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16 机の中の白、窓際のスナイパー
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俺はひとつの確信を持って、もういちどあいつの部屋へむかった。
「鶴見!」
結果は前と同じ。
だだっ広い空間にあいつの姿はない。
だが、以前はベッドしかなかった怠惰な空間は様変わりしていた。
ベッドが壁側に追いやられ、部屋の真ん中に新品の机が置かれている。
勉強机にしてはシンプルで、ダイニングテーブルとしては小さすぎるサイズ。あたたかな木目のそれの上には、ノートが開きっぱなしで放置されていた。
──凛凛凛凛凛凛凛凛
おびただしくらい何度も繰り返されていたのは「凛」の字。
見慣れた字であるはずなのに、得体の知れぬ執着心を感じた。背筋に虫が這うようにゾクゾクする。
「ん?」
いや、よく見たら何か変だ。
最初の二字は正しく書かれていたのに途中から二つの点が三つに増えている。
気づかないまま、見開き二ページにわたってさんずいのリンが連なっていた。
「バカか……」
小学生の字みたいに大きくて、ヘタクソで、いびつで、おまけに間違えている字。
他のページもめくってみると、中学生レベルの簡単な漢字ばかり練習している。
「ほんと……バカだな、お前は……」
でも、あいつがちゃんと勉強しているのは嬉しかった。
間違っていたって、レベルが低くたって、生きる気力がある証拠だ。
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