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第4話 全全裸殺人事件
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日本中の刑事が殺された年が暮れ、新年が来た。
1月第1金曜日の午後2時、とある美術大学予備校の教室では、ヌードのデッサンが行われていた。
ヌードモデルは堂々と立ち、その麗しいスタイルを晒していた。
そこへ、若く美しい女性が颯爽と入ってきた。予備校の教師ではなく、学生でもなかった。
殺人姫だった。
「やあ、みなさん、ごきげんよう。わたしは殺人姫だ。全刑事を殺したのは、わたしの母親だ。日本が住みやすくなってよかったよ!」と彼女は上機嫌で言った。
教室中の人間があぜんとした。指導していた教師も、裸身を晒しているモデルも、20人ほどいる予備校生たちも、全員があっけにとられた。
「さて、わたしはこれから全全裸殺人事件を敢行する!」と殺人姫は宣言した。
「きみは死亡確定だね。うふっ」
ヌードモデルは腰を抜かした。
「あなたは超能力を持っているのよね。兄から話は聞いているわ!」
ヤクルトスワローズの帽子をかぶった黒髪ショートのかわいい女の子が叫んだ。
「あなたはだあれ?」
「私は探偵の妹よ」
「ああ、迷える探偵さんの妹なの?」
「私の兄は名探偵よ!」
「ええ、だから迷探偵でしょ」
「たぶん漢字がちがうわ!」
ヤクルトファンの女の子は4Bの鉛筆の芯を殺人姫に向けた。
「誰も殺させはしないわ!」
「ここにいる全員が死ぬのよ! わたし以外の全員が!」
殺人姫は右手の親指と人差し指を使って、パチンと音を鳴らした。すると、教室内にいる全員の衣服が弾けて飛んだ。
「きゃーっ!」
10人ほどいる女生徒たちが悲鳴をあげた。迷探偵の妹も例外ではなかった。
「これでみんな全裸になった。うふふふふ、全全裸殺人事件を敢行するわよ!」
「超能力キャンセラー!」とヤクルトスワローズの帽子を被っている女の子は叫んだ。帽子だけは弾けなかったのだ。
「超能力キャンセラー? 何それ?」
「超能力をキャンセルする超能力よ。私にはその力が備わっているの。みんなを守ってみせる!」
殺人姫は眉に唾をつけた。
「そんな力があってたまるものですか!」
彼女は透明なナイフを人数分つくり、宙に浮かべた。ほら、超能力を使える、と思った。
「ちょっ、超能力キャンセラー!」と腹筋が割れている男の子も叫んだ。
「あなたも超能力をキャンセルする力を持っているの?」
殺人姫はあぜんとして言った。
「持っているかもしれないし、持っていないかもしれない。とにかく言ってみた!」と彼は答えた。
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
みんなが叫んだ。
「やかましい!」
殺人姫は透明なナイフを飛ばした。
人間たちの心臓に突き刺さり、血しぶきが上がり、教室中を真っ赤に染めた。教師もモデルも予備校生も即死した。
殺人姫はにやりと笑った。
「超能力キャンセラーなんてなかった」と言った。
だが、迷探偵の妹に向かったナイフは、ヤクルトスワローズの帽子を吹き飛ばしただけで、心臓には刺さっていなかった。
「私の超能力キャンセラーは私だけしか守れなかった……」と彼女は無念そうにつぶやいた。
「ちがうわ! あなたは帽子をかぶっていた。つまり、かろうじて全裸ではなかった。だから助かったのよ!」
「私は超能力キャンセル能力者よ。疑うなら、もう一度超能力を使ってみなさい。今度は完全に全裸よ。殺せるものなら、殺してみろ。超能力キャンセラー!」
「くっ!」
殺人姫はひるんだ。そして、殺人現場から逃走した。
