緑を分けて

綿入しずる

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フクロウの飛来(後)

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 ――身近に息づく神秘。神々の園は今、人の身に宿る。
 翌日のサルテール報の一等地はその大見出しで優美な蔦模様の枠に飾られていた。記事の半分を占める写真はその模様にもよく似た蔦を頭に掲げた男の姿を写している。ポーズなどはとらない玄関扉を開けたままの姿勢、着崩したシャツのだらしない恰好ではあったが、それも含めてどこか絵になる一枚だった。
 見事に茂った葉のお陰で目元は少し隠れており多少印刷による荒さが出ているものの、セヴランだとは判別がつく。がやがやと賑やかな大衆食堂の端の席で、近頃は大体甘やかしていたその顔を睨み、カイは記事の文面にも目を滑らせる。既に何度か読んでいたが、もう一度。
 “庭”をご存じだろうか? という書き出しから始まる記事には、概ねカイがセヴランから確認したとおりのことが書かれていた。人の身に芽吹く神秘の植物があること、何が生えるか、いつ生えるか、生えたらどうするのか――水分補給や日光浴をしていること、などだ。すぐに切ってしまうので然程不自由はしていないと述べたのも、その剪定は軍の仕事だとも書き添えられていた。それ以外の何点かの要素は他の庭から聞いたものと思われた。首都に集められている、庭の人数なども実際に近い数字が上げられている。
 例の記者、マルガレータ・ヤンカーは男性の庭を狙って取材していたことが、あの後の調査で判明した。その見目を惜しまず使った誘惑に近いやり口だった。一週間のうち短期に情報を纏め上げ最後、写真が欲しくてセヴランのところに行ったようだ。
 園丁官本部は当然抗議して新聞の発行を止めさせるべく動いたが、サルテール社には個人に取材したに過ぎないと記者と同じ文句で突っぱねられ――内容が機密という扱いには足りなかった為に強くは出れず、止め損ねた。戦時ほど軍の統制は強くなく、相手は首都の一大勢力である。軍上層の誰かがあの美人記者に入れ込んでいて、そちらに都合よく振る舞っているのではないかという噂も聞かれた。
 ともかく新聞は朝から街頭や売店で売りさばかれ、多くの人の手に渡り、こうしてカイの手元にもあった。売り上げに貢献してしまうのは癪だったが、こればかりは回し読みしている場合ではなく、全員が一部ずつ持ち歩いている。
 皆、朝から対応に追われていた。精神的な不安などが庭の生育に影響すると判明したばかりである。彼ら園丁官のほうがまず過敏になってフォローに走り回った。まだ採取のタイミングではない庭の家や職場にも訪問して、こういう記事が出回っているが取材に応対する必要はない、むしろ記者が現れた際にはただちに連絡してくれ、と説明をした。相談も何件か受けた。
 外回りの最中、食堂で頼んだものが出てくるまでの僅かな時間だけ悪態を吐くような暇がある。記事自体もそうだが、余裕で、挑発するようだった女記者の様子まで思い出すのでカイは余計にむしゃくしゃしていた。
 同じように新聞を読んでいる人の姿も、今日はいつもより目につく。斜向かいに座った二人の男は知り合いだったようで話まで始める。
「作り物じゃないのか、これ。被ってるだけだろ」
 ――本物だし、写真じゃ伝わらないくらいに美しいものだ。
 写真を示して言うのに、カイはふんと吐く息を誤魔化して水を飲んだ。問題はそこではないのに些か悔しい思いまでする。
「生えたらどうなるんだい、ずっと伸びるのか」
「切るって書いてるが――」
「切ります。切って暫らくは生えないことが多いです」
 そんなやりとりには黙っていられなくなり口を挟んだ。仕事中の明瞭な口振りで、急なことに瞬いて顔を上げた二人に姿勢を正す。食事の為にマントを脱いでいたので灰褐色の詰襟が分かりやすい。
