123 / 174
18.解く鎖/夏の夢
4/5
しおりを挟む『早く出なさいよ!』
相変わらず、挨拶は無かった。
「……うるさい。黙れ」
『なにそれ。せっかくアンタに朗報があるのに』
「お前からの朗報なんて嬉しくない」
大方、俺が知らなそうな響の情報を掴んだから、一つ一つ教えてくれるとでもいうのだろう――。
『いいから素直に聞きなさいよ』
「は?」
『さっきね、まほちゃんが電話してきたの』
だからどうした。
俺は彼女のことなんて――、
『昨日、響くんにフラれた、って』
耳を疑うしかなかった。
「は?」
そんなはずはない。
響は昨日、彼女を誘って花火大会に行ったはずだ。
そんなこと起きるはずがない。
どうせ尾津が俺を翻弄したいだけなのだろう――と、勘ぐってしまう。
「……嘘なんだろ、それ」
『嘘でわざわざ電話すると思う?』
それから何度も確認したものの、彼女は真剣のままだった。
疑っているこっちの頭がおかしいのではないかと思うくらいに、大真面目。からかおうとしている感じは一切無い。
「いや、百歩譲っても、響“が”彼女にフラれたんだろ?」
『違う。響くん“に”よ』
昨日の電話ではそんな様子じゃなかった。
これっぽっちも。
『あんたが遂に動いたって思ってたけど、その様子じゃ違うのね』
それはなんとも言えない。つい、口ごもってしまった。
数秒とはいえ隙を見せてしまったことをすぐさま悔やんだが、
『なんだ。つまんない』
気づいた様子はない。それより今はしゃべるのに夢中らしい。
『まほちゃん可哀想。あんなに頑張るって意気込んでたのに。……まぁ、“頑張って好きになる”なんて、“本当は好きじゃない”と同じだけど』
トゲトゲしい尾津の嫌味も、この瞬間だけは、引っかかることなく耳元を流れていく。
「それで……、響は……?」
『さぁ? 知らない。あの人、バイトも辞めたから』
「辞めた!?」
『知らないの? ちょっと前に辞めたのよ。立つ鳥、跡を濁さずってヤツ?』
響が、俺の知らないうちに――。
分からない。
彼は一体なにを考えているのだろう。
俺に、相談無しで――。
少しの間、顔を合わせていないだけなのに完全に分からなくなってしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
100
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる