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22話 攫われた

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 朝日が昇ってきた、1日目の夜営は終わりだ。
 商人の朝は早いようで、明るくなってきたら起床し、朝食を済ませてすぐに出発する。
 2日目の森の中も、特に変わった様子もなく魔物を倒しながら進んでいく。
 夕方頃、とある分かれ道に来た。

「あっ……」
「ん?カエデどうした?」
「この分かれ道を北に向かえば私の村が……」
「……トーラン村か」

 カエデのつい最近まで住んでた村がこの先にあるらしい。

「ねぇご主人様、少しだけ見に行ってもいいかな……?この分かれ道から村まではそう遠くないんだけど……」
「行きたい気持ちは山々だが、護衛中だからな……」
「それならば、そろそろ夕刻ですし今日の夜営をトーラン村で行いますか?私は構いませんよ?」

 たまたま近くに居て話が聞こえたのか、ガルムさんが許可を出してくれた。

「いいんですか?護衛中なのに……」
「えぇ、トーラン村からサンビークまでもそう遠くはなく、到着時間もあまり変わらないので」
「ありがとうございます!」

 俺達は少しだけ寄り道してトーラン村に向かう事になった。
 分かれ道を北に進み、1時間くらいしただろうか?村が見えてきた。
 遠目からでも分かる、酷い状態だな……
 ドラゴンが暴れ回ったのだろう、元の原型を留めている家が数ヶ所しか残っておらず、殆どが崩れていたり焼けてしまっていたりしていた。
 村の入口付近に来た俺達は、入口近くで夜営の準備に取り掛かる。
 本来ならば夜営するにはまだ若干時間が早いが、森の中よりは視界もあり夜営しやすいので早目に休む事にした。

「……」

 カエデは村の門があった所で立ち尽くしていた。

「カエデ……大丈夫か?」
「うん……なんとかね」

 カエデの顔の血色が悪い、無理もないだろう……ここで父と母が亡くなったんだもんな。
 村を見渡してみても遺体は見当たらない、ガルムさんの情報曰くサンビーク側が村へ調査しに来たらしく、遺体は全て火葬されて近くに埋められたとか……火葬はゾンビのようなアンデット化を防ぐ為だとの事。
 ガルムさんから埋められた場所の情報を貰ったので向かってみると簡単な墓が作られていた、恐らくこれは土魔法で作られた墓だな。

「……」

 カエデは言葉を発する事無く墓の前まで歩いていき、墓の目の前で膝を付いて祈りを捧げるカエデ、目からは涙が溢れていた。
 俺もカエデの後ろで両手を合わせて合掌し、祈り終わったカエデを抱き締めた。

「……っ」

 静かに泣き続けるカエデ、俺は優しく抱き締めながら、落ち着くまで頭を撫で続けた。

「……ありがとご主人様」
「落ち着いたか?」
「……うん」

 そっと離れて、涙をぬぐったカエデは、墓に向かって話し始めた。

「お父さん、お母さん、みんなが私を守って逃がしてくれたお陰で……生き延びたよ。その先で素敵なご主人様と出会う事が出来た。そのご主人様と今旅に出てるの、あのドラゴンを追い掛けてね……必ず仇を取ってもう一度ここに来るから……待っててね」

