ひとつのひ

綿入しずる

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言えない一つ聞けない一つ 一*

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 寝台にしどけなく横たわるスイの胸や腹を訓練で厚くなった手で撫でてみるのは、クノギにとっては楽しくももどかしい時間だ。
 このように触れられるだけでも奇跡的だと思えば手放しに楽しみたいが、恋仲ではないのに体を重ねる状況に色々考えてしまう。そして触れるうちに欲が膨らんで、考えることもできなくなる。
「ここはもういいだろ」
 それはスイも同じで――クノギも飽きずに胸に触れてくるので慣れ始めたが、今だ強い快感の無いそこよりも、相手をしてもらうなら触れてほしい場所がある。長衣を肌蹴たスイがぼやくのに、組み敷くクノギは瞬いて笑った。
「こっちがいいって言えよ」
「……恥じらいってものがあるだろ」
「お前がそれを言ってしまうか……」
 呆れながらも従って腰へと手を下げ、尻を揉んで割り開く。返す言葉には不満気にしたが、体も協力的に膝を抱えるように曲げられるので難なく触れる。指の腹が押しつけられるだけで腹を突く快感に、スイは期待して唾を呑んだ。
「っん、ふ……っく」
「もうイった?」
 月二回、などと制限したつもりが、その分かスイの体は貪欲になっている。慣れた手つきで解されついでに弄られるだけで一回達して跳ねた体を揶揄されるが、反論する気が起きない。ただ早く続きが欲しくてたまらない。
 火照る顔でこくと頷くスイに、クノギは目を細めてその体を俯せに転がした。
 頭を垂れるかの姿勢は尻を差し出すようでもあって煽情的だ。窄まりひくつくそこを撫でて広げ、クノギは遠慮なく一物を捻じ込んだ。押し開く熱に背が揺れる。
「あっ――」
 まったく堪えられなかった喘ぎ声が大きく響きスイはもう一度びくりと身を揺らしたが、クノギは動きを止めない。既に知った中の性感帯を擦るように腰を押しつけて、ゆっくりと間を持って抜き差しする。
 圧迫される感覚と引きずられる感覚の繰り返しに息が押し出されて乱れ、混ざる声を抑えるべく、スイは枕を引き寄せ口元を押しつけた。
 枕に縋る様は無理矢理犯されているようでもあり、何より当人の求めで抱かれている実情とはちぐはぐな様子ではあったが。クノギにとってはこれはこれでよい眺めだ。顔が見えないのは残念だが、結わえた黒髪がかかる項など見られるのも悪くない。
 そこにキスを落としたくなるのは、いけないが。
「……ほんと、煽るよな、お前」
「う、んん」
 呟いたクノギの声もよく聞こえぬまま、暴かれる体に呻いてすぐにも達しそうなのを耐える。腹の下で先走りがだらだらと流れ、精嚢を押されて滲み出た物が布を汚した。
「っ……っあ……いく、」
 暫し体が合わさる音と互いの息使い、小さく漏れる声だけが重なる。やがて激しくなる動きに、スイは両手で枕を掻き抱いた。
「んんっ――んぅ、ん」
「は……っ」
 視界がちらつき汗が滲む。きつく絞る肉のうねりにクノギもスイの中で果てていた。
 数秒浸って、射精したクノギのほうが動き出すのは早い。ゆっくりと抜くだけの動きでも絶頂が長いスイの側には過ぎた快楽で、びくびくと震えてまた中が収縮する。
 抜ききって、滲むように溢れた油と白濁を何気なく指で拭い、会陰を撫でる。
「やめ……い、やだって……っ」
 膝を崩して振り向きもたつく手を伸ばしてくる姿はいじめられているようで、嗜虐心が芽生えそうでいけない。――などと思いつつもその手を捕らえて上へと逃し。クノギは触れていた指も止めなかった。
 中で達するとしばらくは絶頂感と快感が続く。スイは勿論、過去にも男を抱いた経験のあるクノギはそれをよく知っていた。スイのように敏感な性質であれば手で単調な刺激を与えるだけでも上り詰める。
 枕に戻ることもできず細い声を上げて身をよじる。気持ちよくておかしくなる、と思うが、実はこれを求めていた。自分では怯んでしまって途中で止めてしまう刺激も他者の手ならば絶頂の後まで。もっと、ではなく、もうやめてくれ、の先まで届くのだ。
「これで次まで、少しは毒気が抜けるだろ」
 そんなスイの欲を見透かして、宣言はしたが月に二回程度では足りていまいなどと。
 口ではそんな理由づけをしてちゃんと楽しんで、いやだと言いながらも善がる相手の姿を堪能して。本格的に泣きが入りそうなあたりでクノギは掴んでいた腕を放して手を引っ込めた。肩まで赤くして息荒くくたりとしたスイの隣に自身も横になりたいのは我慢して、先に軽く手や股を拭いて自分の身繕いをする。
「もう……貴方どんどん容赦がなくなっていくな……」
 少ししてようやく少し動けるようになったスイがのろりと身を起こし、まだ色の残る吐息をはあーと長い溜息に変える。
 男として射精を終えれば意識は多少冷めるが、好意はむしろ募る。どうせならできる限り彼の体や姿を楽しまねばと思っていることを指摘されたようでクノギは些か動揺した。
「いや足りないかと思って」
「……足りてる」
 今言いよどんだのはやはり足りていないからなのか、とは混ぜ返さずに、ただ誤魔化しに笑う。
 以前は一度きりでもと思っていた情交も、慣れてしまえば月に二回では足りないのはクノギにとっても同じだ。そのまま忙しさなどを理由に機会が無くなって、なんとなしに終わってしまうのではと思えば少しでも触れておきたい。抱き締めたりキスをしたりは無理でも、欲に紛れた部分ならば体だけの関係でも手が出せる。
 そんな想いを秘して笑う友人をぼんやりと眺めて体の痺れにも似た感覚が抜けるのを待っていたスイは、漏れ出てくる油と精液にぞくと背を震わせた。後片付けはいつも面倒だが、こればかりは始末しないわけにはいかない。誰か、特に洗濯物を城の洗い場に運ぶ使用人などにバレては事だ。
 緩んだ孔からそれ以上流れてこないようにとままならない体で気をつけて、自身を叱咤して立ち上がり、汚れた布を慌てて丸め尻に押しつけながらクノギに声をかける。
「っう。……風呂行ってくるから窓開けておいてくれ」
「おう」
 靴をつっかけ浴室へと向かうスイが溜息を吐いたのは、疲労や億劫さの為だけではなかった。

