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守りがみ
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えみこさん(仮名)は5年前に自宅が火災に見舞われたことがある。
二階の自室で就寝していると、焦げくさい臭いで目が覚めた。
部屋の外に出ると不気味な黒い煙が、廊下に充満していた。階段の隣の部屋から、オレンジ色の炎がゴウゴウと吹き出して廊下まで侵食していた。
その日は旦那さんが出張で不在で、家の中にいるのはえみこさんと10歳になる娘さんだけだった。
えみこさんはすぐにでも娘を連れて逃げようとしたが、子ども部屋へ続く道は炎が邪魔をして通れない。
娘さんが起きないかと名前を何度も叫んだが、反応は無かった。その間にも火の勢いがどんどん盛んになっていく。
このままでは、自分の身も危うくなると思いはじめたころ、飛び回るなにかが、視界に入った。
炎に照らし出されたそれが見えた瞬間、えみかさんは我が目を疑った。
それは天狗だった。
大きさは市松人形大単語だが伸びた赤鼻に、山伏単語の格好をしているのは絵巻に出てくる天狗そのものだった。
いかめしい表情の天狗は右手に持ったうちわを、燃え盛る煙火単語に向かって振り下ろした。
途端に強風が吹きあれる。廊下の火と煙はかき消されて、人一人通れるようになった。
呆気にとられているえみこさんに天狗は、あごで娘の寝室を示した。
えみこさんは急いで子ども部屋に入り、寝ている娘さんを抱きかかえて家の外に避難した。
消防と警察に連絡した後、消防車が来るまでえみこさんは、燃え盛る我が家を案じて眺めていた。
そんな中、火中に飛び込む複数の影が見えた。
一つは先程助けてくれた天狗だとわかった。他の者は最初分からなかったが、目を澄ますと徐徐に正体が分かった。2杯のタコと狐だった。
天狗がうちわで火の勢いを削いで、下火になった所をタコたちが墨を吐いて消火していく。
狐はシッポから鬼火を出して、これ以上火の手が広がらないように防いでいた。
集まった野次馬には、妖怪は見えていない様子だった。
それから数分後に消防車が到着して消火活動が行われた。
帰宅すると二階は丸焦げになっていたが、思いの外に家は原形をとどめていた
それはあの妖怪達が防火に努めてくれたからだろうと、えみこさんは思った。
それから五年後、えみこさんは意外な形で彼らと再会する。
えみこさんの家系は旧家血筋で、先祖たちが集めた古美術品が代々保管されていた。
その日虫干しと物品の把握をするために土蔵から品物を出していた。
蔵の中を運ぶ途中、えみこさんは漆塗りの豪華な重箱を見つけた。
えみこさんはお宝を期待して重箱を開けてみた。
中に入っていたのは、紐で綴られた数冊の古い和装本だった。表題がかすれて判読できなかった。
えみこさんは本をめくり、中身を確認した。その内容に思わず上ずった声がでた。
「その本、春画単語だったのよ」
春画とは浮世絵の一種で、男女の情交を描いた絵のことだ。しかし、えみこさんが見た物は普通の春画ではなかった。
出てくるのは骸骨に河童に馬と、人と人外が織りなす奇妙奇天烈単語な桃色遊戯だった。
「うちの先祖、異種姦ものが好きだったのよっ‼」
「それは早合点しすぎじゃないですか。収集物の一部だったということもあり得ますよ」
「いいえ、土蔵の中をくまなく確認したけど、春画はこれらだけだったわ。重箱に入れて大事そうに保管しているのが何よりの証拠よ」
「それは……クロに近いですね」
春画の中には見知った姿があった。
生娘と鼻で戯れる天狗、美女に化けて男の上で悦にいる狐、浜辺で海女に触手で絡みつき、女体を貪るタコたち。
あの日えみこさん達を救い、火事の延焼を防いでいだ妖怪達だった。
「鬼頭単語さんは、付喪神単語をご存じ」
「百年経った物が、命を宿して妖怪になるというあれですか?」
「あの子たちは、春画の付喪神なんだわ。調べたんだけど、春画は防火のお守りに使われていたことがあるの」
「何でまた、防火なんでしょうか」
「濡れ場を描いているから燃えないてことでしょうね。まさか、先祖の変態趣味を知ることになるなんて。助けてくれたことには感謝しているけど、とても複雑な気持ちだわ」
ちなみにその春画を鑑定してもらったところ、名のある絵師の作品で保存状態が良好だったそうで、総額50万円の値がついたそうだ。
二階の自室で就寝していると、焦げくさい臭いで目が覚めた。
部屋の外に出ると不気味な黒い煙が、廊下に充満していた。階段の隣の部屋から、オレンジ色の炎がゴウゴウと吹き出して廊下まで侵食していた。
その日は旦那さんが出張で不在で、家の中にいるのはえみこさんと10歳になる娘さんだけだった。
えみこさんはすぐにでも娘を連れて逃げようとしたが、子ども部屋へ続く道は炎が邪魔をして通れない。
娘さんが起きないかと名前を何度も叫んだが、反応は無かった。その間にも火の勢いがどんどん盛んになっていく。
このままでは、自分の身も危うくなると思いはじめたころ、飛び回るなにかが、視界に入った。
炎に照らし出されたそれが見えた瞬間、えみかさんは我が目を疑った。
それは天狗だった。
大きさは市松人形大単語だが伸びた赤鼻に、山伏単語の格好をしているのは絵巻に出てくる天狗そのものだった。
いかめしい表情の天狗は右手に持ったうちわを、燃え盛る煙火単語に向かって振り下ろした。
途端に強風が吹きあれる。廊下の火と煙はかき消されて、人一人通れるようになった。
呆気にとられているえみこさんに天狗は、あごで娘の寝室を示した。
えみこさんは急いで子ども部屋に入り、寝ている娘さんを抱きかかえて家の外に避難した。
消防と警察に連絡した後、消防車が来るまでえみこさんは、燃え盛る我が家を案じて眺めていた。
そんな中、火中に飛び込む複数の影が見えた。
一つは先程助けてくれた天狗だとわかった。他の者は最初分からなかったが、目を澄ますと徐徐に正体が分かった。2杯のタコと狐だった。
天狗がうちわで火の勢いを削いで、下火になった所をタコたちが墨を吐いて消火していく。
狐はシッポから鬼火を出して、これ以上火の手が広がらないように防いでいた。
集まった野次馬には、妖怪は見えていない様子だった。
それから数分後に消防車が到着して消火活動が行われた。
帰宅すると二階は丸焦げになっていたが、思いの外に家は原形をとどめていた
それはあの妖怪達が防火に努めてくれたからだろうと、えみこさんは思った。
それから五年後、えみこさんは意外な形で彼らと再会する。
えみこさんの家系は旧家血筋で、先祖たちが集めた古美術品が代々保管されていた。
その日虫干しと物品の把握をするために土蔵から品物を出していた。
蔵の中を運ぶ途中、えみこさんは漆塗りの豪華な重箱を見つけた。
えみこさんはお宝を期待して重箱を開けてみた。
中に入っていたのは、紐で綴られた数冊の古い和装本だった。表題がかすれて判読できなかった。
えみこさんは本をめくり、中身を確認した。その内容に思わず上ずった声がでた。
「その本、春画単語だったのよ」
春画とは浮世絵の一種で、男女の情交を描いた絵のことだ。しかし、えみこさんが見た物は普通の春画ではなかった。
出てくるのは骸骨に河童に馬と、人と人外が織りなす奇妙奇天烈単語な桃色遊戯だった。
「うちの先祖、異種姦ものが好きだったのよっ‼」
「それは早合点しすぎじゃないですか。収集物の一部だったということもあり得ますよ」
「いいえ、土蔵の中をくまなく確認したけど、春画はこれらだけだったわ。重箱に入れて大事そうに保管しているのが何よりの証拠よ」
「それは……クロに近いですね」
春画の中には見知った姿があった。
生娘と鼻で戯れる天狗、美女に化けて男の上で悦にいる狐、浜辺で海女に触手で絡みつき、女体を貪るタコたち。
あの日えみこさん達を救い、火事の延焼を防いでいだ妖怪達だった。
「鬼頭単語さんは、付喪神単語をご存じ」
「百年経った物が、命を宿して妖怪になるというあれですか?」
「あの子たちは、春画の付喪神なんだわ。調べたんだけど、春画は防火のお守りに使われていたことがあるの」
「何でまた、防火なんでしょうか」
「濡れ場を描いているから燃えないてことでしょうね。まさか、先祖の変態趣味を知ることになるなんて。助けてくれたことには感謝しているけど、とても複雑な気持ちだわ」
ちなみにその春画を鑑定してもらったところ、名のある絵師の作品で保存状態が良好だったそうで、総額50万円の値がついたそうだ。
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