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夜の公園

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 夜の公園
  この話はかすみ(仮名)さんが、飼いイヌと公園で散歩していたときの体験だ。
 当時かすみさんは、会社の業績上昇に伴う連日連夜の残業に、心身共に疲弊していた。
 そんな彼女を癒してくれたのは愛犬ポチの存在だった。
 ポチは大柄で、いかつい外見をしているが、穏やかで人懐っこい性格のイヌだ。
 外で遊ぶのが大好きな彼のために、その日の夜もかすみさんは、S公園へと散歩に出かけた。
 公園内は自然豊かで日中は、ジョギングコースとして人気がある。そんなS公園も、夜になるとうっそうとした雑木林があるだけだった。
 その誰も居ない林の中を、二人きりで悠々歩く。
 かすみさんにとってこの瞬間が開放感に浸りながら、日頃のストレスを発散できる至福の時なんだそうだ。
 ある程度、公園を歩き回るとかすみさん達は、脇道にある東屋《あずまや》で休憩した。
 ベンチに座っているかすみさんに、上目づかいでポチは尻をブンブン振ってくる。
 この仕草はポチが遊んでほしいときにするものだった。
 かすみさんはいつものようにポチのシッポをつかみ前後にワサワサ動かした。こうするとポチは喜ぶそうだ。
「やり過ぎるとお漏らししてしまうことがあって困るんですけどね」
 とかすみさんは、照れたように語る。
 ポチは興奮して息を荒げてダラダラとよだれを垂らした。
 その様子を見て、かすみさんは
「こら、ポチ。汚いでしょ!」と、ポチのおしりを強くぶった。
 バチンッ。と軽快な音が鳴る。ポチは短い悲鳴をあげる。しかし、反省するどころか嬉々とした様子でよだれを垂らして鳴いている。
 もう一度、ぶとうとかすみさんは手を振り上げたときだった。
 先程まで嬉しそうにしていたポチの表情が真顔になって、後ろの東屋の屋根を見ていた。
 何だろうとかすみさんが振り返ると、屋根にスイカ並みの大きさの黒い塊がひもでつり下がっていた。
 丁度雲が晴れ隠れていた月が、東屋を照らした。
 それを見た瞬間かすみさんは恐怖のあまり、ベンチから崩れ落ちた。
 黒い塊は、髪の長い女の生首だった。右唇は横にパックリと切り裂け、顔の左上は皮膚が剥がれて骨の一部がむき出しになっている。
「うああああああーーーーーーーーーーーー」
 そのときだった。先程までポチ役をやっていた、野太い悲鳴を上げて一目散に逃げだした。
 去り際にブリュッと尻からシッポ型アナルプラグを落としながら。
  かすみさんがあっけにとられ居ていると、ゴトッと何かが落ちる音がした。
 屋根につり下がっていた生首の女が地面に降りてきたのだ。
 そのままゴロゴロと転がり、かすみさんににじり寄ってくる。
 膝元まで来た生首の女は、かすみさんを恨めしそうに見つめて口を動かしている。
 どうにかしなかければと思ったかすみさん。しかし、恐怖で足に力が入らない。
 生首の女は髪を触手のように操《あやつ》りかすみさんの右手に、絡めてきた。
 髪はどんどん延びていき、たちまちかすみさんの肩まで覆った。それと同時に強い力で、右腕が生首の女の方へ引っ張られる。
 かすみさんは、抵抗するが依然身体が上手く動かせない。辛うじて動かせる左手をバタバタさせる。
 夢中でもがく左手が何かをつかんだ。それは、ポチが落としていったシッポ型アナルプラグだった。
 かすみさんは、それをとっさに生首の女に投げつけた。
 プラグは見事に命中し生首の女は、ヒキガエルのような悲鳴を上げる。すると、かすみさんの腕に絡んだ髪の力が抜けて足にも力が入るようになった。
 女がひるんでいる隙にかすみさんは、すぐに立ち上がり、必死に走ってなんとか公園から逃走した。
 その出来事があって以来、あの公園には行ってない。
「アレは一体何だったでしょう。あのまま逃げられずに取り込まれていたら、私はどうなっていたのでしょうか」
 と、かすみさんは青ざめた顔でポチの尻に鞭をいれながら、筆者に語った。

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