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口づけからの距離(後)*
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次にドアを開けて目を合わせると、二人とも上手く言葉が出なくなった。ランプが照らす顔は朝と違う。
「……じゃあ、部屋行く?」
セヴランはなるべく自然に、朝のやりとりを再開するつもりで言ってみたが。黙って頷くカイに彼もそれきりで静かになってしまう。階段を上がる一歩一歩、ベッドに今日は並んで座るのもどうもぎこちない。娼婦とそうしたときとはまるで違ってドキドキしているのが、胸に手を当てずとも分かるほどだった。
それでもまた視線が通いどうにか自然に手が重ねられたので、そうこのまま、もう一度キスでもして、と情動に身を任せようとしたのだが。
そこでポケットからシーツの上へと置かれた物が目に入り、セヴランは動きを止めた。
「――ちょっと、」
「ん」
「あの、思えば男同士って初めてで、」
「……うん。だろうな」
「……」
カイは熱に浮かされた顔をしているものの、制止されると大人しく止まった。重なった手を意識しながらも動かないでいた。
追う、セヴランの視線の先には小さな真四角の紙包――ゴム製のサックと潤滑剤のチューブがある。
確かに今からそういうことをしようとしていたのだが、それを使う意識はセヴランにはなかった。男には挿れるところないじゃん、と思った。混乱して沈黙する様に、カイは口を開く。
「男同士だと直腸に陰茎を挿入する」
軍学校時代の男所帯で聞き齧った知識である。ばんと述べて、その有体な物言いと医学書頼りの用語を飲み込めずにいるセヴランに言い換える。そして触れる。腰を撫でる。緊張した不格好な撫で方だった。
「尻に……このくらいの径なら入るものらしいが」
セヴランの頭に、これまで女の子たちとしていたことの記憶が駆け巡った。尻に、挿れるのだ、性行為というやつは。
「いや――無理じゃない?」
しかもこれは自分がそっち側だと悟った。カイに挿れる想像はしていなかったが、そっちの想像もしていなかった。男同士なのだからなんとなく気持ちよくなって終わるつもりで、ふんわりとした想像で終わっていた。彼はそういう見通しの甘い性格だった。
セヴランは一気に追いつめられた。風呂には入ったがそれだけで、後は落ち着かずにごろごろしてカイを待っていた。準備など、心も体もできていない。今聞いた以上の知識もないし尻を使ったこともない。童貞だと煽って教えてあげるなどと言ったのは、雰囲気とかノリだ。
「だっ、駄目では、ないんだけど、無理じゃない?」
しかし。期待した人をがっかりさせるのは嫌で、口を走らせる。カイは瞬いた。
「……駄目ではない?」
「いけど、」
窮しながらも繰り返されるその言葉に、彼はほっとしていた。
抱きたくて、完全にそのつもりでいて、以前に先輩から揶揄半分で賜った来る日用の品まで持ち出してきたが――まず安堵した。無理と駄目の差を確かに感じとった。
――駄目ではないのか。
朝からいっぱいいっぱいでそこまで気が回らなかったものの。拒絶されることもあったのだと今現場で思い至り、でも落胆はせずに済んでいた。駄目ではない、ならよかった。そう聞いただけで余裕ができた。こうしてベッドまで導かれたのは確かなことで、セヴランにもちゃんとその気はあったようだから、別に今やることが無くなったわけではないと思う。二人ですることにはあまり詳しくはないが――
「じゃあいい。――今日はしない、大丈夫」
「えっ」
口籠っているうちに返ってくる声に、セヴランは驚いて顔を上げた。ヤる気で、突っ込む気でここまで来たのにそんなことを言えるなんて、セヴランには信じられない。そして胸が痛む。抵抗したが諦めさせたかったわけじゃない。止めにしたくはない。
――やだ、したい。
嫌なわけじゃない、追いつめられて言っただけ、ただ勇気が足りないだけだ。できないけどしたい、などと我儘を言いかける。
慌てるうちに膝の上へと手が置かれる。やはり撫でまわすような慣れた手つきではなく、そっと、試しに落ち着けてみるような動きだった。
「しなくても、触りたいんだけど、いいか」
そこで留めてセヴランの反応を待ち、真面目に、少し緊張した面持ちでカイは言う。一つ息を吸って、改めて続けた。
「あとは、触ってくれたら嬉しい。……教えてくれるんだろ、セヴラン」
白けた色はどこにもなく真剣に頼んでくるので、セヴランは息を詰めた。彼のほうはそれなりの回数経験があったが、こんなに真面目に事に及ぼうとした相手など未だいなかった。性欲だけでなく想われている実感が膨らんで、体温が上がった。色々な気持ちがいっぱいになって溢れそうだった。
どうにか頭を働かせて、セヴランは口を開く。
挿入は怖い。きっと無理だ。でもそれ以外なら。そう、したかった。気持ち的にはこのまま抱かれてしまいたかった。女みたいにできたらよかったのになんて思っていた。人生で初めてそんなことを考えた。
「じゃ、あの、く、くちでいい……?」
「っは」
無理なりに、好いた相手にも気持ちよいことを教えたいと悩んだ末だった。提案にカイは上擦った声を上げる。
「嫌?」
窺う弱気な口ぶりに、嫌じゃないと首を振った。かなり力強く否定した。口で、などというのは未経験のカイには思いつきもしないことだったが、知識としてはあった。
意気込み、改めて二人でベッドの上に上がり、また緊張で強張るカイの足を割りセヴランが間に入る。娼婦の見真似だ。胸の谷間を見せつけたり、尻を揺らして誘ったりのテクニックは勿論存在せず、ただまっすぐに既に張っているズボンの前のボタンを外していく。
――う、わ、……勃ってる……
他人の物など初めてだ。するつもりで臨んでいても、実際目にするとそういう感想が浮かんだ。自分と共に居て前を腫らしているという事実に改めて、互いの欲を実感する。
着衣越しでも明らかだったが、脱がせればさらにはっきりと興奮の様が目に見えた。若い陰茎は腹につくほど反り返っている。少し触れるだけでも膨らむのが分かり――窺えばカイの頬は染まっていて、息が艶めかしい。まるでいつもとは違うその様子にごくんと喉が鳴った。握って擦ってみるが、勃ちきっていた。ぱんぱんだ。
セヴランの息も興奮に乱れた。俯き、舌先を出してじわと滲む鈴口を舐め上げるとそれだけで怯えたようにカイの体が跳ねる。込み上げる愛しさを感じながら、以前人にしてもらったのを真似して舌を這わせてみる。塩辛く滴るものをそれっぽく舐めても思い描くような巧みさはない。
けれどそれでもカイには十分すぎた。好いた相手がそこに顔を寄せて、舐め上げるなんて。繰り返した想像を遥かに超えていた。刺激も光景も鮮烈だった。
舌先が亀頭を這う、裏筋を擽る。
「っう、ぁ」
そうやって人に触れられること自体初めてだった。興奮が酷くて、拙い愛撫でも効いた。まるで堪えられなかった。混乱に近く極まって止めることさえ出来ないうちに、彼の陰茎は跳ねて白濁を吹き上げた。まだ咥えられてもいなかったので顔にかかる。突然のことに驚いた男の口元だけでなく鼻梁や頬までとろりと汚した。
視界が明滅するほどの快感を過ごして、詰めた息を吐き出したカイは慌ててその顔に手を伸ばす。
「ごめん、」
「き、もちかった……?」
体液の生温かさに呆け、鼻にかかった精液を拭った指を見て、セヴランは改めてカイを見上げた。何を言えばよいのか惑って、ちゃんと気持ちよかったのかと聞きたかったのだが――カイは次の言葉を失した。結果は気まずい沈黙だった。失敗に重なる失敗である。
黙って、ハンカチが取り出されて顔を拭われる。セヴランはされるがままに一度目を閉じた。
達したのは確かな証に違いないが、改めて考えればかなり早い。楽しむほどの時間でもなかった、のは同じ男として十分察せられる。
セヴランは向かい合わせに座り込んでカイの顔を覗いた。顔を覆う様には言葉をかけづらかった。口淫のやり方も童貞の慰め方も知るわけがない。多分よくあることだと思うのだが。
「大丈夫そういうこともあるし……ええっと……俺もこんなもんだった気がするし……っ」
「アンタにも触らせろよ」
どうにかぎりぎり立ち直り。恥ずかしさ情けなさを隠すのに、カイは少し強引になった。色気も出せずにそこに手を置く。身を竦めたセヴランの腿を撫で、向きを確かめるように上から揉んでみて、訊ねる。
「……勃ってる?」
「ん、まあ、ね――」
そこも芯が通っていた。少し舐めただけで彼も興奮したのだ。呆れられていると思ったカイは本気で安心した。
微妙に恥じらう人を堪能する暇はなく。焦った手つきながらどうにか脱がせればしっかり上向いている。作りだけ同じで見目の違う、体躯同様少し細身のそこを数秒眺めて、カイはまた触れた。
「ん」
反応を確かめつつそっと握りこむ。止められないので自慰と同じように扱きだして、生まれるのは自身の快感ではなくまた別の昂揚だ。
触れている。それをセヴランが感じている。
それだけで嬉しいし興奮した。身を繋げなくても初体験だ。自分の失敗はどうでもよくなってきた。目の前に起きていることで意識が埋まる。
「っ、ぁく、」
――待て、カイのこと言ってらんない。
セヴランの吐息に声が混じる。喋るのとも、歌うのとも違う声だった。
彼のほうは慣れているつもりでいたが、娼婦にしてもらうのとはまるで違った。男の手は硬くて形が違う。向きが慣れていなくて覚束ない、焦った様子で、全然極上の手つきとは言えない。けれど堪らなかった。これがカイの手だと、いつもほんの少し、宿った草葉を切り終えた後に僅か撫でていく指だと思うと。もっと欲しくて腰が揺れそうになる。
童貞の早漏を慰めるには丁度良いかもしれなくとも、彼にもちょっとはプライドがあった。素直に昇りつめそうなのを堪えて、手を伸ばす。
自分の余裕の無さを誤魔化したかったのもあるが、何より、一人ではなく一緒にしたかった。もっと、より近づきたかった。
「っ……」
セヴランの手がまた勃起しはじめているカイの陰茎を撫で上げて握る。擦りたて、自分でするときのように敏感な先端を捏ねて刺激した。精の名残の少し濡れた感触が指先に触れる。
「い、っあ、待て、待って、まだやだ……っ」
「俺もイったしいいだろ――」
すると真似てカイの手も動く。自分の弱いところを責めたものだから、やり返されるときつい。喚いて身を捩っても緩まなかった。先に失態を見せた分、取り返そうとする。
「んっ……ぅん、強い、ってぇ……」
鋭い快感に逃げかけても手は引けず、空いた手で腕に縋りながら、また負けじと扱く。掌を押しつけ反応のよいところを探し、半ば自分の物を扱く錯覚もして、さらなる快楽を求めて動くと愛撫は段々激しく早くなる。そうやって二人で追いつめ合った。たまに強すぎてきついくらいの刺激がして、堪らず声が零れた。
「ん、ぅあ」
「ん――」
声や息を漏らす様に誘われ、欲の起きるまま、どちらからともなく唇を合わせる。乱れる息を合わせて、舐めて、一層の昂りへと身を投じた。
「っうぁ、っ、……は、はあ――」
「――っは、……ふ」
一回出していた分、カイのほうが少し保った。セヴランがびくと体ごと跳ねて吐精に至る様を見届け、その興奮で追いかけるように果てる。服はほとんど脱いでもいないのにすっかり乱れた姿は、何度も思い描いていたよりずっと生々しく、よい眺めだった。だらしなく蕩けた顔は束の間俯いていたが、カイを見つけたようにまた寄ってくる。
まだぽーっとしている意識の中で、息もおさまっていないのにもう一度キスをした。とろとろと舌を重ね合うのは心地よかった。朝には触れられなかった、少し癖の落ち着いた髪を撫でまわし、カイは心底満ち足りた。
「ねえこれ……」
掌やらなにやら汚れたところを洗い、酒など飲んで少し喋った。居間ではなく部屋で、ベッドの上でそうしているだけで特別な感じがした。気持ちよかったと告げながらもう一度、自分たちはそういう距離にあると確かめるように指を絡めたり擦り寄ったりするくすぐったい時間を過ごして、そろそろ帰る、と立ち上がったカイをセヴランが引き留める。持ってきた、小さな紙包とチューブが枕元に残っていた。
「置いていく、から、しまっておいてくれ」
それをちらと確かめ、セヴランへと目を戻し、カイは言う。
「――今度、使おう。嫌じゃなかったら」
――今度。こそ、抱かれる……
結局、嫌ではない。けれどどう反応したらよいものかまだ惑うセヴランの手を、カイが握る。接吻を落とし、じっと顔を見つめる。
「また来させてくれ」
夜の色の中でもカイの顔は好ましく。その言葉は格好良い男前の決め台詞というよりは少し弱く懇願する声だったから、セヴランは逆に照れてでれでれした。愛おしくてどうしようもなく頷いて、もう一度口にもキスをしに行った。
「……じゃあ、部屋行く?」
セヴランはなるべく自然に、朝のやりとりを再開するつもりで言ってみたが。黙って頷くカイに彼もそれきりで静かになってしまう。階段を上がる一歩一歩、ベッドに今日は並んで座るのもどうもぎこちない。娼婦とそうしたときとはまるで違ってドキドキしているのが、胸に手を当てずとも分かるほどだった。
それでもまた視線が通いどうにか自然に手が重ねられたので、そうこのまま、もう一度キスでもして、と情動に身を任せようとしたのだが。
そこでポケットからシーツの上へと置かれた物が目に入り、セヴランは動きを止めた。
「――ちょっと、」
「ん」
「あの、思えば男同士って初めてで、」
「……うん。だろうな」
「……」
カイは熱に浮かされた顔をしているものの、制止されると大人しく止まった。重なった手を意識しながらも動かないでいた。
追う、セヴランの視線の先には小さな真四角の紙包――ゴム製のサックと潤滑剤のチューブがある。
確かに今からそういうことをしようとしていたのだが、それを使う意識はセヴランにはなかった。男には挿れるところないじゃん、と思った。混乱して沈黙する様に、カイは口を開く。
「男同士だと直腸に陰茎を挿入する」
軍学校時代の男所帯で聞き齧った知識である。ばんと述べて、その有体な物言いと医学書頼りの用語を飲み込めずにいるセヴランに言い換える。そして触れる。腰を撫でる。緊張した不格好な撫で方だった。
「尻に……このくらいの径なら入るものらしいが」
セヴランの頭に、これまで女の子たちとしていたことの記憶が駆け巡った。尻に、挿れるのだ、性行為というやつは。
「いや――無理じゃない?」
しかもこれは自分がそっち側だと悟った。カイに挿れる想像はしていなかったが、そっちの想像もしていなかった。男同士なのだからなんとなく気持ちよくなって終わるつもりで、ふんわりとした想像で終わっていた。彼はそういう見通しの甘い性格だった。
セヴランは一気に追いつめられた。風呂には入ったがそれだけで、後は落ち着かずにごろごろしてカイを待っていた。準備など、心も体もできていない。今聞いた以上の知識もないし尻を使ったこともない。童貞だと煽って教えてあげるなどと言ったのは、雰囲気とかノリだ。
「だっ、駄目では、ないんだけど、無理じゃない?」
しかし。期待した人をがっかりさせるのは嫌で、口を走らせる。カイは瞬いた。
「……駄目ではない?」
「いけど、」
窮しながらも繰り返されるその言葉に、彼はほっとしていた。
抱きたくて、完全にそのつもりでいて、以前に先輩から揶揄半分で賜った来る日用の品まで持ち出してきたが――まず安堵した。無理と駄目の差を確かに感じとった。
――駄目ではないのか。
朝からいっぱいいっぱいでそこまで気が回らなかったものの。拒絶されることもあったのだと今現場で思い至り、でも落胆はせずに済んでいた。駄目ではない、ならよかった。そう聞いただけで余裕ができた。こうしてベッドまで導かれたのは確かなことで、セヴランにもちゃんとその気はあったようだから、別に今やることが無くなったわけではないと思う。二人ですることにはあまり詳しくはないが――
「じゃあいい。――今日はしない、大丈夫」
「えっ」
口籠っているうちに返ってくる声に、セヴランは驚いて顔を上げた。ヤる気で、突っ込む気でここまで来たのにそんなことを言えるなんて、セヴランには信じられない。そして胸が痛む。抵抗したが諦めさせたかったわけじゃない。止めにしたくはない。
――やだ、したい。
嫌なわけじゃない、追いつめられて言っただけ、ただ勇気が足りないだけだ。できないけどしたい、などと我儘を言いかける。
慌てるうちに膝の上へと手が置かれる。やはり撫でまわすような慣れた手つきではなく、そっと、試しに落ち着けてみるような動きだった。
「しなくても、触りたいんだけど、いいか」
そこで留めてセヴランの反応を待ち、真面目に、少し緊張した面持ちでカイは言う。一つ息を吸って、改めて続けた。
「あとは、触ってくれたら嬉しい。……教えてくれるんだろ、セヴラン」
白けた色はどこにもなく真剣に頼んでくるので、セヴランは息を詰めた。彼のほうはそれなりの回数経験があったが、こんなに真面目に事に及ぼうとした相手など未だいなかった。性欲だけでなく想われている実感が膨らんで、体温が上がった。色々な気持ちがいっぱいになって溢れそうだった。
どうにか頭を働かせて、セヴランは口を開く。
挿入は怖い。きっと無理だ。でもそれ以外なら。そう、したかった。気持ち的にはこのまま抱かれてしまいたかった。女みたいにできたらよかったのになんて思っていた。人生で初めてそんなことを考えた。
「じゃ、あの、く、くちでいい……?」
「っは」
無理なりに、好いた相手にも気持ちよいことを教えたいと悩んだ末だった。提案にカイは上擦った声を上げる。
「嫌?」
窺う弱気な口ぶりに、嫌じゃないと首を振った。かなり力強く否定した。口で、などというのは未経験のカイには思いつきもしないことだったが、知識としてはあった。
意気込み、改めて二人でベッドの上に上がり、また緊張で強張るカイの足を割りセヴランが間に入る。娼婦の見真似だ。胸の谷間を見せつけたり、尻を揺らして誘ったりのテクニックは勿論存在せず、ただまっすぐに既に張っているズボンの前のボタンを外していく。
――う、わ、……勃ってる……
他人の物など初めてだ。するつもりで臨んでいても、実際目にするとそういう感想が浮かんだ。自分と共に居て前を腫らしているという事実に改めて、互いの欲を実感する。
着衣越しでも明らかだったが、脱がせればさらにはっきりと興奮の様が目に見えた。若い陰茎は腹につくほど反り返っている。少し触れるだけでも膨らむのが分かり――窺えばカイの頬は染まっていて、息が艶めかしい。まるでいつもとは違うその様子にごくんと喉が鳴った。握って擦ってみるが、勃ちきっていた。ぱんぱんだ。
セヴランの息も興奮に乱れた。俯き、舌先を出してじわと滲む鈴口を舐め上げるとそれだけで怯えたようにカイの体が跳ねる。込み上げる愛しさを感じながら、以前人にしてもらったのを真似して舌を這わせてみる。塩辛く滴るものをそれっぽく舐めても思い描くような巧みさはない。
けれどそれでもカイには十分すぎた。好いた相手がそこに顔を寄せて、舐め上げるなんて。繰り返した想像を遥かに超えていた。刺激も光景も鮮烈だった。
舌先が亀頭を這う、裏筋を擽る。
「っう、ぁ」
そうやって人に触れられること自体初めてだった。興奮が酷くて、拙い愛撫でも効いた。まるで堪えられなかった。混乱に近く極まって止めることさえ出来ないうちに、彼の陰茎は跳ねて白濁を吹き上げた。まだ咥えられてもいなかったので顔にかかる。突然のことに驚いた男の口元だけでなく鼻梁や頬までとろりと汚した。
視界が明滅するほどの快感を過ごして、詰めた息を吐き出したカイは慌ててその顔に手を伸ばす。
「ごめん、」
「き、もちかった……?」
体液の生温かさに呆け、鼻にかかった精液を拭った指を見て、セヴランは改めてカイを見上げた。何を言えばよいのか惑って、ちゃんと気持ちよかったのかと聞きたかったのだが――カイは次の言葉を失した。結果は気まずい沈黙だった。失敗に重なる失敗である。
黙って、ハンカチが取り出されて顔を拭われる。セヴランはされるがままに一度目を閉じた。
達したのは確かな証に違いないが、改めて考えればかなり早い。楽しむほどの時間でもなかった、のは同じ男として十分察せられる。
セヴランは向かい合わせに座り込んでカイの顔を覗いた。顔を覆う様には言葉をかけづらかった。口淫のやり方も童貞の慰め方も知るわけがない。多分よくあることだと思うのだが。
「大丈夫そういうこともあるし……ええっと……俺もこんなもんだった気がするし……っ」
「アンタにも触らせろよ」
どうにかぎりぎり立ち直り。恥ずかしさ情けなさを隠すのに、カイは少し強引になった。色気も出せずにそこに手を置く。身を竦めたセヴランの腿を撫で、向きを確かめるように上から揉んでみて、訊ねる。
「……勃ってる?」
「ん、まあ、ね――」
そこも芯が通っていた。少し舐めただけで彼も興奮したのだ。呆れられていると思ったカイは本気で安心した。
微妙に恥じらう人を堪能する暇はなく。焦った手つきながらどうにか脱がせればしっかり上向いている。作りだけ同じで見目の違う、体躯同様少し細身のそこを数秒眺めて、カイはまた触れた。
「ん」
反応を確かめつつそっと握りこむ。止められないので自慰と同じように扱きだして、生まれるのは自身の快感ではなくまた別の昂揚だ。
触れている。それをセヴランが感じている。
それだけで嬉しいし興奮した。身を繋げなくても初体験だ。自分の失敗はどうでもよくなってきた。目の前に起きていることで意識が埋まる。
「っ、ぁく、」
――待て、カイのこと言ってらんない。
セヴランの吐息に声が混じる。喋るのとも、歌うのとも違う声だった。
彼のほうは慣れているつもりでいたが、娼婦にしてもらうのとはまるで違った。男の手は硬くて形が違う。向きが慣れていなくて覚束ない、焦った様子で、全然極上の手つきとは言えない。けれど堪らなかった。これがカイの手だと、いつもほんの少し、宿った草葉を切り終えた後に僅か撫でていく指だと思うと。もっと欲しくて腰が揺れそうになる。
童貞の早漏を慰めるには丁度良いかもしれなくとも、彼にもちょっとはプライドがあった。素直に昇りつめそうなのを堪えて、手を伸ばす。
自分の余裕の無さを誤魔化したかったのもあるが、何より、一人ではなく一緒にしたかった。もっと、より近づきたかった。
「っ……」
セヴランの手がまた勃起しはじめているカイの陰茎を撫で上げて握る。擦りたて、自分でするときのように敏感な先端を捏ねて刺激した。精の名残の少し濡れた感触が指先に触れる。
「い、っあ、待て、待って、まだやだ……っ」
「俺もイったしいいだろ――」
すると真似てカイの手も動く。自分の弱いところを責めたものだから、やり返されるときつい。喚いて身を捩っても緩まなかった。先に失態を見せた分、取り返そうとする。
「んっ……ぅん、強い、ってぇ……」
鋭い快感に逃げかけても手は引けず、空いた手で腕に縋りながら、また負けじと扱く。掌を押しつけ反応のよいところを探し、半ば自分の物を扱く錯覚もして、さらなる快楽を求めて動くと愛撫は段々激しく早くなる。そうやって二人で追いつめ合った。たまに強すぎてきついくらいの刺激がして、堪らず声が零れた。
「ん、ぅあ」
「ん――」
声や息を漏らす様に誘われ、欲の起きるまま、どちらからともなく唇を合わせる。乱れる息を合わせて、舐めて、一層の昂りへと身を投じた。
「っうぁ、っ、……は、はあ――」
「――っは、……ふ」
一回出していた分、カイのほうが少し保った。セヴランがびくと体ごと跳ねて吐精に至る様を見届け、その興奮で追いかけるように果てる。服はほとんど脱いでもいないのにすっかり乱れた姿は、何度も思い描いていたよりずっと生々しく、よい眺めだった。だらしなく蕩けた顔は束の間俯いていたが、カイを見つけたようにまた寄ってくる。
まだぽーっとしている意識の中で、息もおさまっていないのにもう一度キスをした。とろとろと舌を重ね合うのは心地よかった。朝には触れられなかった、少し癖の落ち着いた髪を撫でまわし、カイは心底満ち足りた。
「ねえこれ……」
掌やらなにやら汚れたところを洗い、酒など飲んで少し喋った。居間ではなく部屋で、ベッドの上でそうしているだけで特別な感じがした。気持ちよかったと告げながらもう一度、自分たちはそういう距離にあると確かめるように指を絡めたり擦り寄ったりするくすぐったい時間を過ごして、そろそろ帰る、と立ち上がったカイをセヴランが引き留める。持ってきた、小さな紙包とチューブが枕元に残っていた。
「置いていく、から、しまっておいてくれ」
それをちらと確かめ、セヴランへと目を戻し、カイは言う。
「――今度、使おう。嫌じゃなかったら」
――今度。こそ、抱かれる……
結局、嫌ではない。けれどどう反応したらよいものかまだ惑うセヴランの手を、カイが握る。接吻を落とし、じっと顔を見つめる。
「また来させてくれ」
夜の色の中でもカイの顔は好ましく。その言葉は格好良い男前の決め台詞というよりは少し弱く懇願する声だったから、セヴランは逆に照れてでれでれした。愛おしくてどうしようもなく頷いて、もう一度口にもキスをしに行った。
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