「急に失礼しました。もしこういったことが起きた場合は、最寄りの医療施設や軍施設に問い合わせてください。我々――専門の者が対応しますので」
「兄ちゃん軍人かい」
「はい。その一部署です。園丁官と言います」
「じゃあなんだ、こうなると軍に突き出されるのか」
「つ――」
 返ってくる、不穏な響きにカイは絶句した。ちらと他所からも視線が向いた気がするのに力強く首を振って否定する。
 そんな悪いものではない、と説明するには時間がかかった。運ばれてきたシチューが冷めるくらいだ。
 軍と言っても取り締まりではなく研究機関であり、対応も悪いようにはしていない、観察して恩恵である植物を採取させてもらうだけだ、と言うのは新聞記事を読むより余程長々しく、説明に慣れているはずの彼でさえ順番が前後したりもして何か言い訳のようにもなった。手の下にした、洗練された文章にはどうにも劣る。
 男たちは一応聞いて、なんとなく納得したようなしていないような顔で去っていった。あまりよい印象は与えられなかった気がしてカイは歯噛みする。どうにか誤解を解けたとして、今の二人だけだ。
 新聞はもう何人もが読んでいる。――情報が不用意なかたちで広まり始めている。カイたちは当然庭への対応を優先していたが、他にも問題が転がっているのが見えてきた。
 以前、セヴランの家の近所で向けられた疑いの目も思い出した。
 ――これではいけない。
 カイは新聞を鞄に叩き込み、意気込んでスプーンを掴んだ。


「よって――急いで広報も動くべきではないでしょうか」
 午後、報告と共に意見したカイに外勤の班長は眉を下げた。彼もまた先程執務室に戻ったばかりだった。一日で積もった報告書を仕分けつつ、部下を見上げる。部屋に居る他の園丁官たちも作業の手を止めて一度そちらを見遣っていた。
「これ以上仕事を増やすって?」
「この記事俺たちについてろくに書いてないじゃないですか。もしこれを読んでいても、庭になったらどうしたらいいのかは分からない。騒いでるだけで無意味ですよ」
「そうだな、非常に、身勝手な記事だ。今抗議してる。二度と書くなと」
「すぐもう一度、園丁官についての記事を書かせるべきでは」
 言葉は勢いのあまり重なった。上官に対してよからぬと語尾に向けて細ったが、意思のほうは確かだった。班長が黙ったのを見て、カイは口を開きなおす。
「責任取って補足させましょう。こっちに人手が足りないなら、利用してやるつもりで……」
 そこで割って入るようにノックが響き――間を空けずに扉が開いた。遠慮なく室内へと踏み込むのは木箱を抱えたエミールだ。室内から一斉に向けられた視線を受けて目礼を返し、口を開く。
「失礼。提出物です。それと、」
 言う間に歩み寄る。他部署の執務室にも関わらず、あまりにも無遠慮で気兼ねなかった。カイが話している横に並ぶように奥の机まで進み、この組織の中で同程度の地位にある班長を見据え、箱を抱えた姿勢のままで述べた。
「私もエッカルトに賛成です。こちらの広報のみで動くよりそのほうが影響力がある。監修に入る必要は当然ありますが、最終的な工数は減りますし、多少の不都合に目を瞑ってもいいでしょう」
「多少じゃないだろう――我々は舐められたんだぞ」
「いいえ些事です。庭の安寧が何にも優先します。後手に回った以上、見栄などに構う余地はない。影響を最小限に食い止めなくては」
 反発には息継ぎなく。同意を求める目配せにカイは慌てて頷いた。彼も改めて班長を見て、明らかに機嫌のよくないその様子に内心縮こまりながらも姿勢を保って立った。エミールの助太刀は心強いと同時に居心地が悪い。だが庭の為、となればやはりこれが最善と思えるのだった。
