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第6章
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しおりを挟む「何を知りたい?」
「___お母さんの事です」
「”オカアサン”?」
「はい。あの___、司くんから聞きました。お母さんが亡くなられた時の事」
「・・・」
沈黙になるが、それは当然の事だと思った。言うつもりがなかったのなら尚更だろう。それでも、貴臣さんの口からちゃんとした真実を聞きたかった。自分の愛する人がそんな人じゃないという事を。
「なんと聞いたんだ?」
「言い辛いのですが、真実が知りたいので言います。お父様と貴臣さんに見捨てられて、お母さまは自殺したと聞きました。それは___本当ですか?」
先程まで楽しそうに弧を描いていた唇は、今では感情が読み取れない。怒りなのか悲しみなのかもわからない表情は、ただ不安を煽るだけだった。
「___ああ、本当だ」
消え入りそうな弱弱しい声だったが、はっきりとした肯定だった。けれど目の前の人物が母親を自殺に追いやった人には見えなかった。
「私が、___私が恐ろしいか?」
ゆっくりと伸ばされる手の平が頬に触れた。壊れ物を扱うような貴臣の手の上から両手を添えた。私なんかよりもずっとこの人の方が壊れて居なくなってしまいそうで。
「いいえ。こんな弱弱しい貴方を知っているのは私だけですか?」
「___私は強くいなければならない。どんな時も、誰の前でも」
「ふふふ。もう、遅いですよ。私の前以外にしたらどうですか?」
「こんな私だと誰もついてこない」
「私はどんな貴方でもついていきます」
至極当然のように口付けをした。今まで交わしたキスの中で、最も優しいキスだった。押し付けるだけの子供の様なキスは、触れたところから震えが伝わってくる。緊張なのか喜びなのか、真意は沙也加には測りきれなかった。
腕を引かれて身体を預けると、強く強く抱き締められた。これまでの人生がどれだけ貴臣にとって孤独な日々だったのだろうか。これまでの人生を変えることは出来ないけれど、これからの人生を明るくすることは出来るはず。
”兄さんは結婚する気はない”
その言葉がチクりと胸に食い込んだ。ただ、貴臣さんに必要とされている間は私が彼の味方でいたい。
スプリングが軋み貴臣が立ちあがる。抱き上げる様に立たされると、そのままドアの方に向かって手を引かれた。
「お前に見せたいものがある」
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