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1.秘密事/相談事
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しおりを挟む──「龍広くんがいれば、別にいいや」
あのとき、お前は冗談のつもりだったんだろう。
それなのに、俺がどんなに嬉しかったか。
知らないのだろう。
あんな小さな言葉で喜んでしまう自分が恥ずかしくてたまらなかった。
それでも何度も何度も思い返しては、その都度、胸のさらに奥深くへ大切にしまいこんだ。
知る由もないのだろう。
そうだ。
お前は俺のことなんて何も知らない。
でも、だからこそ、俺はお前が──。
「龍広くんさ、まじめに聞いてる?」
「聞いてない」
一言で切り捨てる。
実際は聞いていないわけがないのに。
心臓の鼓動が早まっているのを感じながら、あくまで平静を装う。
かゆくもない頭を掻き、眠くもないのにあくびをしてみる。
それを見た響は大きなため息をつき、呆れるように首を振った。
「頼むよ。こっちは真剣なんだからさあ」
真剣──その割にはニヤニヤしっぱなしではないか。
だが、それを指摘してやるつもりは無かった。一人で勝手に浮かれていればいい。
ヘドが出そうになりながら、ホットココアに口をつける。
これが驚くほど薄い。湯が多いのか、粉が少ないのか、あるいはその両方か──。
「いい加減にしろ。相談無しに一人で決められないことなのか?」
「だってだってー」
「たまには自分だけの頭でしっかり考えて答えを出せ」
ヘドを飲む──という表現は無いと思うが、ココアのせいで本当にヘドを飲んでいる気分だった。眉間にシワを刻み込む。
何か言いたげに見つめてくる彼に、少し唇を噛んでから、こう言い放った。
「俺だって、たまには、お前に──」
背後にいた女子学生たちの爆笑に阻まれ、俺の言葉は彼に届かなかった。
それで良かった。
それで良いに決まっていた。
本当の声なんて、どうせ届きやしないのだから。
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