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それでもゴールは相合傘の下

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◆ ◆ ◆




「にじっぴだーーーー!!!」


 生放送開始まであと25分。
 鷲尾がにじっぴになって局から出ると、わああッという歓声がした。

 一体なんの騒ぎか。
 他人事のように思ったのもつかの間、30人以上の見物客が目の前にむらがる。

 老若男女がキラキラと瞳を輝かせながら「にじっぴー!」と手を振ってくれる。

 不遇で知名度の低いはずの局キャラが一躍大スターあつかい。バズったのはほんの一瞬だったというのに、この影響力。

 信じられない光景。


「にじっぴー! こっちむいてー!」


 鷲尾の意識は、あまりの興奮でポーッと空に飛んでいきそうだ。
 いかんいかん、と地に足をつける。
 いつまでもポカンとアホ面をさらしていてはこの熱気が冷めてしまう。


「!!! !!!?」

 太くてふかふかのお手手で宙を平泳ぎするかのように大きく円を描いてから、口の前で両手をそろえて片足でぴょーんと飛び跳ねてみる。

 こんなに人がいっぱい、とんでもなくびっくり、信じられない! というリアクション。

 意味はちゃんと通じたようで、あははは、かわいいー、と笑い声があがった。

 そこからは怒涛の撮影会。

 四方八方からスマホやガラケーをむけられ、鷲尾は思いつく限りのかわいいポーズでみんなをおもてなしする。


 前歯を強調するように口元に手を置き、ぶりっこのように全身をかたむけるポーズが最も「かわいいー!」という声が多い。

 鷲尾的にも歯の部分が視界窓になっているので、状況を把握しやすくていい。

 
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