 広報も外勤の管轄だが元々あまり活発ではなく、最低限医療施設や学校など、庭の情報が入りそうな場所との連携をとっていたに過ぎない。一般市民への情報公開を怠っていたことが、ひいては今回のような一件を招いたのだ。本当に身近なものとして知れ渡っていれば、ニュースとして取り上げられるようなこともなかっただろう。もっと力を入れるべきだった。
「室長に具申しましょう。広報の積極稼働とサルテール新聞社との連携。十分――二十分待ちますのでそちらも決断してください」
「またあんたは言うだけで実働はこっちにお任せなんだろうが」
「私どもは自分たちの職務を全うしています」
 いよいよひりつく空気にカイの腕が浮きかける。そしてそれより先に、成り行きを見ていたデニスのふくよかな体が割って入った。エミールの抱えた箱を示して、大袈裟に頷いて見せる。
「庭のほうに配布する魔除けの用意ね。我々は現在一丸となって事に当たっているわけです」
 箱に満載にされているのは、七竈の枝で組まれた井桁状の飾りだ。庭に配布する魔除け――記者除けの護符として、今回採用された。魔法が薄れつつある今の世ではお守り程度の品でも、庭に齎された素材で、専門職が作れば段違いの効果を発揮するのだ。原始的で量産が容易いのもこのような事態の対応にはよかった。
 そうやって睨み合いを解き、箱を受け取り横の作業机へと持っていく。その隙にカイは改めて班長へと向き直り、頭を下げた。
「ご検討を、お願いします」
 それで追い払われるのをデニスが招いた。休憩しようと廊下まで連れ出し、給湯室に向かう。エミールもまた横に来た。
「ただでも忙しいんだ。ピリピリさせないでくれよ……」
「すみません」
 溜息で肩を落とすデニスに謝ったのはカイだけで、エミールは堪えた風もない。無論、いつもどおり、彼は庭の研究の為に一番よい選択肢を選んだに過ぎない。研究棟の主任として当然の行いである。
「必要に応じてこちらからも人員を出せる、とも言うつもりだった。伝えておいてください」
「――そっちを先に言ってやれよ。大体、今のは助けに入ったんだろう、もっと穏便にやってほしいなぁ」
 そういう側面もあるにはあったが。――きょとんとしたカイに、デニスは手慣れた調子で掴んだマッチ箱を振りながら続けた。
「エッカルト君が班長に睨まれるより自分が恨まれるほうが上手いと思ったんだよ。そんなところだろ」
「エッカルトには職務に集中してもらいたい」
 エミールは否定とも肯定ともつかないことを言う。やはり、研究の為に、そういう響きだった。
「あ、りがとうございます……?」
 相変わらず距離感を掴み損ねるカイだったが、助けてもらったならと礼は言っておいた。彼の登場で場は緊迫したものの、展開は早まった。もし班長が判断を迷ってもエミールが動けば室長まで話が上がる。説得に時間がかかる覚悟もしていたので、それだけでまずは安堵してもいた。
 エミールが提示した二十分を待つのに、彼らはその場で珈琲を飲んだ。立ったまま、カイなどは脱ぐ暇がなかったのでマントも身に着けたままだ。零れる話も仕事のことばかりでまるで休まった気がしない休憩だった。いつになったら暇になるだろうねえとぼやくデニスに、今しがた率先して仕事を増やしてしまったカイは曖昧に笑うしかなかった。

 少しの残業の後、カイは自宅ではなく酒場を目指した。普段同僚たちと繰り出すような場所ではなくもっと先、セヴランの家に近い店だ。今夜は弾きに行くと聞かされていた。
 急ぎ足で曲がった角で人にぶつかりかけて立ち止まる。髪を纏め上げた男装の麗人、振り向いた顔に見覚えがある。
「貴女――」
 サルテール新聞社の女記者は些か驚いた顔をしたのをすぐ引っ込めて、手にした鞄を身に引き寄せた。
「――こんばんは。園丁官って夜も見張ってるんですか?」
 その質問こそ、セヴランがこの先に居ることを知っている証だった。効果があったな、と外套のポケットに入れた護符に触れつつ、カイは大きく息を吸った。
「退勤後です。伝言くらいはありますが、食事に来ました。――貴女こそ付き纏うのはどうかと思いますよ」
