お前が脱がせてくれるまで

雨宮くもり

文字の大きさ
113 / 174
17.無意味/解く鎖

6/12

 
 ためしに冷蔵庫をのぞいてみた。
 そろっているのは飲み物と調味料くらい。腹を満たせそうなものが本当にない。
 隅々まで探してみるも、夕飯に変えられそうなものは三つだけ。野菜室のじゃがいもと小さなタマネギ。それから冷凍庫に残されていた豚バラ肉のパック。

「肉じゃが、か……」

 少し寂しいが、悪くはないだろう。

 よし、と息をついて腕まくりをしかけたとき、はたと我に返った。

 ――俺は一体、何しに来たんだ?

 分かっているのに、本題を切り出すタイミングを完全に逃してしまった。俺がその瞬間の到来を避けているのもあるが、うまく兄のペースに乗せられたようでもある。

 このままじゃいけない。
 作りながらでもいい。とにかく、あの話をしよう――。

「あのさ、……兄さん」

 返事が無い。
 兄はまぶたを完全に閉じ合わせ、寝息を立てていた。 

「……はあ」

 思わず肩で溜息をついてしまう。
 覚悟を決めて来たはずだったのに――。

 モヤモヤしながら具材を切り、濃いめのタレで煮込む。少ない量なので味はすぐに染み込むだろう。それから、炊飯器のスイッチも入れる。
 できがるまでの間は掃除をした。
 散乱した物たちを次々に拾い集めていく。ゴミはゴミ箱へ、洗濯物は脱衣所へ、大事そうなものはまとめてテーブルの横に積んでおいた。

 兄はまったく起きる気配が無い。
 そのくたびれた身体にバスタオルをかけてやったとき、あることに気づいた。ハッと手が止まる。

 窓ガラスがかすかに震動しているのだ。


 聞こえる。
 あの音が、聞こえる。


 俺は誘われるように窓辺にむかい、カーテンを少しだけ開けた。
 だが、この部屋から見える空はあまりにも狭かった。ビルやマンションのせいでとても細長くしか見えない。

 それでも、遠くの空がチカチカと瞬いているのは分かる。

 色とりどりの光。
 音が、響く。

 

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。