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2.鶴見は漢字が読めない

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「……ッン、……あ、……」

「凛くん、好きっ。好きっ! いつも怒ってるみたいにすんごく目つき悪いのに、実はやさしいギャップが大好きっ!」

 わけわかんねぇ。
 尻をガシ揉みしながら告るって意味不明すぎるだろ。

「ぼくよりずっとずっと背が高くて、だから、いつも目が合うと見下されてるみたいで……でも、凛くんに見下されるの好きっ!」

 頭おかしいんじゃねぇか、コイツ。

「あとね、チャラい人たちといるのに、凛くんだけはピアスもしてないし、髪の色も変えてなくて、そんな硬派なところも好きっ!」

 絶対におかしい。
 嘆きたくても叫べないもどかしさが喉元で絡み、しびれていく。

「……っふ、ん、あァ」

 いや、なによりおかしいのは、彼の指がペン先をつつくたびに生まれる感覚だ。

 痛い──はずなのに、なにか違う。
 腹のあたりがむずむずして、くすぐったくて、もどかしい。

「凛くん?」

「……はっ、う……」

「もしかして気持ちいい?」

「はッ──!!!?」

 その“なにか”の正体が快感だと気づかされ、ゾッとした。
 そんなわけがない。
 散々痛めつけられた直後に恥ずかしい姿勢で恥ずかしい場所をいじられてよがってしまうほど、俺は変態じゃない。マゾでもない。
 しかるべきところで、しかるべき部分を擦らない限り、気持ちいいわけが──、

「なァあああンッ!」

 思考の途中、ペンが一気に引き抜かれた。
 なんの合図も覚悟も無しに。

 自分の口から漏れ出た声は信じられないほど甲高く、あられもないものだった。周りの壁に響いて、何倍にもなって俺の耳へと返ってきた。脳を揺さぶられたみたいに目が回って、グラグラする。

「はーっ、はー……」

「え? ごめん。いまの痛かったかな?」

「くっ、……てめっ……」

「ごめんね」

 こいつ、絶対にワザとやってやがる──。

「オイ! いい加減ふざけてねぇで、さっさとほどいてくれ!」

「やだよ」

「は?」

「まだ凛くんの気持ち、きいてない」
 
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