「じゃあまた」
「うん、気をつけて」
 クノギを見送り一人になった部屋で寝台に腰掛け、スイはふうと息を吐いた。身綺麗にして寝巻のシャツに着替えているが、体の芯はまだどことなく情事の気配が残っている。
 腹の奥のそれを静めるように気を逸らしながら、スイは一人で心中、近頃一番の問題に向き合う。
 詩会の催し、兄の来訪から十日ほどが過ぎた。
 ――挿入されるのは……まあ、好きだけれど。自分は男が好きなんだろうか。
 散々自慰と性交を重ねた上では、そちらについてはもはや言い訳もしないが。はたして、とスイは自身に問うた。
 異性にさしたる興味がない、とは昔から自他ともに評するところだが、だからといって男が好きだと思ったことはこれまで一度もなかった。否、勿論兄や友人ら、クノギのことは好きだがそれはそういう好意、、、、、、のはずだ。が。
 好いた人、と兄に問われて顔が思い浮かんだのならばそういうことではあるまいか。いやしかし、そんな安易に決めつけてよいものか。今まで恋愛自体縁が無いので確かめる方法も分からない。ましてや同性となると、それこそ兄が口にした婚姻の損得とはまた違い純粋に情の話になってしまうので、切り出すのが困難ではないか。
 生来真面目――馬鹿真面目なところがある学者の子の思考は、そんなところに落ち込んでいた。
 よくある悩みではあるが、ここを確認したが為に仲が気まずくなって友情のほうが潰えることはあってはならないというのがまた困る。スイにとってクノギは、数少ないことを差し引いても大事な大事な友人なのだから。
 ついでに。もし好きだとして、クノギのほうが自分のことをどう思っているのか、そういう相手として見れるのかも、スイには分からないことだった。友人として大切にされている感覚は確かにあるが、あくまで友人として肌を重ね続けていることを思えば、それは逆に脈というやつが無いのではないか。
 そうこうしているうちにクノギと会う機会があって、そこは久しぶりなので我慢できるはずもなく、向こうもそのつもりだったので当たり前に致してしまったのだが。それで何か分かるかと思ったが、分からなかった。自慰をするよりクノギに抱かれるほうが気持ちよい、という部分は改めて確認できたが、具体的な確認の方策もなかったのだからいつもと同じように抱かれただけだった。
「うーん……」
 小難しい顔をして唸って、とりあえずは時間も遅いので灯りを消しにいく。火消し鋏を緩く振りながら暗闇の中でも少し考え、やがて手を空にして髪を解き寝台へと横たわる。
「んー……」
 書庫の中では、そして一人では解決しそうにない問題に、スイは布団の上で小さく溜息を吐き――眠りに落ちるまでにひとつ、決心をした。
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