2 / 7
第2章
大冒険
しおりを挟む
スイちゃんと双子は、しばらく足取りも軽く山の麓を登った。山と言っても木が一本もなく、大きな砂山みたいだ。
「ふう。ちょっと疲れたなぁ。一休みしようよ」
スイちゃんは、やる気まんまんだったが、すぐに音を上げた。
「ええ? もう疲れたの? まだ登り始めたばかりだよ」
先頭を行くスピちゃんが呆れて言うと、スイちゃんの後ろのオポちゃんが大声で返した。
「あんた女の子に優しくないね。そんなふうじゃダメだよ。ちょっと休憩しようよ」
おかげで岩に腰かけて一休みすることができたが、困ったことにお腹が空いてきた。とても喉が乾いていることも思い出した。
「ひょっとして、お腹が空いているのかい? だったら……」
スピちゃんが、スイちゃんの着ている宇宙服のすごさを分かりやすく説明してくれた。
「左の腕についているパネルに、『ごはん』と入れてみて」
言われた通りにスイちゃんが文字をタッチすると、宇宙服の内側から小さなパンダ型ロボットが出てきて、オニギリを口元に差し出してくれた。
「うわ! 何これ? 食べさせてくれるってことなの?」
スイちゃんが慌てて、じたばたしているとオポちゃんが笑って言った。
「そうよ。口を拭いたり、背中をかいたり、大抵のことはロボットがやってくれるよ。試しに『水を飲ませて』と言ってみて」
「……喉が渇いたから、お水をちょうだい」
スイちゃんが恐る恐る白黒ロボットに命令してみると、今度はスルスルとストローが口元に伸びてきたのだ。
「わあ、ありがとう。便利なロボットなのね」
「ドウイタシマシテ」
パンダの満点な受け答えに、思わずスイちゃんは感心してしまった。そして今度は……。
「やばい。大変だよ、どうしよう」
「ええ? どうしたのさ、急に」
スピちゃんが整った顔の眉を上げて心配してくれた。
「いや、あなたにはちょっと、言えないようなことでね」
なおさらにスピちゃんが気にしてくれると、スイちゃんは青ざめてきた。
「こら、スピリット! これだから男の子はもう!」
何かを察したのか、オポちゃんが助け船を出してくれた。スピちゃんを向こうにやって、女の子二人だけになり、ヒソヒソ小声で話し合う。
「おトイレに行きたくなったらね、心配いらないよ。宇宙服の中でやっちゃいな。ちゃんとできるようになっているから」
にわかには信じられなかったが、着たまま全自動でやってくれるらしい。そう言われてみると、宇宙服でトイレに駆けこんで用を足すことなんて無理そうだ。
「ちぇ! 仲間外れにされちゃったよ」
スピちゃんの悔しそうな顔に、思わず女の子達は笑ってしまった。
すっかり元気を取り戻したスイちゃんは、再び山登りを開始した。火星修学旅行で山登りなんて、一体誰が言い出したのだろう。途方もない冒険だ。そんなの無理だと、あきらめてしまった人がいるかもしれない。
「気をつけて! スイちゃん」
背中を押すオポちゃんの声に、はっとなり、はるか下の赤い岩と砂だらけの地面を見た。すると何か黒いつむじ風のような物が、坂を登って追いかけてくる。
「あれは火星の砂嵐よ。巻き込まれたら大変」
先頭を行くスピちゃんも大声を上げた。
「吹き飛ばされたら危険だ。さあ、僕達に掴まって」
砂嵐の竜巻は、まるで生きているようにジグザグに進み続けて三人を追いつめてくる。
巻き上げる砂ボコリとつむじ風で空は暗くなり、前も後ろも見えにくくなってきた。
やがてパラパラと小石混じりの風がスイちゃんに襲いかかってきたが、スピちゃんとオポちゃんが覆い被さって必死に守ってくれる。
「がんばって! 前を向いて登り続けるんだ」
双子の助けによって、何とかくじけずに進むことができた。
でも何てことだろう。火星の空が砂嵐で真っ暗になるにつれ、だんだんと双子の元気がなくなってきたのだ。
「大丈夫なの? スピちゃん、オポちゃん」
赤い砂にまみれた二人は、スイちゃんに心配かけまいと、無理をしているようにも思えた。
「何ともない、平気って言いたいところだけど……、僕達、暗くなったらダメなんだ」
「スピリットの言う通り、太陽の光を浴びないと私達は動けなくなっちゃうの」
双子は、そう言い終わるかどうかの所でスイちゃんの目の前から煙のように消えてしまった。
「スピちゃん! オポちゃん! 二人とも、どこへ行っちゃったの?」
スイちゃんが周りを見回して、どんなに叫んでも、不思議なことに双子は、かくれんぼをしたようにどこにも見当たらず、消えてしまったようだ。
「……スピちゃん、それにオポちゃん……」
あまりの急な出来事に、とうとうスイちゃんはべそをかき始めた。
でもそれは仕方のないことだろう。どんな強い子でも、こんな慣れない荒れた砂山に、ぽつんと残されたら、不安で心がつぶれてしまうにちがいない。
しばらく双子を探しながら、登山を続けたスイちゃんだったが、困った時の赤いボタンのことを思い出したのだ。
「困った時は、今だよね。でもまだまだ登山は続きそうなのに、二番目のボタンを押しちゃっていいのかなあ?」
スイちゃんが宇宙服に包まれた腕を組んで考えこんでいる時、目の前にある崖のひび割れた隙間に、何かが動いているような気がしたのだ。
「ふう。ちょっと疲れたなぁ。一休みしようよ」
スイちゃんは、やる気まんまんだったが、すぐに音を上げた。
「ええ? もう疲れたの? まだ登り始めたばかりだよ」
先頭を行くスピちゃんが呆れて言うと、スイちゃんの後ろのオポちゃんが大声で返した。
