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エキシビション

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 タクシードライバーのけいじ(仮名)さんが、上客に呼び出された帰りのことだった。
 深夜になっていたので、そろそろ仕事を切り上げることにしたけいじさんは、会社に向かっていた。
 駅前の道路を走っていると、歩道からこちらに手を挙げる人影が見えた。
 見てみると、若い女性だった。太ももまでしか丈がないミニスカートに、胸を強調するノースリーブという夏場とはいえ露出度の激しい格好をしていたそうだ。
 年の近い娘を持つけいじさんは、夜道で一人でいる女性が心配になって乗せることにした。
 夏の生温なまぬるい風と一緒に乗り込んだ女性客にけいじさんは行き先を尋ねる。
「どちらまで行かれますか」
 女性はうつむいて小さな声でつげた。
「K町の○○○○までいってください」
 幸いにも帰り道の途中だったので、けいじさんは快く了解した。
  しばらく車を走らせていると女性客がうめき声をあげた。
「…ん…ああっ……」
 けいじさんがルームミラーで様子を確認すると女性が顔を赤らめてうつむいている。
 体調が悪いのだろうかとけいじさんは思った。
 曲がり角を曲がったとき、ハンドルがいつもより重く感じる。何故だろうと疑問がもたげたが
「……ああん……ぅんん」
 とまた女性が苦しそうにうめき声をあげたのでそれにきを取られた。気のせいか今度はやけに艶っぽい。
 けいじさんは女性客に声をかけた。
「大丈夫ですか?。気分が悪そうですが」
「だい…じょうぶ……です。少し飲みすぎただけ」
 内股に手を添えながら、恥ずかしそうに女性客が応えた。
 ミシミシミシ。車の屋根から何か音がする。アクセルペダルもいつもより重い。
 これらは女性が乗ってきてから起きている。
 けいじさんは少し、女性客が不気味に思い始めた。
 しかし、もうじき目的地だったので、我慢して運転に専念した。
 信号待ちをしているときだった。
「……あああっ。そこはだめ~~」
 車内に女性客の嬌声が響き渡った。
 何事かと、けいじさんは後部座席を振り返ると驚愕した。
 女性客が仰け反りながら股を広げていたのだ。ミニスカートのなかは下着を履いておらず、彼女の秘蜜の花園が露わになっていた。しかし、けいじさんが驚いたのはそこではなかった。その花園の中央に男の毛深い手が、うごめいていたのだ。
 異常な光景に理解が追いつかないけいじさん。そのとき、ミシミシと例の音が鳴って景色が突然真っ暗になった。
 けいじさんは何が何だか分からなくなって、暗闇の中手探りでルームライトをつける。
「ひゃああああーーーーーー」
 明かりをつけたとき、けいじさんは絶叫した。
 フロントガラスに、無数の男の顔が張り付いていた。正面だけではない。サイドガラスからバックドアガラスまで、三六〇度全て
 顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、。
 鼻を伸ばしながら女性客の痴態に見入っている。ミシミシと音を立てて、窓ガラスを突き破らんばかりに。
「あああああっっーーーーん。いく~~~~」
 後ろから場違いではないかと思える声量で女性の絶頂の歓声が上がる。
 そこで、けいじさんの意識が限界を迎えた。

 けいじさんが意識を取りもどしたのは、空が白んだ明け方のことだった。
 昨日の出来事を確かめるために、急いで後部座席を見やった。
 女性客はいなくなっていたが、座っていた座席に何かが置いてあった。
 けいじさんは車を降りて後部座席に行くと、メーター分の運賃が置いてあった。そして、その手前、丁度女性客の股の部分にあたるシート部分がグッショリと濡れていた。

 そこまで語ると、けいじさんはがっくりと肩を落とした。
「幽霊の変態プレイに付き合わされるは、座席を汚されて掃除しないといけないは、散々でしたよ‼。もう二度と乗ってきてほしくないっ」
 そう嘆くけいじさんの姿に筆者は「ご愁傷さまです」としか声をかけられなかった……。

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