 カエデはそう誓いを述べて墓から離れていく、俺もその隣に並んで歩く。

「「……?」」

 俺とカエデは何やら視線を感じて振り返るが何も居ない。

「ご主人様、何かに見られたような……」
「あぁ、俺も視線を感じた、何だったんだ?」

 索敵スキルを使うも何も反応はない。

「索敵には何もない、もしかしたらカエデの両親が見てくれてるのかもな」
「そうかもね」

 俺達は墓を後にして夜営場所へ戻って夕飯を食べ、昨日と同じ見張りの順番を決めて眠りについた、今日も先に見張りするのはカエデだ。

 ーーーカエデsideーーー

「今日はメイランちゃん早く寝ちゃったし、暇だなぁ」

 私は焚火の火の番をしながら時間が過ぎるのを待つ。
 暇な間、昔の思い出を思い返してた、お父さんのテイムした従魔や妖精と遊んだりした思い出だ。
 私を村から逃がしてくれた狼の従魔、名前もあるんだけど、同じ模様の従魔が居たから、どの子だったのか……姿が似すぎてたし状況が状況だった故に分からなかった。
 昔、良く遊んでくれてた従魔だけは分かる、狼の従魔フィルと妖精のリリィだ。
 フィルは、1匹だけかなり珍しい銀色の毛並みをしてて、身体もどの狼の従魔よりひと回り以上に大きかった。
 そしてリリィは、手のひらサイズの小さいフェアリーで、良く話し相手になってくれた。
 私は小さい頃からフィルとリリィと3人で遊んで暮らしてた、あの子達は今何してるんだろう……?
 主が亡くなればテイムは解除されたはず……もしかして森の中で暮らしてるのかな……?

「会いたいな……」

 そう思っていると。

 ガサガサッ……

「!?」

 森の方から茂みが動く音がした、様子を伺いつつ近付いていくと……

 ガサッ!

「んんんっ!?」

 茂みから人が飛び出してきて口を何かで塞がれた。
 意識が遠くなっていく……

 ご主人様……!

 私は気を失った。



「んんっ……」

 目が覚めると、何処か洞窟のような所にいた。
 隣を見ると奴隷の2人とメイランが同じく捕まっていた。

「メイランちゃん、メイランちゃん!」
「んっ……?」

 呼び掛けるとメイランちゃんが起きた。

「こ……ここは?」
「分からない……私達、誰かに捕まって連れてこられたみたい……」

 手に鎖が付けられていた、鎖自体は長いが根元が固定されているので動けない、魔力も抑えられてるみたい……
 奥から男3人がやって来た。

「起きたか、おい!その狼女を俺の寝床まで連れて行け!」

 男の1人が、私に付けられている鎖を引っ張り連れていかれる。

「離して!」
「カエデ!このっ!」

 メイランちゃんが鎖を壊そうと引っ張るが壊れない。

「ボス!このドラゴン族も良い女っすねぇ、やっちゃっていいっすか!」
「身体を傷付けるなよ?売り飛ばすんだからな」
「へいへい、突っ込まずとも身体だけ楽しむっすよぉ、ヤリてぇすけど」

 メイランの顔がどんどん暗くなっていく。

「くっ……」
「メイランちゃん!」
「おい、早く来い!」

 私は男1人とボスらしき人に連れて行かれてしまった。
 洞窟の中に小さめの部屋が作られていて、そこに連れ込まれた。

「お前、トーラン村の生き残りだろ?」
「な、何でそれを!?」
「フードを被ったドラゴンを使役したやつから聞いたのさ、村の生き残りがストームキャットを連れて来るから、その女を捕まえろってな」

 あのフードに雇われた盗賊って所か……厄介かもしれない。

「お前はそいつに引き渡す予定だ、それまで俺が可愛がってやるよ、しっかり楽しませてもらうぜ」

 ボスらしき男が近寄ってくる。

「……」

 ご主人様……ごめんなさい、私の初めて……ご主人様に捧げられなくなりそうです……

「ご主人様……」

 近付いてくる男を見て私は目を瞑り、涙を流す。
 男の手が髪に触れる。

 嫌だ……嫌だ……気持ち悪い……ご主人様……!助けて……!!

「やめ……」

 そう言いかけた時、目の前の部屋の入口が氷の礫により破壊された。

「カエデぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ご主人様!!」

 ご主人様……!ご主人様が……!来てくれた!
 ご主人様……!ご主人様!
 私の目から流れる涙が、嫌な涙から嬉し涙へと変わった。 
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