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17.無意味/解く鎖
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しおりを挟む「それなのに、ケティにせがまれるまま関係を続けてたんだろ?」
「ちっ……」
「今更、ケティを裏切れなくなってたんだろ?」
「……っ」
「そうやって気持ちを抑え込んでるうちに響くんに恋人が――」
「違うッ!」
やっとの思いで声を張り上げたものの、兄の心には届かない。眉間にシワを刻み込み、同情のような哀れみのような表情を投げかけてくる。
「今、ひっ、……響、は……関係、無い……」
喉が引きつり、声が上擦ってしまう。
「違うっ!」
視界が潤む。目頭がツンと痛み、涙があふれそうだった。
今夜、ずっとこらえていた感情を巻き込んで、爆発しそうになる。
手のひらでおさえつければ、涙はこぼれ、雫へと変わり、次々に滲んだ。思い通りにならない感情が悔しくて、奥歯に力をいれる。それでもおさえきれるわけがない。
息を吸うほどに苦しさが雪のように積もっていく。
「ごめん」
「……」
「また、傷つけちまったな」
兄は静かに手を伸ばし、強張りすぎて歪んだ俺の頬を包み込む。
「どうにかお前を助けてやりたかった。……でもオレのことは、気づかれたくなかった。嫌われたくなかった。良い兄貴のままでいたかった」
手は輪郭をなぞり、あの日腫れ上がった右のまぶたの上で止まる。
「ごめんな、都合のいい兄ちゃんで……」
指先は、針のように冷え切っていた。
「ケティだって、話せばきっと分かってくれるってオレは信じててさ。龍広に好きな人がいると分かれば、おのずと身を引いてくれるはずだって――」
時折声を震わせ、詰まらせながら、胸の内がさらされていく。
「甘かったよ」
兄の期待とは裏腹に、ケティを突き動かしたのは優しさなどではなかった。
長い年月をかけて心に生じた歪みと、晴らされることもなく溜まり続けた恨みだった。
好きだとささやいてくれた存在がそばにいない虚しさ。
いくら求めても交えることのできない苦しさ。
拒絶され続けた寂しさ。
いつまでも――これから先もずっと――満たされることのない孤独。
「あいつはオレが何を考えてるか、きっと全部見透かしてたんだ」
かりそめのぬくもりで身体をあたため、どうにか平静を保っていたのに。
なのに――それすら手放せと追い詰められた。
「見せしめのつもりだったんだろうな」
きっと、ケティはもう自分を抑えきれなかったのだ。
「だから、お前をあんな風に――」
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