迷探偵の妹は、全全裸殺人事件のただひとりの生き残りとして、翌日の新聞の1面を飾った。その顔の写真は悔しさでいっぱいだった……。
1月第1金曜日の午後2時、とある美術大学予備校の教室では、ヌードのデッサンが行われていた。
ヌードモデルは堂々と立ち、その麗しいスタイルを晒していた。
そこへ、若く美しい女性が颯爽と入ってきた。予備校の教師ではなく、学生でもなかった。
殺人姫だった。
「やあ、みなさん、ごきげんよう。わたしは殺人姫だ。全刑事を殺したのは、わたしの母親だ。日本が住みやすくなってよかったよ!」と彼女は上機嫌で言った。
教室中の人間があぜんとした。指導していた教師も、裸身を晒しているモデルも、20人ほどいる予備校生たちも、全員があっけにとられた。
「さて、わたしはこれから全全裸殺人事件を敢行する!」と殺人姫は宣言した。
「きみは死亡確定だね。うふっ」
ヌードモデルは腰を抜かした。
「あなたは超能力を持っているのよね。兄から話は聞いているわ!」
ヤクルトスワローズの帽子をかぶった黒髪ショートのかわいい女の子が叫んだ。
「あなたはだあれ?」
「私は探偵の妹よ」
「ああ、迷える探偵さんの妹なの?」
「私の兄は名探偵よ!」
「ええ、だから迷探偵でしょ」
「たぶん漢字がちがうわ!」
ヤクルトファンの女の子は4Bの鉛筆の芯を殺人姫に向けた。
「誰も殺させはしないわ!」
「ここにいる全員が死ぬのよ! わたし以外の全員が!」
殺人姫は右手の親指と人差し指を使って、パチンと音を鳴らした。すると、教室内にいる全員の衣服が弾けて飛んだ。
「きゃーっ!」
10人ほどいる女生徒たちが悲鳴をあげた。迷探偵の妹も例外ではなかった。
「これでみんな全裸になった。うふふふふ、全全裸殺人事件を敢行するわよ!」
「超能力キャンセラー!」とヤクルトスワローズの帽子を被っている女の子は叫んだ。帽子だけは弾けなかったのだ。
「超能力キャンセラー? 何それ?」
「超能力をキャンセルする超能力よ。私にはその力が備わっているの。みんなを守ってみせる!」
殺人姫は眉に唾をつけた。
「そんな力があってたまるものですか!」
彼女は透明なナイフを人数分つくり、宙に浮かべた。ほら、超能力を使える、と思った。
「ちょっ、超能力キャンセラー!」と腹筋が割れている男の子も叫んだ。
「あなたも超能力をキャンセルする力を持っているの?」
殺人姫はあぜんとして言った。
「持っているかもしれないし、持っていないかもしれない。とにかく言ってみた!」と彼は答えた。
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
「超能力キャンセラー!」
みんなが叫んだ。
「やかましい!」
殺人姫は透明なナイフを飛ばした。
人間たちの心臓に突き刺さり、血しぶきが上がり、教室中を真っ赤に染めた。教師もモデルも予備校生も即死した。
殺人姫はにやりと笑った。
「超能力キャンセラーなんてなかった」と言った。
だが、迷探偵の妹に向かったナイフは、ヤクルトスワローズの帽子を吹き飛ばしただけで、心臓には刺さっていなかった。
「私の超能力キャンセラーは私だけしか守れなかった……」と彼女は無念そうにつぶやいた。
「ちがうわ! あなたは帽子をかぶっていた。つまり、かろうじて全裸ではなかった。だから助かったのよ!」
「私は超能力キャンセル能力者よ。疑うなら、もう一度超能力を使ってみなさい。今度は完全に全裸よ。殺せるものなら、殺してみろ。超能力キャンセラー!」
「くっ!」
殺人姫はひるんだ。そして、殺人現場から逃走した。
迷探偵の妹は、全全裸殺人事件のただひとりの生き残りとして、翌日の新聞の1面を飾った。その顔の写真は悔しさでいっぱいだった……。
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