全方位殺人事件

みらいつりびと

文字の大きさ
4 / 6

第4話 全全裸殺人事件

しおりを挟む
 日本中の刑事が殺された年が暮れ、新年が来た。
 1月第1金曜日の午後2時、とある美術大学予備校の教室では、ヌードのデッサンが行われていた。
 ヌードモデルは堂々と立ち、その麗しいスタイルを晒していた。
 そこへ、若く美しい女性が颯爽と入ってきた。予備校の教師ではなく、学生でもなかった。
 殺人姫だった。
「やあ、みなさん、ごきげんよう。わたしは殺人姫だ。全刑事を殺したのは、わたしの母親だ。日本が住みやすくなってよかったよ!」と彼女は上機嫌で言った。
 教室中の人間があぜんとした。指導していた教師も、裸身を晒しているモデルも、20人ほどいる予備校生たちも、全員があっけにとられた。
「さて、わたしはこれから全全裸殺人事件を敢行する!」と殺人姫は宣言した。
「きみは死亡確定だね。うふっ」
 ヌードモデルは腰を抜かした。
「あなたは超能力を持っているのよね。兄から話は聞いているわ!」
 ヤクルトスワローズの帽子をかぶった黒髪ショートのかわいい女の子が叫んだ。
「あなたはだあれ?」
「私は探偵の妹よ」
「ああ、迷える探偵さんの妹なの?」
「私の兄は名探偵よ!」
「ええ、だから迷探偵でしょ」
「たぶん漢字がちがうわ!」
 ヤクルトファンの女の子は4Bの鉛筆の芯を殺人姫に向けた。
「誰も殺させはしないわ!」
「ここにいる全員が死ぬのよ! わたし以外の全員が!」
 殺人姫は右手の親指と人差し指を使って、パチンと音を鳴らした。すると、教室内にいる全員の衣服が弾けて飛んだ。
「きゃーっ!」
 10人ほどいる女生徒たちが悲鳴をあげた。迷探偵の妹も例外ではなかった。
「これでみんな全裸になった。うふふふふ、全全裸殺人事件を敢行するわよ!」
「超能力キャンセラー!」とヤクルトスワローズの帽子を被っている女の子は叫んだ。帽子だけは弾けなかったのだ。
「超能力キャンセラー? 何それ?」
「超能力をキャンセルする超能力よ。私にはその力が備わっているの。みんなを守ってみせる!」
 殺人姫は眉に唾をつけた。
「そんな力があってたまるものですか!」
 彼女は透明なナイフを人数分つくり、宙に浮かべた。ほら、超能力を使える、と思った。
「ちょっ、超能力キャンセラー!」と腹筋が割れている男の子も叫んだ。
「あなたも超能力をキャンセルする力を持っているの?」
 殺人姫はあぜんとして言った。
「持っているかもしれないし、持っていないかもしれない。とにかく言ってみた!」と彼は答えた。
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
 みんなが叫んだ。
「やかましい!」
 殺人姫は透明なナイフを飛ばした。
 人間たちの心臓に突き刺さり、血しぶきが上がり、教室中を真っ赤に染めた。教師もモデルも予備校生も即死した。
 殺人姫はにやりと笑った。
「超能力キャンセラーなんてなかった」と言った。
 だが、迷探偵の妹に向かったナイフは、ヤクルトスワローズの帽子を吹き飛ばしただけで、心臓には刺さっていなかった。
「私の超能力キャンセラーは私だけしか守れなかった……」と彼女は無念そうにつぶやいた。
「ちがうわ! あなたは帽子をかぶっていた。つまり、かろうじて全裸ではなかった。だから助かったのよ!」
「私は超能力キャンセル能力者よ。疑うなら、もう一度超能力を使ってみなさい。今度は完全に全裸よ。殺せるものなら、殺してみろ。超能力キャンセラー!」
「くっ!」
 殺人姫はひるんだ。そして、殺人現場から逃走した。
 迷探偵の妹は、全全裸殺人事件のただひとりの生き残りとして、翌日の新聞の1面を飾った。その顔の写真は悔しさでいっぱいだった……。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

処理中です...