「まだたったの二回目じゃない」
 言い返すとマルガレータは肩を竦めた。もう二回目じゃないかとの叱責をカイはどうにか呑み込んだ。こうして見つけてしまっては無視できないが、こんな場所で喧嘩をしたいわけではない。内心で平静を唱えて居直った。
「そちらから取材の申し入れがあったと社長に聞いたわ。思ったより柔軟かと思ったけど、……貴方はやっぱりお堅い人なのね」
 マルガレータのほうのどこか挑むような雰囲気の口調は相変わらずだが。それを言い出したのが目の前の男だとは思ってもみない様子で揶揄をするのに、カイは幾らか溜飲を下げた。お堅いとは言われ慣れている。
 街灯の下でよく分かる、目鼻立ちのはっきりとした顔を見返して、口を開く。
「庭の生活を守りたいんです。申し入れだってその為だ。勘違いしないでください」
「貴方がこうやって来るのはいいの?」
「俺は彼とは友人なので」
 実際、仕事以上の付き合いがあるので堪えない。
 それは、セヴランが嫌がるようならやめるところだが。嫌がる気はあまりしなかった。一日置きに会っていてもまだ物足りないような顔をするときがあるくらいだ。仕事場といっても飲み屋だし、遊びにおいでよと言ったのも社交辞令ではなさそうで、こんなことが無くてもそのうちにとは思っていたのだ。
「私だって友人になりにきたんですよ。いずれまた写真を撮らせてもらいたくて。あれ、すぐ切っちゃうなんて勿体ないわ。とっても絵になるのに。――切る前の記録が増えると思えば貴方たちにも悪い話ではないのでは?」
 マルガレータもへこたれないで言い返してくる。弱気ではやっていけない仕事だった。
「今後の相談は庭にではなく、こちらへ」
 一切譲らぬ男を見つめ――自身より若くも見えるその容貌に首を傾げ、一拍置く。
「エッカルトさん。貴方への相談でも?」
「……お聞きしますが、どの道上に報告します。早いほうがいいなら手順を踏んでください」
 まるで弛みない返答にはつまらないという表情を作って見せた。溜息も隠さず、大きく頷いて歩み出す。向かっていた方向ではなく、カイとすれ違うように。来た道を戻る。
「……とりあえず今夜は諦めるわ。お疲れ様です。よい夜を」
「貴女も、夜道気をつけて」
 気遣う女扱いに大股になる。背が見えなくなるまで確かめてから、カイは以前にも訪れた店の扉を開いた。明るく、週明けでもほどほどに賑わったホールに入るとその姿はすぐに見つかった。
 セヴラン自身は派手な質ではないが、楽師として盛装した姿は目立つ。人の集まるテーブルの脇に立ち、客と飲んでいるところだった。覗く笑顔にカイの息が抜ける。彼のほうも入ってきた客を横目に確かめて――カイだと気づくと分かりやすく嬉しそうにして表情が綻んだ。グラスを持ったまま駆け寄ってくる。
「よお。どーしたの、なんかあった」
 さすがの彼も、昨日からの流れではただ遊びに来たのだとは思わなかった。酒を飲みながら訊ねるのにカイはまず、外套から例の護符を取り出した。手紙のような小さな封筒を掌に押しつけておく。
「護符の配布が決まって。これ家の何処かに置いといてくれ。それで効果がある。持ち歩いてくれるともっといいが……――明日でもよかったんだが、様子を見に来た。あの後は何もないか?」
 扉の取っ手などに提げられるよう紐のついた小さな飾りを取り出して眺めたセヴランは、すぐ顔を上げた。
「いやもう凄いよ今日、色々聞かれてさあ。頭見せたりして、なんともないじゃないかって言われたり。やっぱ新聞って皆読んでんだね」
「そうか、……あの記者、まだうろついてるみたいだから気をつけてくれ」
「……女に付き纏われたって平気だけど。むしろ自慢できるくらいで」
 セヴランの調子は軽い。記事になってしまったと伝えにいった朝もそうだった。深刻に捉えているよりはそのほうが庭への影響が無さそうでよく思えたが――カイはその顔をじっと見つめて言葉を探した。
「――貴方そうやって女性が好きだろう」
「ん? うん――まあ、それはね。それはそうだけど」
「だからむしろ心配なんだが」
 本人が思うよりも重い声が出た。
 セヴランは瞬いて、手にした護符を弄った。そうして酒を飲んで誤魔化しまくってから口を開く。
「……や。俺にはカイがいるじゃん」
 一度家に入れてしまった失態の分、強く言い返すことはできなかった。下心的なものは無かった――とも言いきれないのだが、あの後すぐにカイがやってくるのは分かっていたのだから、その程度だ。
 カイだってそこのところは理解してはいるのだが、担当の園丁官としては勿論、個人としても些か心配だった。カイの目で見てもあの記者は美女だ。女好きの男が誘惑されたら、また話くらいはしてしまうのではと思えた。
 嫉妬ではない、心配なだけだ。まだ。
「昨日も今朝も言われたから分かってるってば。信じてよ、もう話したりしない。俺の神様に誓うよ」
 セヴランは言葉を重ねて数度カイの腕を叩く。音楽の神ラライリロゥ、多くの浮名を流した者に誓うのはこういうときなんとなく信用ならない感じがするものだが、カイは信じておくしかなかった。
「本当にだぞ。酔っててもちゃんとあしらってくれ」
 もう顔が赤いと指摘して念を押す。一緒に飲んで騒ぐのも仕事だと聞かされていても――今回の件を抜きにしても、酔い潰れて道端で寝ていたのを拾ったときのことを思い出せば、酒に関してはやはり口煩くなる。セヴランはもう聞き飽きた調子で何度も頷いて、ひとまず持っていたグラスを呷って空にした。護符は言われる前に封筒にしまいなおして指に挟む。
「しっかし忙しいね、こんな時間まで。他の人のところも周るんじゃ大変だろ。あと何人いるの?」
 話を逸らす、仕事で来たと思っている問いかけには、カイは首を振った。
「いや。これは任務じゃなくて、俺の勝手だから。ついでに食事して帰る」
「ふーん……――じゃ一曲ご馳走してやろう、何がいいかな」
 セヴランの口元は、またじわと緩んだ。上機嫌な足取りで中の席へと導き、おすすめの酒や食材について説明し注文の世話まで勝手にして、隣に腰掛ける。
「園丁官のリクエストお上品なんだよなあ」
「下品な歌ってそんなにあるか?」
「あるある」
 軽く言葉を交わして酒が出てくるのを待ち、空のグラスをぶつけて乾杯の一声を響かせると竪琴を構え爪弾き始める。幾分上品な曲を所望する青年をこの場に馴染ませるような演奏だった。カイは頬杖ついてそれを聞いた。
 セヴランとは今朝も会ったが、酒場では雰囲気が違う。
 それなりに髪を整え、仕立てよく刺繍をあしらったベストなど身に着けている様はなんだか、よい。見目で好きになったわけではないが、見目も好きだと実感させられる。こうして本領を発揮していればなお見惚れる空気が出ていた。
 ――庭の生活を守りたい。
 ――……セヴランを守りたい。
 カイは胸中繰り返した。研究結果のこともあるが、それ以上に今は、こうやって働き始めたセヴランの邪魔をされたくない思いがあった。他の人々以上にセヴランが大事で、だから仕事が増えても頑張っている。それを再認識する。
 蒸留酒で体を温めつつ、カイは暫らくセヴランの働きぶりを見て過ごした。指は一段と滑らかに動くようになって、竪琴と共に生き生きとして見えた。呼ばれて行って話に交ざったり、皆で歌ったりするのも楽しそうだ。また新聞の話を振られて頭など確かめられると、自分より詳しい奴に聞けとカイまで呼び寄せる。カイは昼間よりは上手く説明をした。正直疲れていたが丁寧に。
 セヴランの世話を焼くんじゃ大変だろう、なんて酔っ払いたちに笑われたのには、実にやりがいのある仕事だと大仰に真面目ぶって返しておいた。大いにウケた。
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