと、住居が密集している場所を見つけた。
そしてその入口に、白い能面をつけた背の高い女性が立っていた。
「お待ちしておりました。冬月玲央様ですね?」
白い能面をつけた女性が玲央に話しかけてきた。
長い髪をなびかせながら、妖艶な雰囲気を醸し出している女性。
しかし、能面の奥から見える彼女の両目は、こちらを見定めるように、玲央の顔をじっと見つめていた。
(白い能面で素顔はわからないが、年齢はおそらく俺と対して変わらないだろう。しかし、この威圧感はなんなんだ? 気をつけろ、この人は、見た目よりずっとヤバそうだ。少しでも隙を見せれば一気に命まで取られてしまいそうな、そんなプレッシャーを感じるんだ)
玲央は相手に悟られないように、心の中で身構えた。
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