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7 口説き落とし会議
3 番犬
しおりを挟む「――マシューくんっ!!」
ボクが“彼”を指差し、名を呼んだ瞬間、三人は初めてその存在を認識した。驚きを通り越し、恐怖すら感じたらしい。激しく身を震わせた。
「だっ……え!? いつ入ってきたの、アンタ」
「いんやーー!!! 心臓飛び出るかと思ったっちゃ!」
きっと、ボクの合図で彼がそこに召喚されたように見えただろう。でも、彼はずっとずっとこの部屋に潜んでいたのだ。
誰一人としてその存在に気づかないまま――。
「……」
シノリアちゃん達が驚きのあまりヒーヒー言ってるのに、当のマシューくんは棒立ちのままなんの反応も示さない。
だらしなくのびた前髪の間からのぞく、陰鬱な目。乾いた血のように赤い瞳には光どころか感情すら無い。
ただ、ぼうっとボクを見つめている。
「……ま、マシューくん! 会えて嬉しいな。久しぶりだね」
「……」
“久しぶり”というワードに彼はほんのちょっとだけ薄い唇の端を歪めた。
もしかしたら、ずーーーっとそばにいたけどボクがまったく気づいてなかっただけかもしれない。
その可能性は十分にある。
彼はどんな場においても存在感を消し去る天才なのだ。
「またお前か」
でも、ギンガくんは急に立ち上がって、身構えるようなポーズを取った。
「学園自警の静かなる番犬よ」
と、なんだか神妙な呼び名まで付けている。
その名の通り、マシューくんは学園自警団の一員なのだ。たぶん他の誰よりも規律を愛し、学園の平穏を守っている。いわば陰のヒーロー。
ギンガくんを追っているのは当然のことだ。
「何度も言ったであろう。私は春からこの学び舎に編入する予定だ。少しぐらい早めたところで問題はあるまい」
「……」
マシューくんは何も聞こえていないかのように微動だにしない。
彼には融通が一切きかないのだ。
一度『排除する』と決めたら、相手がどんな理由を盾にしようと容赦しない。
「え? 編入って?」
「うちの学生じゃねぇのすか?」
真実を知った途端、二人はギンガくんとの間に一線を引くように一歩後ろへ下がった。
自警団であるマシューくんへの“私たちはまだかろうじて不正を働いておりません”アピール。
「……」
でも、肝心の彼はそんなもの見ていない。
狙いはあくまで“侵入者”であるギンガくんだ。引きずるように携えていたレイピアを持ち直し、彼の喉元に尖端を突きつける。
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