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24.共通点/来たる end

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 ◆ ◆ ◆



 喫茶店に入るつもりだったのに、気づけばコンビニでアイスやお菓子を買い込んでしまった。
 新発売の味をあれもこれも試してみたいと響がカゴに放り込んだものだから、袋がパンパンになっている。

「しょうがないし、帰ろっか」

 荷物は俺に持たせ、彼は買ったばかりのガイドブックを熟読しながら少し先を歩いている。
 “帰ろう”というのはもちろん俺の部屋へ、という意味だ。
 早まる鼓動に気づかないようにしながらも「そうだな」と白々しく答えてしまう。

 響を招き入れるのは、あの日以来だ。
 慣れたように靴を脱いだ彼だったが、部屋をのぞいた途端「わぁあ」っと声を上げた。

「だいぶ片付けたんだね」

 その言葉通り、俺は退院してからというもの部屋を毎日掃除している。ついでに本棚の位置も変え、収納も見直した。色がくすんでいたネズミ色のカーテンも、落ち着いたブルーに変えた。
 兄さんの引越し作業を手伝っているうちに自分でも何かしたくなった――、というのは建前。
 本当の目的は別にある。

 探しているのだ。
 あのとき手放してしまったアレを。
 どこかへ転がっていった指輪を――。

 きっとこの部屋のどこかにあるはずなのだ。
 なのに、どこにもない。
 ほとんどのものをひっくり返し、服を一枚一枚調べたりもした。
 もう探すところなんて無い。そう思えるほど、とにかく血眼になって探した。なのに出てこないのだ。

「あっ! これ!」

 本棚の前で何かしていた響が急に声をあげたものだから、本当にドキッとした。
 まさか見つけたのだろうか――という期待が一瞬のうちに脳裏をよぎる。

「このおみくじ! もしかして獅子舞のやつ?」

 響の手の中には指輪――ではなく、小さな紙切れがあった。

「すごい! 大吉じゃん!」

 響に恋人ができたと知らされた日――あの神社への参拝は、たった数ヶ月前のことだ。
 それなのに、だいぶ遠い昔であるように感じる。

「“待ち人、遅れるが来たる”だって。にひひっ、お待たせしましたあー!」

 複雑な想いを抱えながら彼と歩いた。あのときの記憶が蘇ってくる。
 へろへろになりながらも階段を上り続けたこと、俺に好きな人ができるよう祈ってくれたこと、帰りにあんみつじゃなくておしるこを食べたこと――。

「あ、でも学業は用心せよ、だって!」

 あの日と変わらない明るい声を聞いているうちに、何故か胸の奥がツンとしてきた。

 首筋が静かに粟立つ。

 
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