魔法の遺産

第2章

覚醒

アレンは深夜まで祖父の書物を読み続けていた。部屋の中に灯る明かりが、彼の顔をやわらかく照らしていた。その目は、ただの好奇心ではなく、強い決意に満ちていた。あの夜、魔法の力を手に入れたことで彼の世界は一変した。しかし、その力をどう使うべきかは、未だに分からなかった。

「どうすれば、あの魔法を制御できるんだ…？」

呪文の中には、魔法を使うための方法が詳細に書かれていたが、それを実践するにはまだアレンにとって未知の領域だった。昨日の出来事から学んだことは、力を使うには、まずその力を「信じること」と「コントロールすること」だということだ。

アレンは決意を新たにし、再び魔法の呪文を声に出して唱えた。その声は静かな部屋に響き渡る。

「…『光よ、我に力を』」

すると、空気が一瞬で変わり、再び光の粒がアレンの周りに集まってきた。彼の手のひらから放たれる小さな光が、まるで生き物のように踊り始めた。今回は、初めて魔法を使った時よりもはるかに制御できていることに気づく。光は次第に穏やかに広がり、部屋の隅々まで照らし出した。

「できた…！」

アレンは自分の力を感じ取ると、その興奮で胸が高鳴った。だが、その喜びも束の間、彼はふと不安を覚えた。この力がどれほど危険であるかを、彼は完全には理解していない。しかし、今はそれを恐れている場合ではないと感じていた。

突然、窓の外で何かが動く音がした。アレンは手を止め、窓に目を向ける。月明かりの中に、黒い影がひときわ大きく動くのが見えた。何かが近づいてきている。その影は確かに、魔王軍の使者であった。

「まずい…！」

アレンはすぐに書物を閉じ、窓に近づくと、外の様子をうかがった。黒い影は、徐々に村の広場に向かっているようだ。彼は急いで外に出ようと決めた。

外に出ると、月光がアレンの足元を照らしていた。寒さが彼を包み込み、心臓がドキドキと高鳴る。使者が向かっているのは、村の広場だ。アレンは足を速め、広場に向かう。

広場に到着すると、すでに魔王軍の使者がそこに立っていた。その姿は人間のものとは思えなかった。漆黒の鎧に身を包んだその使者は、まるで死神のような存在だった。身長は高く、まるで人間ではないかのような不気味さを漂わせていた。

「お前が…」

アレンはその姿に目を見張ると、使者が冷たい目で彼を見つめていた。

「君が魔法の使い手か。」

使者の声は低く、冷徹であった。アレンは一瞬、言葉を失ったが、すぐに気を取り直す。

「魔王軍の者…何の用だ？」

使者は冷笑を浮かべながら、ゆっくりと歩み寄った。

「魔王様の命令で、貴様の力を確認しに来た。祖父の書物に記された魔法が、どれほどの力を持っているか。それを確かめさせてもらう。」

「それは…！」

アレンは一歩後退り、震えながらも強く言い返す。

「俺の力を試すつもりか？」

使者は一切、表情を変えなかった。

「試すも何も、貴様が持っている力を我々はすでに把握している。ただし、その力がどれほどまでのものか、確かめさせてもらうだけだ。」

アレンは震える手を握りしめた。魔王軍に対抗する力を持っているのは自分だけだと分かっていた。だが、その力が果たしてどれだけ通用するのか、今の自分には分からない。

「来い…！」

アレンは意を決して、魔法の呪文をもう一度唱えた。

「光よ、我に力を…！」

すると、再び光がアレンの手から放たれ、空気を震わせる。しかし、今回は先日とは異なり、その光の強さをアレンはうまくコントロールすることができた。光は使者に向かって進んでいくが、使者はまるでその光を避けるかのように、軽やかに身をひねった。

「ふむ…なかなかの力だな。」

使者は冷ややかな笑みを浮かべて言った。

「だが、それだけでは足りない。」

使者が手を振ると、突然周囲の空気が変わり、暗闇が広がる。アレンはその異様な気配に身を震わせた。使者は周囲を包み込むように暗黒の魔法を放ち、アレンの光をかき消していった。

「これが、我々の力だ。」

使者は言うと、アレンに向かって鋭い目を向けた。アレンは恐怖を感じたが、それでも目の前の敵を倒さなければならないと心に決めた。

「でも、俺は負けない！」

アレンは力を振り絞り、再び魔法を唱える。

「光よ、我に力を…！」

光が爆発的に広がり、暗黒の魔法を押し返し始める。アレンはその力を必死にコントロールし、使者の攻撃を防ぐ。

使者は少しだけ驚いた様子を見せ、冷徹に言った。

「まだ終わりではない…覚えておけ、若者。」

そう言うと、使者はゆっくりと後退し、闇に消えていった。

アレンはその場に膝をつき、息を切らしながらも心の中で誓った。

「俺は、絶対に負けない。魔王軍には…！」

その夜、アレンは自分の力を少しずつでも制御できるようになったことを実感し、同時に新たな決意を胸に抱いた。魔王軍との戦いは、これから本格的に始まるのだった。