ひとりしか生きられない部屋に美少女ふたり

みらいつりびと

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 目が覚めた。
「俺は美少女ふたりが狂っていくところを見たい」という男の声が聞こえた。
 私は窓のない狭い部屋にいた。私と同い年くらいの見知らぬ女の子も。黒髪ショートカット、170センチくらいの高身長、セーラーカラーの濃紺の制服、白いソックス、茶色のローファーという格好だ。ボーイッシュな美少女。
 私も高校の制服を着ているが、ブラウンのブレザーだ。髪は長く伸ばしている。
 ショートカットの女の子は眠っていたが、私が起きたしばらく後で目を覚ました。

「俺は可愛い女の子の頭がおかしくなるところを見たい」と男がまた言った。その姿は部屋の中にはない。
「そこはひとりしか生きられない部屋だ」
 女の子はぎょっとしたように目を見開き、私を見つめた。
「なんなの、いったい……」と彼女はつぶやいた。
 かなり整った顔立ちで、スタイルもいい。
「とはいえ数日はふたりでも生きられるだろう。長く生き延びた方を釈放してやる。そこから生きて出られるのはひとりだけだ」
 
 私は記憶を探った。
 昨夜、学校帰りにコンビニでゼリー飲料を万引きしようとして店長に捕まった。
 警察には突き出されなかったが、母親を呼ばれた。
 中年男性のコンビニ店長は私と母をいたぶるように2時間近く説教した。
「…………たかがゼリー飲料でなんでここまで言われなくちゃならないのかって思ってるんでしょうね。こっちはその小さな売り上げを積み重ね、わずかな利益を得ているんですよ。本当にちっさな利益です。その利益もあんたが行う万引きで消えてしまうんです。この店がつぶれたら、あんたのせいですよ。ねえその責任をどう取ってくれるんですか。どうせ他の店でもやってるんでしょう? 発覚したのが今日初めてなだけで、うちの店で何度も万引きしてたんじゃないですか。どうなんです? 初めてじゃないんでしょう? あんたが万引きに慣れてるってことは、態度を見ればわかるんだ。その制服、有名な私立の進学校のものですね。お嬢様だ。お嬢様がスリルを味わうためにしたゲーム感覚の万引きで、こっちは首をくくるはめになるかもしれないんですよ。店が赤字になるってのはそれくらい苦しいものでね…………」
 コンビニから出た後、母は私の頬を張った。
 私は家に帰る気になれず、走って母親から逃げた。
 路地で息を整えているとき、背後から何者かに襲われた。布に染み込ませた薬物を嗅がされた。
 そこで記憶が途切れている。

 私とボーイッシュな女の子がいる部屋は2畳程度の広さで細長い。
 壁はコンクリート打ちっぱなしでなんの装飾もなく、家具もない。ベッドも布団もない。露出した便器がひとつ設置してある。殺風景を越えて不気味だ。刑務所よりひどいのではないかと思う。
 武骨な鉄の扉があり、私たちはそこからこの部屋に入れられたのだろう。
  スマホは没収されている。

「可愛いJKをふたり捕まえた。ふたりとも本当に美人だ。両方死なせてしまうのは惜しい。ひとりだけ生かしてやるよ。今から殺し合うか? 勝った方は釈放される」
 男の声は天井から聞こえてくる。
 天井には照明、スピーカー、監視カメラらしきもの、小さな扉のようなものがある。高さは2.5メートルほど。
「殺し合わないのか? 早くそこから脱け出したければ、すぐに殺し合えばいい」

「ここから出してよ!」と女の子が叫んだ。女子としては低めのアルトの声だった。
「出たければ殺し合え。そして勝て。ひとりが死んだら、ひとりを釈放してやる」
「さっきから釈放、釈放ってなんなの? あたしは犯罪者じゃないのよ」
「おまえらは犯罪者だ。身に覚えがあるだろう?」
 女の子は黙り、私は息を飲んだ。この声の主は私が万引きをしたことを知っているのだろうか。
「殺し合わないのか?」

 私と女の子は見つめ合った。
「そっちがやるなら、あたしは戦うけど」と彼女は言った。意志の強い目をしている。私より体格も上。戦ったら本当に殺されそうだ。だが、向こうから手を出してはこなかった。
 私は首を横に振った。女の子はほっと息をついた。

 私たちを監禁している男はまちがいなくキチガイだ。
 監視カメラの向こうで私たちが殺し合うのを待っている。
 女子高生ふたりが殺し合うのを見たがっているのだ。
 私は万引きをしたが、殺人なんてしたくない。
 殺し合いをして男を楽しませるのはもっと嫌だ。

「しないのか? まあいい。近いうちに相手の死を願うようになるだろう」
 天井の小さな扉が開いた。
「24時間分の援助物資を与える。受け取れ」
 天井から手が伸ばされ、ペットボトルが差し出された。
「受け取れ。早くしないと投げ落とす。破損しても俺は知らんぞ」
 私は立ちあがり、ボトルを受け取った。2リットルのミネラルウォーターだ。
 つづいてゼリー飲料が3つ、無造作に落とされた。破損の怖れがないからだろう。
 それを拾おうとして、私はごくりと唾を飲み込んだ。
 レモン味のそれは、私がコンビニで万引きしたのと同じ種類のものだった。
 やはり男は私が万引きしたことを知っている。
 男の声は店長と似ているようにも思えたが、同一人物かどうか確信は持てなかった。
 最後に薄いピンクのリップクリームがひとつ投げ落とされて、天井の小扉は閉められた。
 リップを見て、女の子は「ひっ」と喉を鳴らした。

 私たちには2リットルの水、3個のゼリー飲料、ひとつのリップクリームが与えられた。リップが生存の役に立つとは思えない。
「水が2リットルあれば、ふたりとも生きられるよね」と女の子は言った。
「人間が生きていくために必要な水分量は1日2.5リットルと言われているのよ」と私は答えた。
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