魔法の遺産

第3章

新たな仲間

アレンは、広場での戦いを終えてから数日が経った。その間、村は静かな日常を取り戻していたが、彼の心の中にはまだあの魔王軍の使者との戦いの余韻が残っていた。使者が去った後、村の人々は恐れていたが、アレンはそれを覆すためにもっと強くならなければならないと感じていた。

「まだ、足りない…」

アレンは書物の中に記された魔法の呪文をもう一度読み返していた。使者との戦いで、自分の魔法がどれほど未熟であるかを痛感していたからだ。あの時、光を放ったはいいものの、暗黒の魔法を前に完全に圧倒されてしまった。

「もっと強くならないと…」

そう心に誓い、アレンはさらに魔法の研究を続けることに決めた。その日の午後、村の外れにある森へと足を運んだ。そこには静かな空気が漂い、アレンが一人で修行するには最適な場所だった。木々の間を歩きながら、彼は声に出して呪文を唱えた。

「光よ、我に力を…！」

しかし、今回も光はいつも通りに広がり、空気が震えるだけで、まだ完全には制御できていないと感じた。アレンは何度も呪文を繰り返しながらも、その力をコントロールできる感覚をつかめなかった。

「どうして、うまくいかないんだ…」

アレンは気持ちが焦り、腕を強く振りかざす。だが、その瞬間、何かが彼を引き寄せるような感覚がした。その力は、まるで自分の手のひらからではなく、別の存在から流れ込んできたような、強烈な感覚だった。

突然、目の前の木々が揺れ、何かが近づいてくる気配がした。アレンはすぐに身構えた。

「誰だ！？」

その時、木々の間から現れたのは、黒いローブを纏った女性だった。彼女は、アレンの魔法の光を見て、一歩前に出ると、冷静に言った。

「お前、なかなかの力を持っているな。」

「お前は…？」

アレンは警戒しながらも、その女性の目を見つめた。彼女は冷静な表情を崩さず、少し微笑んだ。

「私はリリス。魔法使いだ。」

リリスと名乗った女性は、アレンの前に立ち、無言で彼を見つめた。

「お前が魔王軍と戦う者だと聞いて、少し興味を持った。」

「魔王軍と戦う者？」

アレンは少し驚いたが、すぐにその女性が何を言いたいのか理解した。

「君も、魔法使いか？」

リリスはうなずき、再び微笑んだ。

「そうだ。だが、私はお前とは違う。お前が使っているのは、あの古い魔法だろう？」

アレンはその言葉に驚き、書物を思い出した。

「どうして…それを知っている？」

リリスは軽く肩をすくめた。

「私の師匠も、あの書物を知っているからな。だが、私はもうあんな魔法には頼らない。」

「頼らない…？」

アレンはその言葉が気になったが、リリスは話を続けた。

「お前には、もっと強力な力を使う方法がある。それを教えてやろう。」

「どうして俺にそんなことを？」

リリスは無表情でアレンを見つめた。

「魔王軍に立ち向かう者は、お前一人ではない。だが、お前の力は未熟だ。強くなるために、私の力を借りろ。」

その言葉には、どこか冷たいものがあったが、アレンはそれを受け入れることにした。

「分かった。教えてくれるなら、俺はそれを学ぶ。」

リリスは少し驚いたような表情を浮かべた後、静かにうなずいた。

「お前の覚悟を見た。それなら、今日からお前の修行を始める。」

その後、リリスはアレンに魔法の使い方を教えるため、様々な訓練を行った。最初は簡単な魔法の使い方から始まり、次第にアレンの力は少しずつ強くなっていった。リリスの教えは厳しく、時にはアレンが挫折しそうになることもあったが、彼は諦めなかった。

「もっと、もっと強くなりたいんだ！」

その気持ちが、次第にアレンの力を引き出していった。日々の訓練を続ける中で、アレンは自分の力を少しずつ制御できるようになり、またリリスから新たな魔法を学ぶことができた。

ある日、訓練の最中にリリスが言った。

「アレン、お前は着実に成長している。だが、魔王軍はそれだけでは乗り越えられない。」

アレンはその言葉に緊張した。

「どういう意味だ？」

リリスはその問いに答えず、ただ静かに言った。

「お前には、仲間が必要だ。魔王軍は一人では倒せない。」

その時、アレンはようやく気づいた。自分一人の力では、限界があることを。

「仲間…」

その言葉が、アレンの心に深く刻まれた。そして、彼の冒険は、さらに大きなものへと変わり始めるのだった。