「あんた女の子に優しくないね。そんなふうじゃダメだよ。ちょっと休憩しようよ」
おかげで岩に腰かけて一休みすることができたが、困ったことにお腹が空いてきた。とても喉が乾いていることも思い出した。
「ひょっとして、お腹が空いているのかい? だったら……」
スピちゃんが、スイちゃんの着ている宇宙服のすごさを分かりやすく説明してくれた。
「左の腕についているパネルに、『ごはん』と入れてみて」
言われた通りにスイちゃんが文字をタッチすると、宇宙服の内側から小さなパンダ型ロボットが出てきて、オニギリを口元に差し出してくれた。
「うわ! 何これ? 食べさせてくれるってことなの?」
スイちゃんが慌てて、じたばたしているとオポちゃんが笑って言った。
「そうよ。口を拭いたり、背中をかいたり、大抵のことはロボットがやってくれるよ。試しに『水を飲ませて』と言ってみて」
「……喉が渇いたから、お水をちょうだい」
スイちゃんが恐る恐る白黒ロボットに命令してみると、今度はスルスルとストローが口元に伸びてきたのだ。
「わあ、ありがとう。便利なロボットなのね」
「ドウイタシマシテ」
パンダの満点な受け答えに、思わずスイちゃんは感心してしまった。そして今度は……。
「やばい。大変だよ、どうしよう」
「ええ? どうしたのさ、急に」
スピちゃんが整った顔の眉を上げて心配してくれた。
「いや、あなたにはちょっと、言えないようなことでね」
なおさらにスピちゃんが気にしてくれると、スイちゃんは青ざめてきた。
「こら、スピリット! これだから男の子はもう!」
何かを察したのか、オポちゃんが助け船を出してくれた。スピちゃんを向こうにやって、女の子二人だけになり、ヒソヒソ小声で話し合う。
「おトイレに行きたくなったらね、心配いらないよ。宇宙服の中でやっちゃいな。ちゃんとできるようになっているから」
にわかには信じられなかったが、着たまま全自動でやってくれるらしい。そう言われてみると、宇宙服でトイレに駆けこんで用を足すことなんて無理そうだ。
「ちぇ! 仲間外れにされちゃったよ」
スピちゃんの悔しそうな顔に、思わず女の子達は笑ってしまった。
すっかり元気を取り戻したスイちゃんは、再び山登りを開始した。火星修学旅行で山登りなんて、一体誰が言い出したのだろう。途方もない冒険だ。そんなの無理だと、あきらめてしまった人がいるかもしれない。
「気をつけて! スイちゃん」
背中を押すオポちゃんの声に、はっとなり、はるか下の赤い岩と砂だらけの地面を見た。すると何か黒いつむじ風のような物が、坂を登って追いかけてくる。
「あれは火星の砂嵐よ。巻き込まれたら大変」
先頭を行くスピちゃんも大声を上げた。
「吹き飛ばされたら危険だ。さあ、僕達に掴まって」
砂嵐の竜巻は、まるで生きているようにジグザグに進み続けて三人を追いつめてくる。
巻き上げる砂ボコリとつむじ風で空は暗くなり、前も後ろも見えにくくなってきた。
やがてパラパラと小石混じりの風がスイちゃんに襲いかかってきたが、スピちゃんとオポちゃんが覆い被さって必死に守ってくれる。
「がんばって! 前を向いて登り続けるんだ」
双子の助けによって、何とかくじけずに進むことができた。
でも何てことだろう。火星の空が砂嵐で真っ暗になるにつれ、だんだんと双子の元気がなくなってきたのだ。
「大丈夫なの? スピちゃん、オポちゃん」
赤い砂にまみれた二人は、スイちゃんに心配かけまいと、無理をしているようにも思えた。
「何ともない、平気って言いたいところだけど……、僕達、暗くなったらダメなんだ」
「スピリットの言う通り、太陽の光を浴びないと私達は動けなくなっちゃうの」
双子は、そう言い終わるかどうかの所でスイちゃんの目の前から煙のように消えてしまった。
「スピちゃん! オポちゃん! 二人とも、どこへ行っちゃったの?」
スイちゃんが周りを見回して、どんなに叫んでも、不思議なことに双子は、かくれんぼをしたようにどこにも見当たらず、消えてしまったようだ。
「……スピちゃん、それにオポちゃん……」
あまりの急な出来事に、とうとうスイちゃんはべそをかき始めた。
でもそれは仕方のないことだろう。どんな強い子でも、こんな慣れない荒れた砂山に、ぽつんと残されたら、不安で心がつぶれてしまうにちがいない。
しばらく双子を探しながら、登山を続けたスイちゃんだったが、困った時の赤いボタンのことを思い出したのだ。
「困った時は、今だよね。でもまだまだ登山は続きそうなのに、二番目のボタンを押しちゃっていいのかなあ?」
スイちゃんが宇宙服に包まれた腕を組んで考えこんでいる時、目の前にある崖のひび割れた隙間に、何かが動いているような気がしたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
こわがり先生とまっくら森の大運動会
蓮澄
絵本
こわいは、おもしろい。
こわい噂のたくさんあるまっくら森には誰も近づきません。
入ったら大人も子供も、みんな出てこられないからです。
そんなまっくら森のある町に、一人の新しい先生がやってきました。
その先生は、とっても怖がりだったのです。
絵本で見たいお話を書いてみました。私には絵はかけないので文字だけで失礼いたします。
楽しんでいただければ嬉しいです。
まんじゅうは怖いかもしれない。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる