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18.解く鎖/夏の夢

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『早く出なさいよ!』

 相変わらず、挨拶は無かった。

「……うるさい。黙れ」
『なにそれ。せっかくアンタに朗報があるのに』
「お前からの朗報なんて嬉しくない」

 大方、俺が知らなそうな響の情報を掴んだから、一つ一つ教えてくれるとでもいうのだろう――。

『いいから素直に聞きなさいよ』
「は?」
『さっきね、まほちゃんが電話してきたの』

 だからどうした。
 俺は彼女のことなんて――、


『昨日、響くんにフラれた、って』


 耳を疑うしかなかった。

「は?」

 そんなはずはない。
 響は昨日、彼女を誘って花火大会に行ったはずだ。
 そんなこと起きるはずがない。

 どうせ尾津が俺を翻弄したいだけなのだろう――と、勘ぐってしまう。

「……嘘なんだろ、それ」
『嘘でわざわざ電話すると思う?』

 それから何度も確認したものの、彼女は真剣のままだった。
 疑っているこっちの頭がおかしいのではないかと思うくらいに、大真面目。からかおうとしている感じは一切無い。

「いや、百歩譲っても、響“が”彼女にフラれたんだろ?」
『違う。響くん“に”よ』

 昨日の電話ではそんな様子じゃなかった。
 これっぽっちも。

『あんたが遂に動いたって思ってたけど、その様子じゃ違うのね』

 それはなんとも言えない。つい、口ごもってしまった。
 数秒とはいえ隙を見せてしまったことをすぐさま悔やんだが、

『なんだ。つまんない』

 気づいた様子はない。それより今はしゃべるのに夢中らしい。
 
『まほちゃん可哀想。あんなに頑張るって意気込んでたのに。……まぁ、“頑張って好きになる”なんて、“本当は好きじゃない”と同じだけど』

 トゲトゲしい尾津の嫌味も、この瞬間だけは、引っかかることなく耳元を流れていく。

「それで……、響は……?」
『さぁ? 知らない。あの人、バイトも辞めたから』
「辞めた!?」
『知らないの? ちょっと前に辞めたのよ。立つ鳥、跡を濁さずってヤツ?』

 響が、俺の知らないうちに――。
 分からない。
 彼は一体なにを考えているのだろう。

 俺に、相談無しで――。

 少しの間、顔を合わせていないだけなのに完全に分からなくなってしまった。

 
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