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第1章
ひとりぼっち
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「あれ? ここはどこなのかな?」
スイちゃんが日曜日の朝のような長い眠りから目覚めた時、自分がとんでもないところで寝ていたことに気がついた。
そこは、見わたすかぎり何もない、砂漠のような場所。赤茶けた地面に石ころだけ。
地平線の向こう側まで、乾いたホコリっぽい空が続いている。
「何で私、こんなさびしい所に、ひとりでいたのかな?」
スイちゃんは、ようやく体を起こして立ち上がったが、もうひとつ不思議なことに気づいた。
目の前にガラスがある。というよりヘルメットをかぶり、ブカブカの大きなピンクの服にすっぽりと包まれていたのだ。思わず、ぶ厚い手袋をグー・パーして、目をぱちくり。
スイちゃんは、テレビでよく見るような宇宙服を着ていることが分かったのだ。息を吐くとガラスが曇った。でもふき取ることはできない。
「よっこらしょっと……」
立ち上がって、誰か他に人がいないか探してみた。でもスイちゃんは、ひとりぼっちだった。家も車もない砂漠に、人がいるはずもなかったのだ。
「どうしよう。お母さん、お父さん!」
不安で泣きそうになったが、暗い空からひらひらと、一枚の紙のような物が降ってきた。
急いで取りに走ったが、スイちゃんはびっくりしてしまった。重そうな服を着ているはずなのに体が軽く、まるでウサギみたいにぴょんぴよんと、軽やかに跳ね回ることができたからだ。
「あはは、これが本当のウサギ跳びだあ!」
最後に大ジャンプして紙を掴むと、かっこよく着地。赤い砂煙が上った。
紙にはスイちゃんが読める字で、こんなことが書かれていたのだ。
『困った時は赤いボタンを押してみて。ただし三回だけ』
声に出して読んでみたが、書かれている通りの赤いボタンが右の腕に三つ並んでいた。
スイちゃんは、ずいぶん迷ったが、試しに一回押してみることにした。
「今が一番困っている時だね。押しちゃってもいいよね」
最初のボタンをカチッと押すと同時に、背中の方から声がしてきた。
「初めまして、スイちゃん。僕はスピリット。スピちゃんと呼んでくれてオッケー」
「そして私はオポチュニティ。オポちゃんと呼んでいいよ。よろしくね!」
元気な二人は双子のようで、よく似た男の子と女の子。小学六年生のスイちゃんと比べても、やや年下の幼い感じがした。不思議なことに宇宙服を着ておらず、普通のセーターと半ズボン、それに花柄のスカート姿だったのだ。
「うわっ! びっくりした。金髪で青い目だけど、言葉が通じるの?」
スイちゃんがたずねると、双子は笑った。
「当ったりまえじゃん。助けに来たんだから」
「じゃあ、早速きくけど、ここはどこなの?」
待ってましたと言わんばかりに、男の子と女の子は顔を見合わせて、どちらから伝えるのか言い合いをしたのだ。
「僕から説明すると、ここは地球じゃなくて月でもなくて火星なのさ!」
「ずるいよスピリット! スイちゃんは火星に修学旅行に来て、オリンポス山に登る途中でみんなとはぐれて、ひとりになっちゃったのよ」
スピちゃんとオポちゃんは、代わる代わる顔を突き合わせて話してくれた。賑やかな双子のおかげで、スイちゃんの心から不安の雲が消えて、まるで暖かな陽が差したようになったのだ。
「そうだったの。私だけ置いてけぼりにされたって訳か。……結構ひどいね」
スイちゃんが宇宙服で動かしにくくなった両腕を腰に当てると、双子の兄妹は肩を叩いて力づけてくれた。
「安心して。僕達がきっとスイちゃんを、みんなの所まで送り届けてあげるから」
「あの地平線に見えるオリンポス山のてっぺんまで登ると、きっと合流できるよ」
オポちゃんが指差す方向には、なだらかな山が通せんぼするように、どっしりと居座っていたのだ。
「あの山の頂上まで登るの? ええ~! すっごく大変そう」
スイちゃんが、ため息をつくと、二人は協力して励ます。
「大丈夫だって。スイちゃんならできるよ!」
「さあ、思い出に残る修学旅行のスタートよ。行きましょう!」
グイグイと背中を押されるように、スイちゃんは途方もない登山を開始したのだ。
スイちゃんが日曜日の朝のような長い眠りから目覚めた時、自分がとんでもないところで寝ていたことに気がついた。
そこは、見わたすかぎり何もない、砂漠のような場所。赤茶けた地面に石ころだけ。
地平線の向こう側まで、乾いたホコリっぽい空が続いている。
「何で私、こんなさびしい所に、ひとりでいたのかな?」
スイちゃんは、ようやく体を起こして立ち上がったが、もうひとつ不思議なことに気づいた。
目の前にガラスがある。というよりヘルメットをかぶり、ブカブカの大きなピンクの服にすっぽりと包まれていたのだ。思わず、ぶ厚い手袋をグー・パーして、目をぱちくり。
スイちゃんは、テレビでよく見るような宇宙服を着ていることが分かったのだ。息を吐くとガラスが曇った。でもふき取ることはできない。
「よっこらしょっと……」
立ち上がって、誰か他に人がいないか探してみた。でもスイちゃんは、ひとりぼっちだった。家も車もない砂漠に、人がいるはずもなかったのだ。
「どうしよう。お母さん、お父さん!」
不安で泣きそうになったが、暗い空からひらひらと、一枚の紙のような物が降ってきた。
急いで取りに走ったが、スイちゃんはびっくりしてしまった。重そうな服を着ているはずなのに体が軽く、まるでウサギみたいにぴょんぴよんと、軽やかに跳ね回ることができたからだ。
「あはは、これが本当のウサギ跳びだあ!」
最後に大ジャンプして紙を掴むと、かっこよく着地。赤い砂煙が上った。
紙にはスイちゃんが読める字で、こんなことが書かれていたのだ。
『困った時は赤いボタンを押してみて。ただし三回だけ』
声に出して読んでみたが、書かれている通りの赤いボタンが右の腕に三つ並んでいた。
スイちゃんは、ずいぶん迷ったが、試しに一回押してみることにした。
「今が一番困っている時だね。押しちゃってもいいよね」
最初のボタンをカチッと押すと同時に、背中の方から声がしてきた。
「初めまして、スイちゃん。僕はスピリット。スピちゃんと呼んでくれてオッケー」
「そして私はオポチュニティ。オポちゃんと呼んでいいよ。よろしくね!」
元気な二人は双子のようで、よく似た男の子と女の子。小学六年生のスイちゃんと比べても、やや年下の幼い感じがした。不思議なことに宇宙服を着ておらず、普通のセーターと半ズボン、それに花柄のスカート姿だったのだ。
「うわっ! びっくりした。金髪で青い目だけど、言葉が通じるの?」
スイちゃんがたずねると、双子は笑った。
「当ったりまえじゃん。助けに来たんだから」
「じゃあ、早速きくけど、ここはどこなの?」
待ってましたと言わんばかりに、男の子と女の子は顔を見合わせて、どちらから伝えるのか言い合いをしたのだ。
「僕から説明すると、ここは地球じゃなくて月でもなくて火星なのさ!」
「ずるいよスピリット! スイちゃんは火星に修学旅行に来て、オリンポス山に登る途中でみんなとはぐれて、ひとりになっちゃったのよ」
スピちゃんとオポちゃんは、代わる代わる顔を突き合わせて話してくれた。賑やかな双子のおかげで、スイちゃんの心から不安の雲が消えて、まるで暖かな陽が差したようになったのだ。
「そうだったの。私だけ置いてけぼりにされたって訳か。……結構ひどいね」
スイちゃんが宇宙服で動かしにくくなった両腕を腰に当てると、双子の兄妹は肩を叩いて力づけてくれた。
「安心して。僕達がきっとスイちゃんを、みんなの所まで送り届けてあげるから」
「あの地平線に見えるオリンポス山のてっぺんまで登ると、きっと合流できるよ」
オポちゃんが指差す方向には、なだらかな山が通せんぼするように、どっしりと居座っていたのだ。
「あの山の頂上まで登るの? ええ~! すっごく大変そう」
スイちゃんが、ため息をつくと、二人は協力して励ます。
「大丈夫だって。スイちゃんならできるよ!」
「さあ、思い出に残る修学旅行のスタートよ。行きましょう!」
グイグイと背中を押されるように、スイちゃんは途方もない登山を開始したのだ。
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